艶男は麗子がもはや霊身となって、現世の人でないことを知ると、嘆きのあまり玉耶湖に身を投げてしまった。
そこへ、白髪異様の老人が一艘の船をこぎながら釣り竿をたれていたが、艶男の飛び込んだ音に後を振り返り、誰か知らぬが、飛び込んだ者があるようだ、助けねば、としばし考え込んでいる。
すると、はるか先方に黒い影がぽかりと浮いた。老人は小舟をこぎ寄せ、黒い影に手を差し伸べて船中に救い上げた。よく見れば、国津神の子、艶男であった。老人は水を吐かせ、人工呼吸を施して蘇生させた。
老人は、国の御祖の子が、なぜかろがろしく命を捨てようとしたか、諭し呼びかけた。艶男は正気に復し、恋しき人に別れて、世をはかなんで生きる希望を失ったのに、なぜ私を救うのか、と恨みを歌った。
すると老人は厳然として、自分は湖の翁、水火土(しほつち)の神であると明かし、命を捨てて何になろう、生きて国を守るように、と艶男に諭した。
艶男は老人が水火土の神と知って恥ずかしく思ったが、今ここに命を救われたことは幸いであると悟った。水火土の神はにっこりとして命を捨てることの愚かさと罪深さを説き、悔い改めよと諭した。艶男は翻然として命の尊さに思い至った。
そして艶男は、麗子が竜神にさらわれて命を失ってしまったことを、水火土の神に訴えた。すると水火土の神はにこにこしながら、麗子は命を救われて竜の都にいることを知らせ、今から艶男を導いて竜の都に送ろうと歌った。
艶男は、これから進んでいく竜の都に思いをはせ、また死んだと思っていた麗子が生きていると知って喜び、自分の命を救ってくれた水火土の神に感謝の歌を歌った。
水火土の神は歌いながら船を漕ぎ出し、ようやくにして竜宮の第一門にたどり着いた。大身竜彦の命は艶男が尋ね来たことを前知し、数多の従臣を第一門に遣わし、艶男の上陸を歓迎の意を表しつつ待っていた。