弟姫神の兄、艶男の姿の美しさに、竜神の侍女神たちは先を争って集まって来た。侍女神たちはいずれも人面竜身であったが、その美しさには犯しがたい気品があった。
侍女神の一人山吹は、恐る恐る艶男の近くに寄り、艶男への恋心を歌った。しかし艶男は、実を結ばぬ恋ゆえに、応えるわけには行かないと断り、返事をしばし待つようにと返した。
艶男は庭の白砂を踏みながら、曲玉池の木陰に進んでいくと、今度は侍女神の白菊が物憂げに立っていた。艶男はその風情に打たれて名を問うと、白菊は艶男への思いをぶつけてきた。
艶男は自分は国津神の長の家を継ぐものであり、ここには長くとどまることができないから、思いに応えることができない、と返した。白菊は悲しみと恨みを歌ってそっとその場を離れた。
艶男は、妹を追って来たこの竜宮島で、はからずもこのような恋の情けの雨に悩まされるとは、と嘆じた。人面竜身の姿は自分の心にはそぐわないが、しかし面差しを見れば涙にくれる乙女であるし、このような恋の思いを打ち明けられて心悲しくなってしまうのだ、と悩みを一人歌う。
すると、前方の森からまた七人の竜神の乙女が入り来たった。艶男はまた見つかっては大変と、伊吹山の中腹にある鏡の湖に向かって逃げていった。