艶男はつれづれを慰めるために神苑を立ち出て、庭伝いに森かげを逍遥しながら、乙女たちの恋の告白に悩む気持ちを歌っていた。
竜宮島にとどまって国土を開くと一度は誓ったが、竜神族の体の醜さに嫌悪を覚え、乙女たちの恋の告白に答えることもできずに辟易し、今はただ故郷へ帰りたい心が募り、心は沈んでいた。
そこへ、乙女の中でも最も激しい気性と思いを持った燕子花がそっと艶男を追ってきた。そして再び、猛烈な恋の告白の歌で艶男に迫った。燕子花の押しの強さに押しきられ、艶男はついに燕子花の思いを受け入れてしまった。
これより、燕子花は公然と艶男の寝殿に寝起きし、艶男にまめまめしく仕えることになった。
艶男は女の一念に押し切られて、人面竜神の乙女とちぎってしまったことを恥ずかしく思い、悩んでいた。そして、神々に、妻の体が人身となるよう祈り、言霊歌を七日七夜、絶え間なく宣り上げた。
すると、不思議なことに燕子花の体はたちまち人身となり、鱗は跡形もなく消えうせてしまった。この奇跡に艶男と燕子花は喜び、感謝の歌を歌った。