文献名1霊界物語 第80巻 天祥地瑞 未の巻
文献名2第1篇 忍ケ丘よみ(新仮名遣い)しのぶがおか
文献名3第6章 秋野の旅〔2010〕よみ(新仮名遣い)あきののたび
著者出口王仁三郎
概要
備考
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データ凡例
データ最終更新日----
あらすじ
主な人物
舞台
口述日1934(昭和9)年07月27日(旧06月16日)
口述場所関東別院南風閣
筆録者谷前清子
校正日
校正場所
初版発行日1934(昭和9)年12月5日
愛善世界社版
八幡書店版第14輯 319頁
修補版
校定版105頁
普及版
初版
ページ備考
OBC rm8006
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本文
高光山以西の国形を視察すべく遣はしたる冬男は、冬去り春夏も過ぎ秋の初めとなりけれども、何の消息もなきままに、巌ケ根は稍不安の空気に満され、重臣の水音、瀬音を招き、且つ春男、夏男、秋男の三人と共に、執政所に集り鳩首謀議を凝らした。
巌ケ根は歌もて語る。
『高光山以西の国形調査ぶべく
出でにし冬男は今に帰らず。
もしやもし水奔草の中毒に
冬男は身亡せたるにあらずや。
夜な夜なにあやしき夢を吾見たり
心にかかる冬男の身の上。
斯くならば再び人を遣はして
冬男の所在を探させむと思ふ』
水音は答へて、
『執政の宣り言宜よ吾も亦
朝夕心にかかりけらしな。
音に聞く忍ケ丘に水奔鬼
旅行く人を損ふと聞く。
水奔鬼笑ひ婆アは道の辺に
立ちて旅人を誘ひ殺すと』
瀬音は歌ふ。
『葭原や水奔草の根にひそむ
湿虫の害は恐ろしと聞く。
案ずるに湿虫その他の毒虫に
冬男の君は損はれけむ。
兎も角も高光山に人を派し
冬男の安否を探るにしかず』
ここに三人の協議により、巌ケ根は第三男の秋男を首領とし、四人の従者を従へて、高光山に至る大原野を探させしむべく、水上山の館を出立せしむる事となりぬ。
秋男は松、竹、梅、桜の四人の従者を従へ、水上山を立出で、弟冬男のとりし道を避け、南方に向ひ、高光山の方面に進まむと決心の臍を固め、神殿に出立の祈願をこめ、父の巌ケ根に向つて言葉静に歌もて宣る。
『ちちのみの父の御言を被りて
吾は高光山に進まむ。
いかならむ悩みありとも国の為と
吾は恐れじたとへ死すとも。
弟の所在を探ねあくまでも
父母の心を安んじ奉らむ。
葭原の国土を閉せる葭草や
水奔草を刈りて放らむ。
悪神は水奔草の野辺に潜み
行手の人に災すといふ。
さりながら吾には神の守りあり
如何なる曲津も恐れず進まむ。
父上も母も心を安んじませ
吾は一人の旅にあらねば』
巌ケ根は涙をふるひながら、表面は元気さうに歌ふ。
『弟の冬男の行方わかるまで
汝は帰らず国見して来よ。
弟の消息判ればすみやかに
知らせ来れよ桜に仰せて』
秋男は又歌ふ。
『父上の厳の御言葉謹みて
吾はあくまで力つくさむ』
水音は歌ふ。
『勇ましき秋男の君の出で立ちを
送る水音の心はかなしも。
水の音風の響も気遣はる
君の旅路の安くあれよと。
野路を越え川を渡りて出でてゆく
君の雄々しき姿を送らむ』
瀬音は歌ふ。
『吾も亦父の御言に従ひて
神国守れば安く出でませ。
御館に心残さずとくとくと
神国の為に出でませ君よ。
君行かばこの御館は淋しけれど
神国の為と思へば詮なし。
曲津神の伊猛り狂ふ大野原
進ませ給へ神の力に』
秋男は歌ふ。
『ありがたし君の誠はどこまでも
忘れず力と進み行くべし。
いざさらば吾は進まむ四柱の
友と力を組合せつつ。
秋さりて野辺に百草咲き匂ひ
旅ゆく吾を迎へ送りす。
花の香に包まれてゆく秋の野の
吾旅立ちは清しかるべし。
弟の所在探れば直様に
桜を帰して知らせ奉らむ。
新しき国土拓かむと出でてゆく
吾に力を添へさせ給へ。
住みなれし水上山の聖場を
去らむと思へば涙ぐまるる。
吾涙歎きの涙にあらずして
旅ゆく嬉し涙なるぞや。
女郎花桔梗刈萱匂ふ野を
松、竹、梅、桜伴ひてゆく』
斯く歌ひ終り、秋男は勇ましく四人の供人と共に、巌ケ根の父の館を立ち出でにける。
『水上山を立ち出でて
国形見むと進み行く
吾旅立ちのいさましさ
大川小川乗り越えて
進めば床し百草桔梗
艶を競ひて咲き匂ふ
吾等が行手を賑はせり
弟冬男は今いづこ
処せきまで茂りたる
水奔草の災に
生命捨てしにあらざるか
何とはなしに気にかかる
約一年のその間
何の便りも夏の風
漸く秋も来向ひて
野辺の千花はプンプンと
あたりに芳香放つなり
忍ケ丘に笑ひ婆
ありとほのかに聞きつれど
吾は道をば南して
忍ケ丘の東面に
巡りて弟の消息を
探り査べむその上に
吾方針を定むべし
進めよ進めよ、いざ進め
悪竜毒蛇は繁くとも
神の賜ひし言霊に
言向けやはし打ちきため
道の隈手も恙なく
いと安々と進むべし
ああ惟神々々
神の依さしのこの旅出
さやらむものは世にあらじ
松、竹、梅を始めとし
桜と名告る供人よ
必ず恐るること勿れ
吾等は神の子神の宮
神にまかせし上からは
いかなる曲津も恐れむや
進めよ進め、いざ進め』
従神の松は歌ふ。
『ああ勇ましや勇ましや
秋男の君の武者振りに
吾等は心も勇み立ち
無人の野辺をゆく如く
障らむ曲津は悉く
斬り伏せ薙ぎ伏せ驀地
高光山の聖場に
神の力をいただきて
進みゆくこそ楽しけれ
秋男の君に従ひて
百花千花咲き匂ふ
山の辺野中縫ひてゆく
今日の出で立ち勇ましし
ああ惟神々々
吾等が旅に御幸あれ』
従神の竹は歌ふ。
『水上山を立ち出でて
花咲き匂ふ秋の野を
秋男の君に従ひて
進みゆくこそ楽しけれ
吾等も神の子神の宮
いかなる曲津のさやるとも
何か恐れむ大丈夫の
堅き心は巌ケ根の
君が仰せを守りつつ
悪魔の征途に上るなり
水奔草は茂くとも
悪魔の力は強くとも
勇猛心を発揮して
撓まず恐れず進みゆく
吾等が一行に幸あれや
火炎の山もほの見えぬ
いざや進まむ大野原
百草匂ふ山の辺を
渉りて行けば秋の風
吾等が面を吹きつけて
涼しさ添ふる夕まぐれ
仰ぎ御空を眺むれば
白々かかる昼月の
御顔かすかに笑ませたり
吾一行に幸ありと
知らせ給ふかありがたし
ああ惟神々々
生言霊に力あれ
吾一行に幸あれよ』
従神の梅は歌ふ。
『ああ楽もしや楽もしや
秋男の君に従ひて
進むも嬉し大野原
火炎の山も近づきて
何か心の勇むなり
草葉の蔭に鳴く虫も
梢に囀る百鳥の
声も清しくなりぬれど
陽は早や西に黄昏れて
行く手も見えずなりにけり
さはさりながら君命は
尊く重く背かれず
火炎の山の麓まで
兎にも角にも進むべし
ああ惟神々々
吾一行に幸あれや』
従神の桜は歌ふ。
『虫の音清しき秋の空
陽は西山にかたむきて
いよいよ冴ゆる月の光
星満天にきらめきて
わが足下は明くなりぬ
悪鬼毒獣せめるとも
吾は恐れじ言霊の
剣を高くかざしつつ
御樋代神の現れませる
高光山を目あてとし
真心もちて進むべし
ああ惟神々々
恩頼を賜へかし』
斯く歌ひつつ前進する事一時ばかり、ふと突き当りたる小さき丘あり。一行五人はこの丘に攀ぢ登り、木の間の月を眺めながら、しばらく旅の疲労を休め居る。
(昭和九・七・二七 旧六・一六 於関東別院南風閣 谷前清子謹録)