文献名1霊界物語 第80巻 天祥地瑞 未の巻
文献名2第2篇 秋夜の月よみ(新仮名遣い)しゅうやのつき
文献名3第8章 月と闇〔2012〕よみ(新仮名遣い)つきとやみ
著者出口王仁三郎
概要
備考
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データ凡例
データ最終更新日----
あらすじ
主な人物
舞台
口述日1934(昭和9)年07月27日(旧06月16日)
口述場所関東別院南風閣
筆録者白石恵子
校正日
校正場所
初版発行日1934(昭和9)年12月5日
愛善世界社版
八幡書店版第14輯 330頁
修補版
校定版147頁
普及版
初版
ページ備考
OBC rm8008
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本文の文字数3230
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本文
月見ケ丘以南は、譏り婆の水奔鬼が縄張とも称すべき魔の原野なり。譏り婆は此入口に現はれ、一行の出発を妨げむとして、小手調べの為全力を尽し、黒雲を起し、天心の月を包みて闇となし、且一行の心胆を奪はむと極力譏り散らしけるが、秋男の生言霊に打ちまくられ、旗を巻き鉾を納めて退却したりける。
再び大空の雲は、科戸の風に吹きまくられ、以前の如き明鏡の月皎々と輝き渡りて、月見ケ丘の清地は、蟻の這ふさへ見ゆるまで明くなりける。
秋男は勇みたち歌ふ。
『面白や醜の司の譏り婆は
わが言霊に雲と消えたり。
魔力の限りつくして大空に
黒雲起せし婆もしれ者よ。
全力を尽せし婆の計略も
生言霊に脆く消えたり。
月見ケ丘の虫の影さへ見ゆるまで
晴れ渡りたる今宵めでたし。
譏り婆の言葉によれば弟は
笑ひ婆アに殺されしとや。
さりながら悪魔の言葉は当にならじ
われを謀るの手段なるらむ。
悪神の力の底も見えにけり
わが魂はいよいよかがよふ。
大空の月の鏡に照らされて
悪魔は霧と消え失せにけむ。
女郎花匂へる丘に休らひて
譏り婆アの荒び見しかな。
影かくし声のみかくる婆なれば
その魔力の底も見ゆめり。
いやらしき声を張りあげ吾等をば
嚇す婆アの浅はかなるも。
これよりは二人の婆を相手とし
いむかひ行かむ高光の山へ。
面白き夢の世なるよ月を見る
丘に曲津は闇の幕張る。
闇の幕はもろく破れて鬼婆は
生命からがら逃げ失せにける。
萩桔梗女郎花咲く丘の上に
うつろふ月は鏡なるかも。
萩の露むすびて喉を潤ほさむ
川水ことごと毒の混れば。
水奔草の葉末の露のしたたりて
川となりぬる水は恐ろし。
葭原のよし草の間に生ひ茂る
水奔草はいまはしき草よ。
草の間に忍び棲まへる毒竜や
イヂチに心注ぎて進まむ。
兎も角も天地一度に晴れし夜の
月の鏡を力に進まむ。
秋さりて野辺吹く風は涼しけれど
心せよかし毒の混れば。
果敢なくも鉾を納めて逃げ去りし
譏り婆アの卑怯なるかな』
松は歌ふ。
『松に澄む月の光はさゆらげり
野辺吹く風のすがたなるらむ。
風の道夜目にも見えて丘の上の
茂樹の梢波うちにけり。
面白き譏り婆アのわざをぎを
暗闇の幕透して聞きぬ。
一時はわが魂も戦きぬ
二十重の闇に包まれしより。
闇の幕われを包みしたまゆらに
魂はをののき消えむとせしも』
竹は歌ふ。
『心弱き松の君かなわれはただ
空吹く風とうそぶきて居し。
闇の声目当に突かむと竹槍の
穂を磨きつつわれは待ち居し。
上下に右に左に聞え来る
婆の在処を分けがてに居し。
わが君の生言霊にうち出され
脆くも鬼は破れけるかな。
魔力のあらむ限りのはたらきは
かくやと思ひわれは勇むも。
肝むかふ心かためて進むべし
水奔草のしげれる野辺を。
月光はさやかなれども夜の明くるを
待ちて進まむ醜の草原』
梅は歌ふ。
『面白き譏り婆アが現はれて
泥を吐きつつ逃げ帰りけり。
暗闇の中にまぎれて譏り言
ぬかす婆アの卑怯なるかな。
笑ひ婆、譏り婆アと面白き
鬼の棲むなる醜の葭原よ。
葭原の広きに曲津は潜むとも
われは飽くまで征討めでおくべき。
吾君の生言霊に怖ぢ恐れ
さすがの譏り婆アも消えたり。
一度は姿消ゆれど何時か亦
譏り婆アは現はれ来らむ。
われも亦譏り散らして鬼婆の
度肝を抜いてくれむとぞ思ふ。
譏る事ならばひるまじ何処までも
人の悪口好きな吾なり。
譏り婆いくらなりとも譏れかし
悪たれ婆アの寝言と聞かむ。
ざまを見ろ生言霊にやらはれて
影も形もなきつつ逃げ行く。
どこまでも婆アの後を追跡し
譏り殺してやらねば置かぬ。
籠り木の梢に婆は小さくなりて
わが言霊を震ひ聞くらむ。
彼も亦しれものなれば其姿
虫と変じて忍び居るらむ。
面白き婆アの荒びを見たりけり
姿なけれどくだけたる声』
桜は歌ふ。
『わが君の生言霊に大空の
黒雲晴れて月は覗けり。
望の夜の月を頭に浴びながら
月見ケ丘に雄猛びするかな。
虫の音も俄かに高く冴えにけり
月のしたびに露をなめつつ。
瑠璃光のひかり照して草の葉の
露はあちこち輝きそめたり。
此清き月見ケ丘におほけなくも
譏り婆アは現はれにけり。
さりながら姿かくせる鬼婆の
その卑怯さにあきれかへりぬ。
ギヤハハハハとさもいやらしき声絞り
われ等が肝を冷さむとせし。
曲鬼の言葉は弱く力なし
如何でひるまむ大丈夫われは。
鬼婆の力の底は見えにけり
いざや進まむ亡び失すまで。
萩桔梗女郎花咲く此丘に
一夜の露の宿りたのむも。
はろばろと醜の大野を渉り来て
鏡と冴ゆる月に親しむ。
兎も角も今宵は眠らず暁を
待ちて火炎の山に進まむ。
音に聞く火炎の山は鬼婆の
手下集むる元津棲処と』
秋男は歌ふ。
『月明の夜なれば秋の百草の
花の色香もさやに見えけり。
明くるまで吾等は此処に休らひて
花と月とを賞めて待つべし。
丘の上に風に靡ける穂薄の
露にかがよふ月のさやけさ。
花薄風にゆれつつ打ち靡く
月見ケ丘の夜は静けし。
これといふ人もなき夜に穂薄の
誰を招くか聞かまほしけれ。
吹く風の吹きのままなる穂薄の
姿は弱き人に似しかも。
露しげく保つ尾花の頭重み
地にうつぶして涙垂らせり。
かくの如譏り婆アもいづれかの
野辺にうち伏し泣き伏しにけむ。
穂薄の右に左にさゆれつつ
涙の露を散らす夜半なり。
穂薄は此丘のみか道の辺に
露を浴びつつ招き居るらむ。
心地よき此秋空を穂薄の
風に靡きて暮れ行く惜しさよ。
小夜更けてわびしき丘に穂薄は
いと淋しげに吾を招けり。
花薄風になびける優姿を
見つつ思ふも家なるつまを。
虫の声いとも冴えたる丘の上に
花波寄する夜半の穂すすき。
夜半の風松をそよがす度毎に
丘の尾花は袖かへすなり。
吹き払ふ風に袂を靡かせつ
なほ露しげき穂すすきの花』
松は歌ふ。
『咲き匂ふ小草の花に置く露も
今宵は月の光にかがよふ。
八千草の茂みにすだく虫の音は
いよいよ高く月も聞くらむ。
夜の露にぬるる袂を絞りながら
尾花を分けてのぼり来しはや。
夕さりて秋風そよぐ此丘に
のぼれば松に月はさゆるる。
吹く風の音につくづく秋を知る
月見ケ丘の露のやどりに。
淡く濃く染め出したる紅葉の
かげ一色に見ゆる月の夜。
黒雲に包まれたれどしら百合の
花は真白く見えにけらしな。
鬼婆も月見ケ丘の風光に
憧れて夜な夜な来り見るらむ』
竹は歌ふ。
『吹き荒ぶ風に葉末の露ちりて
わが裳裾まで湿らひにける。
鬼婆の涙の露か知らねども
わが衣手は重くなりぬる。
はかなきは露の生命か風吹かば
ただに散りゆく鬼婆の影。
此丘の月のしたびに輝ける
露の白玉見るもさやけし。
鬼婆に唆されて是非もなく
月見ケ丘に夜を明しける』
梅は歌ふ。
『葭原の葭の葉末を吹きて来し
風の響きは濁らへるかも。
丘の上に一本老松くつきりと
月下にたちて葉の色黒めり。
丘の上の赤土の上に松の影
描きて月は西渡り行く。
明日の日は醜の大野をのり越えて
岩の根木の根踏みさくみ行かむ。
葭草の生ひ茂りたる低所
さけて通らむ薄生ふる野を。
高き地は穂薄なびき低き地は
しめりて葭草茂らへるかも』
桜は歌ふ。
『ほのぼのと東の空は白みけり
西行く月のかげうすらぎて。
やがて今豊栄のぼる日の光を
力とたのみ南に進まむ。
南の空に聳ゆる火炎山は
ほのかに見えて霞棚引く。
火炎山かすみの帯をしめながら
曲鬼数多かかへ居るらし。
東の御空つぎつぎ明らみて
数多の星はかくろひにけり』
これより一行は、火炎山方面さして、やや高き原野を伝ひながら、宣伝歌をうたひ南進する事となりぬ。
(昭和九・七・二七 旧六・一六 於関東別院南風閣 白石恵子謹録)