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文献名1霊界物語 第80巻 天祥地瑞 未の巻
文献名2第2篇 秋夜の月よみ(新仮名遣い)しゅうやのつき
文献名3第10章 五乙女〔2014〕よみ(新仮名遣い)いつおとめ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ
主な人物 舞台 口述日1934(昭和9)年07月27日(旧06月16日) 口述場所関東別院南風閣 筆録者森良仁 校正日 校正場所 初版発行日1934(昭和9)年12月5日 愛善世界社版 八幡書店版第14輯 340頁 修補版 校定版186頁 普及版 初版 ページ備考
OBC rm8010
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本文の文字数3861
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本文  一行は森蔭の小やかなる家に立寄り見れば、五人の乙女、笑を満面に浮べて一行を迎へ入れ、旅の疲れを此の破家に休ませ給へと勧める。此女の名は、秋風、野分、夕霧、朝霧、秋雨といふ。

『秋ながら旅の疲れに汗出でぬ
  この破家に休ませ給へ。

 松のひびき萩吹く風のさやさやに
  響きてさむき秋なりにけり。

 秋風の吹き通るなる此館に
  暫しは汗をぬぐはせ給へ』

 秋男はこれに答へて、

『秋されば涼しきものを汗ばみぬ
  この森蔭に休らひ行かむか。

 一時をこれの館に休らひて
  吾は力を養はむとぞ思ふ。

 願はくば只一時の休らひを
  これの館に清く許せよ』

といひながら一行を引連れ、柴の戸をくぐりて奥に入るや、表より見たる破家に引替へて、美はしき広き居間、幾つともなく並び居たりしに、

『思ひきやこの破家に斯の如
  美しき広き居間のあるとは。

 暫くをこれの館に休らひつ
  勇み火炎の山に進まむ』

 松は歌ふ。

『草を分け坂を辿りて吾足は
  軽き疲れを覚えけるかな。

 この家に息を休めて魂を
  よび生かしつつ進み行くべし。

 不思議なる館なるかも表とは
  案に相違の居間の数々。

 もしやもし譏り婆アのたくらみに
  かかりしものかと案じらるるも』

 竹は歌ふ。

『譏り婆の館なりしは幸ひよ
  幸ひ真昼のことにありせば。

 此家に譏り婆アがひそむなら
  生命かぎりに戦ひて見む。

 此家の表に乙女五柱
  立てるも一つの不思議なりけり。

 鬼婆の潜める館と思はれず
  斯かる優しき乙女住むやを』

 梅は小首を傾けながら歌ふ。

『悪神の罠に入りしか何となく
  吾魂は落着かぬかも。

 八十曲津神の住家と知るならば
  力限りに戦ひて見む。

 悪神は優しき乙女と見せかけて
  吾等が生命を窺ひ居るにや。

 不思議なる事ばかりなり此家は
  窓もあらずに下に明るし』

 桜は歌ふ。

『疑へば限りなからむ此家を
  吾は曲津の住家と思はず。

 破家の表に乙女あらはれて
  笑を湛へて吾を迎へし。

 皇神の御言かがふり出でで行く
  この旅立にさやる曲津なし』

 斯く歌ひ居る折しも、秋風を先頭に四人の乙女は入り来り、盆に茶を汲みながら、目の上高く差上げ、破家に憩はせ給ふ客人に心ばかりの茶を奉る。

『これの茶は泉の山の高畑に
  栄えて甘き薬なりけり。

 それ故に普く人は泉茶と
  称へて朝夕楽しみ飲むなり。

 これの茶を召上りませ長旅の
  疲れは頓に休まるべきを』

 秋男は怪しみながら、

『何処となくこの茶の香りは怪しけれ
  暫く時を待ちてすすらむ』

 秋風は稍顔色を変へながら、

『不思議なることを宣らすよこれの茶は
  泉の茶にて人の生命よ』

 秋男は答ふ。

『何となく吾は生命の惜しさ故
  見知らぬ茶湯は飲みたくはなし』

 野分といふ乙女は涼しき声にて、

『客人は吾等が真心疑ひて
  清き優しき心を受けずや。

 朝に夕に清めすまして作りたる
  これの茶の湯に毒のあるべき』

 松は歌ふ。

『乙女等の清き心を受けぬには
  吾あらねども暫しを待たせよ。

 あつき湯は吾は好まず舌やかむ
  ぬるむを待ちて吾は飲むべし』

 夕霧は後よりのび上りながら、

『乙女等の清き心を疑ひて
  吾等の誠をうけ給はずや。

 水奔草の茶湯と思ひて客人は
  ためらひ給ふと思へば怨めし。

 萩桔梗匂へる秋の山裾に
  館造りて君等を待ちしよ。

 吾こそは御樋代神に仕へたる
  五乙女にて怪しきものならず』

 竹は歌ふ。

『御樋代の神の乙女か知らねども
  汝が面にあやしきふしあり。

 折々に乙女の耳は動くなり
  まさしく狐狸の化身と思ふ。

 茶の色は次第々々に変り行きて
  墨の如くになりにけらしな。

 此茶こそ水奔草にてつくりたる
  生命を奪ふ毒湯なるべし』

 朝霧は歌ふ。

『斯くなれば最早詮なし吾々は
  乙女と見ゆれど曲津神なり』

 秋雨は歌ふ。

『客人に看破られたるその上は
  最早詮なし覚悟召されよ。

 破家と見ゆれど永遠の巌窟よ
  最早逃れる道はあるまじ』

 梅は声もあらあらしく歌ふ。

『吾とても汝が謀計を知りし故
  これの巌窟を破らむと来つる。

 乙女子の姿を装ひ鬼婆の
  命に従ひ謀る曲もの』

 桜は怒りながら、

『コリヤ曲津もうかうなれば是非もなし
  吾言霊に飽くまで放らむ』

 秋男は歌ふ。

『吾も亦曲津の巌窟と知りしゆゑ
  殊更に此処に誘はれ入りぬ。

 乙女子と見ゆるは何れも水奔鬼の
  生命奪ふと待てる奴なり。

 譏り婆に水奔草を飲まされて
  汝等は鬼となりしものなり。

 吾言霊心鎮めて聞けよかし
  譏り婆アに怨み持たずや』

 秋風は稍顔を曇らせて、

『客人の言葉は宜よ吾も亦
  譏り婆アに謀られにけり。

 この辺りは譏り婆アの縄張よ
  吾等は彼に頤使さるるもの。

 玉の緒の生命とられし悔しさに
  人を艱むる鬼とはなりぬ。

 此処に居る四人の乙女も悉く
  吾と等しき運命たどりし。

 奥の間に譏り婆アは傷つきて
  休らひ居りぬ亡ぼし給へ。

 譏り婆をきため給はば吾等亦
  君に力を添へ奉るべし。

 力強き鬼婆ながら昨夜より
  不快なりとて呻吟き居るなり』

 松は歌ふ。

『吾君の生言霊に打出され
  婆はいたでに悩むなるらむ。

 面白し斯くも秘密を聞く上は
  乙女に吾等は力を添へむ。

 面白き事を聞くかな鬼婆は
  これの館に呻吟き居るとは。

 斯くならば力の限り声かぎり
  生言霊に攻め艱まさむ』

 茲に秋男の一行五人と五柱の乙女、互に堅き握手を交はし、譏り婆の潜める居間を四方より取巻き、天地も破るるばかりに大音声を発し、
『一二三四五六七八九十
 百千万八千万の神
 此の館に潜みたる
 譏り婆なる水奔鬼を
 吾言霊にくまもなく
 亡ぼし給へ惟神
 吾言霊に力あれ
 吾言霊に光あれ
 アオウエイ
 カコクケキ』
 と次々に七十五声の言霊宣れば
 さすがの水奔鬼も堪りかね
 狭き室内を右往左往に荒れ狂ひ
 悲鳴を挙げて又もや再び起上り
 死物狂ひの形相凄じく
 秋男に向つて飛びかかるを
 ものをも言はず拳を固め
 婆の横面を打ちすゑ打ちすゑきためければ
 さしもの婆も痛さに堪へ兼ねてや
 窓の戸にはかに押開けて
 忽ち巌窟内を飛出し
 怪しき雲気を吐きながら
 雲を霞と大空さして
 血煙の雨を降らせつつ
 跡白雲と逃げ行きぬ
 ああ惟神言霊の
 厳の力ぞ畏けれ
 譏り婆アの水奔鬼は
 斯くして五人の乙女の精霊を
 醜の巌窟に残し置き
 第二の作戦に移らむと
 逃げ行きしこそ恐ろしき。
 五乙女は満面に笑を湛へ、胸撫で下し、「ウオウオ」と叫びつつ、手の舞ひ足の踏む所を知らぬばかりなりける。
 秋風は歌ふ。

『吾こそは泉ケ丘に生れたる
  国津神等の娘なりけり。

 四柱の乙女も同じ里の子よ
  この鬼婆に謀られしもの。

 水奔草の茶を飲まされて吾々は
  水奔鬼とはなりにけらしな。

 客人に此茶をささげ吾と共に
  力協すと勧めけるかな。

 思へば春の初めなり
 吾等五人の乙女等は
 泉の里を立ち出でて
 高光山に詣でむと
 進み来れる折もあれ
 旅の疲れに咽喉かわき
 苦しむ折しも森蔭の
 一つの小さき家を見て
 吾等五人の乙女等は
 立寄り見れば白髪の
 一人の婆さんが住ひ居て
 先づ先づ渋茶を召がれよと
 手招きしたる嬉しさに
 暫く息を休めつつ
 水奔草の茶と知らず
 吾等は一度に飲み乾しぬ
 俄に頭は痛み出し
 手足身体腫れ上り
 身動きならぬ状態を見て
 婆はニツコと打ち笑ひ
 吾計略にかかりしよ
 汝乙女の玉の緒の
 生命は最早今日かぎり
 葭原の国津神等の生命を
 残らず取りて幽界の
 真正の鬼となせよかし
 吾の言葉に反きなば
 茨の鞭を振り上げて
 汝が全身打ち破り
 つらき目見せて呉れむずと
 威しの言葉に怖ぢ恐れ
 彼が教ふるままにして
 悲しき月日を送り来ぬ
 秋男の君は現世の
 人にしあれば言霊の
 力は強し吾々は
 精霊界にある身なれば
 其言霊に力あるべき
 言霊の光は出でず苦しみぬ
 心の中にて泣くばかり
 救はせ給へ水上の
 山に輝く巌ケ根の
 御子とあれます秋男神の
 御前に願ひ奉る
 五人乙女は鬼婆の
 頤使に甘んじ仕へつつ
 強き身魂の来訪を
 待ちに待ちたる甲斐ありて
 恨みを晴らす時は来ぬ
 ああたのもしや心地よや
 月見ケ丘の聖場に
 汝等が一行悉く
 艱まし呉れむと計画みしを
 譏り婆アは逆しらに
 生言霊に打出され
 生命からがら逃げ帰り
 一間に呻吟き居たりしゆ
 此時こそは幸ひと
 五人乙女は諜し合せ
 仇を打たむと思へども
 素より乙女の力には
 手向ふ由もなかりけり
 かかる処へ現身の
 身体もたす汝一行
 来らせ給ふ嬉しさに
 毒と知りつつ水奔草の
 湯を勧めむとしたりけり
 必ず怒らせ給ふなかれ
 君を力と思ふが故に
 吾等と共に幽界に
 現はれまして鬼婆を
 討ち罰めつつ霊界の
 禍ひ除くと思へばなり
 許させ給へ秋男神
 御供の神の御前に
 真心あらはし詫び奉る
 外の乙女も同じ心の捨小舟
 取りつく島もなかりしが
 今日の吉き日の喜びに
 蘇りけりあら尊
 偏に感謝し奉る
 是より君は言霊の
 天の数歌うたひつつ
 火炎の山に進みませ
 譏り婆さんの第一に
 恐れて忌むは言霊よ
 吾は後より蔭ながら
 君の出で立ち送りつつ
 一臂の力を添へ奉らむ
 進ませ給へ』
と言ひながら、五人の乙女は白煙となりて消え失せにけり。よくよく見れば、森蔭の雑草の生ひ茂る中に一行は腰を下してうづくまり居つ。破家の蔭も巌窟も跡形なく、小鳥の囀り、虫の啼く音ばかりなりける。
 秋男は歌ふ。

『不思議なる夢を見しより鬼婆の
  悩める状態を覚らひにけり。

 破家も巌窟も全く消え失せて
  野辺吹く風の音さやかなり』

(昭和九・七・二七 旧六・一六 於関東別院南風閣 森良仁謹録)
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