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文献名1霊界物語 第80巻 天祥地瑞 未の巻
文献名2第2篇 秋夜の月よみ(新仮名遣い)しゅうやのつき
文献名3第15章 憤死〔2019〕よみ(新仮名遣い)ふんし
著者出口王仁三郎
概要
備考
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あらすじ
秋男は木蔭に立って再び生言霊の祝詞を奏上し、葭原国を開くため、水上山の第三子が言霊によって悪魔を打ち負かし、言向け和すと宣り上げた。すると、心地よい風が吹き通り、山腹の女郎花をゆるがせ、めでたい鳥の声がすがすがしく、虫の声もうるわしく聞こえてきた。

一同は言霊の威力に力を得て、壁立つ山肌を山頂に向かって登り始めた。山頂も間近になったころ、一同は腰をおろして体を休め、下界を眺めながらそれぞれここまでの述懐と、最後の決戦の決意を歌っていた。

すると突然、山頂から大岩石の雨が降り落ちてきた。五人は危険の中を省みずに岩の雨をくぐって山頂に達した。すると、猛獣毒蛇の悪魔たちがいっせいに五人に襲い掛かってきた。

五人は火種を奪おうと火口に殺到したが、猛獣毒蛇の群れは必死で襲い掛かった。そして五人をくわえると、次々に火口に投げ下ろしてしまった。

五人の勇者は火口の火に焼かれ、白骨となって天高く舞い上がり、地上に落ちて果てた。
主な人物 舞台 口述日1934(昭和9)年07月28日(旧06月17日) 口述場所関東別院南風閣 筆録者森良仁 校正日 校正場所 初版発行日1934(昭和9)年12月5日 愛善世界社版 八幡書店版第14輯 367頁 修補版 校定版286頁 普及版 初版 ページ備考
OBC rm8015
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本文  秋男は以前の樹蔭に立ちて此処を先途と生言霊を宣る。
『高天原に現れませる
 主の大神の神言もて
 ア声の言霊に生れませる
 瑞の御霊の神柱
 顕津男の神国々を
 経巡り給ひて言霊の
 水火を凝らして神を生み
 国土を生ませる功績に
 大海原も国土も
 𪫧怜に委曲に生りましぬ
 中にも広き万里の海
 其真中に浮びたる
 島々数多ある中に
 別けて広けき葭の島
 葭原国は主の神の
 貴の御水火に生るものぞ
 山河草木も人草も
 鳥獣のはしまでも
 皆主の神の御水火に
 生り出で給ひし御賜物
 この食国に安々と
 生を享けたる現世の
 人のみならず幽世の
 身魂ことごと御恵みを
 被らぬもの無かるべし
 主の大神の遣はせし
 朝霧比女の神言もちて
 吾等の父の巌ケ根は
 水上山の聖場に
 貴の館を構へまし
 予讃の国原悉く
 治し食すべき司なり
 吾は巌ケ根第三子
 秋男と名づくる国津神よ
 尾の上に潜む獅子熊も
 虎狼も毒蛇も
 笑ひ婆アも悉く
 父の命の配下ぞや
 吾言霊にもしやもし
 敵対ひ来る事あらば
 此世は愚か幽世の
 何処の果にも棲処をば
 絶対的に許すまじ
 汝曲津見曲鬼よ
 吾打出す言霊に
 耳を傾け目を開き
 心の雲霧打ち払ひ
 誠の心に立帰り
 神に従ひ奉るべし
 ああ惟神々々
 瑞の御霊の大神の
 大御心を心とし
 茲に秋男は慎みて
 汝等が為に宣り伝ふ
 一二三四五六七八九十
 百千万八千万の神
 守り給へ幸へ給へ
 吾言霊に力あれ
 吾言霊に光あれ』
と声も爽かに歌ふ。曲神もこの言霊に心和らぎたるか、山腹の女郎花を揺がせて香ばしき風心地よく吹き通り、梢に囀る迦陵頻伽の声一入清しく、小草にすだく虫の音もいと美はしく啼きにける。
 松は歌ふ。

『ありがたし秋男の君の言霊に
  天地開く心地するなり。

 掛巻も畏し厳の言霊に
  吾魂もいきり立つなり。

 栄えある君の言霊清しけれ
  曲津も必ず服従ひ来らむ』

 竹は歌ふ。

『大空を包みし黒雲散り失せて
  月日は空に澄み渡りけり。

 吾君の宣らす言霊幸はひて
  葭原を吹く風は凪ぎたり。

 何となく心清しくなりにきて
  吾行先の幸を思ふも。

 音に聞く火炎の山は峻しけれど
  言霊宣れば安く登れむ。

 頂に猛き獣が屯して
  火種を守ると吾は聞きけり。

 笑ひ婆、譏り婆アのいたづらも
  野辺吹く風となりにけるかな。

 先の夜に月見ケ丘に荒みたる
  婆アはあはれ影隠しける』

 梅は歌ふ。

『高らかに宣らせる厳の言霊に
  天地四方の雲霧晴れ行く。

 千早振る神の伊吹の言霊は
  此世を洗ふ力なりけり。

 世の中に生言霊をおいて外に
  尊きものはあらじと思ふ。

 山に野に平和の風の吹き起り
  花咲き実るも言霊の幸。

 斯くまでも尊き君と知らざりき
  秋男の神の生ける言霊よ』

 桜は歌ふ。

『種々の艱みに遇ひて吾々は
  生言霊の力覚りぬ。

 幾万の敵現はるも恐れざらむ
  君が言霊清く響けば。

 アオウエイ五大父音の功績に
  此天地は生り出でしと聞く。

 今となりて神の力の尊さを
  覚りけるかな愚なる吾は。

 草枕旅を重ねて山裾の
  茂樹の蔭に道を覚りぬ。

 水奔鬼如何にたくむも何かあらむ
  言霊剣帯ぶる吾身は。

 吾帯ぶる言霊剣は錆びぬれど
  君は鋭き力持たせり』

 茲に秋男は意を決し、生言霊の功の尊さに力を得、自ら先頭に立ちて、壁立つ山肌を右に左に伝ひながら歌ひつつ登り行く。
『火炎の山は峻しとも
 百草千草吾行く手
 うづめ塞ぎて妨ぐる
 此山路も何かあらむ
 生言霊の剣もて
 右に左に斬りなびけ
 行く手を清めて登るべし
 此の頂の火口には
 獅子王、熊王、虎王や
 狼、大蛇集まりて
 昼夜に守り居ると聞く
 如何なる猛き獣も
 神の賜ひし言霊の
 剣にかけて服従はし
 神の経綸の火の種を
 奪ひ帰らで置くべきや
 此山路は峻しくて
 行き艱めども真心の
 限りを尽し身を尽し
 神の御為め世の為めに
 進む吾等にさやるべき
 如何なる曲津もあるべきや
 松、竹、梅よ桜ども
 心勇みて従ひ来れ
 一度は不覚はとりつれど
 生言霊の力をば
 覚り切りたる吾身魂
 最早恐るる事もなし
 ああ勇ましや面白や
 魔神の集ふ巣窟に
 言霊剣抜きつれて
 吾はすくすく進むなり。

 岩根木根踏みさくみつつ登り行く
  火炎の山は清しくもあるかな。

 見下せば山の麓に白雲は
  豊かに遊びて風にゆるげり。

 白雲の空に聳えし此山に
  登りて四方の国形見むかな。

 久方の春の御空にぼんやりと
  霞むは高光山の姿か。

 高光の山は尊し御樋代の
  神の坐します聖場なりせば。

 朝霧比女永遠に坐します高光の
  山の姿のおごそかなるかも。

 今暫し進めば頂上に達すべし
  暫しを此処に息休まさむ』

と歌ひつつ路の辺の萱草を打敷き、どつかと臀を下し、松、竹、梅、桜も、ともに眼下の四方を見渡しながら各自に歌ふ。
 松は歌ふ。

『麓辺は百樹茂らひこの辺り
  萱草ばかり生ひにけるかな。

 雲を抜くこの高山に登り見れば
  吾息さへも苦しかりけり。

 葭原の国原ことごと白雲に
  包まれさながら海原の如し。

 ぼんやりと彼方の空に峙てる
  高光山を見れば尊し。

 自ら尊さの湧く山なれや
  御樋代神の御舎として』

 竹は歌ふ。

『吹く風もいと冷え冷えと身にしみて
  身は軽々となりし心地す。

 若君の後に従ひ登り見れば
  早虫の音も聞えずなりぬ。

 火炎山の此処は漸く七合目よ
  されど鳥の音虫の音もなし。

 尾花野に風に靡きて其他の
  草木なければ花の香もなし』

 梅は歌ふ。

『曲神の集ふ山とは見えぬまで
  眺めよろしき聖所なりけり。

 曲神は白雲の線を限りにて
  麓に群がり棲めるなるらむ。

 見の限り葭草茂る原野なり
  水上の山は雲の上に浮く。

 みはるかす水上山の頂に
  います巌ケ根司恋しき。

 種々の曲の艱みに遇ひながら
  漸く此処に登り来つるも。

 山風は足の下より吹き来る
  思へば高き山にもあるかな。

 獅子熊や虎狼や大蛇まで
  棲む此の山は火炎吐くなり。

 夜されば焔の光百里余の
  野辺を照らすと聞くも凄まじ。

 若君に従ひ奉り国の為に
  火種を取りて山降らばや』

 桜は歌ふ。

『言霊の剣あれども心せよ
  曲津の備へ厳しくありせば。

 曲津見は最後の備へを構へつつ
  吾きためむと待てるなるべし。

 魂に力をこめて登るべし
  曲津の棲処早近ければ』

 斯く歌ふ折しも、山上より忽ち大岩石の雨、百雷の落ち来る如き音響を立てて、五人が身辺に下り来る其危険さ、譬ふるものなし。五人は此処を先途と岩の雨を潜り、辛うじて頂上に達しければ、猛獣毒蛇は強敵こそ御座むなれと、目を怒らせ牙をとぎ、大口開けて咆哮怒号しながら、五人に向つて噛みつき来る。五人の勇者は、何猪口才な、如何なる曲津の妨ぐるとも、火種を取らねば置くべきかと、驀地に燃ゆる火の傍に近寄りたるを見すましたる猛獣毒蛇の群は、生命限りに襲ひ来たり、五人の勇者を口にくはへて各自に振り廻し、忽ち火口に投じ、凱歌を挙げて唸り嘯く声は、百雷の一つになりて轟くが如し。斯くしてあはれ五人の勇者は、猛烈なる火に焼かれ、白骨となりて火焔の息に翻弄され、高く天に舞ひ上り再び地上に落ち来りけり。
(昭和九・七・二八 旧六・一七 於関東別院南風閣 森良仁謹録)
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