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文献名1霊界物語 第80巻 天祥地瑞 未の巻
文献名2第3篇 天地変遷よみ(新仮名遣い)てんちへんせん
文献名3第19章 笑譏怒泣〔2023〕よみ(新仮名遣い)えきどきゅう
著者出口王仁三郎
概要
備考
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あらすじ
一同は森を出て原野を進んでいった。火炎山が爆発して変わり果てたあたりの様子を歌いながら、行進して行った。

一行は月見ケ丘に着いた。そのときには黄昏時であり、闇が深くなってきていた。月見ケ丘は、秋男一行が譏り婆と言霊戦を行った場所であった。

一同はあたりの怪しい様子に警戒をしていた。するとリズムの合わないとんちんかんな音楽が響き渡り、そのあたりだけが昼間のように明るくなった。

闇の中から四人の美人が現れ、媚を呈しながら一行に向かって、自分たちは葭井の里の国津神の娘であり、火炎山が陥没したために家が湖の底に沈んでしまったために、月見ケ丘に難を避けていたのだ、と語った。

春男は女たちの様子が怪しいので疑っていた。執政のひとり水音は、女に尻尾があることを見て取り、女が譏り婆の化身であることを見破った。

するとにわかに辺りは闇に戻り、いやらしい声がしきりに聞こえてきた。譏り婆は自分が秋男を火炎山で殺めたことを誇らしげに語ると、他の三人の女は笑い婆、瘧り婆、泣き婆が変装したものであると正体を明かした。

譏り婆は、自分の幻術で一同の目をくりぬいたなどと脅して、一同を混乱させようとした。春男、夏男、水音、瀬音はあまたの従者と共に、天の数歌を大音声に宣り上げた。鬼婆たちは言霊に辟易し、怪しい悲鳴をあげながらいずこともなく逃げ去った。

すると月見ケ丘の闇は晴れ、大空の月が晧晧と輝きわたった。東南方には、火炎山の陥没によって生まれた火の湖が、寂然と波静かに月星の影を浮かべていた。
主な人物 舞台 口述日1934(昭和9)年07月30日(旧06月19日) 口述場所関東別院南風閣 筆録者内崎照代 校正日 校正場所 初版発行日1934(昭和9)年12月5日 愛善世界社版 八幡書店版第14輯 392頁 修補版 校定版377頁 普及版 初版 ページ備考
OBC rm8019
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本文  茂みの森を立ち出でて  春男、夏男を初めとし
 水音、瀬音は供人を  数多従へ東南の
 原野をさして進みゆく  火炎の山の陥落に
 あたりの光景激変し  たしかにそれと分かねども
 霧立ちのぼりもうもうと  大地を包むは湖か
 猛獣毒蛇の影多く  道の行く手にさやりつつ
 いづれも負傷せざるなし  春男の一行は幸に
 重傷負ひし曲神の  力なきをば幸に
 いとすたすたと進みゆく  吹き来る風も何となく
 胸もふさがる心地して  霜おく朝の野辺をゆく
 寒さは寒し陰鬱の  空気は天地に漲りぬ
 ああ惟神々々  春男一行の行先は
 幸か不幸か物語  読みゆく行にしたがひて
 いと明瞭となりぬべし。
 春男は歌ふ。
『水上山を後にして
 萱野を渉り丘を越え
 茂みの丘に黄昏れて
 一行ここに夜をあかし
 猛獣毒蛇のうめき声
 耳にしながら来て見れば
 火炎の山はあともなく
 空に黒煙漲りて
 日月ために影暗し
 地上遥かに見渡せば
 右も左も狭霧立ち
 昼なりながら行く手さへ
 わからぬ今日のいぶかしさ
 ああ惟神々々
 弟二人の消息は
 如何なりしか聞かまほし
 天地に神のいますなら
 吾等に二人の行く末を
 𪫧怜に委曲に教へませ
 偏に願ひ奉る』
 夏男は歌ふ。
『ちちのみの父のみことを畏みて
 醜草茂る荒野原
 辿りてここに来て見れば
 白煙もうもう地に満ちて
 行く手もわかずなりにけり
 国形見むと思へども
 あたりは靄につつまれて
 吹き来る風もいやらしく
 寒さ身にしむ冬の旅
 樹々に囀る百鳥の
 声もかなしく聞ゆなり
 ああ惟神々々
 わが行く道をあきらかに
 照らさせ給へと願ぎ奉る』
 水音は歌ふ。

『うち仰ぐ火炎の山はくづれしか
  湖のみ見えて山かげもなし。

 かかる野に湖ありとは知らざりき
  この地の上は変りたるにや。

 天津日の月もかくれて常闇の
  野路ゆく吾はさびしかりけり』

 瀬音は歌ふ。

『どことなくさびしき声は聞ゆなり
  曲津の叫びか鳥のなく音か。

 ただしは冬の虫の音か
 行く手も知らぬ闇の旅
 まだ昼なりながら怪しけれ
 向ふに見ゆる低山は
 月見の丘かいち早く
 足を早めて進むべし』
 斯くして一行は漸く月見ケ丘に着きぬ。太陽は見えねども、最早黄昏時と見えて闇は益々深くなりぬ。ここは秋男一行が一夜の宿を借りて、譏り婆と言霊戦を試みたる跡なりき。
 春男は歌ふ。

『やうやくに月見ケ丘に来て見れば
  黄昏の幕おりにけらしな。

 何となく淋しき丘よ草も木も
  霜にあたりて赤らみにける。

 常磐樹の中にまじはる裸樹の
  梢は闇の空なでてをり。

 この丘はいとど怪しく思はるる
  わが弟の宿りけるにや』

 夏男は歌ふ。

『黄昏の闇ふかければ止むを得じ
  この丘の上に一夜をあかさむ。

 大空の月もかくろひ星かげの
  一つだになき闇の丘かも。

 吹く風は肌にしむなり何処やらに
  怪しき声の聞ゆべらなり』

 水音は歌ふ。

『曲鬼や大蛇のむらがる野を越えて
  ここに安けく吾着きにけり。

 さりながら心はゆるせじこの闇に
  曲襲はむも計りかぬれば。

 眠りなば曲や襲はむ村肝の
  心ひきしめてあかつき待たむか』

 瀬音は歌ふ。

『何かしらあやしき声の響くなり
  君は聞かずや嘆きの声を。

 曲鬼か大蛇かイヂチか知らねども
  わが魂の戦く声なり』

 斯く歌ふ折しも、リズムの合はぬ、トンチンカンなる音楽響き来り、忽ちあたりは昼の如く明るくなりける。然しながら約十間四方は室内に灯をとぼしたる如くなれども、其他は依然として闇の襖を立てたるが如し。
 闇の中より悠々現はれ来る四人の美人あり。何れも十七八歳の妙齢にして、容色端麗に物腰も淑やかに、象牙細工のやうな白い手を揉みながら、媚を呈して寄り来り、甲の女は一行に向ひ恭しく礼をほどこし、微笑を浮べて歌ふ。

『われこそは葭井の里の国津神
  葭井が娘五月なるぞや。

 火炎山陥没せしよりわが家は
  湖の底に沈みたりけり。

 やうやくに神の恵みに助けられ
  月見ケ丘に難をさけ居し。

 ここにゐる三人の乙女は姉妹よ
  恵ませ給へ国津神たち』

 春男は怪しみながら、

『不思議なることを宣らすよこの丘に
  難をさけつつ忍びゐるとは。

 眉目形美はしけれど何処となく
  汝がおもざし腑におちぬかな』

 五月は歌ふ。

『うたがはせ給ふな吾は国津神
  葭井の娘にたがひなければ。

 君来ますとかねて聞きしゆ常闇を
  照らして吾はここに待ちつつ』

 春男はなほも怪しみながら、

『言霊は如何に美はしく宣るとても
  汝がよそほひ怪しかりけり』

 小百合は歌ふ。

『吾こそは小百合と名告る妹よ
  愛でさせ給へ旅の客人。

 わが姉を疑ひ給ふ客人の
  心思へばかなしくなりぬ。

 われこそは小百合と名のる愛娘
  葭井の里の花と呼ばれし。

 ともかくも恋しさ故に吾は今
  君の姿を伏し拝むなり。

 家はなく父母もなし憐れなる
  わが姉妹を救はせ給へ』

 水音は歌ふ。

『若君よ曲の言の葉御耳を
  かし給ふまじ彼の耳動けり。

 この女譏り婆アの化身ぞや
  心し給へ闇の花なれば。

 灯火もなき闇の夜にあかあかと
  この辺りのみ光るは怪しき。

 曲神のたくらみごとは浅ければ
  忽ち尻の割るるものなり。

 わが眼ひがみたるかは知らねども
  五月の尻に太き尾見ゆるも。

 小百合てふ妹と名告る乙女子も
  細き尻尾のあらはれてをり』

 斯く歌ふや、俄に昼の如明るかりし四辺は常闇と変じ、いやらしき声頻りに聞え来る。
『ギヤハハハハ、如何にもこの方は譏り婆の成の果、汝が弟秋男といふ青二才を悩め殺し、火炎山の火口へ放り込み、生命をとるやうに致したは此方が計画、もうかうなる上は何も彼も言つてやらう。尻から見えた尾は、即ち汝が弟秋男の髪の毛、小百合と名告る女の尻にはさんだ尻尾は其方が弟の髪だ、イヒヒヒヒ、てもさても心地よやなアー。二人の女の尻尾は出来たが、もう二つの尻尾が要るより、今ここに現はれて、汝等兄弟二人の生命をとり、二人が乙女の尻尾となし、自由自在の妙術を使ふ吾等が計画、てもさてもいぢらしいものだワイ、イヒヒヒヒ、笑ひ婆と譏り婆、瘧婆に泣婆と四人の変装したのは、汝の眼には美はしき乙女と見せむ為なり。てもさても情なや、最早二つの眼は此の世の物ならず、幽冥界に旅立ち致し、表から見れば人間の眼と見ゆれども、最早用をなさぬ節穴同然、てもさても浅ましや、この方が計略にかかりしを気のつかぬ大馬鹿者奴、昨夜茂樹の森蔭に、汝等四人の眼をくりだし、木の節穴と入れ替へた吾等が神変不思議の術、驚いたか、往生致したか。イヒヒヒヒ、キヤハハハハ、キキキ気の毒千万、愉快千万』
 春男、夏男はじめ水音、瀬音は驚き、各自両眼に手をやりて調べ見れど、別に節穴にもあらず、全く自分の眼なるに、やつと安心せしものの如く、四人は期せずして天の数歌を従者と共に、天地も轟くばかり大音声に宣り上げたり。四人の乙女と変じたる曲鬼は、この言霊に辟易しけむ、怪しき悲鳴をあげながら、いづれともなく逃げ去りける。
 不思議や、月見ケ丘は、闇の幕俄に開かれ、大空の月は皎々とかがやき渡りけるにぞ、一行は丘の上に立ちて、東南方を眺むれば、新たに生れたる火の湖、際限もなく展開し、波静かに涼風いたり、月星の影を浮べて寂然たりけり。
(昭和九・七・三〇 旧六・一九 於関東別院南風閣 内崎照代謹録)
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