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文献名1霊界物語 第81巻 天祥地瑞 申の巻
文献名2第2篇 イドムの嵐よみ(新仮名遣い)いどむのあらし
文献名3第8章 人魚の勝利〔2035〕よみ(新仮名遣い)にんぎょのしょうり
著者出口王仁三郎
概要
備考
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あらすじ
大栄山の南面にある真珠の湖には多くの人魚が生息していた。人魚たちは湖の東西南北に人魚郷を作って平和に暮らしていたが、イドム王の部下が襲来して人魚の乙女を捕らえて行く事件がたびたび起こっていた。

そこで、国津神たちの襲来を防ぐために空き地に鋭くとがった貝殻を敷き詰めるなど、防衛線を敷いて警戒する態勢になっていた。

あるとき、東西南北の各人魚郷の酋長たちは、湖の中央にある真珠島に集まり、協議をこらしていた。

イドム国が戦に破れて、サール国に城を奪われたニュースは人魚たちの下にも届いていた。人魚たちは、サール国王エールスが荒々しい気性の持ち主であると聞いていたので、必ずやイドム国にも増して、人魚の乙女を捕らえに兵隊を遣わしてくるだろうと予測していたのである。

酋長たちは協議の結果、サール国の兵隊が来たら、岸に山が迫っていて険しい北郷にすべての人魚を避難させ、敵を迎え撃つ作戦を練った。

折りしも、サール国女王となったサックスは早速、数百の騎士を従えて大栄山に登ってくると、人魚を捕獲しようと真珠の湖に迫ってきた。

東西南北の酋長たちは、さっそく人魚たちに知らせを出して、全員を北郷に避難させた。酋長たちは、真珠島の岩頭に立って、サール国の騎士たちを待ち構えていた。

サールの騎士たちは東、西、南の人魚郷を目指して馬に乗ったまま湖に飛び込み襲ってきたが、一人の人魚も見つけることができず、泳ぎ着かれて溺れ死ぬ馬が続出した。

サックス女王は一度岸に引き返し、丸木舟を作って湖の奥に進む作戦に変更した。真珠島に上陸して人魚の酋長を捕らえ、人魚たちの隠れ家を自白させようとしたのである。

しかし、丸木舟が真珠島に近寄ってくるやいなや、酋長たちは島の断崖の上から、いっせいに真珠の岩を岩石落としに投げつけた。

あわれ、女王をはじめ従軍していた左守チクター、数多の騎士たちは舟もろとも湖中に沈没し、水の藻屑と消え去ってしまった。これ以降、真珠の湖を侵して人魚を攻めようとする者もなく、ここは神仙郷として人魚たちは栄えることとなった。
主な人物 舞台 口述日1934(昭和9)年08月05日(旧06月25日) 口述場所伊豆別院 筆録者白石恵子 校正日 校正場所 初版発行日1934(昭和9)年12月30日 愛善世界社版 八幡書店版第14輯 467頁 修補版 校定版167頁 普及版 初版 ページ備考
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本文  大栄山の南面の中腹には広き平地ありて、東西二十里、南北十里の潮水漂ひ、真珠の湖と称へられて居る。
 此の湖水の周囲には数多の人魚棲み、殆んど国津神と同様の生活を為し、よく物を言ひ、人魚郷をつくりて、南にあるを南郷と言ひ、北にあるを北郷と言ひ、東にあるを東郷と称し、西を西郷と称へ、人魚の群は此の湖水を永久の棲処として、魚貝を餌食とし、他よりの国津神の侵入を防ぎ、天地の恩沢を楽しみ居たりける。
 かかる平和の神仙郷も、時々イドム王の部下襲来し来りて、人魚の乙女を捕へ去る事一再ならざりければ、茲に人魚の王は首を鳩めて協議を凝らし、国津神の襲来に備へむとして、後先の鋭く尖りたる貝殻を空地なくつきたて、襲ひ来る敵の足を傷つけむと防禦線を張り居たりける。
 或時人魚の王は、此の湖水の中央に突出せる真珠島に集りて、湖面に浮ぶ月を眺めながら一夜を明しつつ互に歌ふ。
 東郷の酋長春野は歌ふ。
『天地の神の恵に生り出でし
  これの湖水は永久の苑なり

 大空の月を浮べて波静か
  輝く湖の広くもあるかな

 かくの如吾等は清き湖に
  人魚となりて年ふりにけり

 風吹けど雨は降れども此の湖は
  波の秀さへも立たぬ静けさ

 春夏の眺め妙なる此の湖に
  大栄山の錦うつろふ

 大栄山溪の清水は此の湖に
  少しも入らず落ちたぎつなり

 此の湖は竜宮海に続けるか
  湖水ながらも潮水なりけり

 不思議なるこれの高処に潮湧く
  湖水は神の賜物なるらむ

 百年をこの湖にやすらひて
  思ふ事なき吾等が暮しよ

 折々は神仙郷なる此の湖に
  襲ひ来るなり国津神等は

 国津神仮令幾万寄せ来とも
  吾等は飽くまで戦はむかも

 天津日は終日輝き月舟は
  終夜照る真珠の湖よ』

 南郷の酋長夏草は歌ふ。
『人の面持てども未だ身体は
  浅ましきかな鱗覆へば

 さりながら神の恵に抱かれて
  煩ひもなくすむは嬉しき

 安らかに真珠の湖に育ちたる
  吾等は悩み知らざりにけり

 恐ろしきイドムの王の手下等は
  吾等が輩を奪ひて帰るも

 如何にして吾等が仇を防がむと
  朝な夕なに心砕くも

 さりながら此の湖は深ければ
  吾等は水底潜りて遁れむ

 時折は陸に上りて眠る間を
  忍び来れる仇に捕はる

 明日よりは人魚は汀に眠らずて
  湖中に浮び休らふべきかな

 悠々と波に浮びて魚族を
  食ひて生くるは恵なりけり

 天地の恵忘れし輩のみ
  生命奪はれ苦しむなるべし

 吾等とて主の大神の御賜物
  神は必ず守りますらむ

 イドム城はサールの王の現はれて
  破れしと聞きぬ吾等が敵は

 わが輩の真珠持てりと争ひて
  此の湖に忍び来るなり

 サール国のエールス王は心荒き
  神とし聞けば安からず思ふ

 兎にもあれ角にもあれや波の上に
  澄む月光を眺めて明かさむ

 月見れば歎かひ心消えゆきて
  春野に咲ける花を思ふも

 花見むと陸に上りて捕はれし
  輩思へば悲しかりけり

 春さればわがともがらは次々に
  捕はれにけり油断の心に』

 西郷の酋長秋月は歌ふ。
『天蒼く湖また青き真中に
  浮べる真珠の島に酒酌む

 御空ゆく月の光に照らされて
  此の湖原は真白に映ゆるも

 波の間に出没するはわが輩
  御空の月を仰ぐなるらむ

 八千尋の湖底までも照り透す
  月の光の偉大なるかな

 闇の夜は汀辺に輩集まりて
  歌と踊りに夜を明すなり

 人魚等の歌ふ声々波の間に
  こだまなしつつ夜は明けにける

 大栄の山の紅葉を仰ぎつつ
  湖水に浸る秋は楽しき

 秋月は大栄山に照り映えて
  錦に映ゆる真珠の湖原

 波の色朱に染めつつ大栄の
  山の紅葉は照り渡るなり』

 北郷の酋長冬風は歌ふ。
『冬されど此の仙郷は暖かし
  大栄山は北に峙つ

 大栄の山嶮しければ国津神は
  此の仙郷に来る少なし

 吾棲める北の郷には人魚とる
  仇も来らず安く過ぎ行く

 若しや若し敵の来らば人魚等を
  ことごと吾等が郷に集めよ』

 斯く歌ふ折もあれ、イドム城の女王サツクス姫は、数百の騎士を従へ、大栄山の急坂を鬨を作りて登り来り、一網打尽に人魚の群を襲ひ捕獲せむとのぼり来る。
 この物音に四人の酋長は、スハ一大事、人魚の輩悉く北郷に集めむと、泳ぎの早き人魚を東西南の三郷に遣はし急を報じければ、数万の人魚はわれ遅れじと深き水底を潜りて、一人も残らず北郷にかたまり、いづれも声を潜めて敵の襲来を遥かに眺めつつありける。
 四人の酋長は真珠島の巌頭に立ち、悠然として敵の襲来を眺め居たり。
 サツクス女王の指揮のもとに、数百の騎士は東西南の三郷に陣取り、湖水を囲みて擦鉦太鼓を打ち鳴らしつつ、山も砕けむばかりの勢にて襲ひ来り、人魚の影の一つも湖面になきに失望し、各々馬上ながら湖中に飛び入り、馬をたよりに捜索すれども、東西南の三郷附近には一つの人魚も見当らず、遂には馬疲れ、湖中に溺るるもの多くなりければ、さすがのサツクス女王も、すごすごと岸辺に引き返し、馬の疲れを休め、自分もまた顔青ざめて太き息を吐き居たり。
 サツクス女王は声も細々と歌ふ。
『月澄める真珠の湖に来て見れば
  波ばかりにて人魚の影なし

 此の湖に永久に棲む人魚等は
  如何なりしか吾いぶかしき

 潮水に飛び込み進みしわが騎士の
  その大方は溺れ死したり

 人魚等は水底深く潜みつつ
  駒の脚をばひけるなるらむ

 斯くならば駒は詮なし木を伐りて
  独木の舟を造り進まむ』

 茲に生き残りたる騎士等は、湖辺に立てる数多の大木を伐り倒し独木舟を造りて、七日七夜の丹精をこめ漸く数艘の舟を造り、真珠の島に渡り酋長を捕縛し、人魚の在処を自白させむと、茲に数十人の騎士は独木舟に棹をさし櫂を操りながら、稍広き真珠の島へと進み行く。勿論サツクス女王もその舟に安く坐してありける。
 四人の酋長は寄せ来る舟を遥かに見ながら、悠々として騒がず急らず眺め入る。
 北郷の酋長冬風は、三人と何か諜し合せ居たりしが、忽ち湖中に飛び込み、水底を潜つて北郷に急ぎ帰り、数万の人魚に急を告げ、且つ一斉に敵に向つて必死の力を加へ殲滅せむ事を訓示した。
 酋長の言葉に数万の人魚は勢を得、日頃の仇を報い、禍の根を断つは此の時と、固唾を呑んで控へ居る。
 サツクス女王は勝ち誇りたる面もちにて、独木舟を漕がせながら、月照り渡る真珠の湖原を眺めて歌ふ。
『あはれあはれ心地よきかな吾は今
  真珠の島を占領せむとす

 人魚等の宝の真珠を集めたる
  島根は夜ながら輝きにけり

 幾万の真珠の光かたまりて
  月の光も褪せにけらしな

 幾万の人魚はいづれに逃げしぞや
  吾等が威勢に驚けるらし

 面白し月の浮べる湖原に
  真珠の島を取らむと出で行く』

 春野は遥かに此の体を見て歌ふ。
『玉の緒の生命知らずの出で立ちを
  見つつあはれを催す吾なり

 欲深く真珠の玉に目が眩み
  生命捨つると思へばいぢらし

 北郷に手具脛ひきて待ち待てる
  人魚の力を恐れざるらし

 森閑としづまりかへる湖原に
  やがて血汐の雨は降るらむ

 心地よき今宵なるかも祖々の
  仇を報ゆる時は来にけり

 サツクスはイドムの国を奪ひ取り
  夫の生命をとりしくせもの

 サツクスの悪魔は尚も飽きたらで
  吾等が宝を奪はむとすも

 限りなき欲につられて玉の緒の
  生命を捨つるは浅はかなるかな』

 南郷の酋長夏草は歌ふ。
『夏草の茂みを分けてのぼり来る
  ナイトは死出の旅をするかも

 わが輩影なきを見てナイト等は
  馬諸共に湖中に駈け入りぬ

 駿馬は疲れはてけむ力なく
  人もろともに溺れ死したり

 次々に溺るるを見てサツクスは
  陸に向つて逃げゆくをかしさ

 駿馬の嘶きを知りてサツクスは
  汀に並木を伐り倒したり

 七日七夜独木の舟を造り了へて
  渡り来るかも生命知らずに

 近寄らば真珠の岩を投げつけて
  仇悉く打ち殺すべし』

 西郷の酋長秋月は歌ふ。
『面白き世とはなりけり居ながらに
  仇を滅ぼす今宵とおもへば

 水中に力を保つわが輩
  捕へむとする愚さを思ふ

 愚なるサツクス王の手下等を
  水の藻屑と葬り去らむ

 面白しああ勇ましし吾敵は
  真珠の島根近く寄せたり』

 斯く歌ふ折しも、サツクス女王の一行数十人は島に近寄らむとするや、三人の酋長は此処を先途と、真珠の岩を頭上に高くささげ、寄せ来る敵に向つて岩石落しに投げつくれば、何条以て堪るべき、舟諸共に湖中に残らず沈没し、湖の水泡と消えにける。
 北郷に集りし数万の人魚は、「ウオーウオー」と一斉に歓声を挙げ、為に天地も崩るるばかりなりける。
 イドムの城を占領し、エールス王を謀殺し、恋の勝利者とときめき渡り、豪奢を極めたりし悪虐無道の張本サツクス女王も、天運いよいよ尽きて水の藻屑となりけるぞ天命恐ろしき。
 これより真珠の湖の人魚の群に向つて攻め寄するもの跡を断ち、永遠の神仙郷として人魚の群は栄えけるとなむ。
(昭和九・八・五 旧六・二五 於伊豆別院 白石恵子謹録)
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