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文献名1霊界物語 第81巻 天祥地瑞 申の巻
文献名2第3篇 木田山城よみ(新仮名遣い)きたやまじょう
文献名3第13章 思ひの掛川〔2040〕よみ(新仮名遣い)おもいのかけがわ
著者出口王仁三郎
概要
備考
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あらすじ
一方エームス太子は、木田山城の奥殿に恋の悩みを述懐の歌に歌っていた。父王がイドム国を滅ぼしたために、自分がチンリウ姫の親の敵になってしまったことで、父王エームスへの恨みを歌った。

そこへ朝月、夕月が帰ってきて、チンリウ姫の心は固く、説得に失敗したことを報告した。そこでエームス太子は、侍女のアララギをこちら側に引き入れて、姫を説得させる策を思いついた。

さっそくアララギを縛ったまま太子の前に引き出した。朝月は、このまま姫が太子の思いを拒み続ければ牢獄に苦しみつづけ、思いを受け入れれば太子妃として栄華を得られるだろう、と二者択一を迫り、アララギを問い詰めた。

するとアララギは恐れ気もなく、姫を必ず説得させようと太子の前で約束した。そして牢獄に送還されたアララギは、言葉を尽くしてチンリウ姫を説得にかかった。

このままでは、我々は処刑されてしまう、それよりはエームス太子の妃になって牢獄から抜け出せば、命も助かり、よい暮らしも出来、イドム国の再興もなるだろう。何より、従者である自分たちの命を憐れと思い、どうか助けてください、と最後は姫の情に訴えた。

アララギ、センリウ母娘の嘆願によって、チンリウ姫は憐れみの心から、ついにエームス太子の思いを受け入れることに決めた。

エームス太子はさっそく三人を牢獄から解放し、立派な衣装に着替えさせ、宮殿に迎え入れた。
主な人物 舞台 口述日1934(昭和9)年08月14日(旧07月5日) 口述場所水明閣 筆録者内崎照代 校正日 校正場所 初版発行日1934(昭和9)年12月30日 愛善世界社版 八幡書店版第14輯 497頁 修補版 校定版280頁 普及版 初版 ページ備考
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本文  木田山城の奥殿には、エームス王只一人黙然として恋に悩みながら、微な声にて述懐を歌ひつつありぬ。
『この世に生れて二十年
 父と母との膝下に
 貴の御子よと育まれ
 朝な夕なに諸々の
 司や側女にかしづかれ
 楽しき春秋おくり来て
 ここに二十年の春を迎へ
 もののあはれを知り初めて
 悩みの淵に沈みつつ
 あらぬ恋路にとらはれて
 朝な夕なの苦しみを
 語らふ術も泣くばかり
 わが身は恋にとらはれて
 日に夜に身体細りつつ
 玉の生命も朦朧と
 行方知らずの思ひなり
 ああ如何にせむわが恋ふる
 姫はまさしく敵国の
 アヅミの王の娘とかや
 わが父の力は如何に勝るとも
 情は如何に深くとも
 この恋のみは如何にして
 成りとげ得べき由もなし
 玉の緒の生命消えむと思ふまで
 朝な夕なにこがれたる
 生命をかけての恋人は
 げに悲しもよ敵国の
 アヅミの王の愛娘と
 思へば如何にこがるとも
 わが思ひねのとどくべき
 斯くなる上はわが父の
 イドムの国を亡ぼせし
 礼なき業もにくらしく
 且つ恨めしく思はるる
 生命をかけて焦れたる
 姫の恨を如何にして
 はらはむ由も夏の夜の
 空をふさげる五月闇
 鳴く時鳥声かれて
 血を吐く思ひのわが身なり
 朝月、夕月二柱
 心づくしも今となりて
 何の答も夏の夜の
 短き心を如何にして
 われはつながむ百鳥の
 清きなく音も百花の
 香りも吾には醜の声
 醜の小草の花なれや
 見るもの聞くもの悉く
 悲しみの種憂の種
 歎きの種と泣くばかり
 斯くなる上はわが生命
 生きて詮なし木田川の
 水の藻屑になり果てて
 水底深くひそみつつ
 恋の悩みを流さむか
 ああ悲しけれわが恋路
 ああ恨めしもわが父の
 礼なき振舞ひ今となりて
 吾を恋路に泣かしむるか
 果敢なき浮世のありさまや
 情なきこの世のたよりかな。
 わが恋ふる人は敵ゆゑ真心を
  うたがひかへりて恨みかへせり

 恋人はわが敵国の王の御子と
  聞けばきく程悲しかりけり

 かなはざる恋と思へどわが力
  もちて靡けむ心ならずも

 心なき花の香愛づる不甲斐なさ
  思へば恋はかなしかりけり

 わが恋を許さぬ娘の真心を
  思へばふかく憎まれもせず

 われは今恋の悪魔にとらはれて
  行く手も見えず闇にさまよふ

 手折るべき花にあらずと思へども
  思ひかへせぬ術なき吾なり

 よしや身は川の藻屑となるとても
  この恋心永久に失せざらむ

 朝月の生言霊も夕月の
  情言葉も聞かぬ姫かな

 腰元のアララギうまくとりこみて
  姫の心を動かさむかな』

 斯く歌ふ折しも、朝月、夕月は恭しくも御前に進み来りて歌ふ。
 朝月『いろいろと言霊戦射向へど
  千引の巌の動くともせず

 チンリウの姫の心は大岩の
  装ひなしてびくとも動かず

 村肝の心つくしてかけ合へど
  よろしき便なく由もなき

 わが王に会はさむ顔もなきままに
  悩みて居りぬ夕月と共に』

 夕月は歌ふ。
『若王の清き心を照らさむと
  思ひしことも夢となりける

 御父を恨む心の深くして
  チンリウ姫は少しも動かず

 わが力最早尽きたりこの上は
  手玉を替へてのぞまむと思ふ』

 エームス王は歌ふ。
『さまざまと汝等二人が働きを
  吾よみすれど心さみしき

 この上は侍女のアララギ呼び出し
  先づは言向け和すべきかな

 利を以てさそへば侍女のアララギは
  必ず靡かむ如何に思ふぞ』

 朝月は手を拍つて歌ふ。
『若王の御言かしこみアララギを
  招きて姫の心をさそはむ』

 夕月は歌ふ。
『アララギの心動かば必ずや
  チンリウ姫もまつろひ来らむ』

 斯くて朝月、夕月は獄吏に命じ、アララギを縛りたるまま、王の前に引き来らしめければ、万事に抜目なきアララギは、斯くやと早合点しつつエームス王の前に引出され、平然として控へ居る。朝月は先づアララギに向ひて歌ふ。
『チンリウの姫に仕ふる汝は乳母の
  アララギなるかいざ言問はむ

 苦しかる獄舎につながれうごかぬ姫は
  汝を力にたのむなるらむ

 さまざまの責苦にあふより安らけく
  位と栄えをほりせざるにや

 汝が心一つによりてチンリウ姫
  センリウ姫も花と栄ゆべきを

 チンリウの姫を殺すも永遠に
  花と活かすも汝の力よ

 アララギよ心しづめて答へせよ
  汝が生死の境なるぞや

 わが王の厚き心をなみすれば
  三人の生命は危ふかるべし』

 アララギは怖気もなく満面に笑みを湛へつつ歌ふ。
『及ばざる吾なりながら姫君に
  王の心を伝へ奉らむ

 二十年を仕へ来りし姫なれば
  わが言霊をうべなひ給はむ

 さりながら姫は御父御母を
  恨ませ給へば受け合ひがたし

 言霊のあらむ限りを打ち出して
  姫の心を動かして見む』

 朝月は面をやはらげながら、
『アララギの言葉よろしも若王の
  御為誠をつくし給はれ

 若王の心にかなひ奉りなば
  汝も御国の花と栄えむ

 永遠の生命保ちてこの城に
  花と匂ひつ清く栄えよ』

 エームス王は歌ふ。
『さかしかる汝アララギを力とし
  姫のよろしき便を待たむ

 わが思ひ汝が力になるならば
  吾は報いむ位を与へて』

 アララギは歌ふ。
『ありがたし若王様の御宣言
  生命捨ててもかなはせ奉らむ』

 これよりアララギは、王の御前をさがり、朝月、夕月の従神に送られ、チンリウ姫が押し込められて居る獄舎に帰り来り、チンリウ姫の心を動かすべく、言葉をつくして歌ふ。
『チンリウ姫よ聞し召せ
 われは御前に引き出され
 さも恐ろしきくさぐさの
 王の御言を目のあたり
 宣り聞かされて驚きぬ
 吾等三人は今宵限り
 夕べの露と消ゆる身よ
 水責め火責めは未だ愚か
 あらゆる責苦にあはされて
 嬲り殺しにあふところ
 わが言霊を善用し
 エームス王の御心
 和め奉ると百千々に
 心を砕きし甲斐ありて
 姫君様の返辞
 一つによりて生死の
 別るるきはとなりにけり
 チンリウ姫の御君よ
 生命ありての物種よ
 如何なる恨みはおはすとも
 生命なければ報ゆべき
 術は絶対なかるべし
 ここは暫く御心を
 和め給ひてエームスの
 王の心にまつろひて
 惜しき生命を保ちませ
 アララギ吾も姫君と
 同じ心に恨めども
 何とせむ術なきままに
 恐れ多くも姫様を
 エームス王の妃の君に
 奉らむと誓ひけり
 許させ給へ姫君よ
 恋しき御父御母に
 会はせ奉るとアララギが
 真心こめての仕組なり
 必ず悪しく思すまじ
 忠義一途に固まりし
 このアララギの真心を
 完全に委曲に聞し召し
 エームス王の恋心
 満たさせ給へ惟神
 神の仕組と思ふ故
 真心こめて願ぎ奉る
 若しも諾ひ給はずば
 アヅミの王の御娘
 尊き御身は忽ちに
 重き生命を奪はれて
 仇をかへさむ由もなく
 恨みの鬼となり下り
 千代に八千代に浮ぶ瀬は
 泣くなく歎きに沈むらむ
 まげて吾等が願ひをば
 許させ給へと願ぎ奉る。
 姫君の心知らずにあらねども
  生命のためにすすめ奉るも

 姫君の生命を無事にささへつつ
  御親の恨みはらさむと思ふ』

 チンリウ姫はわづかに歌ふ。
『情なき乳母アララギの言葉かな
  敵にわが身を任すべきやは

 武士の娘と生れし吾なれば
  よしや死すとも惜しまざるべし

 アララギの礼なき言葉聞くにつけ
  わが魂は死せむとするも

 玉の緒の生命惜しみて父母の
  仇にまつらふ不孝はなさじ

 千万の甘き言葉も吾身には
  濁れる曲のささやきなりける』

 センリウ女は歌ふ。
『姫君の言葉うべよと思へども
  ここ暫くを忍ばせ給へ

 姫君の心一つにつながりし
  吾等が生命あはれみ給へ

 姫君の答の如何は三人の
  玉の生命にかかはるものぞや

 わが母と吾等が生命諸共に
  救はせ給へチンリウの姫君』

 チンリウ姫は歌ふ。
『恨めしき仇なりながら汝等母子の
  生命思へばためらひ心湧く

 如何にせむ行きもかへりもならぬ身の
  吾は死すより苦しかりけり

 アララギやセンリウ姫を殺すかと
  思へばかなしき生命のわが身よ

 わが心かなはずまでも今暫し
  エームス王の御言にかなはむ』

 斯く歌ひ終るや、朝月、夕月は物蔭より現はれ来り、声もさはやかに歌ふ。
 朝月の歌。
『あはれあはれ姫の心の大きさに
  木田山城は甦りたり

 エームスの王はさぞかし御心の
  清きを聞きて歓ぎ給はむ

 吾もまたチンリウ姫の御言葉
  聞きて生命の栄えを思ふ』

 夕月は歌ふ。
『ありがたし心つくしの海の面に
  冴えたる月は浮ばせ給へり

 チンリウ姫雄々しき心聞くにつけ
  吾はかげより男泣きせり

 ありがたき御代の栄えのためしかな
  エームス王に妃迎へて

 いざさらば王の御前にまつぶさに
  姫の真心伝へ奉らむ

 アララギよチンリウ姫よセンリウよ
  心安かれやがて迎へむ』

 アララギは歌ふ。
『ありがたしチンリウ姫の真心に
  われ等が生命救はれしはや

 エームスの王の御前にわが宣りし
  生言霊を伝へ給へよ』

 朝月は歌ふ。
『アララギの心づくしの功績を
  うまらに王に伝へ奉らむ

 よき便り待たせ給へよ吾は今
  王の御前にかへりごとせむ』

 斯くしてエームス王の恋は漸く曙光見えたれば、王は直ちにチンリウ姫以下を牢獄より開放し、立派なる衣裳に着替へさせ、王の宮殿に参入せしむることとはなりぬ。
(昭和九・八・一四 旧七・五 於水明閣 内崎照代謹録)
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