乳母のアララギは、結婚式の荘厳さににわかに嫉みに襲われ、自分の娘・センリウが姫とそっくりなのを幸い、姫をだまして入れ替えさせ、また罠に陥れて遠島に流してしまったのである。
エームス太子は替え玉に気づかず、センリウをチンリウ姫と思い込み、寵愛していた。
アララギは、自分の娘センリウ(=実は替え玉のチンリウ姫)の家宝破壊の罪に対し、身内だからといって手心を加えることなく裁きを下した、とサール国の人々から思われていた。
そして、その公平無私な処置が木田山城内の賞賛を集めた。この件でエームス太子からも厚く信頼されることになり、城内の一切の事務を取り仕切るようになったので、その権力と声望はとみに増していった。
婚礼の後、祝賀の宴が開かれることになった。そこでもアララギは、自分の娘の罪に対して公平な裁きを下したことで、皆から賞賛された。
朝月、夕月は、アララギを気遣ってセンリウ(=実はチンリウ姫)の恩赦を申し出るが、アララギは、身内だからといって刑を軽くしてはならない、と頑なに否定した。
また王妃(=実はアララギの娘センリウ)もまた、サール国の掟を勝手に変えてはならぬ、と断固反対をした。アララギは城内の人々から一層、公平無私の人という評判を取り付けることになった。
しかし朝月は、センリウの刑の重さを不憫に思い、またどうも今の太子妃が本当のチンリウ姫ではないような気がする、と懸念を表明した。
疑われた王妃(=センリウ)は怒り、太子に朝月の処罰を要求した。エームス太子は朝月に対して激しく怒り、たちまちこれも遠島の刑に処してしまった。
朝月が縛られて島流しに送られる姿を見て、エームス太子、太子妃(=センリウ)、アララギは愉快げに微笑みながら、大罪人が正しく処罰されたことを喜ぶ歌を歌っていた。
アララギが木田山城の権力を握ってからは、邪な輩を重用し、正義の士はことごとく罪を着せて刑に処した。サール国には悪人がはびこり、国内各所には暴動が起こり、民の恨みの声は山野に満ち溢れることになってしまった。
センリウと入れ替えられて島流しにされたチンリウ姫の行く先は、「かくれ島」に送られることになった。この島は夕方になると全島が波間に水没してしまうという魔の島であった。
アララギは自分の計略が発覚することを恐れて、姫を亡き者にしようと、あえてこの島に姫を送らせたのであった。
また、島流しにされた朝月は「荒島」という岩石の孤島に打ち捨てられ、嘆きのうちに魚介を食料として月日を送ることとなった。