偽チンリウ姫を見破り、宴席でそのことを歌にほのめかした従臣の朝月は、はるか孤島の荒島に島流しにされてしまった。
絶海の孤島で、朝月は魚貝を採りつつ飢えをしのぎ、海原を眺めながら述懐の歌を歌っていた。
朝月は述懐の歌に、アララギ・センリウの姦計に陥った故国を憂い、また昨日の夢に不思議にも、命を奪われたかと思われたチンリウ姫が海亀に助けられて無事にイドム国にたどり着いたことを思い返して、神の恵みを祈っていた。
すると、チンリウ姫を救った神亀が荒島の波打ち際にぽかりと姿を現し、朝月を招くかのように首を上下に振りはじめた。朝月は、これぞ琴平別命の化身の救いと喜び、神亀の背中に飛び乗った。亀は朝月を背に乗せると、南へ南へとまっしぐらに進んで行く。
朝月が神亀に感謝の歌を歌ううちに、一日かけて神亀は、イドム国の真砂の浜辺に朝月を送り届けた。
亀に感謝の別れを告げた後、朝月が古木の茂る森に分け入って行くと、小さな小屋があり、そこからはかすかに女性の歌声が聞こえてきた。それは、チンリウ姫の述懐の歌であった。
朝月は自ら名乗ってチンリウ姫に目通りを申し出るが、姫は朝月がこのような場所にいるはずがないことを疑って警戒した。またもし本物だったとしても、朝月も自分とエームス王子の結婚を計った悪人の一人であると非難した。
朝月は、チンリウ姫が島流しにあった後、アララギ・センリウの企みを公の場で暴こうとしたために自分も島流しにあい、神亀に救われた経緯をチンリウ姫に訴え、忠誠を誓った。
チンリウ姫はようやく朝月に心を許し、朝月は姫に仕えてしばらく森の中で時を待つこととなった。