チンリウ姫になりすましたセンリウは、母のアララギとともに並ぶもの無き権勢を木田山城に奮っていた。
あるときセンリウは、木田山城内の森林を逍遥しつつ咲き乱れる花を愛でていた。すると、後ろから突然容姿端麗な美男子が現れ、自分はエームス王子の従兄弟・セームスであると名乗った。
この美男子セームスを一目見たセンリウはすっかり心を奪われてしまった。セームスがセンリウを誘惑すると、センリウは気のある心をほのめかす歌を返した。すると不思議にも、セームスの姿は煙のように消えてしまった。
あくる日、センリウは提言して城内の菖蒲池に舟を浮かべ、半日の清遊を試みた。舟にはエームス王子、センリウ、アララギのほかは二人の侍女が乗っているのみであった。
一同が歌を歌いつつ日を過ごしていると、突然池の水が煮えくり返り、水柱がいくつも立ち昇った。舟は転倒し、エームス王子は水中に落ちたままついに姿を現すことはなかった。
先日、センリウの前に姿を現したセームスという美男子は、実はこの池の主の巨大な蠑螈の精であった。蠑螈の精はエームスを亡き者にして、センリウの夫となって城を乗っ取ろうとしていたのである。
この騒ぎの中、一同はエームス王子が水死したことに気づかず、蠑螈の精セームスはまんまとエームス王子になりすましてしまった。
センリウはこの事件以来、エームス王子の様子が何とはなしにおかしなことに気づき、そのことを問い詰めた。蠑螈の精は、自分は先日会った従兄弟のセームスであり、エームスを亡き者にして王子になりすましたのは自分の計略だと明かした。そして、センリウがチンリウ姫になりすましていることに気づいているが、お互いに偽者として夫婦となり、国を乗っ取ろうとセンリウに持ちかけた。
センリウはエームスに同意し、二人は木田山城奥深くに身を置いて、快楽にふけることとなった。国政は日に日に乱れ、ついには収集できないほどに混乱が深まって行くことになる。