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文献名1霊界物語 第81巻 天祥地瑞 申の巻
文献名2第4篇 猛獣思想よみ(新仮名遣い)もうじゅうしそう
文献名3第19章 悪魔の滅亡〔2046〕よみ(新仮名遣い)あくまのめつぼう
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ
先に、戦勝によってイドム国を手に入れたサール国王エールスは、宴の席で諫言をした右守ナーリスを、故国の守り固めさせるために、木田山城に帰城させていた。

ナーリスは数百のナイトを従えて、大栄山を越え、ようやく木田山城に帰還した。ナーリスは、遠征の間にエームス太子が妃を娶っていたことを知らず、まずは軍の様子を報告しようと御前にまかり出た。

ナーリスは、父母王がイドム城を居城と定めたことを報告し、エームス太子はサール国を治めるようにとの父王の意向を伝言した。

エームス太子は戦中にやむを得ず、父母に諮らずに妃を娶ったことをナーリスに伝えた。妃センリウは、自分はイドム国王女・チンリウであると自己紹介した。

ナーリスが祝いの辞を述べていると、アララギが現れて、太子の意向により、政治のことは必ず自分に諮るように、と横柄に言い渡した。ナーリスは、妃の乳母ごときが政治に口を出すのはおかしい、と反論するが、太子と妃はアララギの肩を持って、アララギに従うようナーリスを説き諭す。

ナーリスは潔しとせず、憤然として引退を宣言し太子の前を引き下がると、いずことも知れず身を隠してしまった。

かくする折りしも、城下にどっとときの声が起こり、暴徒の大群が木田山城めがけて襲い掛かってきた。反乱軍の勢いはすさまじく、落城をさとった偽エームス太子の蠑螈の精・セームスは、偽チンリウ姫のセンリウを小脇にかかえると、菖蒲池にざんぶと飛び込んだ。そして二人の姿は水泡の中に見えなくなってしまった。

反乱軍の中心人物は、かつての侍従・夕月であった。夕月は太子夫妻の姿を探して城内に乱入したが、二人の姿を見つけることはできなかった。するとそこへアララギが髪を振り乱して近づき、夕月の反乱を非難した。

夕月は弓に矢をつがえると、アララギ・センリウの替え玉の悪行を暴き立て、また国民を暴政によって塗炭の苦しみに陥れた罪を数え上げた。そして、逃げるアララギの背後から、弓を引き絞って矢を放ち、アララギを射殺してしまった。

木田山城は一時、暴徒の群れによって混乱の極みに陥った。
主な人物 舞台 口述日1934(昭和9)年08月15日(旧07月6日) 口述場所水明閣 筆録者内崎照代 校正日 校正場所 初版発行日1934(昭和9)年12月30日 愛善世界社版 八幡書店版第14輯 532頁 修補版 校定版408頁 普及版 初版 ページ備考
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本文  サールの国王エールスは大軍率ゐて、大栄山の嶮を越え、イドムの城に一挙に攻め寄せて、アヅミ王、其の他の重臣共を追ひ散らし、意気揚々としてイドムの城の主となり、軍師、左守を残し、サールの国を監督せしめむと右守のナーリスに数多のナイトを従へさせ帰国を命じけり。ナーリスは意気揚々として数百のナイトを従へながら、馬上豊かに歌ふ。
『サールの国の御主
 エールス王に従ひて
 数多のナイトを引率し
 大栄山を乗り越えて
 人魚の里に攻め寄せつ
 難なくここを占領し
 勢ひあまつてイドム城
 数多軍の守りたる
 要害堅固の鉄城を
 何の苦もなく占領し
 アヅミの王を追ひ散らし
 風塵全く治まりて
 馬の嘶き鬨の声
 松吹く風となりにけり
 エールス王は欣然と
 イドムの城におはしまし
 山河の景色を眺めつつ
 御代太平を謳ひまし
 汝右守のナーリスよ
 イドムの国は治まりぬ
 汝はこれより数百の
 ナイトを従へ堂々と
 大栄山を乗り越えて
 サールの国にかへれよと
 よさし給ひし畏さよ
 王の軍の勝鬨を
 みとめて吾はかへりゆく
 駒の嘶き勇ましく
 蹄の音もかつかつと
 山路を分けて進むなり
 イドムの国は漸くに
 平定したれど村肝の
 心にかかるはサールなり
 サールの国に残したる
 エームス太子は只一人
 国の政治を握りつつ
 心を悩ませ給ふらむ
 数多の捕虜は木田山の
 城の牢獄に満ちぬらむ
 この制裁もなかなかに
 容易のことにあらざらむ
 急げよ進めよナイト等
 一日も早く木田山の
 お城の馬場に到るまで』
 斯く歌ひながら、夜を日についで漸く木田川を打渡り、城内に旗鼓堂々とかへり来りしさま威風凛々と四辺を払ひ、物々しさの限りなりけり。右守のナーリスは、わが出征の後にエームス太子に妃の定まりたる事も知らず、城門を潜り、太子の君の御前に罷り出で、軍状を委に奏上せむとして歌ふ。
 エームス王は王座にあらはれ、儼然としてナーリスを打見やりながら、
『親王に仕へてイドムに向ひたる
  汝はナーリス司ならずや』

 この歌にナーリスはハツと頭を下げながら、歌もて奏上する。
『親王の功尊く御軍は
  イドムの国を打ち亡ぼしぬ

 寄せ来る数多の敵を御軍は
  斬り払ひつつ進みたりけり

 石垣を高く廻らすイドム城は
  攻むるに難く守るにやすし

 さりながらわが親王の功績に
  敵はもろくも滅び失せたり

 われこそは右守の神と仕へつつ
  御側近くまもらひにけり

 御父の功績高くイドム城は
  平安無事の今日となりけり

 まつぶさにこのありさまを若王に
  伝へむとしてかへり来りぬ

 左守、軍師その他の兵士残しおき
  吾はナイトを率ゐてかへりし

 若王のまめな御顔拝しつつ
  嬉し涙に吾くれにけり

 名にし負ふイドムの国の真秀良場は
  親王住ますによろしき国なり

 若王はサールの国に留まりて
  国につくせと宣らせ給ひし

 親王の仰せなりせば若王も
  必ずうけがひ給ふなるべし』

 エームス王は歌ふ。
『待ちわびしわが親王の消息を
  つぶさに聞ける今日の嬉しさ

 親王のいまさぬうちに止むを得ず
  吾は妻をば娶りたりけり

 親王は戦の場にましますと
  思ひて一人こととりにけり

 親王の御前よしなに計らへよ
  わが新妻を娶りたるよし』

 ナーリスは歌ふ。
『若王の妻を娶らす目出度さを
  如何で親王さまたげ給はむ

 この国も若王の御稜威に安々と
  治まる思へば楽しかりけり

 今日よりは右守の吾はこの国の
  左守となりて仕へまつらむ

 父王の依さし言葉にしたがひて
  われは左守と仕へまつるも』

 チンリウ姫は始めて右守のナーリスを見たるとて、驚きの色を見せながら、さすが曲者、平然として、そしらぬ態を装ひ、
『われこそはエームス王の妃ぞや
  汝は左守かよくもかへりし

 アヅミ、ムラジ二人が仲に生れたる
  われはチンリウ姫にぞありける』

 ナーリスは、
『ありがたしサールの国に臨みます
  妃の君の雄々しき御心

 今日よりは赤き心を捧げつつ
  若王と妃に仕へ奉らむ』

 チンリウ姫は歌ふ。
『ナーリスの左守の言葉聞くにつけ
  わが魂の光りかがよふ

 わが王の政治をたすけ今日よりは
  国のことごと眼くばれよ

 治まれる国にはあれど彼方此方に
  波風立つと聞くが忌々しき

 汝が帰り久しく待ちぬ今日こそは
  盲亀の浮木にあへるが如し』

 斯かるところへ乳母のアララギは、さも横柄な面がまへにて出で来り、
『吾こそはチンリウ姫に仕へたる
  乳母アララギよ、ナーリスの君

 陰になり日向になりて若王の
  御身を守るわが身なるぞや

 若王の心をくみて今日よりは
  われは汝にこと計るべし』

 左守のナーリスは、
『不思議なることを聞くかな汝こそは
  チンリウ姫の乳母にあらずや

 汝が如き女に政治かたらふも
  何の詮なし退きて居れ

 いやしくも左守司の吾なれば
  汝の言葉聞くに及ばじ』

 チンリウ姫は歌ふ。
『ナーリスの言葉もうべよさりながら
  アララギの言葉なほざりにすな

 アララギはサールの国の柱ぞや
  汝も共々国に尽せよ

 アララギは女なれども男に勝り
  さかしき雄々しき益良女なるぞや』

 ナーリスは歌ふ。
『妃の君の御言葉うべよと思へども
  女ことさき立つは悪しけむ』

 アララギは憤然として歌ふ。
『若王の妃をすすめしアララギを
  さげすむ左守は国の仇なり

 何事もアララギ吾の言の葉に
  したがはずして治まるべきかは』

 エームス王は歌ふ。
『アララギの雄々しきさかしき魂は
  左守といへども及ばざるべし』

 左守は憤然として、
『左守吾は鄙に退き奉るべし
  いやしきアララギ用ひ給はば』

と歌ひつつ足早に御前を退出し、何処ともなく消え失せにける。
 斯かるところへ山岳も崩るるばかりの矢叫びの声、鬨の声、城下に轟き渡り、数多の暴徒は手に手に得物を携へ、本城目がけて阿修羅王の狂ひたる如く攻め寄せ来る。その勢ひに城中は戦場の如く、到底寡を以て衆に敵し難しと、贋のエームス王はチンリウ姫を小脇に抱へ、菖蒲が池にざんぶとばかり飛び込み、二人の姿は水泡となりて消え失せにける。
 斯かる所へ、暴徒の中心人物たる夕月は弓に矢をつがへながら、殿中深く入り来り、王の居間に進みけるが、二人の影の見えざるにぞ、再び引き返し玄関口に来る折しも、髪振り乱し、血相変へてアララギは馳せ来り、大声にて、
『やあ、その方は夕月にあらざるか、不届千万な、恐れ多くもこの城内に群衆をおびき寄せ、クーデターを謀らむとは不届千万なるやり方、罪は万死に値すべし、退れ退れ』
と呼ばはるにぞ、夕月は弓に矢をつがへながら、儼然として答ふ。
『奸佞邪智の曲者、若王の心にとり入り、真正のチンリウ姫様を吾子といたし、大罪を負はせて遠島の刑に処し、生みの吾子をチンリウ姫様と称し、若王様の御目をくらませ、暴政をふるひ、国津神を塗炭の苦しみに堕したるは皆汝がなす業、最早今日となりては天命逃れぬところ、覚悟いたして自害いたすか、さなくば此の方が弓矢の錆となるか、覚悟はどうだ、返答を聞かむ』
と、攻め寄せれば、アララギは慌てふためき、逃げ出さむとするにぞ、夕月は弓を満月にしぼり、発止と放つ。剛力の征矢に射抜かれて、アララギはもろくも身失せにける。
 これより城内は統制機関なく、左守のナーリスも何処へ行きしか皆目分らず、木田山城はさながら悪魔の跳梁に任せけるこそ是非なけれ。
(昭和九・八・一五 旧七・六 於水明閣 内崎照代謹録)
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