先に、戦勝によってイドム国を手に入れたサール国王エールスは、宴の席で諫言をした右守ナーリスを、故国の守り固めさせるために、木田山城に帰城させていた。
ナーリスは数百のナイトを従えて、大栄山を越え、ようやく木田山城に帰還した。ナーリスは、遠征の間にエームス太子が妃を娶っていたことを知らず、まずは軍の様子を報告しようと御前にまかり出た。
ナーリスは、父母王がイドム城を居城と定めたことを報告し、エームス太子はサール国を治めるようにとの父王の意向を伝言した。
エームス太子は戦中にやむを得ず、父母に諮らずに妃を娶ったことをナーリスに伝えた。妃センリウは、自分はイドム国王女・チンリウであると自己紹介した。
ナーリスが祝いの辞を述べていると、アララギが現れて、太子の意向により、政治のことは必ず自分に諮るように、と横柄に言い渡した。ナーリスは、妃の乳母ごときが政治に口を出すのはおかしい、と反論するが、太子と妃はアララギの肩を持って、アララギに従うようナーリスを説き諭す。
ナーリスは潔しとせず、憤然として引退を宣言し太子の前を引き下がると、いずことも知れず身を隠してしまった。
かくする折りしも、城下にどっとときの声が起こり、暴徒の大群が木田山城めがけて襲い掛かってきた。反乱軍の勢いはすさまじく、落城をさとった偽エームス太子の蠑螈の精・セームスは、偽チンリウ姫のセンリウを小脇にかかえると、菖蒲池にざんぶと飛び込んだ。そして二人の姿は水泡の中に見えなくなってしまった。
反乱軍の中心人物は、かつての侍従・夕月であった。夕月は太子夫妻の姿を探して城内に乱入したが、二人の姿を見つけることはできなかった。するとそこへアララギが髪を振り乱して近づき、夕月の反乱を非難した。
夕月は弓に矢をつがえると、アララギ・センリウの替え玉の悪行を暴き立て、また国民を暴政によって塗炭の苦しみに陥れた罪を数え上げた。そして、逃げるアララギの背後から、弓を引き絞って矢を放ち、アララギを射殺してしまった。
木田山城は一時、暴徒の群れによって混乱の極みに陥った。