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文献名1霊界物語 入蒙記 山河草木 特別篇
文献名2附 入蒙余録よみ(新仮名遣い)
文献名3蒙古建国よみ(新仮名遣い)もうこけんこく
著者出口王仁三郎
概要
備考2024/2/22出口王仁三郎全集第6巻を底本として校正。
タグ データ凡例 データ最終更新日2024-02-22 18:44:06
あらすじ
トール河畔の森林深くに馬を駆って遊んでいた聖師、松村、萩原、白凌閣、温長興らは、新緑の萌える川辺に大きな館が並んでいるところにやってきた。

白凌閣を通訳として訪ねてみれば、これはこの辺りに勢力を張る女馬賊・蘿龍(ラリウ)の館であった。

日本から来た聖者の一行であると伝えると、蘿龍は聖師を導き、日本語で身の上を語りだした。

蘿龍の父は日本人であり、日清戦争のときに台湾からやってきた人で、蘿清吉(ラシンキツ)と名乗っていた。母は蒙古の人であった。父は三千騎を率いて蒙古独立軍に参加したが、張作霖の姦計に欺かれて殺された、という。

一行は歓迎されて館に宿泊した。蘿龍は聖師と行動を共にすることを誓い、別働隊となって働いた。

しかし、聖師一行がパインタラで敗れたことを知ると、蘿龍の別働隊は洮南県を襲って敵を討とうとしたが、ついに捕らえられて処刑された。
主な人物 舞台 口述日1925(大正14)年08月15日(旧06月26日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年2月14日 愛善世界社版368頁 八幡書店版第14輯 687頁 修補版 校定版370頁 普及版 初版 ページ備考
OBC rmnm7003
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本文  ものいはぬ畜生ながら愛されし人のなやみを案じ居るらし
 金竜は行儀よき馬銀竜は道かけりつつ屁をひり放つ
 写真機を携へ奉天城たちて萩原敏明進み来れり
 素人の萩原敏明わがために後の記念と写真にいそしむ
 白凌閣松村伴ひ洮児河畔の森林深く入りて遊べり
 折もあれ人喰人種の一隊はわが目路近く騎乗すすみ来
 三人は柳の古木の朽穴に身をかくしつつ難を逃れし
 三人はてんでにモーゼルかざしつつよらばうたむと身がまへて居り
 食人種われらのあるを知らざるか五十騎ばかり通り過ぎゆく
 朽穴ゆわれと松村顔出して萩原技手のカメラに入りたり
 ゆけどゆけど際限もなきさ緑の山に匂へるあんずの紅花
 あかあかと匂ふあんずの花見つつ知らず知らずに山深く入る
 白凌閣温長興を従へてひづめの音も勇ましき夏
 新緑のもゆる川辺に大いなる館七八つ並びてありけり
 騎上ながら川を横ぎり何人の館か知らず門たたき見し
 白凌閣を通訳としておとなへば女馬賊の頭目の館
 このあたり保安の権を握りたる女馬賊の蘿龍が家なり
 日支蒙の三人連れの遠の旅茶を与へよとかけ合ひにけり
 獰猛な面ざししたる馬賊連銃剣携へわれをとりまく
 大銀貨を百枚出して与ふればにはかに変る馬賊のたいど
 この人は日出づる国の聖者よと蒙古語もちて白凌閣のれり
 日本より聖者の来るこの年をまちしと馬賊合掌を為す
 三千の馬賊率ゆる頭目はわが前にたちピストルを向くる
 其の方は日本人に非ずやと容易に日本語使ふ頭目
 われこそは日本の出口と答ふれば面くもらせてうつむく頭目
 ともかくもわが居間に来れと頭目はわれを導き一間に入れり
 うらわかき女馬賊の頭目に導かれつつ奥の間に入る
 白凌閣温長興を待たせおきて頭目とわれ語らひにけり
 日の本に声名高き君にして蒙古に来ますは何故と問ふ
 日の本の国の司にいれられず蒙古に国を建てむと来たれり
 なつかしも日本人と聞く上はわが素性をば明さむといふ
 わが父は王文泰と名乗りつつ北清事変に働きし人
 われも亦王文泰と仮名すと名刺を出して彼に示せり
 不思議なる事よと女頭目はつくづく名刺に目を注ぎ居り
 わが父は日本の生れ事情ありて日かげの身よとうち伏して泣く
 わが父は日清戦争のありし時台湾島より逃れ来し人
 わが父は蘿の身にしあれば蘿清吉とぞ名乗りゐたりき
 わが胸にあたるは日清戦争と清吉といふ名にぞありける
 若しや若しわれの尋ぬる人にもやと思へば胸はかき乱れつつ
 わが父は朝な夕なを日の本の空に向ひて合掌したりき
 われも亦日本の空のなつかしく朝陽に向ひ手を合すなり
 わが母は蒙古の生れ蘿水玉よ七年以前にこの世を去れり
 巴布札布の独立軍に三千騎父は率ひて加勢なしたり
 わが父は張作霖の奸計にあざむかれつつ殺されにけり
 わが父の殺されし時は苗草の未だ十六の春なりにけり
 三千騎の部下を率ゐてわが父のあとおそひつつ頭目となりぬ
 何処となく初めて見たる心地せず語らふうちに親しくなりぬ
 われこそは未だ二十一の女盛り父の仇を打たむとてなく
 滅び行く蒙古を興し国建つる雄々しき君に従はむと願ふ
 蒙古には生れたれども父の血の流るる大和撫子といふ
 いろいろと心尽しの御馳走にわれほだされて一夜を泊れり
 白凌閣温長興も諸共にわが隣室を守りつつねむる
 軍犬の声裏山にこだましていと騒がしき夜半を起き出づ
 何事とわれたづぬれば微笑みつ蘿龍は部下の帰りしと答ふ
 月清き庭にたち出で蘿龍とわれ日出国の話しにふける
 夏の夜は忽ちあけて向つ尾のあんずの花に輝く朝津陽
 あかあかと山一面に咲き匂ふあんずの花の目にさゆる朝
 庭先の限りも知らぬ芝の生に蘿龍は観兵式を行ふ
 三千騎の駒のいななき高々と四囲の山々どよもしにけり
 頭目の蘿龍は馬上高くたちて吾れに誓ひし事を伝へり
 わが帰り送らむとしていや先に頭目はたち部下と送り来る
 一斉に馬賊のうたをうたひつつ数百の騎士はわれを送れり
 わが前に進む蘿龍はふり返り日本は神の国よと叫べり
 何となく雄々しき君よなつかしと開けつ放しの蘿龍の言の葉
 われも亦蘿龍のやさしき言の葉に心の綱はゆるみ初めたり
 待てしばしわれは益良夫国建つるまでは動かじこの雄心を
 数百騎を従へ花の野辺をゆく蒙古のわれは華やかなりけり
 頭目の日本語覚へし馬賊等は声も清しく歌ひ従ふ
 国遠み蒙古の空に日本語の歌聞くわれは心強かり
 みめかたち衆にすぐれてうるはしき蘿龍の案内を愛ぐしと思へり
 わが父に似ませる君とこの蘿龍つくづく見つつ涙ぐみ居り
 回天の君が事業に仕へむと胸を打ちつつ雄猛ぶ蘿龍
 君が辺をしばし離れて従軍の用意為さむと駒にまたがる
 駒の上にまたがり後をふり返り名残り惜しげにわかれゆきけり
 六月の一日軍事行動をいよいよわれは開始なしたり
 この蘿龍三千余騎を従へて別働隊となりて働く
 パインタラにわれ破れしと聞くよりも蘿龍は洮南県を襲へり
 洮南県縦横無尽に荒れ廻り遂に白音太拉に進めり
 蘿龍軍の馮河暴虎の勢も運命尽きて捕へられたり
 二十二の春も迎へずこの蘿龍甲子の冬を散り失せにけり
 蒙古馬賊頭目部下を引きつれて索倫山に集り来る
 軍事一切盧占魁中将に任せおきてわれ奥蒙の山野に遊べり
 枯草の野に火を放てば山孔雀野兎驚き数多飛び出す
 奥蒙古の春はたけたり山野一面コルギホワラの花咲きみちて
 コルギホワラ処せきまで咲き匂ふ蒙古の野辺は楽しかりけり
 金竜にわれはまたがり名田大佐銀竜に乗りて山野に遊ぶ
 名田大佐騎馬の達者をほこらひて蒙古の部落にひとりかけ入る
 かけ入りし名田氏の姿見るよりも数十頭のシーゴーにかこまる
 狼と犬と番ひしあひのこのシーゴーこそは猛犬なりけり
 シーゴーは馬の尻尾にかみつきて名田氏一人を取りまき吠ゆる
 群犬の吠えたつ声に驚きて白凌閣したがへわれかけつけたり
 シーゴーは鬼歯むき出し大口をあけて名田氏をとりまきにけり
 人を喰ふ猛犬シーゴーはわが姿見るより又も飛びつき来る
 金竜に鞭うちわれは猛犬の中にかけ入りふみにじらせり
 つぎつぎに声をききつけシーゴーは波の如くに集り来る
 あやまちて名田氏は馬上より転落しあやふく犬にかまれむとせり
 白凌閣猛犬の上に駒飛ばせかけり狂へるさま勇ましき
 漸くに名田氏あやふく馬に乗り一目散に逃げ出しけり
 吾が駒は勇みに勇みわが指揮のまま猛犬をけ散らし戦ふ
 シーゴーもわが勢におそれけむ次第々々に後しざりする
 シーゴーの群をのがれて白凌閣と一目散に駒かけ帰る
 上木局子わが仮営に帰り見れば金竜の脚に犬のかみしあと
 シーゴーにかみつかれたる脚のきず血潮したたるさまのあはれさ
 金竜を引つれ洮児河の水に血潮洗ひて繃帯をなせり
 金竜は清き川水呑みながら声勇ましくいななき初めたり
 金竜は勇ましき馬はしき馬よわが身辺に眼放たず
 言問ひはせねど雄々しき金竜はわが朝夕を仕へ怠らず
 ひそみゆくわが足音を聞きつけていななき喜ぶさま愛ぐしかり
 名田大佐馬上ゆ落ちたるその刹那臀部を打ちて痛みに悩めり
 銀竜は名田氏のなやめるさまを見て只悲しげにうつむきて居り
 蒙古野に屍さらすもいとはまじ天津乙女のしに行く思へば
 男子われ蒙古の荒野に果てむこそ大和魂の誉と思へり
 朝夕をわれ日の本に打ち向ひ御国の栄へ祈りつつゐし
(昭和七、一〇、一五号、昭和誌)
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