巻 | 篇 | 篇題 | 章 | 章題 | 〔通し章〕 | あらすじ | 本文 |
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- | - | - | 如意宝珠 申の巻 | - | 本文 | ||
- | - | - | 序文 | - | 時代に順応せよと日進月歩の時代に追従していくのも結構だが、無闇に外国のやり方ばかりに順応してはならない。
世界の趨勢にかんがみて、建国の精神に違わないように取捨選択し、国民を導いていくのが指導者層の義務であると思う。
瑞月が神命によってこの物語を口述するのも、老若男女・貴賎・知愚の区別なく諒解できるようにと、卑近な言葉を使って多数者の程度を考慮して神意の一部を発表するものである。
そのゆえに、学者の眼から見たらつまらないように見えるかもしれない。しかし要するにこの物語は、現・幽・神の三界の状況や、神の大御心の一端や、神理の片鱗のみを描き出したに過ぎないのである。 |
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- | - | - | 凡例 | - | 本文 | ||
- | - | - | 総説 | - | 霊界は想念の世界であって、無限に広大な精霊世界である。現実界はすべて、神霊世界の移写・縮図である。
霊界の真象を写したのが、自然界なのである。神霊界は現界人が夢想しえないほど広大である。現界の一間四方の神社の内陣も、霊界では十里四方くらいもある。神霊は情動想念の世界であるから、自由自在に想念の延長をなしうる。
世界は霊界が主であり、現界すなわち形体界が従である。一切万事が霊主体従的に組織されているのが宇宙の真相であり、大神の御経綸なのである。
現実界の他に神霊界が厳然として存在することを知らない人が聞いたら、一笑に付するかもしれないが、無限絶対無始無終の霊界の事象は、現界に住む人間の智力では到底会得できるものではない。
この物語は現・幽・神の三界を一貫しており、過去・現在・未来を透徹している。それゆえ、読む人によって種々の批評が出てくるであろうが、現実界を従とし神霊界を主として熟読するなら、幾分かその真相を掴むことができるであろう。 |
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01 | 00 | 千辛万苦 | - | 本文 | |||
01 | 01 | 高春山 | 〔675〕 | 蜈蚣姫の手下・鷹依姫は、南に瀬戸の海、東南に浪速の里を見下ろす高山・高春山の頂上に岩屋を造り、バラモン教の一派・アルプス教を立てて自転倒島を八岐大蛇の勢力化に置こうと画策していた。
山麓の津田の湖には多数の大蛇が潜伏して、日夜邪気を吐き出していた。高姫と黒姫は、三五教に改心した証として、鷹依姫を言向け和そうと、高春山に飛行船にてやってきた。
高春山の五合目辺りに天の森という巨岩が立ち並ぶ、うっそうたる森がある。森には竜神の祠があり、雨風を自由にするといって鷹依姫が崇拝していた。アルプス教のテーリスタンとカーリンスが、この祠の警護にあたっていた。
そこへ高姫と黒姫が登って来た。二人は、噂に聞く竜神の祠の扉を開けた。高姫は、すぐにでも、鷹依姫が拠り所としているこの竜神を言向け和して手柄を現そうとする。
黒姫は、焦らずにじっくり探りを入れてからとりかかろうと諌めると、高姫は黒姫の過去をあげつらって非難を始めた。
売り言葉に買い言葉で、高姫が師弟の縁を切ると言い出し、黒姫も三五教に来てから粗略に扱われた不満を表して、高姫に暇を告げる。
テーリスタンとカーリンスは、竜神の聖地を汚したと言って現れ、二人を引っ立てようとする。黒姫は、竜神が自分を呼んだのだ、と言い、逆に二人に取り入ってアルプス教に寝返ってしまう。
テーリスタンは、黒姫を鷹依姫に面会させるために、手を引いて頂上の岩屋へと連れて行った。
後に残された高姫は、カーリンスを言向け和そうと説教にかかるが、カーリンスは鷹依姫から、三五教の高姫はアルプス教には間に合わない、と聞かされていた。高姫はカーリンスによって捕縛されてしまう。
鷹依姫は、聖地に密偵を入り込ませていたので、高姫と黒姫が山を登ってやってくることを知っていた。テーリスタンが黒姫を連れて来ると、丁重に出迎えた。そうして、部屋に案内する振りをして、岩屋に閉じ込めてしまう。
鷹依姫は、黒姫を仲間にしようと黒姫の腹の底を油断なく伺っている。また、高姫は如意宝珠を飲み込んでいるので、腹を割いて玉を奪おうと考えていた。
カーリンスが高姫を捕縛してくると、鷹依姫は庭先に下させて、黒姫を呼びにやらせた。黒姫は岩屋の中に座って、自らの心の内を宣伝歌に託して、小声で歌っていた。
黒姫が高姫と喧嘩をして縁を切ったのは、本心ではなく、アルプス教を油断させようと心にもなく高姫を罵ったのであった。
黒姫は鷹依姫の前に呼び出されると、鷹依姫に忠誠を近い、倒れている高姫を拳で打ちすえてみせたそれを見た鷹依姫は、高姫の如意宝珠の玉取りを、黒姫に任せ、秘密の部屋に高姫を運ばせた。
やがて高姫は気がついた。黒姫はここは高春山の岩窟であることを告げ、何事かを高姫にささやく。高姫は、秘密の部屋に紫色の玉があることに気がついた。
黒姫は、これがアルプス教の性念玉であることを告げると、高姫は紫色の玉を餅のように伸ばして飲んでしまった。
秘密室の外には、慌しい足音が駆け出すのが聞こえた。これはテーリスタンとカーリンスであった。 |
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01 | 02 | 夢の懸橋 | 〔676〕 | 高姫と黒姫が、アルプス教の鷹依姫を言向け和しに出発してから、何の連絡もないまま、三ケ月が過ぎた。
言依別命は密かに竜国別(元松姫の部下の竜若)、玉治別(田吾作)、国依別(宗彦)の三人を呼んで、高春山に高姫・黒姫の消息を探りにやらせた。
三人は、鷹依姫の勢力範囲の地につながる岩の橋までやってきた。神智山の入口にあり、断崖絶壁を渡す天然の岩橋で、鬼の懸橋と呼ばれていた。
玉治別が橋を渡ると、どうしたはずみか岩橋が中ほどから脆くも折れて、玉治別ははるか下の谷川に墜落してしまった。
竜国別と国依別は青くなって、せめて遺骸を拾ってやろうと谷底まで降りてきた。すると玉治別は何事もなかったかのように、谷川で着物を絞っている。二人は、この高さから落ちて無事なことを信じられず、本当の玉治別かどうか疑う。
玉治別は神懸りの真似をして、二人が自分の無事を信じないことをなじる。国依別と竜国別も、神懸りの真似をして言い返すが、玉治別はさっさと谷川を下って行ってしまった。
すると辺りが真っ暗闇に包まれたと思うと、それは夢であった。三人は亀山の珍の館にやってきた。ここは、言依別命の命で、梅照彦・梅照姫が守っていた。
三人が珍の館の門を叩くと、梅照彦は召使の春公に、丁重に招くようにと言いつけた。しかし春公は勘違いして、立派な来客があると思い込み、みすぼらしい姿の宣伝使を乞食とみなして、追い払おうとする。
三人は怒って梅照彦を大声で呼びつけ、玉治別は抗議の宣伝歌を歌った。梅照彦はあわてて門に迎え出て、丁重に土下座をして不首尾を詫びた。 |
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01 | 03 | 月休殿 | 〔677〕 | 三人は、梅照彦の館で晩餐を取り、主客四方山話にふけった。玉治別は、出発前夜に岩の橋が落ちるという大変な夢を見たために、高春山への道を変えたこと、高熊山の岩窟に参拝していくのが順当であると気づいたこと、を話した。
竜国別と国依別は、高春山に行く使命自体が、言依別命の密命であり、みだりに話すべきことではないと、玉治別に注意する。一同は口の軽さについて四方山話を繰り広げ、やがて寝につくことになった。
玉治別はすぐに寝入っていびきをかいてしまったが、国依別と竜国別の二人は寝付かれずに外に出て庭園を逍遥する。二人は月を眺めながら話をし、月宮殿の境内までやってきた。
二人は、お宮が古くて荒れていることを嘆く。国依別は、五六七の世になればこの宮が輝いて闇を照らし、高天原の霊国にある月宮殿のようになるのだが、真の徳が失せた世の中の姿がこのお宮に写されているのだ、と嘆く。
竜国別は、テンやイタチが住んでお宮を荒らしていることに、御神徳があれば、罰が当たるはずだと嘆く
すると、社の中から声がして、畜生は畜生だから罰を当てないのだ、と言う。そして二人に対して、畜生ならば罰を当てずに赦してやろう、しかし人間ならば即座に神罰を当ててやる、と返答を迫る。
二人は、畜生ではないのでそう言うわけにもいかず、しかし人間だと言うと神罰が恐ろしいので、何と答えようか相談している。社の声に脅かされて、ついに二人は畜生と人間が半分の身魂だと答えた。
すると社の中の声は、半身を引き抜いてやろう、と罰を言い渡した。二人はそろそろ、お宮の声が、田吾作の声に似ていることにきづき、怪しみ出す。二人が田吾作を呼びつけると、玉治別が社の中から出てきた。
三人は笑いながら梅照彦の館に帰って来た。 |
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01 | 04 | 砂利喰 | 〔678〕 | 三人は高熊山の岩窟に詣でて心を洗い魂を清め、進んでいった。戸隠岩の麓に着いて路傍の石に腰を掛けて休息を取った。
するとそこから一丁ばかり先に、五六人の怪しい男たちがたむろして、こちらを窺っている。玉治別は、盗人を改心させるには、盗人の中に入らなければならない、と二人に言う。
玉治別が玉公親分となりすまし、竜公・国公を子分として男たちのところへ行くと、自分は三国ケ岳の鬼婆の片腕だと名乗った。盗人たちは、仲間に入ってくれと言うが、玉治別は、追いはぎなどは小さい盗人のすることだ、と言って、自分に付いて来るようにと男たちを誘う。
玉治別は、黄金の玉と紫の玉があれば三千世界のことが思いのままになる、その玉を取りに行くのだ、と言って盗人たちを自分の子分にしてしまった。
盗人たちが言うには、自分たちの頭がいて、今三五教の本山に、徳公と名乗って入り込んでいるのだ、と明かした。玉治別は、徳公なら知っているが、あの程度の者を頭に頂いているよりも、自分たち宣伝使にしたがった方がよいと、正体を明かして盗人たちを諭す。
盗人たちは玉治別の説得に、一も二もなく、神様の道に仕える事を誓った。このとき、宣伝歌の声が聞こえてきた。宣伝歌は、一行が高春山に乗り込んで活躍する様を歌っていた。 |
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01 | 05 | 言の疵 | 〔679〕 | 玉治別の言葉によって六人の小盗人らは三五教に帰順し、宣伝使の供をすることとなった。
夜の山道にさしかかると、一行は狼の大群がやってくるのに出くわした。皆森林の中に逃げ込むが、玉治別だけは法螺を吹いて、狼たちの行く手に立ちはだかった。すると狼たちはその勢いに辟易したのか、向きを変えて行ってしまった。
玉治別は一人、山の上に登って行き、赤児岩と呼ばれる岩に腰を掛けていた。するとアルプス教の者と思しき二人がやってきて、玉治別を仲間と勘違いし、三五教の宣伝使をやっつける手はずの作戦書を渡して去って行った。
玉治別は書類を持ちながら歩いて行くと、谷底に人家の灯が見える。行くと、一軒の小さな木挽小屋があった。戸を叩くと杢助という男が出てきて、女房の通夜をしているという。
杢助は玉治別が宣伝使と見て取ると、通夜の番を頼んで用事を済ませに出て行ってしまった。玉治別は仕方なく死人の番をする。すると死人の蒲団から手を伸ばして、お供え物の握り飯を食べる者がある。
そこへ、竜国別と国依別ら一行がやってきて、玉治別と合流した。元盗人たちによると、木挽の杢助夫婦は腕力が強く、泥棒仲間も何度もひどい目に会わされて近づかないほどの剛の者だという。遠州ら元盗人たちは、恐れて小屋に入ろうとしない。
三人が話をしていると杢助が帰ってきた。すると死人の蒲団の中から、杢助の娘が出てきた。三人は杢助に頼まれて、死人にお経を上げる。
三人が帰ろうとすると、玉治別がアルプス教の者から受け取った包みに杢助が気づいた。中から、杢助の家の金子が出てきたことから、玉治別は泥棒の一味と間違えられてしまう。
杢助は鉞を振るって三人に襲い掛かるが、玉治別は天の数歌を唱えると、杢助は霊縛されてしまった。その間に玉治別は一部始終を物語り、誤解が解けた。
杢助の家から盗み出された金子はすべて杢助に返し、宣伝使たちはアルプス教の秘密書類だけを携えて、津田の湖に向かって進んで行った。 |
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02 | 00 | 是生滅法 | - | 本文 | |||
02 | 06 | 小杉の森 | 〔680〕 | 玉治別の導きでいったんは改心した六人の小盗人たちは、杢助の家で金銀を見てから、また元の泥棒に逆戻りし、津田の湖で宣伝使を亡き者にして金目のものを奪おうと画策していた。
三州、甲州、雲州の三人は、突然仲間割れに見せかけて遠州、駿州、武州のすねを打ち、宣伝使たちを罵って、泥棒に戻るのだと言って出て行ってしまう。
これは芝居で、すねを打たれた三人が津田の湖を舟で渡ろうと宣伝使に持ちかけ、船上で宣伝使をやっつけてしまおうという計略であった。
一方で三州、甲州、雲州の脱退組は、前夜に杢助の女房の通夜を手伝った縁で杢助を油断させて、金銀を奪い取ろうとしていた。三人は滑稽な予行演習を行った上、杢助の館へと自信なさげに震えながら進んで行った。 |
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02 | 07 | 誠の宝 | 〔681〕 | 三州、甲州、雲州の三人は杢助の館の前までやってきた。甲州は杢助を油断させて家の中に入ろうと、玉治別の使いで死んだ杢助の女房・お杉の弔いにやってきたように見せかけるため、宣伝歌を歌った。
しかし杢助は、盗人たちの計画をすべて見抜いてしまっていた。杢助が参拝していた祠の前で、三州、甲州、雲州が杢助の金銀を盗む予行演習をしていたのであった。
杢助は、金銀はやるからその代わりに、宣伝使をやっつける計略をすべて白状しろ、と迫った。窮した三人は杢助に襲い掛かるが、杢助は難なく三人を取り押さえてしまう。
改心の見込みがないと見て取った杢助は、三人を打とうとするが、娘のお初が出てきて命乞いをする。そして、杢助の金銀は自分のために貯めてあったものだと知ると、それを今受け取り、泥棒三人に施して逃がした。
お初は、この金銀への執着が凝って母も病になって亡くなったので、これですっきりしたと喜ぶ。三人の泥棒は涙を流してお初に感謝し、逃げて行った。杢助は、金銀より尊い宝が手に入ったと悟り、お初を抱きながら涙に暮れて合掌する。 |
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02 | 08 | 津田の湖 | 〔682〕 | 竜国別は道を北にとって迂回し、大谷山方面からアルプス教を攻めることとなった。国依別は鼓の滝から六甲山へ至る道をとった。そして玉治別は元盗人の三人と共に、津田の湖を舟で越えるルートをとった。
しかし玉治別が舟をこいで湖の半ばにさしかかると、三人はにわかに態度を変え、玉治別の懐のアルプス教の計画書を奪おうとし始めた。三人は櫂で玉治別に打ちかかり、玉治別は湖に落ちてしまった。
三人は落ちた玉治別を櫂で殴りつけようとする。九死に一生のところで、一艘の舟が矢のように現れて、玉治別を救った。これは杢助とお初が助けに来たのであった。
盗人たち三人は杢助の出現に驚いて慌てて逃げるが、湖の中にある大岩石に衝突して舟は砕け、湖水に落ちてしまった。
玉治別は櫂をこいで行き、三人を大岩石の上に助け上げると、宣伝歌を歌って聞かせた。杢助も、三人に仲間の失敗を告げて、改心を迫る。
しかしお初は今度は三人を懲らしめた方がよいと主張し、舟は三人を湖中の大岩石の上に残したまま行ってしまった。するとにわかに湖水のかさが増して、三人は首のあたりまで水に浸かってしまった。 |
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02 | 09 | 改悟の酬 | 〔683〕 | 湖中の大岩石に取り残された三人の盗賊は、水に頭まで浸かってしまった。すると三個の火球が荒れ狂うと湖水が二つに割れ、三柱の女神が現れたと見えた。
たちまち大岩石周辺の湖水は干上がった。女神と見えたのは、杢助、お初、玉治別の三人であった。玉治別は、水が干上がったのは湖に住む大蛇の仕業であると言い、盗賊たちに改心を諭した。
杢助と玉治別は、宣伝歌を歌って三人に改心を促した。遠州、駿州、武州の三人は涙を流して感謝した。すると三人の本守護神が女神となって現れて喜びの舞を舞った。
そこへ、雲州、三州、甲州の三人が、一人の女神の手を引いてこの場に現れた。杢助が女神をよく見ると、亡くなった妻のお杉であった。雲州、三州、甲州の背後からは、また三柱の女神が現れて天に昇った。
雲州、三州、甲州は、お初に金銀を与えられて赦されてから、後ろ髪引かれる心地がして、お杉の墓に詣でたところ、お杉の精霊に出会い、杢助・お初のところへ連れて来たのであった。
これよりお杉の精霊も現世の執着を去って天国に昇ることができた。夫と娘の幸福を祈りつつ、天人の列に加わったのであった。
玉治別は遠州ら六人に諄々と道を説いて聞かせ、再会を約して別れを告げた。杢助、お初、玉治別の三人は、鷹依姫の岩窟を指して進んでいった。 |
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03 | 00 | 男女共権 | - | 本文 | |||
03 | 10 | 女権拡張 | 〔684〕 | 竜国別は吹雪の山を高春山に向かって進んで行く。岩の陰に雪を避け、一夜を明かすことになった。
うつらうつらしていると、妙齢の美人が赤子を抱いてやってきた。女は、自分は浪速の者で高春山の鬼婆にさらわれていたのを、逃げてきたのだ、と言った。
竜国別は枯れ柴に火をつけて暖をとった。女は、高春山の内情に通じていると言って、竜国別と一緒に魔神征服に行こうと言う。竜国別は断るが、女は竜国別を誘惑しようとする。
女は自分の審神をしろと竜国別に迫り、竜国別を困惑させる。女は羽衣の舞を舞って竜国別の身魂の曇りを取ってやろうと言い出し、そのために赤子を抱いてくれるように、と竜国別に頼む。
竜国別は、魔神征服の途上、赤子とは言え女の子を抱くことを渋るが、女は女性がいかに勝れているかをとうとうと演説し、とうとう竜国別は不承不承に赤子を抱こうとする。
するとどこからともなく法螺貝の音が響き、大男が雪を踏んで現れると、女に対して大喝した。女は金毛九尾白面の悪狐の正体を表して逃げて行った。竜国別は肝をつぶして夢心地になってしまった。
またそこへ、美妙の音楽が聞こえて天女が現れた。先の大男は鬼武彦、天女は言依別の本守護神・言依姫であった。二柱は竜国別の急を救うために現れたのであった。
鬼武彦は、玉治別、国依別、竜国別の三人では高春山征服は荷が重いので、自分に三人の加勢を命ずるようにと言依姫に頼むが、言依姫はこれは三人の卒業試験だから、危急の場合以外は見守るようにと鬼武彦に依頼した。
竜国別は夢が覚めた心地して、宣伝歌を歌いながら進んで行った。 |
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03 | 11 | 鬼娘 | 〔685〕 | 雪を踏み分けて、竜国別は谷と谷との十字路に出た。雪道の徒歩は困難を極め、方向もわからなくなってきた。
すると雪の中から何者かが現れて、竜国別の手を引いて歩き出し、小山の麓のあばら屋にいざなった。竜国別は安全な場所に案内してくれたことに礼を言い、何者か尋ねるが、その女は逆に竜国別に、三五教かバラモン教かを問うてきた。
女は、竜国別が自分の味方なら助けるが、敵なら容赦しない、と脅す。竜国別が言葉を濁すと、女は竜国別に説教を始めた。竜国別のウラナイ教時代の失敗をあげつらって戒めを与える。
竜国別が困惑していると、女は被り物をさっと取った。するとそれは松姫のように見えた。竜国別が思わず松姫に話しかけると、女は自分は松姫ではなく雪姫だ、と返した。
最後に女は大きな眼をむいて竜国別を驚かすと、白狐の正体を表して逃げて行った。竜国別は、雪の上の狐の足跡をつけて進んで行く。
すると、一頭の猪が横切った。どこからともなく矢が飛んできて、猪に当たると、猪は山道を逃げて行った。竜国別は憐れに思い、矢を抜いてやろうと血糊を頼りに猪の後を追った。
すると岩穴の前で猪が事切れていた。竜国別は猪を葬ってやろうと穴を掘り始めたが、岩穴の中から鬼女が現れて、猪の血を吸い始めた。鬼女は竜国別を見つけると、竜若と昔の名で竜国別を呼び、睨み付けた。
それは旧知の行方不明になった村娘・お光であった。お光は自分が鬼女となって隠れてここに暮らしていることを明かし、自分の居場所を知った竜国別を生かしては帰せない、と凄む。
竜国別は、お光が幼い頃から世話をした恩義を思い出させ、無体なことはしないようにと諭す。鬼女はその恩に免じて、竜国別の血を少しだけ吸って許してやろうと竜国別を打って気を失わせた。
鬼女は血を吸って竜国別を揺り起こした。竜国別は気分がすっきりして起き上がった。鬼女は、竜国別の血管を通っていた悪霊をすっかり吸ってあげたために、竜国別は大和魂の生粋になったのだ、と言った。
そして竜国別を許す代わりに、自分が鬼女となってここに住んでいることを誰にも言わないように、さもないと竜国別を殺す、と約束させた。竜国別は承諾し、元来た道を引き返し、左に道を取って進んで行った。 |
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03 | 12 | 奇の女 | 〔686〕 | 竜国別は宣伝歌を歌いながら、大谷山の谷深く進んで行った。年老いた松の木立の下で一夜の雨露を凌ごうと立ち止まった。ふと傍らを見ると、小さな祠がある。竜国別は天津祝詞を奏上し、宣伝歌を歌った。
祠の社の下で横たわっていると、夜更けに女の泣き声で眼を覚ました。数人の男が一人の女をこの場に連れてきた。
男たちは、女にアルプス教のカーリンスの奥方になるように、と無理強いしている。しかし女は強気で男たちに食ってかかり、要求を断固として拒否している。女は物怖じせずに男たちを痛罵した。
男たちは怒って、無理やり女を連れ去ろうとする。竜国別は祠の後ろから、大自在天だと言って怒鳴りつけた。驚いた男たちは走り去ってしまう。女は静かに社に進み来ると、何事か暗祈黙祷している。 |
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03 | 13 | 夢の女 | 〔687〕 | 竜国別は社の下から這い出して、灯りをつけた。女は自分は里の娘でお作と名乗った。お作はこの社に願をかけて密かに夜分詣でていたのを、アルプス教の男たちに待ち伏せされたのだ、と語った。
女は、竜国別はアルプス教ではなく三五教の宣伝使だろう、と図星を指す。そして、自分がこの社に詣でていたのは、夫を探していて、神夢にお宮に三週間詣でると本当の夫に会える、その日が今日だから、竜国別が自分の夫だと言い出した。
竜国別は高春山の悪魔退治の途上だから、女房を持つことはおろか、後の約束でも今することはできない、と堅持する。
しかしお作は弁を尽くして竜国別に迫る。竜国別がそれなら約束だけなら、と言いかけると、頭上より「馬鹿」と竜国別に怒鳴りつける者がある。
竜国別は戒めを受けて前言を取り消すが、お作はあれは天狗の声だとなおも迫り、竜国別の手を握る。
竜国別は観念して、自分からもお作の手を握り返そうとすると、突然お作は怒って竜国別をその場に突き倒した。そして曲津退治の途上で、いかなる理由や誘惑があろうとも、決心を翻すとは何事かと竜国別を叱り付けた。
たちまちとどろく雷鳴の音に眼を覚ますと、それは夢であり、竜国別は依然として社の縁の下に身を横たえていた。
竜国別は神前に額づき、夢の教訓に感謝して心魂を練り、いよいよ高春山の征服に赴くことになった。 |
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03 | 14 | 恩愛の涙 | 〔688〕 | 玉治別と杢助・お初親子は、津田の湖水を渡って高春山の正面から攻め上った。三人は途中、一人の女がアルプス教の手の者たちに捕らえられて責められているところに出くわした。
杢助によってアルプス教の者たちは追い払われた。女は玉治別の妻・お勝であった。お勝は父の松鷹彦の病気を夫に知らせるためにやってきたのであった。
しかし玉治別は今は宣伝使の使命として高春山の言霊戦に携わる身であり、女を連れることはできないと言い渡した。そして、自分の使命を知っていながら情に曇らされて行動するような女は自分の妻ではない、と厳しくお勝を諌めた。
玉治別の言葉にお勝は自分の非を悟り、帰って行った。杢助は玉治別の心中を察して慰めの言葉をかけ、三人は高春山へと登っていく。
お勝は帰り道の道中、自分の非を悔い、夫の諭しに感謝をする宣伝歌を歌った。武志の宮に帰りつくと、父の松鷹彦は気分良く天の真浦に介抱されながら、お勝の帰りを出迎えた。 |
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04 | 00 | 反復無常 | - | 本文 | |||
04 | 15 | 化地蔵 | 〔689〕 | 国依別は六甲山の頂上を目指して登っている途上であった。枯れ草の中に地蔵が立っているところへやってきて、一休みするうち、動かず冷たい地蔵に対して、外面如菩薩内心如夜叉だと、文句を言い非難をし出した。
すると地蔵は石から離れて飛び出し、国依別も心に鬼を飼う宣伝使だと悪口を言って返した。国依別は地蔵の口が悪いので、幽界で高利貸しをしているのではないか、と返す。
地蔵は話を合わせて高利貸しの苦労を語り、地蔵としてじっと立っている苦労を語った。そして国依別が宗彦時代に女を苦しめた罪を数えた。
地蔵は国依別に、自分を背負って六甲山の上まで連れて行ってくれ、と頼み出した。渋る国依別に対して地蔵は、自分を背負って行くだけの甲斐性がなければ高春山の鷹依姫を言向け和すことはできない、と言い返す。
そして竜国別はすでに鬼娘に喰われて他界したと言って国依別の意気をくじこうとした。国依別はその話を信じずに鎮魂を始めた。すると地蔵は国依別の昔の女・お市の姿と化した。そしてここは六甲山ではなく、すでに幽界だと国依別を脅す。
国依別はお市と言い争ううち、五六人の男の声で目を覚ました。国依別は石地蔵の前で寝込んで夢を見ていたのであった。
国依別に声をかけて起こしたのは、高春山のテーリスタンの部下たちであった。男たちは三五教の宣伝使を召捕りにやってきたのであった。
しかし男たちの中に、国依別に妹を取られた常公がいて、見知っていた。そこで国依別は昔の女の一人である常公の妹・お松の消息を尋ねた。お松はその後、ウラナイ教に入って松姫として権勢を奮っていたという。
国依別はお松が松姫となっていたことに感心し、一時は自分の女だったことを男たちに自慢してのろけて見せた。男たちはその語り口に呑まれ、すっかり国依別に惚れ込んでしまった。
国依別は男たちを言向け和して信者となすと、一行を引き連れて高春山を目指すこととなった。 |
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04 | 16 | 約束履行 | 〔690〕 | 杢助・お初、玉治別は高春山の中腹・天の森についた。ここで竜国別、国依別と落ち合う手はずになっていたため、三人は待っていたが、なかなか竜国別、国依別はやってこない。
玉治別はしきりに、二人が女難の相が出ていることを心配している。そこへ竜国別が登って来て合流した。
玉治別は竜国別の額に傷があることを見とがめ、わけを尋ねるが、竜国別は約束だから話すことはできない、と言って傷の由来を隠そうとする。
しかし杢助はその傷の様子から、大谷山の鬼娘に血を吸われたことを見通してしまう。竜国別は仕方なく、鬼娘のお光と邂逅した有様を白状した。
すると早速黒雲を起こして鬼娘がやってきた。竜国別は隠れて杢助が鬼娘の相手をする。鬼娘は竜国別を渡せとわめくが、杢助の楯にして竜国別は、約束は履行しないと宣言する。
鬼娘は悔しがって、杢助がいないときに竜国別を襲ってやると言う。しかしそのとき、お初が鬼娘を呼んで、自分を覚えているか、と話しかけた。
鬼娘はお初の顔を見ると、一声叫んで白煙となって消滅してしまった。あたりを包んでいた黒雲は吹き払われてしまった。杢助はこれで鬼娘も成仏したと言って、竜国別を安堵させた。
そこへ国依別が男たちを引き連れて登って来た。国依別はいきさつを一行に語る。するとお初が突然、作戦を申し伝える、と荘重な声で呼ばわった。宣伝使たち四人はハイと答えて大地に平伏し、お初の宣旨を待った。 |
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04 | 17 | 酒の息 | 〔691〕 | アルプス教の本山・高春山では鷹依姫が、力と頼む臣下のテーリスタンとカーリンスに説教をしていた。二人が酒におぼれて酔っ払っているのを咎めていたのである。
しかしテーリスタンとカーリンスは酔って鷹依姫の小言をまぜっかえしている。そこへお初がつかつかと入ってきて、テーリスタンとカーリンスのお酌をすると申し出た。
お初は、父の杢助が天の森までやってきて、アルプス教をやっつけようとしていることを話した。テーリスタンとカーリンスは、杢助の子分になった方がいいと思い直し、酔ったまま鷹依姫にあからさまに反抗しだした。
鷹依姫は自分に忠誠を誓ったことを持ち出して、テーリスタンとカーリンスを非難する。すると二人は、拳を固めて鷹依姫に殴りかかろうとした。
お初は鷹依姫に対して、悪い奴を信用したものだ、と同情する。テーリスタンとカーリンスは聞きとがめてお初に言い訳をするが、お初は、自分は子供だから思ったことを口にするのだ、と言う。
テーリスタンとカーリンスは、杢助に取り入ろうとお初に胡麻をする。そして、杢助がやってくる前に、高姫と黒姫を岩戸から救出しておこうと相談し、テーリスタンが鷹依姫を見張り、カーリンスは岩窟に向かって走っていった。 |
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04 | 18 | 解決 | 〔692〕 | 高姫と黒姫を閉じ込めた岩窟の前にやってきたテーリスタンは、二人に外へ出るように言って錠を開ける。高姫は鷹依姫を言向け和すのだから案内しろ、とテーリスタンに命じる。
道々、高姫はなぜテーリスタンが三五教に味方するようになったかと問いかけた。テーリスタンは、子供ながら二人を岩窟から救い出すためにやってきたお初に降参したのだ、と語る。
高姫は感心しながら鷹依姫の居間にやってきた。高姫は、自分たちを岩窟に閉じ込めて飢えさせた鷹依姫を非難する。鷹依姫は、食事を与えなかったのはテーリスタンとカーリンスだと責任を転嫁し、二人と言い争う。
テーリスタンとカーリンスは、お初に仲裁を頼むが、お初は鷹依姫も、テーリスタンもカーリンスも善人ではないから改心するように、と言い聞かせる。テーリスタンとカーリンスは赤面して反省する。
そこへ杢助、玉治別、竜国別、国依別の四人がやってきた。お初は鷹依姫に向かって底力のある声で改心を迫ると、鷹依姫ははらはらと涙を流して、遂には声を放ってその場に泣き伏した。
次にお初は高姫に向かって、改心して呑み込んだ二つの玉を返すように、と言い渡した。高姫は観念し、お初が腰を打つと、紫の玉と如意宝珠の玉を吐き出した。
お初は紫の玉を鷹依姫に返そうとするが、鷹依姫は改心した以上、玉は三五教へ献上すると答えた。そして、自分は行方をくらました極道息子との再会を願ってバラモン教に入信したが、遂には一派を立ててアルプス教を開くまでになってしまったのだ、と身の上を明かした。
鷹依姫の息子の特徴は、竜国別と一致した。お初は、竜国別は確かに鷹依姫の息子に違いないと明らかにし、高春山の途上の社で竜国別に試練を与えた女は、自分の化身であったことを明かした。
鷹依姫と竜国別は、親子の対面を果たした。お初は竜国別は額の傷によって身魂の罪は取り払われて水晶の魂となったことを宣言した。そして天津祝詞を捧げて聖地に帰るようにと一行を促した。
一同はこの言葉にはっと頭を下げ、口をすすいで天津祝詞を奏上した。そして宣伝歌を玉治別の音頭により高唱した。 |
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- | - | - | 余白歌 | - | 本文 |