巻 | 篇 | 篇題 | 章 | 章題 | 〔通し章〕 | あらすじ | 本文 |
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- | - | - | 真善美愛 酉の巻 | - | 本文 | ||
- | - | - | 序文 | - | 本巻も例のごとく三日の間に口述編纂をおわりました。三月二十八日に着手以来天候険悪にして、夜見の浜に打ち寄せる激浪怒涛の響きや、ガラス戸を暴風がゆする音、春雨の声、並びに東北となりの旅亭に聞こえる三味線、安来節の声等に合せ、口述の拍子を取りながら諄々として進んで行きます。
「出雲富士ほど苦労はしても 末は松江で気は安来」という歌の文句をしおりとしながら、末の世のため松の神世、五六七の神代の教草の一端にもと、湯茶をガブガブ呑みながら口述台に安臥して神のまにまに述べ終わる。
筆者は加藤、北村両氏にして、前巻も同様なり。惟神御霊の恩頼を慎み感謝し奉る。 |
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- | - | - | 総説 | - | 大本神諭には『生まれ赤児の混じりのない心にならねば神の誠の大精神は判らぬぞよ』と示されてある。また仏教には、『菩薩は常に安穏ならしめむことを楽ひて法を説け』とある。安穏にして法を説くというのは、老幼婦女子にも解し易いように卑近の例を引いて平易簡単にして、ただちにその精神に了解できるように説け、という意である。
この物語もまた神示に従いなるべく平易なる文句で説き、卑近な言語を使用して神明の深き大御心を悟らしめんと務めている。もって、学者紳士の読み物として適当としないものたるは、もとより覚悟の上である。
一人なりとも多数の人々に解し易く徹底し易からしめんと欲する至情より口述したものである。また本物語の読者を決して、今日のいわゆる知識階級に求めようとするのではありません。愚者無学者弱者のために編著したものであります。 |
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01 | 00 | 玉石混淆 | - | 本文 | |||
01 | 01 | 神風 | 〔1476〕 | 玉国別は、旅の途上バラモン軍の襲撃を受けて行方がわからなくなってしまった三千彦を尋ねて、真純彦、伊太彦を伴いようやくテルモン山麓にやってきて、アンブラック川を渡り一二丁前進した。
すると悪酔怪の会長ワックスが数多の無頼漢を引率して現れ、三五教の宣伝使を排除しようと立ちはだかった。無頼漢たちは三方から取り囲み、小石を掴んで宣伝使たちに投げつけた。
三人は岩陰にかくれてしのいでいたが、伊太彦はつぶてを向う脛に受けて倒れてしまった。真純彦は伊太彦を介抱し、玉国別は泰然自若として天の数歌を奏上している。
数百人の荒くれ男たちはじりじりを包囲を狭めてくる。玉国別は覚悟を決め、伊太彦を真純彦に背負わせて重囲を突破しようと突進したが、三人はすぐに打ち据えられてしまった。
そこへ猛犬スマートが宙を飛んで駆けてきて吠え叫んだ。悪酔怪員たちはたちまち恐れをなして三人を打ち捨てて館に退却してしまった。
玉国別はスマートに謝辞を述べ、頭をなで背をなでて謝意を表した。スマートは嬉しげに尾を振り、伊太彦の傷書をなめると、たちまち血は止まり苦痛は去り、立つことができるようになった。三人はスマートと共に神館を指して、宣伝歌を歌いながら登って行く。
敗走したワックスは館の前のバラモン軍に助けを求めた。外にいたバラモン軍の軍曹イールは承諾し、五十の軍人を引き連れてテルモン山を降り、玉国別たちを迎え撃つことになった。
伊太彦は勇ましい行軍の宣伝歌を歌いながら館を指して進んで行く。宮町の十字街頭に着くと、にわかに左右の家の中から矢が射掛けられ、三人は進退きわまって街頭で一生懸命数歌を歌っている。
前方からはバラモン軍の兵士たちが長槍をしごきながら進んでくる。後ろからは老若男女が鬨の声を造って押し寄せてくる。スマートがウワッウワッと吠え猛ると、その声は狼のごとく戸障子を振動させ、一同の肝を麻痺させた。
矢玉はピタッと止まり、鬨の声も聞こえなくなった。バラモン軍の兵士たちは何を思ったか、馬場をさして一目散に駆けて逃げて行った。スマートはどこともなく姿を隠した。玉国別一行はバラモン軍の後を追って進んで行った。
ワックスは驢馬にまたがって大音声を張り上げ、悪酔怪員たちを鞭撻して三人の後を追っかけてきた。馬場の前では、なぜか悪酔怪員たちとバラモン軍が大衝突を始め、阿鼻叫喚の声、剣戟の音、見るに忍びざる惨状を呈した。
玉国別たちはこの争いを後に表門から悠々と進んで行った。スマートはどこともなく現れ来たり、門口から一生懸命にウワッウワッとわめきたてた。 |
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01 | 02 | 多数尻 | 〔1477〕 | 奥の一間には小国姫、ニコラス、三千彦ほか一同が打ち解けて神徳話に余念なく、茶をすすりながら懇親を結んでいる。そこへ門前が騒がしくなり、猛犬の叫び声が聞こえた。三千彦は悪酔怪員の暴動と見て、様子を見に表に駆け出した。
ニコラスはハンナを三千彦と共に向かわせた。すると三千彦が昼夜念頭を離れなかった恋しい師の君玉国別が、良友の真純彦、伊太彦とともにニコニコとして門内に入ってくるところに出くわした。
三千彦は声も出ないばかりに驚いた。伊太彦に呼びかけられてようやく三千彦は胸をなでおろし、涙を流しながら、一行に分かれてからバラモン教の聖場に入り込んで種々雑多の苦労をしたことを報告した。
玉国別はバラモン軍と悪酔怪員の同士討ちを鎮めなければと心配したが、ここはスマートに一任することにして、三千彦に案内されて館の奥の間に進んで行った。
バラモン軍の副官ハンナは部下たちが味方と戦闘しているのを見逃すわけにも行かず、驢馬にまたがって混戦の中に入り、声をからして鎮まるように下知を下した。この声に敵味方ともに水を打ったようにぴたっと戦闘は停止した。
スマートは駆けてきてワックス、エキス、ヘルマン、エルの四人を引き倒してハンナの前に引き出し来て、これらを縛れ、とワンワン吠えたてた。ハンナは四人を縛り上げて馬場の前の大杭にしばりつけた。悪酔怪員は弱きをくじき強気に従う会則を順守し、一人も残さずこそこそと家路についた。
トンクは驢馬にまたがり、十字街頭の鐘路に現れ、臆病風に吹かれた数多の男女を集めて一場の訓戒演説をはじめた。そして、三五教は三千彦に加えて三人の宣伝使が加わり、またニコラスも三五教と同盟した上に猛犬スマートが付いている以上、悪酔怪会則にしたがって降参して三五教側につくべきだと説いた。
多数決を取ったトンクに対し、人々を黒い尻をまくって否決の意を表した。そこへタンクが現れて金銀をまき散らし、自分を会長に推挙するよう人々に呼びかけた。タンクが新会長に選ばれ、トンクは副会長になりそこねてすごすとと姿を隠した。
タンクは強きについて三五教に従うのだと滑稽な歌を歌いながら、群衆の先頭に立って門内に進んで行った。 |
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01 | 03 | 怪散 | 〔1478〕 | 小国姫は、三千彦の師匠である玉国別を迎え入れた。小国姫は神館のごたごたに対して弟子の三千彦から多大な助力をいただいたことを感謝した。求道居士は玉国別に挨拶し、治国別の導きで改心した経緯を語った。
ニコラスらバラモン軍の一行も玉国別に挨拶をなした。すると門前がにわかに騒がしくなってきた。三千彦が立って表門に出ると、悪酔怪会長のタンクは揉み手をしながら腰低く現れ、宮町の騒ぎを収めてくれたことを三千彦に感謝した。
三千彦は和睦の辞を述べ、スマートと共に悪酔怪員たちを連れて馬場に引き返した。タンクは縛られているワックスら四人の前で、四人の罪状を暴く歌を歌い、彼らを追放して聖地に平和をもたらすことを三千彦に訴えた。悪酔怪員たちもタンクの申し出に賛同した。
三千彦を歌をもってタンクに答え、悪酔怪の解散を提案した。タンクも悪酔怪の綱領が正しい目的でないことを認め、三千彦に賛同した。こうして町民一同和気あいあいとして悪酔怪の解散をなし、一同そろって神館に詣でて感謝祈願の言葉を奏上した。 |
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01 | 04 | 銅盥 | 〔1479〕 | 宮町の町民たちと元悪酔怪員たちは、ワックスら悪者にごまかされて暴動を続け、大神の道に背いたことを悔いた。そして懲戒のためにワックスら四人に鞭を加えて追放することを主張した。
三千彦はむち打ちに反対したが、この町の昔からの不文律とのことでにわかに破るわけにもゆかず、しぶしぶむち打ち刑を許した。
むち打ち刑の夜は暗夜であったのを幸い、三千彦は四人の尻に銅のたらいをくくりつけた。タンクとトンクのむち打ち役が鞭を振り上げて打つたびごとに、カンカンと妙な音がする。タンクとトンクはくたくたになりがなら四人に規定のむち打ちを加えた。
むち打ちが終わって四人が解放されるとたん、金盥が音を立てて芝生の上に転がり、かがり火に輝いた。タンクとトンクはむちに打たれすぎた四人の尻の血がにじんで固まって落ちたと説明し、町民たちも溜飲が下がったと口々に家に帰り行く。
三千彦は、自分の慈悲の行為を悟って町民たちにうまく説明したタンクとトンクの真心を感謝する歌を歌った。 |
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01 | 05 | 潔別 | 〔1480〕 | 館に帰り来た三千彦は、玉国別にテルモン山宮町の事件の顛末を語った。そしてデビス姫からの求婚についても師匠の意見を聞きたいと語った。
宮町の騒動が収まった上は、一時も早く本来の神業であるハルナの都への遠征に出立しなければならない。三千彦はデビス姫の同道について玉国別に尋ねた。玉国別は、デビス姫の両親の許しがあれば同道することを認めた。
求道居士はケリナ姫と共に館に留まり、小国別夫婦を支えることとなった。またニコラスは軍職を捨てて神に仕えることになった。
一同は互いに別れの歌を交わし合い、テルモン山神館の後事を求道居士に託して、玉国別、真純彦、伊太彦、三千彦、デビス姫はハルナの都目指して出立して行った。 |
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02 | 00 | 湖上神通 | - | 本文 | |||
02 | 06 | 茶袋 | 〔1481〕 | 三千彦は先に立ってテルモン山の中腹を南へ下って行く。比較的険峻な坂道を拍子をとって下って行く。三千彦は一同に気を付けるよう促す宣伝歌を歌う。真純彦と伊太彦は、三千彦が妻を同道していることをからかう歌を歌ってなごませる。
デビス姫は、これから悪魔の征討に向かう神業に夫と共に参加することの決意を歌に歌い、真純彦と伊太彦のからかいに釘を刺した。こうして、さすがの坂道もにぎにぎしく笑いに興じながら下って行った。
ようやくにして三里の急坂を越えてテルモン湖のほとりについた。ここは東西百里、南北二百里の大湖水で、魚鱗の波をたたえて洋々として静かに横たわっている。 |
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02 | 07 | 神船 | 〔1482〕 | 玉国別一行は洋々たる湖面を眺めて互いに述懐の歌を歌った。そして五人は湖畔に立ち、いかにしてこの湖水を渡ろうかと当惑していた。
すると一艘の漁船がやってきた。船頭は、三五教徒は乗せてはならいと大黒主のお達しだが、二百両の金をくれるなら渡してやろう、と一向に持ちかけた。一行は仕方なく承諾し、乗船した。
船が岸を離れると、船の底から武装したワックス、エキス、ヘルマン、エルが現れた。彼らは三千彦たちに怨みをはらそうと船頭を買収して計略を企んだのであった。
ワックスは居丈高に、湖上では魔法もきくまいと啖呵をきった。玉国別は平然として天の数歌を奏上し始めた。するとにわかに暴風が起こり、山岳のような波が猛って、敵も味方も船内をごろつきはじめてしまった。
船頭はもんどり打って荒波に投げつけられ、そのまま湖底に沈んで行ってしまった。そこへ一艘の船が近づいてきた。それは三五教の初稚姫が玉国別一行を救うべく用意して駆けつけた船であった。
玉国別一行は、初稚姫の船に手早く乗り移った。初稚姫は船を渡すと、自分はスマートに乗って湖水に飛び込んだ。たちまち湖水は静けさを取り戻し、初稚姫はどこかへ去って行った。ワックスたちの船は船頭を失い、水面にキリキリ舞いをしている。
三千彦、伊太彦は船端を叩きながら愉快気に歌い、意気揚々としてへさきを南に向けて船を走らせる。 |
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02 | 08 | 孤島 | 〔1483〕 | テルモン湖には、バラモン教で罪を犯した者を流罪にするツミの島があった。ここは波が逆巻く孤島であり、罪人は食物も与えられずにここに捨てられるのであった。
バラモンの荒くれ男、ハール、ヤッコス、サボールの三人は船が難破して、ツミの島に打ち上げられた。そこには殺人罪で島に捨てられ、露命をつないでいたダルとメートがいた。ハールたち三人は食糧難の飢えに堪えかねて、ダルとメートを殺して食べようと付け狙った。
ダルとメートは激しく抵抗し、その勢いに辟易した三人の隙を狙って逃げ出した。ちょうど玉国別たちの船がツミの島に近づいたとき、五人は食うか食われるかの死闘を磯端に繰り広げていた。
玉国別たちが近づいてみると、五人は死闘の末に息も絶え絶えになってそれぞれ倒れていた。船頭は人食いの罪人たちを助けて罪になることに反対したが、玉国別は自分が責任を負うと請け負って船をつけさせた。
玉国別たちは島に上陸し、五人が倒れている磯端にやってきた。ヤッコスとメートはこれまでの経緯を語り、助けてほしいと玉国別たちに懇願した。一行は五人に食料を与えて船に乗せ、介抱しつつ船を出した。
真純彦、伊太彦は舟歌に述懐を乗せながら歌い、船は進んで行く。 |
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02 | 09 | 湖月 | 〔1484〕 | ダルとメートはようやく元気回復し、しわがれ声を張り上げて自分たちの経歴を歌いだした。二人は掟を破って三五教の宣伝使を船に乗せて湖を渡らせた罪で、島流しにあったという。
そしてヤッコス、ハール、サボールらがやってきて自分たちを殺して食おうと襲ってきた罪を歌い、三人に改心を訴えた。
ヤッコスは船端に立って歌い、自分はテルモン湖を見張るバラモン軍の目付頭であり、にわかにしけに出会ってツミの島に部下とともに打ち上げられたのだと述懐を歌った。そして飢えに堪えかねてダルとメートを殺そうと悪心を起こしたことを悔い、三五教の慈悲に対して改心を誓った。
続いて目付のハールも自分の身の飢えと、三五教の宣伝使に助けられた感謝と改心を歌った。そこへにわかに七八艘の海賊船が現れて船の行く手を遮った。 |
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03 | 00 | 千波万波 | - | 本文 | |||
03 | 10 | 報恩 | 〔1485〕 | 玉国別一行を乗せた船は、仮に初稚丸と命名された。海賊船がやってくるのを見るとヤッコスは宣伝使たちに向かい、自分はバラモン軍に仕える目付役を表向きしているが、実は海賊の親分であることを明かした。
ヤッコスは自分に船の航路とこの場の始末を任せてほしいと申し出、玉国別は許した。ヤッコスは湖の水路に船を向けた。そして海賊船が初稚丸を取り囲むと、大声を上げて名乗りで、三五教の宣伝使を捕えてキヨの港に護送することろだ、と呼びかけた。
海賊船を統率していたデブは、ヤッコスの部下であった。ヤッコスはデブにうまく説明し、海賊たちは初稚丸を後に去って行った。
ヤッコスは、玉国別の仁慈無限の心に触れて、これまでやってきたことが恐ろしくなり、にわかに人間らしい気分を起こして、この場の危急を救うために部下の海賊たちを欺いたことを玉国別に懺悔した。
玉国別は、今までの怨みをそっくり湖に流して、同じ船の一蓮托生として和気あいあいとこの湖を渡ろうと一同を安堵させた。ヤッコスは櫓をあやつりながらこれまでの述懐と改心を舟歌に歌った。初稚丸は船首を再び西南に転じ、月の海面を進んで行く。 |
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03 | 11 | 欵乃 | 〔1486〕 | ようやく東の波間から明りが差してきた。玉国別は舷頭に立ち、東の空に向かって拍手し天津祝詞を奏上し、航路の無事を祈願した。三千彦そのほか一同は、玉国別にならって東方を拝した。
一行はそれぞれ滑稽を織り交ぜながら述懐の歌を披露した。デビス姫は舷頭に立ち、小声に神の威徳を讃える宣伝歌を歌い始めた。
船頭のイールは櫓を操りながら航海の無事を祈る舟歌を歌いながら進んで行く。 |
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03 | 12 | 素破抜 | 〔1487〕 | ダルは船中の無聊から阿呆陀羅文句を歌いだした。その歌は、ヤッコス、ハール、サボールの三人は偽の改心であり、キヨの港に着いたら三五教の宣伝使を一網打尽にしようと企んでいることをすっぱ抜き、今のうちにやっつけてしまおうと宣伝使たちに呼びかけていた。
ヤッコス、ハール、サボールの三人は図星を指されて青い顔で震えていたが、伊太彦は三人に危害を加えるつもりはないと安心させ、何か歌うように促した。ヤッコスはダルの前に進むと左右の耳を握って弁解を歌いだした。 |
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03 | 13 | 兎耳 | 〔1488〕 | ヤッコスはダルの耳を引っ張りながら、弁解を歌に乗せて述べ立てる。ダルは耳を放せとヤッコスに怒鳴りたてた。ヤッコスがダルの耳を放さないので、メートが助けに入った。するとハールがヤッコスの助太刀に入る。
伊太彦は見かねて大喝一声、ヤッコスに耳を放すように促し、やっとヤッコスは話した。今度はメートがヤッコスの耳を掴んで引っ張る。伊太彦がまたしてもメートをなだめてようやく離れ、喧嘩が終わった。
ダルとヤッコスは不機嫌な顔をして黙り込んでいる。船頭のイールは流ちょうな声で、今の喧嘩のありさまを歌いだした。船は波を分けて進んで行く。 |
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03 | 14 | 猩々島 | 〔1489〕 | 印度の国の北端、テルモン湖水を南に渡ったイヅミの国のスマの里に、バーチルという豪農があった。バーチルは何不自由なき身の上でありながら魚を取ることが好きで、妻のサーベルの諌めも聞かず、財産の整理もせずに舟を出して網を打ち釣り糸を垂れる毎日であった。
ある夜、バーチルは妻が寝静まった後に、僕のアンチーを連れて舟を出した。魚がよく釣れるのでそれに心を奪われていると、にわかに黒雲が起こって空には一点の星影も見えなくなり、激しい嵐にさらされた。
バーチルは動転して、取った魚を守るためにアンチーを舟から下ろそうとするほどであったが、ようやく我に返ってアンチーと二人で舟を転覆から守るために魚を湖水に抛りこみ始めた。しかし時すでに遅く、大津波に舟は飲まれて主従は湖水に投げ出されてしまった。
気が付くとバーチルは孤島に漂着し、たくさんの猩々に囲まれていた。すると一匹の大なる猩々が自分の顔を覗き込んで、同情の涙に暮れている。
この大きな猩々は女王であった。猩々の女王はバーチルを棲家に連れて行って介抱した。バーチルは三年の月日をこの猩々ヶ島で過ごした。二年目には猩々とバーチルの間に赤ん坊も生まれていた。
バーチルは何とか猩々の目を盗んで故郷へ帰ろうという思いから、猩々たちを連れて浜遊びに出た。たちまち二三丁ばかり沖合を通る船を認め、バーチルは両手を振って船に合図を送った。
猩々ヶ島の沖合に現れたのは、玉国別たちの船・初稚丸であった。伊太彦は人間が浜辺で手を振っているのを認めた。ヤッコスは恐ろしい猩々の島に上陸することを反対したが、玉国別は人間がいるなら助けなければならないと、上陸を決めた。 |
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03 | 15 | 哀別 | 〔1490〕 | 玉国別一行は初稚丸を猩々島の磯辺に付けた。見れば、大なる猩々が人間とも猿ともわからぬ子を抱いている。その傍には髯をむしゃむしゃと生やした人間が立っている。
伊太彦の呼びかけに、バーチルは答えて身の上を話しだした。猩々たちは人間たちがたくさんやってきたので遠巻きにして様子をうかがっている。
玉国別はバーチルとの間に子をなした猩々を憐れに思い、一緒に船に乗せて帰ることはできないかと聞いた。バーチルは、この猩々の女王は自分の群れを島のさまざまな危険から守っているため、仲間を捨てて人間と共に島を出ることはないだろうと答えた。
ともあれ、バーチルを故郷に帰すことになった。バラモン組のヤッコス、サボール、ハールの三人が猩々の子供らを追いかけて遊んでいる間に、初稚丸はバーチルを乗せて島を離れた。
猩々の女王はバーチルが去っていくのを見て悲鳴を上げ、子供を示してバーチルの帰還を促したが、バーチルが帰ってこないのを悟ると、子供を絞め殺して自分も藤蔓に重い石をくくりつけて入水してしまった。この惨状を船上から見て、玉国別の一行は悲嘆にくれた。
ヤッコス、サボール、ハールの三人は自分たちが置いて行かれたことに気が付いて磯端で地団太を踏んで叫んでいる。メートとダルの二人は、悪事を企んだ報いだと三人を嘲笑した。初稚丸は西南指して進んで行く。
船上の一行は、猩々島での一件を述懐の歌にそれぞれ歌いこんだ。船は潮流に乗って進んでいたが、イールは船が魔の海の潮流に流れ込み、方向転換ができないことを告げた。バーチルの故郷・スマの港には遠回りになるが、それほど危険はないことを宣伝使たちに報告した。 |
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03 | 16 | 聖歌 | 〔1491〕 | 玉国別はこれまでの述懐を宣伝歌に歌った。一同は祝詞を奏上し、数歌を歌い終わった。玉国別はまた、印度の国ハルナの都への言向け和しの征討の旅の背景と決意を宣伝歌に歌った。
船頭のイールは、船が大蛇が棲むというフクの島に流されていくことを舟歌に歌いながら櫓を操っている。 |
本文 | ||
03 | 17 | 怪物 | 〔1492〕 | 初稚丸はフクの島に着いた。荒波が岸を噛み、剣呑にして寄りつくことができない大難関である。山の中腹に大きな岩窟が自然にうがたれており、その中に何かが動いているように見えた。
バーチルは岩窟に動く影が、三年前に行方不明になった僕のアンチーの人影に似ているのに驚いて、玉国別に報告した。玉国別は確認のために島に上陸することとした。
船を海中の岩島に寄せ、伊太彦、バーチル、メート、ダルの四人が上陸した。船を認めて岩窟から駆け降りてきた男は、間違いなくバーチルの僕アンチーであった。
アンチーは主人との再会に涙を流し、この島に打ち上げられてから、初稚姫という女神に助けられて命をつないだことを明かした。初稚姫は三日ほど前にもアンチーの前に現れ、三年の修業ができたから、これでアンチーも立派な人間になるだろうとのお告げを残して、犬に乗って南の方に去って行ったことを語った。
一行はアンチーを船に助け上げて出航した。船中ではアンチーの漂流譚に花が咲いている。アンチーは助け出された嬉しさに、島で一人作っていた唄を織り交ぜて舟歌を披露した。
伊太彦は独り者同士仲良くしようとアンチーに呼びかけ、笑っている。 |
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03 | 18 | 船待 | 〔1493〕 | スマの浜辺では、バーチル家の僕アキスとカールが水平線を眺めていた。バーチル家では、主人のバーチルと僕のアンチーが漁に出たまま三年も帰らないため、二人を死んだものとして葬儀を出していた。
しかし女主人のサーベルが三日前から突然、旦那のバーチルが帰ってくるから浜に迎えに行けと僕たちに命令し始めた。二人は命令にしたがって浜に来ているが、合点がゆかず、サーベルの命令への文句やバーチル家の行く末についてあれこれ話している。
そこへ酒に酔ったテクという男がやってきてアキスとカールに絡み始めた。テクはバラモン軍から金をもらって目付をやっている男であった。テクは二人をひとしきり言い争いをした後、ひょろひょろと千鳥足で港方面を指して去って行った。
アキスとカールはその様子を見て笑い歌っている。するとはるか向こうの水面に船の白帆が見えだした。二人は半信半疑で近づく船を眺めて待ちあぐんでいる。
白帆の形は次第に大きくなり、へさきに立っている人の影も見えるくらいに近づいてきた。二人は何とはなしに心勇み磯端に飛び回っている。 |
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04 | 00 | 猩々潔白 | - | 本文 | |||
04 | 19 | 舞踏 | 〔1494〕 | アキスとカールが期待して眺めていると、白帆を掲げた船は三五教の宣伝使が乗っているようであった。そしてバラモンの捕り手の船に取り囲まれて追いかけっこをしている。
これを見て二人はバーチルが乗っている船ではなかろうと気を落とすが、主人のサーベル姫の命令に背くわけには行かないと、浜辺に留まって歌を詠んで気を紛らわせている。
いつの間にかバラモンの捕り手の船たちは見えなくなり、白帆を立てた船が一艘だけ、こちらに近づいてくる。アキスとカールはこれに力を得て歌いだし、踊り出した。 |
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04 | 20 | 酒談 | 〔1495〕 | 初稚丸は白帆を畳んでようやく磯辺に着いた。アキスとカールの両人は小躍りして遠浅の海を走って行き、船に近づいて中をのぞいた。多くの宣伝使たちに交じって、髯茫々にになったバーチルとアンチーが乗っているのに二人は驚いて喜びの声を上げ、早くもうれし涙にくれた。
玉国別は下船にあたって船頭のイールに心付けを渡した。イールは初稚姫から十分な代金をもらっているからと、玉国別からの心付けを湖の竜神への幣帛料として捧げ、一同に別れを告げると舟歌を歌いながら帰って行った。
バーチルは、アキス・カールと再会を喜んだ。二人はバーチルの奥方も一人息子も壮健で変わりないこと、ただ奥方のサーベルが数日前から神がかりのようになり、その命を受けて自分たちが浜辺に待っていたことを伝えた。
一行がバーチルの家に行こうとするとテクが現れて、三五教の宣伝使は捕縛しなければならないと走ってきて遮った。玉国別は持っていた酒をテクに渡した。テクは酒を飲み干すと途端に態度を変えて揉み手をし、これほどよい酒をもっと飲みたいと要求し始めた。
バーチルは、これから自分の帰還のお祝いをするからそこに来て好きなだけ酒を飲むようにとテクを丸め込んでしまった。三千彦も手持ちの酒をテクに差し出すと、テクはすっかり自分の役目など放り出してしまった。 |
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04 | 21 | 館帰 | 〔1496〕 | アキスは館に帰る一行の先頭に立ち、元気よく主人の帰還を喜ぶ歌を歌いだした。
続いてカールもバーチルの帰還を祝う歌を歌った。そのうちに一行は館に到着した。 |
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04 | 22 | 獣婚 | 〔1497〕 | バーチルやようやく懐かしの我が家に帰ってきたが、妻のサーベルは床の間に厳然と控えてニコニコしていた。そしてバーチルの姿を見るとヒラリと床の間を飛び下りて、猿のような怪しい声を張り上げた。
サーベルは、自分は猩々の女王であり、賤しい獣の肉体のままサーベルに着いていくわけにも行かず、身を投げて死し、バーチルの妻の肉体に懸ったのだと語り始めた。
玉国別は、サーベルは一体二霊だから因縁としてこのまま仲良く暮らすのがよいとバーチルを諭した。バーチルは納得がいかない面持である。
サーベルに懸った猩々の女王はその因縁を語りだした。それによると、猩々の女王の夫の猩々王は、アヅモス山を守護していたが、バーチルの父バークスの罠にかかって命を落としたという。
そして夫猩々王の精霊は、バークスの息子であるバーチルの肉体に納まったのだという。猩々女王は夫の死後、眷属をひきつれてアヅモス山を逃げ出し、船に乗って猩々島に隠れ、夫の精霊がやってくるのを待っていたのだという。
バーチルが漁をやめられずに船に焦がれていたのも、猩々王の精霊がなした業であり、そのために難船して三年前に猩々島に流れ着き、猩々の女王と夫婦となっていたのだと明かした。
玉国別は不思議な因縁を受け入れるようバーチルを諭した。一同はこの不思議な物語を聞いてそれぞれ述懐の歌を歌った。
サーベルは我に返った。そして自分の肉体に宿っている猩々姫が語ったことや歌った歌を聞いて、覚悟はできたから、このまま一体二霊にて夫婦として過ごそうとバーチルに呼びかけた。
玉国別は、人間は精霊の宿泊所のようなものであり、その精霊は一方は愛善の徳を受けて天国に向かい、一方は悪と虚偽の愛のために地獄に向かっていると説いた。善悪混淆の中間状態にあるのが人間であるから、愛と善と信の真によってあらゆる徳を積み、天国天人の班に加わらなければならないと続けた。
そこへ下女がたくさんな馳走をこしらえて膳部を運んできた。 |
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04 | 23 | 昼餐 | 〔1498〕 | 玉国別一行は丁重な饗応を受け、主客打ち解けて互いに神恩を感謝し祝歌を歌ってこの席をにぎわした。
玉国別の述懐歌に続いて、それぞれ宴の歌を歌い、ようやく酒宴は終わった。おのおの身体を清め、衣服を着かえて感謝の祭典の準備に着手することとなった。 |
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04 | 24 | 礼祭 | 〔1499〕 | 祭典の準備の間、三千彦は神饌物の調理をしながらバーチルと改宗の話をした。バーチルは三五教の神様を第一に祀り、先祖の霊も三五教式で祭りたいので、玉国別に伺ってもらいたいと三千彦にたのんだ。
三千彦は玉国別に尋ねる中で、玉国別は祭礼について教示を垂れた。祖霊祭については、子孫の真心よりする供物や祭典は、霊界にあるものを歓喜せしめ、子孫の幸福を守るという。
中有界にある精霊は、なにほど遅くても三十年以上はいないが、その精霊が現世に人間として再生して霊界にいなくなっても、祭祀を厚くされた人の霊は現界でもその供物の歓喜を受けるものであるという。
地獄に堕ちていれば子孫の祭祀の善徳によって中有界に進んで天国に昇ることを得る。また天国にあっても、祖霊祭によって極めて安逸な生涯を得られ、その歓喜が子孫に伝わって繁栄を守るという。
改宗したとしても、人の精霊や天人は、霊界に在って絶えず智慧・正覚・善真を得て向上しようと望んでいるので、現界の子孫が最も善と真とに透徹した宗教を信じて、その教えに準拠して祭祀を行ってくれることを非常に歓喜するものであるという。
また祠の森の聖場でさえも大自在天様を祀ってあるのだから、三五教に改宗しても、引き続き大自在天様を祀り続けるようにするのが良いと教示した。
アヅモス山には大自在天のお宮が立っているが、そこも祠の森のように合祀するかどうかについては、建造が必要になるので、玉国別はバーチルと直々に相談したいと三千彦に伝えた。
やってきたバーチルは、アヅモス山は先祖代々お祀りしてきたなり、猩々の眷属たちが守ってきた聖地であるので、にわかに三五教に祀り変えることはどうかと思うと答えた。玉国別は、大自在天のお宮はそのまま残し、新たに三五教の大神を祀るお宮を建造することにしたらどうかと提案した。
そして猩々ヶ島の子猿たちを迎えに行ってアヅモス山に返し、また島に置いてきたバラモンの三人を助けに船を出すようにと勧めた。
アヅモス山のお宮の建築は準備に取り掛かることとして、当面はこの家に三五教の大神とバラモンの大神を並べて祭り、家の者たちを参拝に与らせることになった。
祭典の準備は整い、玉国別は祭主となって天津祝詞を奏上し、感謝の歌を奉った。感謝祭は無事に終了し、玉国別一行は閑静な離れ座敷を与えられ、海上の長旅の疲労を癒すべく休養した。 |
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04 | 25 | 万歳楽 | 〔1500〕 | テクは番頭頭になった気持ちで蔵から酒を担ぎ出し、酒を飲みながら他愛もなくしゃべり続けている。邸内には数百人の里人が、庄屋の旦那が帰られたとのことでお祝いに詰めかけ、酒を飲んで歌い舞い踊りなどして騒いでいる。
テクは番頭頭気分で、アキスとカールによく気を付けてお客様の世話をするようにと酔って説教をしている。アキスとカールは適当にいなし、ア主人夫婦に天王の森の猩々の霊が憑いているといったうわさ話にふけっている。
門の方がにぎやかになってきたので二人が表口へ駆け出すと、テクが大柄杓を肩にかけながら、酔った勢いで勝手な歌を歌い踊っている。
そこへキヨの港を守るバラモン軍のキャプテン・チルテルが数十人の部下を連れてやってきた。チルテルは、三五教の宣伝使・玉国別たちがこの館に潜んでいるとの情報で召し捕りにやってきたと大音声に告げた。
テク、アキス、カールは酒をなみなみと汲んで、チルテルの前に突きだした。チルテルは酒と聞いてたまらず、馬を下りてガブリガブリと呑みはじめた。チルテルの部下も群衆に交じって酒を飲み、肝心の使命を忘れて踊っている。
空中には迦陵頻伽、鳳凰、孔雀らの瑞鳥が舞っている。 |
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