巻 | 篇 | 篇題 | 章 | 章題 | 〔通し章〕 | あらすじ | 本文 |
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- | - | - | 真善美愛 午の巻 | - | 本文 | ||
- | - | - | 序文 | - | 明治三十一年如月九日、天教山に鎮座し給う木花姫命の神使は、神々の協議の結果、丹波の国曽我部の村に牛を飼う牧童、三つの御魂に所縁ある三葉彦命の再生なる神柱に、三千世界の修理固成の神業の先駆を命じ、十字架を負わしめ給うた。
それより今年大正十二年正月十八日まで満二十五年間、出口王仁は一心不乱に神国成就のために舎身的活動を続けて宇宙万有一切のために心身を焦がした。
三千世界の諸天人民に至上の心を持せしめ、神の御国に安住せしめようと、暗黒社会を照破すべく変性男子の精霊とともに綾の聖場地の高天原に現れた。
月光菩薩の神業に心事し、家を捨て欲を棄てて神の僕となり、ひたすらに我が神国九山八海の諸神を念願し、諸々の功徳を修した。
大国常立大神、日の大神、月の大神は、高天原に万人を救うことを希い給い、いと高き神人を率いて霊肉脱離の際に来迎し、神を理解し信真の徳に充たされた者を直ちに宝座の前に導き成道する。
天教山に現れ給う木花姫の無常の神心に神習い、大功徳を修業して顕幽両界の神柱となり、人の人たる本分を尽くさしめ給う伊都の御魂の大御心の有難さ。
瑞月は多年の間、千難万苦を排し、修業の効をおえてようやく神界より赦されて、ここにつつしみ畏み三世一貫の物語を後述することができた。
無常の神心を起こし、ひたすらに天地の大祖神を祈願し、真心よりできる限りの善行を修して、斎戒を奉持し、神の聖社を建立するの一端に仕えて神使に飲食を心より供養し神号輻を祀り灯火を献じ祝詞を奏上し神の前に拝跪すれば、天界に生まれしめ給はむ。
今生はもちろん、来世に至って智慧証覚を全うし、愛善の徳に住して身に光明を放射し兆年の久しき第二の天国に安住を得ることができる。
どの世界に居ようとも、諸天人民にして至心あって天国浄土に大往生を遂げようと欲する者は、たとえ諸々の功徳を成すことができなくとも、常のこの物語を信じ無上の正覚を得て、ひたすらに厳瑞二神を一意専念すれば、神徳はいつとなく身に具足して、現幽両界ともに完全の生涯を楽しみ送ることができる。
この深遠なる教理を真に理解して、歓喜し信楽して疑惑せず、二心を断ってひたすらに神教と神助を信じ、至誠一貫をもって天国に復活することを願うときは、臨終に際して正に夢のごとくに厳瑞二神、すなわち日月の神を見奉りて、至美至楽の第三天国に復活することができる。
月神の信真によって智慧証覚の光明を受けることは、すなわち第二天国の天人のごとくである。
諸神・諸仏、如来・宣伝使は、大国常立大神の徳が八荒に輝き給うを賞賛して、その出現聖場たる蓮華台上に集まり給い、無料無数の菩薩や衆生は、日月の光を仰ぎ奉ってここに行き詣で、広大無辺の神徳に浴し、恭敬礼拝し供物を献じ神慮を慰める。
かつ五六七神政の胎蔵経である経緯の神諭と、聖なる霊界物語を歓喜聴受して、顕幽二界の消息に通じ天下の蒼生に至上の神理を宣布する。二大世界は神徳を悟り、十方無碍の神通力と智慧を究めて功徳を具足し、五逆は消滅し生死の雲を消し去り給うべし。
霊主体従の至上心を発揮して神に奉仕する時は、寒気もたちまち春陽の生気と化す。もし善徳がない人は、この神啓の神書を覚らず、理解することができないであろう。
清浄無垢にして、小児のごとき心境に在る者にして、根本からその真実味を聞くことができるのである。驕慢と懈怠とは、神示に成り就たるこの霊語神声を、容易に信じることができないであろう。
心身清浄にしてよく神を信じよく神に仕え、神を愛することにより、精霊界の諸消息を探知した者は、歓喜雀躍してこの神言霊教を聴聞し、聖なる心を究めて一切の事物を開き導くに至ることができるのである。
神界の主神である大国常立大神の愛善の徳と信真の光明は弥広く、言語で尽くすことはできない。ただ大神自身のみこの間の経緯真相を知悉し給うのみである。道を悟り理を知り万億劫の神智を有しても、とてもこれを口に述べることはできない。神の智慧と証覚には辺際なく絶対である。
愚昧頑固な人間智を開いて、せめて第三の下層天界の消息なりとも覚らせて無限絶対・無始無終の神徳に浴せしめようとする吾人の苦衷は、何時の世にこの目的を達することができるであろうか。
口述開始からすでに十五か月、未だ神諭に目覚めた人士が極めて少数であり、たまたま信じる者があっても、元より上根の人ではないので、わずかにその門口に達したまでの状態である。
ああなんとしても、瑞の御魂の千変万化の大活動、三五教の大本五六七の仁慈に浴して各自、その智慧を満たし、深く神諭の深奥に分け入って個々の神性を照らし、神理の妙要を究め、神通無碍の境地に入って諸根を明利ならしめ給へ。
痴愚の生涯を送りつつある神の僕瑞月が、月光如来の聖前に拝跪して慎み畏み、日に夜に真心を捧げて天下万民のため、大前に祈願し奉る。
数多の聖教徒は日夜参集して、道教を宣伝し、妙法を広く説き述べ給う神使の言に歓喜し、天の岩戸開きの神業はやすやすと大成され、神示の許になれるこの神書・霊界物語を著した連日の辛苦も、ややその光明を輝かすことができるようになるであろう。
大聖五六七の神霊地上に降臨して、宇宙間の一切万有を済度し給う。その仁慈は大海のごとく恵光また日月のごとし。浄穢好悪等の異心がないために、清浄な泉のようにもろもろの五逆十悪を洗い流し給うごとく、さらに火王のように一切煩悩の薪を消滅し給うごとく、大風が十法世界を行くのに障壁がないごとく、虚空が一切の執着なきがごとく、月が何の汚染もなく皓皓として蒼天に輝くごとし。
これが月の大神の真相にして、霊界物語を編述するときの吾人の心境である。いつまでも志勇精進にして、心神退弱せず、世の灯明となり闇を照らし、常に導師となって愛善の徳に住し、正しきに処して万民を安んじ、三垢の障りを滅し、終身三界のために大活躍せしめ給いて、口述者をはじめ筆録者の真心を永遠に輝かし給えと祈る。
ここに嬉しくも五十五編の霊界物語を編み終わり、慎み畏み神助天祐の厚きを感謝し奉る。ああ惟神霊幸倍坐世。 |
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- | - | - | 総説歌 | - | 大正十二年三月三日、旧正月十八日、奇しき尊き神代の顕幽神の物語を守らせたまう神の家に、言霊車も軋る音、ただ一言も聞き漏らすまいと息を凝らして、松村、加藤、北村ら筆録者たちが、いよいよ五十五巻の坂を上り来った。
綾の聖地の竜宮館、四ツ尾の霊山、桶伏の山を左右に眺めながら写すのは、印度の国ハルナの都にわだかまる八岐大蛇の悪霊を、神の御稜威に守られて言向け和す宣伝使の物語である。
治国別(亀彦)が、松彦、竜彦らと共に、波斯の国の猪倉山に割拠するバラモン教の軍の司・鬼春別、久米彦、スパール、エミシらを、神の誠の言霊に助けて、玉木の村の司テームスの二人の娘らと、敵に捕らわれていた道晴別やシーナまで救い出して立ち帰る。
徒弟の万公に妹のスガールをめあわし、姉のスミエルをシーナの妻と定め、ここにめでたく結婚の儀式を済ませ、一同に神の教えをよく諭し、松彦と竜彦を従えて、神のまにまに月の国ハルナを指して進んで行く。
後に残ったバラモンの鬼春別、久米彦、スパール、エミシらは悔悟の念に堪えかねて髪を剃って比丘となり、ビクトル山の谷間に庵を結んで三五教に真心を捧げ清く仕えた、という尊い神代の物語である。
述べ始めた今日は心も楽しき春の空、四方の山辺も雪は解けて和知の流れも滔々と水かさが増し、みづ御魂が心を洗うごとくである。 |
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01 | 00 | 奇縁万情 | - | 本文 | |||
01 | 01 | 心転 | 〔1409〕 | 鬼春別と久米彦は、女を争って競争の真っ最中に三五教の宣伝使・治国別一行に踏み込まれ、驚いて降参し、捕えていた四人の男女を背負って玉木村のテームス館まで謝罪を兼ねて送り届けることになった。
鬼春別は士官を呼んで、自分たちが前非を悔いて三五教に帰順し、普通の信者となって神のため世のために働く決意を固めたことを伝えた。この旨は軍隊全般に伝達され、兵士たちは各々本国に帰り、正道に付くよう勧告された。
兵士たちはこの通達に一様に驚いたが、元より上官の言いなりの集団であり、大黒主のために三五教に対してもう一戦しようという気概のある者は一人もいなかった。
治国別は数多の軍人たちが解散の命を受けて素直に帰ってゆくのを見て、三五教の大神、バラモン神、盤古神王の守護を感謝した。治国別一行は、鬼春別ら元将軍・副官四人と、囚われていたスミエル、スガール姉妹、シーナ、道晴別を加えて、玉木村への道を降って行った。 |
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01 | 02 | 道謡 | 〔1410〕 | 鬼春別はバラモンの経文を一心に唱えながら下って行く。久米彦はなぜか三五教の歌が口からほとばしり、述懐を歌いながら下って行く。
松彦は先頭に立ち、小声で猪倉山の顛末の述懐と神への感謝を歌いながら進んで行く。万公は一行の最後について述懐を歌いながら下って行く。
万公は、自分の活躍によって里庄の娘スガールの婿となりたいと勝手な脱線歌を歌いだした。手前勝手な滑稽歌に、負傷していたスミエル、スガール、シーナ、道晴別も思わず吹き出してしばし苦痛を忘れた。
万公はこの他にもいろいろ面白い歌を歌い、一同は笑いにまぎれていつとはなしに玉木村のテームス宅門前まで無事に帰ることができた。 |
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01 | 03 | 万民 | 〔1411〕 | 一同は門前にて帰宅を告げたが、門番はバラモン軍の計略を警戒して開かず、テームスを門の前まで呼んできた。万公やシーナが門内に呼びかけ、シーナの声を認めたテームスは驚喜して門を開け、一同を奥の一間に迎え入れた。
鬼春別ら四人のバラモン組と万公は、怪我をしているスミエル、スガール、シーナ、道晴別四人を別室に運んで行った。
治国別たちは下女たちに案内されて別の間に息を休め、大神に祈りを捧げていた。テームスとベリシナの老夫婦は娘たちが帰った嬉しさに、怪我人たちの部屋に入り、介抱に明け暮れて治国別たちにお礼を言うのも忘れていた。
万公はすっかり婿気取りになって振る舞ってはいたが、テームスとベリシナに、治国別たちにお礼の挨拶をするように促した。そして自分はスガールの横顔をちらちらのぞきながらであったが、甲斐甲斐しく怪我人たちの介抱をやっていた。 |
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01 | 04 | 真異 | 〔1412〕 | テームスとベリシナは、治国別たちの居る部屋ではなく、鬼春別たち元バラモン軍指揮官たちのいる部屋に来てしまった。そしてほの暗い行灯の光に、治国別ではないと気付かず、丁寧に娘たち救出のお礼を述べた。
鬼春別は自分がこの事件の張本人であり、心苦しさに自分が鬼春別本人であることを伝えることができなかった。そこで春別と名乗ってその場をごまかそうとした。
テームスは三五教の宣伝使一行だと思って、バラモン軍の悪行を並べ立てたので、鬼春別と久米彦らは慙愧の念に堪えず、しばし油をしぼられた。
そこへ治国別、松彦、竜彦が下女に案内されて部屋にやってきた。治国別は挨拶をなし、ここにいるのは元バラモン軍の鬼春別、久米彦たち本人だとテームスとベリシナに告げた。テームスは驚いたが、治国別は彼ら四人はもう自分の弟子になったことを説明し、テームスたちを安堵させた。
一同はそれぞれ挨拶と述懐の歌を交わした。テームス夫婦はその場を下がり、怪我人の看病に戻って行った。
後には下女が治国別たちの御膳をしつらえた。そこへ万公が戻ってきて、自分の膳がないことに不平を洩らした。竜彦は、スガールの顔が万公にとっての御馳走だろうとからかった。
それでも一人前の食欲がある、と万公が不平を鳴らすので、竜彦はさらにからかって、お前はテームス家の婿になるのだから主人側だろう、給仕をする側だと持ち上げた。万公はすっかり乗せられてその気になり、客人たちをもっともてなす御馳走を出すのだと、慌てて炊事場に進んで行く。 |
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01 | 05 | 飯の灰 | 〔1413〕 | テームス夫婦は四人の介抱に全力を尽くしていた。そして治国別に、道晴別が全快するまでは家に留まるように懇願した。治国別は別宅に入り、バラモン組の連中に、三五教の教理を説き諭していた。
万公は台所に回って、下女のお民を主人気取りで使役していた。お民から、バラモン軍の兵士・フエルとベットが蔵に閉じ込められていると聞いて、手伝いをさせるために二人を解放した。
万公は三人を口やかましく使役していたが、フエルは手桶の水をかまどの下へぶちあけてしまった。灰が一面に立ち上がり、炊事場は真っ黒になってしまった。
テームス家の二の番頭アヅモスが炊事場の様子を見にやってくると、一面に灰煙が立っている。怪訝に思ったが、万公に怒鳴られてすごすごと退散した。フエル、ベット、お民は鍋蓋の間から入った飯の上の灰を杓子で削り取っていた。
一同はおかしな歌を歌いながら、灰まみれの全部をこしらえて慌ただしく朝飯を病室に運んで行った。 |
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01 | 06 | 洗濯使 | 〔1414〕 | フエルとアヅモスは、朝食のお膳を治国別の別宅に運んできた。元バラモン軍のエミシは、フエルの姿を認めて声をかけた。フエルは道晴別に霊縛されて、この家の蔵に放り込まれていたが、今朝この家の若主人が解放したことを話した。
鬼春別も、自分が三五教に改心したことをフエルに話した。治国別は朝飯を食べてみると、灰まみれでとても喰えたものでなく、目を白黒させている。
アヅモスとフエルは御膳を片付けて、もう一度朝飯を作り直しに炊事場に引き返してきた。すると万公がお民をつかまえて一生懸命に指図している。
アヅモスは、自分たちが飯を作るからと言って万公を治国別の別宅に戻らせた。 |
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02 | 00 | 縁三寵望 | - | 本文 | |||
02 | 07 | 朝餉 | 〔1415〕 | 万公は治国別の居間に駆け入った。頭に灰を被り、黒い顔に汗をにじらせながら、この家の主人気取りで口上を述べた。
一同はいつの間に万公がスガールと婚約したのかいぶかったが、万公は大得意でおかしな自慢の歌を歌って聞かせた。竜彦は万公をからかっている。
そこへアヅモスとフエルが新しいお膳を運んできた。万公は一同にお酌をして一座はにぎわい、一同は朝飯を済ませた。 |
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02 | 08 | 放棄 | 〔1416〕 | アヅモスは炊事場に戻ると、お民に小言を言い始めた。アヅモスとお民は口げんかになった。お民はフエルにも矛先を向け、柄杓を水に汲んで二人にぶっかけた。アヅモスとフエルは鉄拳を振るってお民を叩きつけた。
お民の悲鳴を聞いて、番頭の一人・アーシスが走り来たり、お民からアヅモスを引き離した。フエルは逃げてしまった。アヅモスはアーシスを箒で叩きつけて、逃げてしまった。
アーシスは、お民の態度をたしなめて注意を与えた。アーシスはふと、お民に素性を尋ねた。お民は自分の母がビクトリヤ城に奉公に行っていた間に刹帝利のお手がかかって生まれたのだ、と明かした。一方アーシスも、自分は左守キュービットの落とし子だと明かした。
二人は出生の秘密を明かしたからには夫婦となろうと言いあった。 |
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02 | 09 | 三婚 | 〔1417〕 | 治国別、松彦、竜彦の祈願によって四人の負傷者は三日間の内に全快することができた。テームスは娘の本復祝いに祝宴を開いた。
治国別は厳粛な感謝の祭典を執り行い、祝宴に臨んだ。テームス、ベリシナ、スミエル、スガールは治国別にお礼を述べた。万公もいつの間にかテームス家に交じって、治国別にお礼を述べている。
テームスとベリシナは、いつの間に万公がスガールと婚約したのかいぶかっている。二人は治国別にこの顛末をいかにするべきか尋ねた。
治国別は宣伝歌を歌い、その中で、一の番頭シーナは長女のスミエルと縁を結び、スガールは万公と、そしてお民はアーシスと縁を結ぶようにと告げた。スミエル、スガール、万公はそれぞれ承諾と述懐の歌を歌った。 |
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02 | 10 | 鬼涙 | 〔1418〕 | 続いてアーシスとお民も、治国別の媒酌を承諾し、自分たちの素性を述懐の歌で歌った。鬼春別は一杯機嫌になって、どら声を張り上げて歌い始めた。
鬼春別の歌は深い悔悟と改心の意を表していたが、テームス夫婦は疑い深く、鬼春別の心からの謝罪の歌も信じることができなかった。
この他列席していた一同もそれぞれ歌を歌った。 |
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03 | 00 | 玉置長蛇 | - | 本文 | |||
03 | 11 | 経愕 | 〔1419〕 | テームスは、バラモン軍人たちが心より改心してその精魂がまったく純化した境地に達したにもかかわらず、彼らを信じることができなかった。テームスは祖先代々、苛烈な里庄を勤め人民の富を搾り取り、人望は地に落ちて村の人々から卑しめられていた。
鬼春別はこの頑固親父のテームスを悔い改めしめようと、大声にて読経を始めた。テームスはこの聖経の始終を聞いてはっと胸を抱き、その場に打ち倒れて人事不省に陥った。治国別をはじめ一同は、直ちに神の大前に祈願を凝らした。 |
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03 | 12 | 霊婚 | 〔1420〕 | 真っ暗な寒風吹きすさぶ険しい隧道を、一人の男が杖を力にとぼとぼと下ってゆく。野中に建っている大邸宅を見つけ、一夜の宿をと立ち寄ってみれば、柱や壁は破れて傾き、異様な臭気が漂う中、悪虫・悪獣が屋内を往来している。
この男はテームスであった。テームスはどこからともなく現れた山犬の群れに取り囲まれそうになり、恐怖にかられて逃げ出した。
薄暗い野路を行くと、前方から夜叉・悪鬼が二人の女を追いかけてくる。よくみれば吾が子スミエルとスガールが追われていた。夜叉と悪鬼は二人に追いつき、娘たちを喰らった。
後ろより幾百万ともなく悪鬼の唸り声が聞こえてくる。テームスは苦しさと恐ろしさに体がうまく動かなかった。空中から悪鬼がテームスの名を呼んで害そうとする。見ればベリシナが悪鬼に掴まれて助けを求めている。
テームスは煩悶苦悩やるせなく進退窮まった。空中の悪鬼は自ら兇党界の大魔王も使役する羅刹だと名乗った。
羅刹によれば、代々の悪業によってテームスの祖先たちは悪鬼となってここに悲惨な境涯を送っているという。テームスは、三五教の宣伝使治国別たちのお蔭で一度は改心を誓ったものの、鬼春別たち赦された人々に悪心を起こしたために極寒地獄に突き落されるところだという。
テームスが羅刹に引かれていく間、テームスの祖先の成れの果てという夜叉、悪鬼はいやらしい声を上げて追っかけてくる。テームスは目の前で妻のベリシナが猛獣たちに食い殺される有様を見、また羅刹によって娘の肉を無理矢理口にねじこまれた。テームスの口はしびれ、苦い毒薬を飲まされたような苦しさを味わった。
羅刹は、それがテームスとテームスの祖先たちが玉置村の人民に対してやってきたことだとののしり、今度はテームスがばらばらにされる番だとして突き倒した。
そこへ天の一方から霊光が輝き来たり、テームスの前に落下した。羅刹たちはこの火団に驚いて姿を隠した。火団は一柱の神人と化した。よくよく見れば、鬼春別が円満具足なる霊衣を身に着し、莞爾として立っている。
鬼春別は、自分は治国別の命によってテームスを救いに来たのだと告げ、自分にならって神の御前に犯してきた罪悪を陳謝すれば、神の恵みに家族ともども救われると諭した。鬼春別は紫の雲に乗って去って行った。テームスはいつの間にか高山の上に救い上げられていた。そして鬼春別を見送りながら合掌啼泣し、悔悟の念に暮れていた。
テームスが阿鼻叫喚の声を聞きつけ谷底を見ると、山の麓は火に囲まれ、妖怪毒蛇が焼き滅ぼされていた。テームスは天津祝詞を奏上して神の救いひたすら祈っていた。
そこへ雲に乗って勢いよく降り来た神人を見れば、万公であった。万公は、焼き滅ぼされている妖怪毒蛇は、テームス家の祖先が造った罪業によって生まれた悪魔たちであると説明した。万公は、テームス家の祖先に苦しめられた人民の霊が凝結して人の世に生まれて来たものだと明かした。
そこでどうしてもテームス家の後を継ぎ、家の財産を人民に平等に分配して罪を滅ぼすのが自分の役割だと明かした。テームスは得心し、万公に追われて山を降る。万公は火焔の中でも火傷もせずに矢のように山を下って行く。
万公に負われていくと、際限も無き原野に行き当たった。原野の中、水晶の水をたたえた沼に行き当たった。万公はここまで来て息を休め、沼を首尾よく渡れるよう神に祈る宣伝歌を歌った。
沼はたちまち変じて青畳となった。テームスが目を開いてよくよく見れば、治国別、鬼春別、松彦、竜彦その他の人々が枕頭に集まって、テームスを懇切に介抱し天の数歌を奏上していた。 |
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03 | 13 | 蘇歌 | 〔1421〕 | テームスは気が付き、感謝の涙を流しながら、鬼春別たちバラモン軍の改心組や、娘と縁組をしようとする万公を、心の中で憎み遠ざけようとしていたことを懺悔し陳謝した。そしてもう財産への執着は無いから、村人のために使ってほしいと申し出た。
鬼春別らバラモン組は涙してテームスの謝罪を受け入れた。テームスはまた、万公は治国別の弟子なれども、たって娘スガールの婿として家を継がせたいと願い出た。
治国別は了承し、一同はそれぞれ述懐の歌を交わし合った。一同は和気あいあいとして神前に額づき、おのおの祝詞を奏上してテームス再生の神恩を感謝した。 |
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03 | 14 | 春陽 | 〔1422〕 | 万公は神殿に参拝を終り、一同が談話する居間に神懸りとなって現れ、謡いはじめた。
テームスの家筋は、元は月の国のヒルナの刹帝利であったが、民の怨みが重なって国家が転覆し、フサの国に逃れて玉置の村に里庄と現れたことを明かした。そして悔い改めた上は、祖先の罪とがも消え、これからは子孫の末に至るまで清き生涯を送るようにと諭した。
治国別も続いて謡い、神の教えに寄り添って神業に仕え、道を踏み外さずに進んで行くことを教導した。そして諄々と現・幽・神界に処する道を説き、終わって大神の御前に感謝の祝詞を奏上した。
テームス夫婦は神の恩恵を悟り、邸宅を解放して立派な社殿を造り、三五教の大神を鎮祭した。万公はスガールと結婚しテームス家の世継ぎとなった。シーナは姉のスミエルと結婚し分家した。アーシスとお民も治国別の媒介によって夫婦となり、三五教の教えを宣伝して神業に参加した。 |
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03 | 15 | 公盗 | 〔1423〕 | 鬼春別以下三人のバラモン組は、宣伝使と俗人の中間的立場である比丘となり、長髪を剃り落され、黒衣を仕立てて金剛杖をつきながら、照国山のビクトル山の谷あいに山伏の修業をなすべく、軍用に使っていたほら貝を吹き立てながら出立していった。
鬼春別は治道居士、久米彦は道貫居士、スパールは素道居士、エミシは求道居士という戒名が与えられた。新米の比丘たちは、治国別け一行や玉置村の人々と別れの歌を交わし、進んで行った。
一同は北の森の祠で野宿をすることになった。夜分、祠の後ろから人声がするのを聞きつけて、治道居士は耳をすませた。聞けば、解散したバラモン軍の兵士たちが、今後の身の振り方を相談しているところだった。盗賊になって一旗揚げようとする三人に反対し、二人が国へ帰ると言って逃げて行った。
治道居士はやにわに数珠をつまぐりながら声も涼しく経文を唱え始めた。三人の元兵士のなり立て盗賊たちは、声をたよりに治道居士を取り囲むと、ベル、シヤル、ヘルと名乗り、金品持ち物を出すようにと凄んだ。
治道居士は、衣類を渡すのは困るから、金をやる代わりに国へ帰って正業に就くようにと諭した。ベルは、帰りの旅費や国へ帰って商売をする元手を計算すると、一人千三百両は要ると治道居士に強要した。
治道居士は、そんな端数ではなく三人まとめて五千両やるから手を出せと言った。ベルは恐る恐る手を出したが、治道居士にぐっと掴まれてしまい、悲鳴を上げている。
治道居士は、約束した以上は金はやると安堵し、おもしろいことが起きていると他の居士たちを起こした。道貫は、実は寝ているふりをして様子をうかがっていたと笑い、自分も千両を与えた。
ベル、シヤル、ヘルの三人は、六千両を三等分し、居士たちにお礼を述べて去って行った。 |
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03 | 16 | 幽貝 | 〔1424〕 | 四人の修験者たちはシメジ峠の南麓に着いた。一通りなき、昼なお暗い坂道を、四人は宣伝歌を歌いながら登っていく。
シメジ峠の頂上に達し、四人は松の根に腰かけてしばし息を休め、述懐の歌を歌った。そして今度は峠の坂を降って行く。
四人はビクの国へは立ち寄らず、山道を分けて照国山の谷間の清めの滝に向かって進んで行った。 |
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04 | 00 | 法念舞詩 | - | 本文 | |||
04 | 17 | 万巌 | 〔1425〕 | 玉置村のテームスは屋敷や山林田畑を開放し村人の共有となし、新しい村を経営することになった。治国別は神勅により、しばらくテームス宅に止まっていた。
仮宮に大神を鎮座する祭典に、数百人の老若男女が喜び勇んで集まり列した。治国別は祭主となって神殿に向かって祝詞くづしの宣伝歌を奏上した。
村人たちは千引の岩を神前に奉ろうと大綱を握り歌を歌って進んでくる。社の傍らに添えられた千引の岩は、この岩石が腐るまで心を変えずに神に尽くす、という赤心の供え物であった。
万公は村人と同じく捻鉢巻をして運んできた石を場に据えようと、槌を振り上げて大地を固め、杭を打って歌いながら作業に励んでいる。 |
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04 | 18 | 音頭 | 〔1426〕 | テームス家の二の番頭アヅモスは、群衆に交わって手を打ちながら広庭に音頭を取って踊り始め、謡いにこれまでの経緯と祝いを込めた。道晴別は祭服を脱ぎ捨てて踊り子の中に飛び込み、音頭をとって踊り始めた。
音頭取りを踊り子が、遷座式の神酒に酔って、歓喜に浮かされて夜の更けるまで踊り狂い、にぎにぎしく祭典の式を納めた。
治国別、道晴別、松彦、竜彦の四人は、テームス一家にいとまを告げ、エルサレムを指して足を早めて出でて行った。 |
本文 | ||
04 | 19 | 清滝 | 〔1427〕 | 元ビク国右守のベルツとその部下シエールは、反逆の罪で百日の閉門を申し付けられた怨みにより、照国岳の清めの滝に籠り、妖幻坊の魔法を習ってビクトリヤ城を転覆しようと水垢離を取っていた。
二人の前に妖沢坊と名乗る魔神が現れ、百日の間、蟹・イモリ・カエルのみを食して修業をしたら魔法を授けると託宣した。ベルツは三十日ばかりすると、毒に当たったか腹痛を起こして苦しみ出した。
シエールは主人の病気を治そうと滝に打たれていると、十一、二才の少女が現れて滝に飛び込んだ。シエールは、自分の祈りを聞き届けたエンゼルが現れたと勘違いして喜び、ベルツに報告に行った。ベルツも、その姿を見て天津乙女が助けに降ってきたを思い込んだ。
乙女はビクトリヤ王の娘・ダイヤ姫であり、父刹帝利の病気平癒の願掛けに来ていたのであった。そうとも知らず、ベルツとシエールは帰ろうとするダイヤ姫の前に出て、自分たちの大望を遂げさせて欲しいと、野心と計画の内容を話してしまった。
ダイヤ姫はベルツとシエールの企みを聞いて、名乗りを上げて正体を明かし、二人に改心を迫った。ベルツとシエールは、少女が仇と狙うビクトリヤ王の娘であると知って、姫を捕えてしまった。
二人は自分たちの企みや居場所を知ってしまった姫を害そうとしたが、姫の胆力と美貌を認めて、命が惜しければベルツの妻となってビク国簒奪の計画に参加するように口説いた。
ダイヤ姫はこれを拒絶し、ベルツとシエールは剣を引き抜いて姫に切りかかった。姫は剣をかわし、樫の大木を盾にして防いでいる。
そこへほら貝を吹きながら四人の山伏が観音経を称えながら登ってきた。ベルツとシエールは山伏の姿に驚いて、山頂をめがけて逃げて行った。山伏たちは治道、道貫、素道、求道の四人であった。 |
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04 | 20 | 万面 | 〔1428〕 | ビクトリヤ城では、左守キュービット、ハルナ、右守エクス、タルマンらが、ダイヤ姫が行方不明になった件について話し合っていた。
タルマンの霊力では、ダイヤ姫がベルツとシエールの反逆者によって窮地に陥っていることはわかったが、その場所まではわかりかねていた。タルマン、ハルナ、エクスは改めて神勅を乞いに玉の宮へ参拝に出かけていった。
後に残っていた左守の元に、三五教の万公たち一行が見えたとの報告が入った。左守はてっきり治国別や弟子たちも一緒だと思ったので喜んだが、使いのトマスが見に行くと、宣伝使は万公一人であり、玉置村から来たという三組の夫婦一行であった。 |
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04 | 21 | 嬉涙 | 〔1429〕 | 左守は仕方なく、万公たち一行を奥の間に招き入れた。万公は、玉置村の三組の新夫婦が新婚旅行がてら玉の宮に参拝し、その帰り道に挨拶に立ち寄ったのだと左守に説明した。
万公がスガールのような庄屋の娘と結婚するはずがないと疑う左守に対して、スガールは万公と確かに結婚したと証言した。
そして、バラモン軍に捕まっていた自分を治国別一行が救出してくれたが、その中でも万公は、実は万公別といって治国別の師匠であり、わざと部下に化けてひょうきんの事を言っているのだと挨拶した。左守はこれを聞いて、自分の見違いの詫びを述べた。
万公は、ダイヤ姫が行方不明になっていることを見通して見せた。そして玉の宮に参拝中エンゼルが降り、ビクトリヤ王の病気はベルツとシエールの怨霊の仕業であり、ダイヤ姫も二人に苦しめられているが、四人の修験者に助けられて無事に戻るだろうとの託宣があったことを伝えた。
万公は、自分が入城したとたんに、ベルツとシエールの怨霊は神徳を恐れてすでに逃げ出したので、ビクトリヤ王もすぐに回復されるだろうと告げた。
左守は万公に感謝を述べたが、ふと、アーシスがどこともなく息子ハルナに似ていることに気が付いて声をかけた。万公は、左守が昔、若気の至りで下女に産ませた息子・モンテスがアーシスであることを明かした。
左守はモンテスを里子に出してしまったことを悔いていたので、親子の再会を喜び二人は涙にむせた。そして万公から、アーシスの妻となったお民が、ビクトリヤ王の落とし子であると聞いて驚いた。
そこへカルナ姫が、ビクトリヤ王の病気が快癒したとの報せをもってやってきた。左守はうれし涙にかきくれて大神に感謝を述べた。 |
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04 | 22 | 比丘 | 〔1430〕 | 左守は、万公たち六人の応接をトマスに命じて、いそいそとして刹帝利の居間に伺った。左守は、万公が病気の原因とダイヤ姫の行方を知らせにやってきて、その霊力で刹帝利の病気も快方に向かったことを報告した。
そして自分の落とし子モンテスと、刹帝利の落とし子玉手姫が夫婦となって、一緒にやってきていることを告げた。ビクトリヤ王の希望により、王妃ヒルナ姫は、万公一行を刹帝利の居間に迎えた。
ビクトリヤ王は、お民となった玉手姫と親子対面し、涙にくれていた。そこへタルマン、ハルナ、エクスがやってきて、四人の修験者がダイヤ姫を送ってきたことを奏上した。
ダイヤ姫は、父王の病気平癒のために照国山の清滝に祈願を凝らしに行ったところ、ベルツとシエールに出くわして悩められ、そこにやってきた四人の修験者たちに救われたことを報告した。
刹帝利は娘を救ってくれた四人に礼を述べ、しばらく休息するように勧めた。治道居士は、自分は元バラモン軍将軍の鬼春別であると刹帝利に申し出て、他の三人も久米彦、スパール、エミシであることを明かした。
そして自分たちが治国別の教導によって改心した物語の一部始終を語って聞かせた。刹帝利をはじめビクトリヤ城の一同はあっとばかりに驚き、しばし言葉も出なかった。
刹帝利は二人の娘たちとの巡り合いにうれし涙をうかべ、三五教の大神に感謝の祈願を奏上した。左守も生き別れの息子との嬉しさに、刹帝利に倣った。ハルナはモンテスと兄弟の名乗りを上げ、ダイヤ姫も玉手姫と姉妹の面会を喜んだ。
治道、道貫、素道、求道の四人の修験者は、刹帝利の依頼によって玉の宮の守護役になった。頭を丸めて三五教を四方に宣伝し、各地に巡錫して衆生済度に一生を捧げることになった。
後世、頭髪を丸め衣を着て宣伝する聖者を比丘と称えることになったのは、ビク国の玉の宮の守護者たちがその始まりである。 |
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