巻 | 篇 | 篇題 | 章 | 章題 | 〔通し章〕 | あらすじ | 本文 |
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- | - | - | 舎身活躍 巳の巻 | - | 本文 | ||
- | - | - | 序文に代へて | - | 人種、地域、古今を越えて神示のままに口述編纂した珍書は、この物語のほかには求めることはできない。そのために一般読者の批評の種となっているのは当然のことかもしれない。
釈迦の教説、キリストの努力はもはや今日では人心を善導する力なく、偽善者が夜を欺くための材料にすぎなくなっているように見える。世界の動乱の大勢を見れば、神柱である人間として生まれ出た責任の大なるを覚らざるを得ない。
欧州の大戦はひとたび沈静したが、天下はふたたび累卵の危機に瀕し、経済は衰退し人心の悪化がそれに伴い至っている。世界の人類はこの現状に救世の福音を望んで久しい。
仁慈無限の大神は天下万類のために綾の聖地に降り給い、神の僕と選ばれた瑞月の肉の宮を借りて、もって救世の福音を宣旨し給うたのがこの霊界物語です。天下を憂うる志士淑女は心をひそめて御神慮のあるところを御探究あらんことを希望する次第です。 |
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- | - | - | 総説に代へて | - | 霊界には神界、中界、幽界の三大境域がある。神界は神道家の称える高天原であり、仏者のいう極楽浄土、キリスト教徒のいう天国である。
中界は神道の天の八衢、仏教の六道の辻、キリスト教の精霊界である。
幽界は神道の根の国底の国、仏教の八万地獄、キリスト教の地獄である。
天の八衢は高天原ではなく、根底の国でもない。両界の中間に介在する位置にあり、中間の情態である。人が死後、すぐに至るべき境域で、いわゆる中有である。
中有にあることやや久しくして、現界にあったときの行為の正邪により、ある者は高天原に上り、ある者は根底の国へ落ちていく。
しかし人の霊魂中にある真善美が和合するときは、その人は直ちに天国に上り、霊魂中にある邪悪と虚偽が合致したときは、その人はたちまち地獄に落ちるものである。
人間が死すと、神は直ちにその霊魂の正邪を審判し給う。肉体のときに朋友知己、夫婦、兄弟、姉妹となりしものは、神の許可を得て天の八衢において会談することができる。しかしいったんこの八衢で別れた時は、高天原においても根底の国においても、再び相見ること、相識こともない。ただ同一の信仰、愛、性情に居ったものは、天国においても行くたびも相見相識ることができる。
直ちに高天原に上るものは、その人間が現界にあるときに神を知り信じ、善導を履行し、霊魂が神に復活してすでに準備ができていたからである。内心悪を包蔵し、自己の凶悪を装い、不信仰にして神の存在を認めなかったものは直ちに地獄に墜落し無限の永苦を受けることになる。
死後に高天原に安住し霊的生涯を送るということは、世を捨てて身体に属する情欲を離脱しなくてはならない、という人がある。しかし天国はそのようにして上り得るものではない。
世を捨て、霊に住み、肉から離れようと努めるものは、かえっていっそう悲哀の生涯を修得し、高天原の歓楽を摂受することはとうていできるものではない。人は各自の生涯が死後にもなお留存するものだからである。
高天原に上って歓楽の生涯を永遠に受けようと思うのなら、現世において世間的の業務を執り、その職掌を尽くし、道徳的民文的生涯を送り、かくして始めて霊的生涯を受けなければならない。
内的生涯を清く送ると同時に、外的生涯を営まないものは、砂上の楼閣のごときものである。あるいは次第に陥没し、あるいは壁落ち床破れ崩壊し、傾き覆るがごときものである。 |
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01 | 00 | 波瀾重畳 | - | 本文 | |||
01 | 01 | 北光照暗 | 〔1126〕 | 北光神は白髯を撫でながら、セーラン王やヤスダラ姫、竜雲たちを集めて神界のご経綸や神示について、綿密な解釈を与えていた。
北光神は、神諭は微細なところに至るまで密意が存在しているため、普通の知識や学問の力ではとうてい真に理解されることはない、と説いた。
主なる神が大空の雲に乗って来る云々という神示も、『教えの聖場の終期に当たりて、信と愛とまた共に滅ぶる時、救世主は神諭の内意を啓発し、神界の密意を現し給う』ということであると説いた。
世知に長けた者たちは、誰が神界を探査してこれらのことを語ることができようか、できるはずがない、と主張する。我(北光神)は常に霊魂を清めて天人と交わり、正しい神諭の理解を天人と相語り合って得たのである。
神界から天人と言語を交換することを許され、その真相を天下万民に伝え説き諭すことに努めているのは、無明の世界を照破し、不信の災いを除き去るためである。
たとえ神諭に天地が覆る、泥海になる、人間が三分になると示されてあっても、めまいが来るとあっても、これを文字そのままに解すべきものでない。すべて内義的、神界的、心霊的に解すべきものである。
そうでなくてはかえって天下に害毒を流布し神慮を悩ませることになる、と厳に説いた。ヤスダラ姫、竜雲その他一同は北光神の教えを聴聞し、感謝の涙に暮れた。
北光神は平素の落ち着きにも似ず、セーラン王一同はイルナの城に乗り込んで邪神を言向け和すときが来たと出陣を急がせた。
セーラン王は北光神の命を拝承し、決意の歌を歌うと駒にまたがった。一行七人は北光神夫婦に別れを告げ、狼の群れに山路を送られて高照山を降り、イルナの都を指して進んで行く。 |
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01 | 02 | 馬上歌 | 〔1127〕 | 高照山の岩窟を後にして、セーラン王の一行はイルナの都に向かって馬を進める。途上、セーラン王は馬上にてこれまでの経緯の述懐し、自分の罪を懺悔し神の教えと誠に基づいた国づくりへの決意を歌った。
ヤスダラ姫は、神の清めによって自分を覆っていた恋の執着の雲もすっかり払われたことを歌い、イルナの都の立て直しへの決意を明かした。
竜雲も馬上にてこれまでの自身の経緯の述懐を歌った。竜雲は急坂を急ぎ行く一行に休息を提案し、王たちもこの言葉に従いしばし息を休めることになった。 |
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01 | 03 | 山嵐 | 〔1128〕 | 照山峠の頂上に登りついたセーラン王の一行は、眼下の原野を見下ろし感慨無量の気に打たれてため息をついていた
そこへシャールに派遣されたヤスダラ姫捜索隊の五人の騎士が馬で登ってきた。騎士はヤスダラ姫を発見し、テルマン国のシャールの館へ帰るようにと声をかけた。
ヤスダラ姫はシャールの不義やひどい仕打ちを上げて、決してシャールの下へは帰らないと騎士に伝えた。
騎士コルトンは力づくでヤスダラ姫を捕えて連れて行こうとしたが、レーブはたちまち騎士たちを投げ飛ばし、コルトンを蹴り倒してしまった。
コルトンは足の痛みが回復すると、四人の騎士を連れて一目散に逃げ出してしまった。王は、シャールの追っ手が徘徊していることに警戒心を抱き、一行は馬を下りて坂を下っていくこととなった。 |
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01 | 04 | 下り坂 | 〔1129〕 | レーブは出まかせの歌を歌いながら一行の最後尾について坂を下っていく。テームスも滑稽な歌を歌いながら下っていく。
一行は峠の麓に下りつき、谷を流れる清水にのどの渇きをいやししばし休憩した。一同は再び馬上の人となり、くつわを並べて鈴の音も勇ましく、木枯らし吹きすさぶ大野原を都をさして駆けていく。 |
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02 | 00 | 恋海慕湖 | - | 本文 | |||
02 | 05 | 恋の罠 | 〔1130〕 | イルナの都の神館の奥の間には、黄金姫、清照姫、セーリス姫の三人が鼎坐してひそびそ話にふけっている。右守のカールチンが計略に乗ってやってくるかどうかと女三人、雑談を交えている。
そこへびっこをひきながらカールチンがやってきた。カールチンは、ヤスダラ姫に化けた清照姫にでれた様子も隠さずに話しかける。
黄金姫はそっとその場をはずし、セーリス姫も退室しようとしたとき、転んで舌を切ったユーフテスがやってきた。ユーフテスはセーリス姫に介抱されて二人は退場する。
清照姫はカールチンに対して、セーラン王が退位してカールチンが王位に就いたら、自分を正妃にするようにと要求した。カールチンは自分にはテーナ姫という長年連れ添った女房があると難色を示した。
清照姫は、大黒主の前例を出してカールチンに選択を迫った。カールチンは清照姫を正妃とすることを承諾してしまった。
また清照姫は、大黒主の援軍を辞退してハルナの都に返し、逆にイルナ国から援軍を出すようにと進言した。カールチンはこれも承諾してしまい、ヤスダラ姫の館を後にした。 |
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02 | 06 | 野人の夢 | 〔1131〕 | カールチンは自宅に帰り、奥の間に一人悦に入っている。そこへユーフテスとセーリス姫が訪ねてきた。セーリス姫は、姉のヤスダラ姫に代わってカールチンの気持ちを確かめに来たのだという。
カールチンがヤスダラ姫(清照姫)に執心であることを見届けると、ユーフテスとセーリス姫は帰って行った。
テーナ姫が帰ってきたが、カールチンはそっけなく出迎えた。テーナ姫は、カールチンが数日前からそわそわして様子が違うことから、早速若い女と浮気したことに気づいてカールチンに掴みかかった。
テーナ姫は荒れ狂い修羅場が展開したが、カールチンはあくまで落ち着いてあしらっていた。テーナ姫はとうとう、自分を送ってきたマンモスを連れて右守の館を出て行ってしまった。
後に右守は、テーナ姫を追い出す手間が省けたとほくそ笑んでいる。するとやにわに戸を開けてテーナ姫が入ってきてカールチンに襲い掛かってきた。
と見るや、これは夢であった。カールチンはテーナ姫に揺り起こされて目を覚ました。 |
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02 | 07 | 女武者 | 〔1132〕 | カールチンはテーナ姫と王位に就く願望成就の前祝の酒を酌み交わしていた。カールチンは、自分の王位簒奪が争いをせずに成就したので、反乱討伐で多忙の大黒主に援軍を出そうとテーナ姫に提案した。
カールチンはテーナ姫をおだてて、大黒主への援軍の大将に任命してしまった。テーナ姫は軍を引き連れて遠征の途に上ることになった。
テーナ姫を遠征に出したカールチンは、出勤日だから登城するとサモア姫に留守を預け、共も連れずに一人で城内に進んで行った。 |
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02 | 08 | 乱舌 | 〔1133〕 | セーリス姫は、カールチンの王位簒奪計画を防ぐためとは言いながら、心にそぐわないユーフテスに色目を使って仲を偽ってきたことに心を痛め、二弦琴を弾きながら歌っている。
そこへユーフテスがそっとやってきた。ユーフテスは、清照姫の計略が当たり、カールチンが大黒主の援軍を断って返したことを報告にやってきた。
セーリス姫は自分の心を押さえてあくまでユーフテスに気がある風を装っている。ユーフテスは、これまで自分はセーリス姫にだまされているのではないかという疑いの心があったが、セーリス姫の真心がわかったと言って感動を露わにした。
ユーフテスが有頂天になっていると、扉の外からセーリス姫が呼びかけた。ユーフテスは、自分が今ここでセーリス姫と話をしているのに、不審を抱いた。 |
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02 | 09 | 狐狸窟 | 〔1134〕 | 室内のセーリス姫は、室外のセーリス姫を呼んで招き入れた。外から入ってきたセーリス姫に突き飛ばされて、ユーフテスは倒れた。
二人のセーリス姫は、ユーフテスを介抱しながら自分たちは狐の化けものだ、どちらも本物だとユーフテスをからかっている。ユーフテスは両方から腕を引っ張られて往生し、金輪際女には懲りたと白旗を上げる。
女は白狐の本性を現して、太い白い尻尾をユーフテスの前に現した。ユーフテスはあっと叫んでその場に転倒してしまった。
白狐の旭はセーリス姫にお辞儀をしてどこかに去って行った。セーリス姫は自分の顔を狐の顔に化粧し、ユーフテスの面分に清水を吹きかけた。ユーフテスは気が付いて起き上がり、セーリス姫の顔を見てびっくりり、廊下をはって逃げ帰ってしまった。 |
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03 | 00 | 意変心外 | - | 本文 | |||
03 | 10 | 墓場の怪 | 〔1135〕 | 右守はいい機嫌で歌を歌いながら城への道を歩いていると、セーリス姫と白狐におどかされて逃げてきたユーフテスに突き当てられ、道の真ん中に倒れてしまった。
カールチンは怒って怒鳴りつけた。ユーフテスはこの声に、突き当たったのが右守であることを覚った。ユーフテスは白狐におどかされて意味のわからないことを右守に報告している。
カールチンはユーフテスが肘鉄を食わされたのだろうと意にも留めずに城に行こうとするのを、しがみついて止めた。とうとう止めきれずに手を放したとたんに、カールチンは勢い余って小栗の森に飛び込んだ。
この森にはイルナの城に仕えて居た先祖の墓があった。カールチンは石塔に頭を打って倒れてしまった。
気が付くと、あたりは夕闇となっていた。カールチンは石塔の後ろから狸に話しかけられ、追い払った。
やがて提灯をともしたヤスダラ姫が、小栗の森の墓場の道をやってくるのが見えた。カールチンは、大きな眼をした古狸ことをヤスダラ姫に話した。
ヤスダラ姫はこんな眼か、と大声を出した。カールチンが見ると、ヤスダラ姫の口は耳まで裂け、蛇の目傘のような目をむいていた。カールチンは驚いて闇の道をイルナの城門さして逃げていく。 |
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03 | 11 | 河底の怪 | 〔1136〕 | 右守のカールチンは墓場に迷い込み、怪物におどかされて卒倒した。目を覚まし、十五夜の月の光をたよりに、あくまでヤスダラ姫に会おうと宵闇の道を駆け出した。
入那川の橋までやってきた。いつもは濁っている川が不思議にもこのときは一丈あまりある川底まで透き通って見える。カールチンは思わず覗き込むと、妻のテーナ姫が水底をもがきながら流れてきた。
不意に背後にユーフテスが現れ、妻のテーナ姫をなぜ救わないのだ、とカールチンをなじる。川底のテーナ姫の叫び声は泡となって上ってきて、これもカールチンの不道徳をなじる。
するとヤスダラ姫も川底を流れてきて、テーナ姫と同じところに沈んだ。カールチンはヤスダラ姫は救おうと川に飛び込もうとする。
カールチンはユーフテスが止めるのを振り切って着衣のまま川に飛び込んだ。ユーフテスと見えた男は白狐の姿になってどこかへ行ってしまった。
右守館の守備ハルマンは、カールチンの帰りが遅いのを心配して探しにやってきた。イルナ川の橋まで来ると、川底から浮き上がってくる影があるので飛び込んで救い上げれば、主人のカールチンであった。
カールチンは気が付き、ヤスダラ姫はどこだと問いかける。ハルマンはそんな人はいないと答えてカールチンを抱えて館に戻った。 |
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03 | 12 | 心の色々 | 〔1137〕 | カールチン館の奥の間では、ハルマン、サマリー姫、カールチンがひそびそ話にふけっている。ハルマン、サマリー姫はカールチンのこの頃の挙動を心配してそれとなく注意を促した。
二人はカールチンがこの頃考えを変えて、ヤスダラ姫をひいきするのでカールチンに考えを問うた。カールチンは、セーラン王の妃はあくまでサマリー姫だと明言した。
そして、ヤスダラ姫は自分の女房になるのだ、セーラン王が自分に位を譲ることを約束したのだと二人に明し、自分は将来の刹帝利だと威張り散らした。
そこへ青い顔をしてユーフテスがやってきて、二人の美人が自分を責めると意味のわからないことを口走り、カールチンに城内は妖怪変化の巣窟になってしまったとまくしたてた。
カールチンはユーフテスの報告を一笑に付し、自分の天眼力にかかれば妖怪などすぐさま退治してやると気を吐いた。
サマリー姫も、これ以上カールチンを刺激しないように静かに退場した。ハルマンとユーフテスも帰ると、カールチンはまた身なりを整え、裏門からこっそり一人で城内を指して進んで行った。 |
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03 | 13 | 揶揄 | 〔1138〕 | イルナ城の奥の間には黄金姫、清照姫、セーリス姫が鼎坐になって何事か笑い興じている。セーリス姫はユーフテスを、清照姫はカールチンを手玉に取り、カールチンの野望を見事にひっくり返しつつあることを笑っていた。
すると受付から、カールチンがやってきたと報告があった。黄金姫はニタッと笑って王の部屋に姿を隠した。 |
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03 | 14 | 吃驚 | 〔1139〕 | カールチンは意気揚々と奥の間に入ってきた。セーリス姫は白狐につままれたカールチンをひとしきりからかうと、座に就くようにと招き入れた。
ヤスダラ姫に化けた清照姫は、わざとにつれない態度を取ってカールチンをじらす。セーリス姫は座を立って二人を部屋に残した。
あからさまに自分の女房になるようにと迫るカールチンに対し、清照姫はやんわり拒絶する。カールチンが心変わりをなじると、隣の王の間から黄金姫が王の声色で咳払いをなした。
清照姫は、隣の部屋には王が控えているのだから、発言を慎むようにとカールチンに注意した。カールチンは王がいるからわざとヤスダラ姫は自分につれないことを言ったのだと合点し、機嫌を直した。
すると城の受付が、今セーラン王とヤスダラ姫が城に戻ってきたと注進に来た。カールチンは不審に思い、その場にあぐらをかいて思案に沈んだ。 |
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04 | 00 | 怨月恨霜 | - | 本文 | |||
04 | 15 | 帰城 | 〔1140〕 | 本物のセーラン王の一行が奥の間に進み入ると、清照姫とカールチンの二人が黙然としてうつむいている。セーラン王は自分の居間になぜ右守がいるのかと詰問した。ヤスダラ姫は自分が二人いることに驚き、黄金姫はどこにいるかと問いただした。
清照姫は、黄金姫は王の間に潜んでいると自分たち母娘のたくらみを明かした。カールチンは自分が恋のために盲目となっていたことを恥じ、王の前に赦しを乞うた。
黄金姫は王の間から出て姿を現し、王の無事の帰城に喜びを現した。一同はそれぞれ、和歌で述懐を述べ合った。 |
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04 | 16 | 失恋会議 | 〔1141〕 | 右守館の奥の間では、サマリー姫とサモア姫が右守の行動を怪しみ、心を痛めながら善後策を話し合っていた。
サモア姫とマンモスの探偵によって、右守がヤスダラ姫に恋慕してうつつを抜かしていることはサマリー姫にも報告されていた。また、ヤスダラ姫とカールチンの間を取り持ったのはのはユーフテスであることも知られていた。
二人はマンモスを呼び、カールチンが今どこにいるかを探ってくるようにと言いつけた。マンモスは、今日はサモア姫と婚礼を上げる日だと勝手に思い込んでおり、サモア姫に約束の履行を迫った。サモア姫はそんな約束をした覚えはないとマンモスを退けた。
サモア姫に振られたマンモスは、捨て台詞を残して去ったが、傷心のあまり犬猿の仲であったユーフテスの館を尋ね、自分の恋の顛末を打ち明けた。白狐のセーリス姫になぶられたユーフテスも恋の傷心を分かち合った。
そこへカールチンが血相を変えてやってきた。カールチンは自分が偽のヤスダラ姫にだまされていたことを明かした。
三五教の宣伝使たちにだまされていたことを知った三人は、今晩城内に忍び込んで仇たちを殺害しようと謀議をこらしていた。ユーフテスの下女チールは三人の計画を立ち聞きしてしまい、サマリー姫にすっかり報告した。 |
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04 | 17 | 酒月 | 〔1142〕 | 冬のはじめ、イルナ城の門番のミルとボルチーは、日没後の無沙汰に酒を飲んで天下について議論をなし、いつしか脱線話になっていった。
ミルは酔いつぶれてしまい、ボルチーは門を開けて月下に涼んでいた。そこへカールチンが、黒装束の武装した部下十数人を連れてやってきた。マンモスは、ボルチーに開門を命じた。
ボルチーがすでに門は開いていると答えると、黒装束の一行は城内に進んで行った。 |
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04 | 18 | 酊苑 | 〔1143〕 | カールチンの一党は王の居間に侵入し、大音声で怒鳴りつけた。黄金姫、清照姫、セール姫その他の近侍は武器を取って戦ったが、セーリス王たちは一人残らず打ち取られてしまった。
カールチンらは王たちの死骸をイルナ川に投げ込み、奥殿で勝利の酒宴を開いた。一同が先勝を誇りあっていると、サマリー姫、サモア姫、ハルマンがやってきた。
その場に出現したセールス王の幽霊によってカールチンたちが王を殺害したことを知ったサマリー姫とサモア姫は、カールチンに打ってかかった。
カールチンは娘のサマリー姫を切り殺した。しかし戦いの中、切られたはずのサマリー姫は元通りとなり、カールチンの部下たちを倒してしまった。
そこへ北光神が歌う宣伝歌が聞こえてきた。気が付けば、カールチン、ユーフテス、マンモスは城内の庭先の土の上に坐して幻覚を見せられていただけであった。門番のミル、ボルチーは酔いが覚めると、右守たちが庭土の上に泥酔していることを見つけて驚き、奥殿にかけいった。 |
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04 | 19 | 野襲 | 〔1144〕 | イルナ城の奥の間には、黄金姫、清照姫、ヤスダラ姫、セーリス姫の四人が火鉢を囲みながら神話にふけり、やがて話題はカールチンの身の上に移った。
黄金姫と清照姫は、カールチンは本当に改心したわけではないだろうから、用心しなければならないと警戒している。
ヤスダラ姫はイルナの城に暗闘が絶えないことを嘆いた。黄金姫は、これもセーラン王の治世が開けるために通らなければならない道であろうと諭した。そして右守も同じ神様の分霊であり、善導しなければならないと自ら戒めた。
そこへセーラン王は竜雲他を引き連れて現れ、黄金姫たちに挨拶し感謝の意を述べた。一同はそれぞれ述懐の歌を歌った。
にわかに玄関口が騒がしくなり、レーブが視察に出た。すると右守をはじめユーフテス、マンモス、その他十数人が地面に坐して酒を飲み、歌ったり刀を引き抜いて空を切ったり駆けまわったりしている。
レーブはこのありさまを王に復命した。王は、やがて目が覚めるまでそのままにしておくのがよかろうと答えた。一同はそれぞれの寝室に入って夜を明かした。 |
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05 | 00 | 出風陣雅 | - | 本文 | |||
05 | 20 | 入那立 | 〔1145〕 | サマリー姫は、カールチンたちが夜が更けても帰ってこないので、サモア姫、ハルマンその他を引き連れてイルナ城にやってきた。東雲の空のもと、カールチンたちが霜柱の立つ庭の上にのびているのを見つけた。
揺り起こされたカールチンたちは揺り起こされて不審の念に打たれている。そこへ竜雲、レーブ、カル、テームスがやってきて、セーラン王が奥で待っていることを伝えた。
王の前に出たカールチン、ユーフテス、マンモスの三人は、どのような沙汰があるかと震えていた。セーラン王は三人に右守館で百日間の閉門を命じた。そして清照姫、セーリス姫、サモア姫には、百日の間三人の世話をするように申し付けた。
異議を唱える清照姫に対し、セーラン王は、権謀術数で三人をだました報いだと理由を告げた。しかしカールチンは、王位簒奪を企んだ自分の罪を閉門で許してくれた王の慈悲に感謝を述べ、清照姫ら三人の女性の付添は必要ないと断った。
一同はそれぞれ述懐の歌を歌った。
ヤスダラ姫は神の教えに照らされてセーラン王を恋い慕う心を転じ、宣伝使になることを誓った。そして黄金姫の一行と共にハルナの都に進むことになった。
セーラン王は今まで忌み嫌っていたサマリー姫を深く愛し、夫婦ともにイルナの城に三五の教えを布き、国家百年の基礎を固めることとなった。
カールチンは改心し、元の右守に任じられた。テーナ姫の凱旋を待って夫婦睦まじく王に仕えた。セーリス姫は王の媒酌によってユーフテスの妻となり、サモア姫もマンモスの妻となってイルナ城に仕え、子孫繁栄した。
黄金姫と清照姫は、ヤスダラ姫およびハルマンと共にハルナ城に向かった。レーブ、カル、テームス、竜雲は別に一隊を組織して各地に三五教を宣伝しながらハルナの都を指して進んだ。リーダーは王の忠実な臣下となって側近く使えることになった。 |
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05 | 21 | 応酬歌 | 〔1146〕 | 北光神は、宣伝歌を歌いながらどこからともなくイルナ城の一同の前に現れた。
神が人間をこの世に下し給うたのは、天国浄土の繁栄を開くためである。
選び清めた魂が高天原に現れて霊的活動をなし、天男天女が産み落とした霊子が地上世界に産み落とされ、人間界の夫婦に巻き付けられる。
人間はこうして神の御子として地上に生まれ、教育を受け、霊肉共に発達し、この世を捨てて天国の御園に帰るのである。
肉体とは、天人の霊子が発育を遂げる苗代なのである。種がまかれ苗が育ち、天国に移植される。そのとき人は現界を離れて天に復活し、天国浄土の神業に参加する時なのである。
神の御国を天国浄土の写しとしてこの世に建設し、短きこの世を楽しみつつ、元津御霊を健やか磨き育て、神の国に帰るのである。
イルナの国のセーラン王をはじめ、右守、ヤスダラ姫らは三五教の教えを聞いて、ようやく人生の尊き使命を悟り、改心することができたことのうれしさ、めでたさよ。
一同は北光神を最敬礼をもって迎えた。北光神は莞爾として一同に対して改心ができたことに対する祝歌と教歌を歌った。一同はこれに対して述懐の歌と改心の覚悟を表す歌を歌って答えた。
セーラン王はこれまでのいきさつを述懐しつつ、自ら改心後の治世に対する思いを読み込んだ宣伝歌を歌った。 |
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05 | 22 | 別離の歌 | 〔1147〕 | 黄金姫、清照姫らは別れにあたって、セーラン王たちイルナの国の人々に述懐と訓戒の歌を歌った。
ヤスダラ姫は、三五教の宣伝使となる覚悟を歌った。
また右守司の従者ハルマンは、実は言依別命の命で身分を隠し、イルナの国に潜入していた三五教の宣伝使・駒彦であると素性を明かした。
それぞれ一同、別れに当たって抱負と覚悟を明かす歌を歌った。 |
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05 | 23 | 竜山別 | 〔1148〕 | 竜雲は自らのこれまでの経緯を歌い、悪事をなしていたウラル教時代から三五教宣伝使への改心を歌った。そして名を竜山別と改めて、宣伝使の道を進んで行く覚悟を歌った。
黄金姫、清照姫、ヤスダラ姫らは竜雲の覚悟を祝す歌を歌って応えた。 |
本文 | ||
05 | 24 | 出陣歌 | 〔1149〕 | カルとレーブはこれまでの経緯を述懐の歌に表し、自らの今後の宣伝の旅の決意を歌った。そして北光神、イルナ国の人々に別れを告げた。 |
本文 | ||
05 | 25 | 惜別歌 | 〔1150〕 | テームスはこれまでのイルナ国の政変を述懐し、竜山別について月の国を宣伝に回る覚悟を歌った。 |
本文 | ||
05 | 26 | 宣直歌 | 〔1151〕 | 竜山別は滑稽な歌を歌って口を切り、自分は実ははるか昔に言霊別の御子として生まれた竜山別の生まれ変わりであると明かした。かつて国照姫の命に背いて悪神に従った自分も、今日改めて司となることができたと述懐した。
一同はお互いに別れを惜しむ歌を交わし、それぞれ宣伝の旅に出立することとなった。 |
本文 | ||
- | - | - | 余白歌 | - | 本文 |