巻 | 篇 | 篇題 | 章 | 章題 | 〔通し章〕 | あらすじ | 本文 |
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- | - | - | 霊主体従 丑の巻 | - | 本文 | ||
- | - | - | 序 | - | 本書は、王仁が明治三十一年旧二月九日から十五日に至る前後一週間の荒行と、帰宅後一週間の床縛りの修行を神界から命ぜられ、その間に霊魂が現幽神三界の消息を実見した。その物語である。
霊界は時間空間を超越しているので、古今東西の出来事は平面的に霊眼に映じる。
一部でも読んでいただき、霊界の消息の一部を窺い、神々の活動を幾分でも了解してもらえれば、後述の目的は達せられる。
本巻はシオン山攻撃の神戦を描いた。国祖大神が天地の律法を制定し、天則違反で稚桜姫命が幽界にやらわれた経緯を述べている。
『三千世界一度に開く梅の花、艮の金神の世になりたぞよ。須弥仙山に腰を掛け、鬼門の金神、守るぞよ』との神示は、ヨハネの身魂というべき教祖に帰神された、最初の艮の金神様の救世の一大神言であった。
口述者はこの神言を読むたびに、無限絶対、無始無終の大原因神(おほもとがみ)の洪大なご経綸と抱負の雄偉さに、自分の心の海面に真如の月が光り輝き、慈悲の太陽が宇宙全体を斉しく公平に照らし、全世界の闇を晴らすような心持になるのである。
また、『三千世界一度に開く』という宇宙の経綸を堅く完全に言い表している。そして句の終わりに『梅の花』とつづめている。あたかも白扇を広げて涼風を起こし、梅の花の小さな要をもって之を統一した如く、至大無外、至小無内の神権発動の真相を説明している。
『須弥仙山に腰をかけ、艮の金神守るぞよ』とは、偉大な神格の表現である。そのほかにも、大神の帰神の産物としては、三千世界の神界、幽界、現界に対し、神祇、諸仏、人類に警告を与え、将来を示して懇切至らざるはないのである。
口述者は神諭の一端に解釈を施し、大神の大御心がどこにあるかを明らかに示したく、前後ほとんど二十三年間の久しきにわたった。しかしながら神界では、その発表を許さなかったために、今まで神諭の文章の意義については、一言半句も説明したことはなかった。
しかし大正十年の旧九月八日にいたって、突然神命が口述者の身魂に下り、神から開示した霊界の消息を発表せよ、との教えに接した。神の教えに、神が口を借りて口述するので、筆録させろ、とのことだった。 |
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- | - | - | 凡例 | - | 本文 | ||
- | - | - | 総説 | - | 神界における神々の着物について
国治立命のような高貴の神は、たいてい絹物、上衣は紫の無地。下衣が純白。中の衣服は紅の無地である。
国大立命は青色の無地の上衣、中衣は赤、下衣は白色。
稚桜姫命は上衣は水色、種々の美しい模様があり、上中下とも松や梅の模様がついた十二単衣の服装である。
大八洲彦命、大足彦は、上衣は黒色の無地、中衣は赤、下衣は白色の無地。
その他の神将は位によって、青、赤、緋、水色、白、黄、紺などいずれも無地の服で、絹、麻、木綿等に分かれている。
冠は八王八頭以上の神々。それ以下は烏帽子をかぶっている。直衣、狩衣。婦神はたいてい明衣。青、赤、黄、白、紫などで、袴も五色に分かれている。
神将は闕腋の胞を来て冠をつけ、黒色の衣服である。神卒は一の字の笠を頭に載せ、裾を短くからげ、手首・足首には紫の紐で結んでいる。
これは国治立命がご隠退する以前の神々の服装であるが、時代が下るにつれて、現界の人々の礼装のような服を着る神々も現れ、神使の最下である金神天狗界では、今日流行の服装で活動するようになっている。
邪神もおのおの階級に応じて正神に化けているが、光沢で判断できる。ただし、邪神も階級が上になると、霊衣・光沢が厚く、判別に苦しむときがある。
人間の精霊は、生者は円い霊衣をかぶっているが、亡者は山形にとがって三角形であり、腰から上のみである。徳が高いものは霊衣が厚く、光沢が強く、人を統御する能力を持っている。
しかし大病人などは霊衣が薄くなり、山形になりかけているものもある。
神徳ある人が鎮魂を拝受し、大神に謝罪して天津祝詞の言霊を円満晴朗に奏上したならば、霊衣は厚さを増して死亡を免れるのである。神の大恩を忘れたときは、たちまち霊衣を剥ぎ取られて幽界に送られる。
大国治立尊というときは、大宇宙一切をご守護されるときの御神名であり、単に国治立尊と申し上げるときは、大地球上の神霊界を守護されるときの御神名である。
また、神様が人間の姿となってご活動になったのは、国大立命、稚桜姫命が最初である。稚桜姫命は、日月の精を吸引した国祖の息吹から生まれた。また、国大立命は月の精より生まれた。
人間も、神々の水火から生まれた神系と、天足彦・胞場姫の人間の祖から生まれた人間の二種類の区別がある。天足彦・胞場姫も、元は大神の直系から生まれたのであるが、神命に背いたという体主霊従の罪によって、差が生まれたのである。
現代はいずれの人種も体主霊従の身魂に堕落しており、神界から見た場合には判別ができないほどになっている。
盤古大神は日の大神の直系であり、太陽界から降誕した。日の大神・伊邪那岐命のご油断によって、手のまたを潜り出て、現今でいうと支那の北方に降った。温厚な正神である。
また、大自在天大国彦は、天王星から降臨した。豪勇な神人である。
いずれもみな、善神界の正しい神であった。しかし地上界に永く住むうちに、天足彦・胞場姫の天命違反によって生じた体主霊従の邪気から生まれた邪霊に憑依され、悪神の行動を取ることになってしまった。
これが、地上世界が混濁し、俗悪世界となってしまった背景である。
八王大神常世彦は、盤古大神の水火から出生した神であり、常世の国に霊魂をとどめている。常世姫は稚桜姫命の娘であるが、八王大神の妃となった。八王大神の霊に感合し、八王大神以上の悪辣な手段で世界を我意のままに統括しようと、体主霊従的な経綸を画策している。
八王大神には、天足彦・胞場姫の霊から生まれた八頭八尾の大蛇が憑依している。常世姫には金毛九尾白面の悪狐が憑依し、大自在天には六面八臂の邪気が憑依してしまった。
艮の金神国治立命の神系、盤古大神の系統、大自在天の系統が、地上霊界において、三つ巴となって大活劇を演じることとなった。
霊界物語第二巻の口述が終わったのは大正十一年旧十月十日午前十時であり、また本日は松雲閣で御三体の大神様を始めて新しい神床に鎮祭することになっていた。
続く第三巻では、盤古大神(塩長彦)、大自在天(大国彦)、艮能金神(国治立命)三神系の紛糾と、国祖のご隠退までの状況を口述する予定である。
(註)本巻において、国治立命、豊国姫命、国大立命、稚桜姫命、木花姫命となるのは、神界の命によって仮称したものです。 |
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01 | 00 | 神界の混乱 | - | 本文 | |||
01 | 01 | 攻防両軍の配置 | 〔51〕 | 竜宮城の防備は固められ、やや安心することができるようになった。しかし邪神たちは、シオン山を占拠することが、竜宮城攻略に有利であると悟って、準備を始めた。
邪神軍の中心となった部将は、棒振彦、高虎姫、武熊別、駒山彦、荒熊彦などであった。その消息を知った斎代彦は、大八洲彦命に邪神軍の動きを報告した。
大八洲彦命は、ただちに十六神将をシオン山に送って、要所を固めさせた。そしてシオン山を堅固な要塞に変えると、山頂の顕国玉が出現した聖跡には、荘厳な神宮を建設し、天神地祇を祭った。
棒振彦、高虎姫、武熊別の三邪神は、盤古大神を奉じて、シオン山を乗っ取ろうと攻め寄せた。この事態に稚桜姫命は、さらに八神将を副将としてシナイ山に派遣した。
シオン山およびシナイ山は、神界経綸上に大きな影響を及ぼす、重要地点である。敵も味方も、この攻防戦では秘術を尽くして戦った。 |
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01 | 02 | 邪神の再来 | 〔52〕 | 竹熊の再来である棒振彦と、木常姫の再来である高虎姫は、八王大神常世彦を謀主として、盤古大神塩長彦の神政にしようと、艮の金神国治立命を退去させようとしていた。その悪念は、竹熊のときよりもいっそう激しくなっていた。
棒振彦・高虎姫は、大八洲彦命の部下に名前を変えて、美山彦・国照姫と偽名を使った。そして奸智に長けた侍女の鷹姫を加えて謀議をこらすことになった。
高虎姫の夫は猿飛彦である。 |
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01 | 03 | 美山彦命の出現 | 〔53〕 | 美山彦とは、大八洲彦命の部下の中でも、とくに信頼されていた智勇兼備の神将である。棒振彦はそれを知って美山彦の名を偽り、高虎姫は美山彦の妻神・国照姫の名を騙ったのである。
本物の美山彦は、ロッキー山に出陣していたが、そのときに竜宮城に、美山彦から、苦戦につきただちに救援軍を送られたし、という密書が届いた。
稚桜姫命は大八洲彦命にはかったところ、美山彦はすでに神命によって安泰山に陣営を築くために出陣していたことから、これは敵の偽計であると見破った。美山彦は移動するにあたって、ロッキー山に兵士の形を岩で作って城塞に立てておいたのであった。
一方、美山彦の危急を聞きつけた竜宮城の諸神将の中には、すでに救援に向かってしまった者もあった。救援軍がロッキー山に着くと、偽美山彦・偽国照姫が出迎え、魔軍に編成されてしまった。
偽美山彦・偽国照姫は、今度は竜宮城が高虎姫の手に落ちたと知らせが入ったので、至急竜宮城を奪い返すべし、と偽ってそのまま竜宮城を襲撃しようとした。
そのとき大八洲彦命は、真正の美山彦とともにロッキー山の麓に現れて、『真の美山彦はここにあり』と大音声に呼ばわった。これで邪神の姦計は破れ、魔軍は西方の海に逃げていった。
棒振彦に騙されていた諸神将は目が覚め、大八洲彦命、美山彦にその不覚を謝罪し、ともに安泰山に出陣した。
その後、魔軍はロッキー山を占領しようとしたが、美山彦が残した兵士の石像から常に火が発せられ、魔軍はめちゃめちゃに悩まされた。棒振彦はついにロッキー山を捨てて高虎姫の陣営に退却せざるをえなくなった。 |
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01 | 04 | 真澄の神鏡 | 〔54〕 | 天使・大八洲彦命は、大足彦、花照姫、道貫彦をして、木花姫命の鎮まる芙蓉山を守らせた。
邪神・棒振彦の化けた美山彦、同じく高虎姫の化けた国照姫、邪神の部下・鷹姫は芙蓉山に登って大足彦に面会を求めたが、大足彦は安泰山に命を奉じて出かけた後であった。
そこで代わりに芙蓉山を守っていた道貫彦に対して、美山彦らは、『竜宮城が邪神・棒振彦の軍によって囲まれて危機に陥り、稚桜姫命は万寿山に逃れた。しかも大八洲彦命も邪神に帰順してしまった』と嘘の危急を報じて、混乱させようとした。
道貫彦と花照姫は、この報を聞いて、真実なら一大事と心ははやったが、部下の豊彦を安泰山の大足彦にまずは知らしめることにした。
大足彦はすでに安泰山で真正の美山彦に面会していたので、怪しんで木花姫命に神示を願った。木花姫命は期するところあり、芙蓉山の守りを固めると、美山彦、大足彦を連れて、稚桜姫命が逃れたという万寿山に向かった。
万寿山には、邪神・杵築姫が稚桜姫命に化けて待っていた。そして、木花姫命・美山彦命、大足彦命一行の労を謝すると、竜宮城に軍を向けて、奪回するように命令を下した。
大足彦は木花姫命から賜っていた、真澄の鏡を取り出して稚桜姫命を照らしてみれば、たちまちバイカル湖の黒竜の姿を暴かれて、黒雲を起こして逃げ去った。
そして、同行した美山彦、国照姫、鷹姫を照らせば、美山彦は棒振彦に、国照姫は木常姫に再来である金毛九尾の悪狐に、鷹姫は大きな古狸の姿を暴かれた。
大足彦は芙蓉山に向かって神徳を感謝し、また邪神の所業に怒りを抑えつつ芙蓉山に帰還した。 |
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01 | 05 | 黒死病の由来 | 〔55〕 | 邪神が美山彦、国照姫の名を騙って活動を始めたため、稚桜姫命の命により、美山彦命は以降、言霊別命と改名し、国照姫も言霊姫と改名した。
さて、長白山の山腹に古くから鎮まる智勇を兼ね備えた神将に、神国別命、佐倉姫の二神人があった。彼らは国治立命のご系統で、木星の精が降ってここに顕れた神人であった。両神は力を蓄えつつ、天使の来迎を待ちわびていた
言霊別命は神国別命一派を地の高天原に招致しようと自ら赴いた。神国別命は承諾し、部下に長白山を守らせて、自ら地の高天原の部将となることを承諾した。
ここに美山彦命は神国別命の動静を察知し、長白山に言霊別命も滞在しているときを狙って多数の邪鬼・悪竜・毒蛇を派遣して急襲を仕掛けた。また、邪神軍は死海の黒玉を爆発させて、山の周囲に邪気を発生させた。この邪気は無数の病魔神となって襲い掛かり、神国別命の神軍には死者が続出した。
佐倉姫は天の木星に向かって救援を請い、神言を奏上した。すると木星から一枝の榊が降ってきた。佐倉姫はこの榊に神霊を取り掛けて左右左に打ち振ると、長白山の邪気は東風に散逸した。
ここに神軍は蘇生した。神国別命は神恩に感謝し、神授の榊葉を部下の豊春彦に授け、長白山を守らせた。そして神国別命、佐倉姫は地の高天原に参向することになった。 |
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01 | 06 | モーゼとエリヤ | 〔56〕 | 言霊別命はまた、稚桜姫命、大八洲彦命の命により、オコツク海方面の猛将・岩高彦を招くことになった。
しかし岩高彦は、オコツク海方面には邪神が多くはびこっているため、自分がこの場所を開けて地の高天原に参向するわけには行かない、代わりに部下の滝津彦を遣わそう、と提案した。
言霊別命は、その言を地の高天原に奏上しようと述べた。そこへ、天の一方から雷鳴が一時に百も轟くほどの大音響を発して、黒雲を押し分けて降ってくる巨神人があった。たちまち天に群がる悪竜・邪鬼を、左右の鉄棒で打ち悩ませると、降ってきた。
そして、自分は天神の命によって国治立命の補佐を命じられた神である、と明かした。この神の名を天道別命といい、後のモーゼの神となって神則を定めた神である。またの名を天道坊と言う。
また、西方の海から雲霧立ち上り、中天で天地を輝かす明るい玉となって大陸を越えてオコツク海に落ち、海面に渦巻きを立てると、その波間から現れた巨神人があった。これを天真道彦命、またの名を天真坊と言う。
天真坊は、国治立命が天地を創造した際に、神命を奉じて海中に玉となって沈み、神命が下るのを待っていた神である。この混乱期に現れて、予言警告を発して神人を戒める、エリヤの神である。
言霊別命は、天道別命、天真道彦命、オコツク海の部将・滝津彦の三神人を得て、天にも上る心地で相伴って竜宮城に帰還した。 |
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01 | 07 | 天地の合せ鏡 | 〔57〕 | 天使・稚桜姫命は、天使・天道別命に竜宮上を守らせた。天使・天真道彦命と神国別には、地の高天原を守らせた。滝津彦には橄欖山を、斎代彦には黄金橋を守らせた。
後顧の憂いをたつと、稚桜姫命は金竜にまたがり、大八洲彦命は銀竜に、真澄姫は金剛に、木花姫命は劒破の竜馬にまたがって天空を駆け、高砂島の新高山に降った。
高砂の神島は、国治立命の厳の御魂の分霊を隠しおいた聖地である。生粋の神国魂を有する神々が永遠に集う経綸の地であり、神政成就の暁には、この聖地の神司を選抜して使用するという、大神の御神慮である。
しかしながらこの高砂の神島も、国祖ご隠退の後は、七分どおりまで体主霊従・和光同塵の邪神の経綸に汚されてしまっている。
この島の正しい守り神である真道彦命は岩石を打ち割り、紫紺色の透明の宝玉を持ち出して、稚桜姫命に奉呈した。これは、神政成就のときに、ある国の国魂となる宝玉である。
つぎに奇八玉は海底から日生石を献上した。これは、神人出生のときに安産を守る宝玉である。
真鉄彦は谷間から水晶の宝玉を取り出して奉呈した。これは、女の不浄を清める神玉である。
武清彦は山腹から黄色の玉を献上した。これは病魔を退ける。
速吸別は頂上の岩窟を、黄金の頭槌で三回打った。巨巌は分裂して炎と成り、空中で紅色の玉となって火炎を吐き、続いて水気を吐き、雷鳴を起こして妖気を一掃した。この玉も稚桜姫命に献上された。火と水で天地の混乱を清める神宝である。
稚桜姫命一行は無事に宝玉を得て竜宮城に帰還する途中、鬼猛彦の邪神に行く手をさえぎられたが、木花姫命が天の真澄の鏡を取り出して、撃退した。この鏡は先に大足彦が使用した地の真澄の鏡と対をなすものである。
五個の神玉は、海原彦命、国の御柱神の二神によって守護されることになった。 |
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01 | 08 | 嫉視反目 | 〔58〕 | 常世の国に、武豊彦、鬼雲彦の二神があった。両神はそれぞれ、あまたの神々を率いて地の高天原の神政に参加すべく、はせ参じた。
武豊彦は真摯に神政に使えたが、鬼雲彦は、神国別命の声望をねたみ、何とかして陥れようとするようになった。
しかし、鬼雲彦のよからぬ心と、神国別命の徳の違いを目の当たりにした部下の神々は、次々に鬼雲彦を去って、神国別命の下へとついてしまった。嫉妬の念に燃える鬼雲彦を武豊彦は諭すが、逆に恨みをかってしまう有様であった。
鬼雲彦はついに、言霊別命に、神国別命を讒言するまでになった。言霊別命は、鬼雲彦にしかるべき地位を与えてなだめようと苦心したが、ついに果たせず、鬼雲彦は勢力争いを起こして敗れ、邪神となって地の高天原を追われてしまった。
鬼雲彦は鬼城山に逃れて国照姫の傘下に入った。また、清熊という利欲に深い神も、神国別命の清廉潔白さと合わず、その心魂を言霊別命に見透かされ、竜宮上を脱して鬼城山に合流してしまった。 |
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02 | 00 | 善悪正邪 | - | 本文 | |||
02 | 09 | タコマ山の祭典その一 | 〔59〕 | 言霊別命は神命により、あまたの神軍を引率してタコマ山に登り、国魂之神の鎮祭を行わせた。
しかしながら、言霊別命の従神であった速虎彦、速虎姫、唐玉彦、島田彦らは、実は国照姫とひそかに通じていた。彼らは言霊別命に危機を救われたにもかかわらず、邪神と気脈を通じて裏切りを計画していたのである。
タコマ山の祭事が済んで、一行が下山して海岸に出たとき、この四柱の神人は珍味ご馳走で言霊別命らを饗応した。
宴の最中、エトナの大火山が爆発した。その光景に言霊別命が見とれているすきに、四柱の神人は毒薬を持った湯を命に献上した。言霊別命がその湯を飲もうとした刹那、時野姫が命をさえぎり、自分の口に毒湯を飲み干した。
たちまち時野姫はその場に黒血を吐き、悶絶して倒れた。言霊別命も少量の毒に当てられ、言葉を発することができなくなってしまった。速虎別ら四神人は、謀計が発覚することを恐れ、言霊別命を捕らえようとした。
言霊別命は諸神の宴の席に逃げ、一大事を知らせようとしたが、言葉が出ない。諸神らはすっかり酒に酔っていて、言霊別命の真意を悟る者はなかった。速虎別らも、酔っているとはいえ、さすがに諸神の目の前で言霊別命を拉致するわけにも行かず、目を光らせて時を待つのみであった。
言霊別命は仕方なく、酒に酔っていなかった部下の宮比彦、谷山彦、谷川彦を護衛にして竜宮城に一度帰還し、応援を頼もうとした。しかし酒に酔った諸神は一行をさえぎって行かそうとしなかった。
言霊別命はかろうじて竜宮島に立ち寄り、国の御柱命に保護されて、ようやく竜宮城に帰還することを得た。
竜宮島の地下は、多くの黄金を持って形造られている。これが現在の地理学上の豪州大陸に当たる。また、冠島とも言う。 |
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02 | 10 | タコマ山の祭典その二 | 〔60〕 | 竜宮城の言霊別命の従神・田野姫は、表面忠実に働き、竜宮城の内事に通じており、発言力があった。しかし実は田野姫は、国照姫の間者だったのである。
天使・大八洲彦命は、言霊別命の軍勢が神命を奉じてタコマ山で祭典を行ったことに関して、言霊別命が帰城してから、竜宮城でも祭典を行うように、と命令した。
田野姫は大八洲彦命の前に進み出て、言霊別命がタコマ山で祭典を行うのと同時刻に、竜宮城でも祭典を行うのが双方一致の真理にかなう、と進言した。大八洲彦命は田野姫の案を稚桜姫命に伺うと、稚桜姫命は良案であるとして賛成した。
祭典の準備が行われている最中、田野姫は毒鳥の羽を膳部の羹にいちいち浸して回っていた。この様子を怪しんだ神島彦は、芳子姫を呼んで、羹の毒味をさせた。たちまち芳子姫は黒血を吐いて倒れ、苦しみ始めた。
芳子姫の苦悶の原因がわからずに右往左往する諸神の前に、言霊別命が帰城すると、毒の羹の椀を取って庭木に注ぎかけた。すると、みるみる草木は枯死してしまった。
一同は、膳部の羹に毒が盛られていたことをようやくさとり、田野姫の行方を追ったが、早くも田野姫は姿をくらました後であった。
タコマ山の宴で言霊別命の身代わりに毒を飲んだ時野姫はようやく病気回復し、言霊別命軍とともに帰還してきた。また、神国別命が神前に祝詞を奏上して祈願すると、時野姫、言霊別命、芳子姫の病状はたちまち全快した。 |
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02 | 11 | 狸の土舟 | 〔61〕 | 美山彦・国照姫は、常世国の常世姫を使って竜宮城を乗っ取ろうとした。常世姫は稚桜姫命の三女で、野心の強い神であった。美山彦・国照姫は自分の部下の魔我彦・魔我姫を常世姫につき従わせて入城させようとした
常世姫は竜宮城の入り口の黄金橋までやってくると、神威に打たれて、進むことができなくなった。しかし稚桜姫命は肉親の情から舟を出してヨルダン河を渡らせ、常世姫は竜宮城に安着してしまった。
常世姫は久々の親子の対面に、稚桜姫命に提案して、竜宮城の神人一同で、舟遊びをすることとした。そして、言霊別命には泥舟を用意して溺死させようと企んでいた。
言霊別命は魔我彦によって無理に泥舟に乗せられ、舟が沈んでいったが、従神の斎代姫によって救われた。すると常世姫は、言霊別命と斎代姫の間に怪しい関係ありと誣告をして回った。
言霊別命の妻神・言霊姫は、この誣告を信じなかったが、この一件により、言霊別命夫婦と、稚桜姫命・常世姫親子の間に、面白からぬ高い垣根が築かれてしまった。 |
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02 | 12 | 醜女の活躍 | 〔62〕 | 常世姫は帰城後ますます稚桜姫命の信任を得て、竜宮城に勢力を張った。一方、言霊別命一派の地位は、常世姫の讒言のために、地に落ちてしまった。
常世姫は魔我彦・魔我姫を通じて、美山彦・国照姫と謀計を練っている有様であった。
魔我彦・魔我姫は色香をもって言霊別命を魔道に陥れようとした。そして、言霊別命が風邪で寝込んだとき、藤姫という醜女を放って、言霊別命の看病をさせた。
藤姫は言霊別命がめまいを起こして倒れそうになったときにわざと助けの声を発して神人を呼び、言霊別命の強要で今まで道ならぬ関係を結ばされてしまった、と嘘の証言をした。
稚桜姫命はこの事件を聞いて多いにお怒りになったが、言霊姫、佐倉姫が泣いて無実を訴えたおかげで、その場は赦された。しかし稚桜姫命の疑念は晴れなかったのである。
また、魔我彦は八百姫という醜女を言霊別命の庭園に忍ばせ、わざと大声を発させて、不倫をでっちあげた。稚桜姫命はついに、言霊別命を蜂の室屋に投げ込んで罰することとなった。 |
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02 | 13 | 蜂の室屋 | 〔63〕 | 言霊別命は常世姫一派の姦計に陥り、蜂の室屋に投げ込まれ、熊蜂、雀蜂、足長蜂、土蜂らの悪霊によって刺し悩まされることになった。
言霊姫は黄金竜姫の霊魂に感じて蜂の領巾を作成した。そして、夜ひそかに、室屋に差し入れた。言霊別命はその領巾で悪蜂を退けることができたが、眠ることができないでいた。
そこへ田依彦、中裂彦、小島別が現れて、言霊別命の罪をなじり、蜂の領巾を渡せと迫った。また、常世姫自身が室屋の前に来て、口汚く命をののしった。
言霊別命は天に向かって、もし自分に邪があれば自分の命を、常世姫に邪があれば常世姫の命を、直ちに絶ちたまえ、と祈願した。するとたちまち常世姫はその場に苦悶して倒れた。
この事件を聞いた稚桜姫命は、これは言霊別命の仕業であるとして室屋の前に来て罵ったが、命は相手にしなかった。そのうち、常世姫はついにこと切れた。
稚桜姫命はこの事件について、国治立命に神慮を問うた。すると、確かに邪が常世姫にあった、と神勅が降った。そこで稚桜姫命は、小島別を遣わして言霊別命・言霊姫に陳謝せしめた。言霊別命が謝罪を受け入れると、常世姫はたちまち蘇生した。
この様を見た稚桜姫命以下の諸神は、常世姫に、言霊別命に謝罪するようにと勧めた。常世姫が謝罪を拒むと、再び苦痛が襲ってきたので、ついに常世姫も我を折って謝罪し、言霊別命は室屋から解放されてもとの聖職に就くこととなった。
この事件で常世姫は竜宮城から追放された。しかし常世の国から探女を放って、ふたたび言霊別命夫妻をつけ狙うという有様であった。 |
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03 | 00 | 神戦の経過 | - | 本文 | |||
03 | 14 | 水星の精 | 〔64〕 | 田依彦と中裂彦は、稚桜姫命を慰めるために、ヨルダン河の上流で千引の岩をとり、広い石庭を造った。すると稚桜姫命はにわかに身体に大痙攣を起こし、激烈な腹痛に悩まされることになった。
言霊別命が天津神の神示を受けたところによると、ヨルダン河上流の水星の精から出た長方形の霊石を掘り出して、庭園の石として地上に放置したため、水星の精が警告を発したものである、とわかった。
また神示には、まわりの岩石を取り除いて、霊石を黄金水で清め、宮を作って鎮祭すれば、稚桜姫命の病は癒えるだろう、とあった。
果たしてそのとおりに取り計らうと、不思議にも稚桜姫命の病は癒えた。
しかし、この霊石を掘り出してから、ヨルダン河の水は土砂を流して濁水の川になってしまった。また、中裂彦は心狂ってヨルダン河に身を投じ、悪蛇と変化して死海に流れた。
水星の霊石を祭った宮は、言霊別命が斎主として奉仕することになった。
稚桜姫命は病は癒えたが、その後の健康は勝れず、ときどき病床に臥すことがあった。常世姫はそれを聞いて、信書を兄の真道知彦に送った。真道知彦は稚桜姫命の長男である。
常世姫の信書には、言霊別命が水星の精によって稚桜姫命を日夜呪詛しており、それが命の病の原因である、というものであった。
それを聞いて怒った稚桜姫命は、水星の霊石を打ち砕くことを命じた。言霊別命はやむなく天に謝して霊石を芝生の上に投げうった。すると霊石から旋風が起こり、高殿の稚桜姫命を地上に吹き落とした。
これより稚桜姫命は不具となり、歩行に困難を覚えることとなった。言霊別命は梅の杖を作って奉った。
また、霊石は新たに石造りの宮を作り、月読命の従神として永遠に鎮祭した。 |
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03 | 15 | 山幸 | 〔65〕 | 言霊別命の弟に、元照彦という神があった。元照彦は、兄が神業にかまけて親兄弟をないがしろにしていると、日ごろから憤慨していた。
元照彦は狩猟が上手で、相棒の伊吹彦とともに山の獣を獲ることを楽しみとしていた。
あるとき、元照彦は大台ケ原山で狩猟をしていた。そこへ、伊吹山に立て籠もる邪神・八十熊たちも、狩猟にやってきた。しかし、元照彦の狩猟があまりに上手いので、邪神たちは一匹の鳥獣も得ることができなかった。
そこで邪神たちは元照彦の相棒・伊吹彦を見方に引き入れ、元照彦を殺そうとした。伊吹彦は元照彦を裏切り、元照彦は邪神に囲まれて矢を射掛けられ、その場に倒れてしまった。
弟の危急を知った言霊別命はただちに天の鳥船で大台ケ原山に駆けつけ、さまざまな霊威のある領巾を邪神軍に向かって打ち振ると、邪神たちは逃げていった。
元照彦は重傷を負い、危篤に陥った。母神は元照彦に、「放縦な心を立て替えて、兄とともに神業に参加するように」と諭した。
元照彦は敬神の念を起こし、数ケ月の間苦痛に耐えながら天地の大神を祈った結果、傷は癒えた。そして神業に参加し、言霊別命に従って神教を宣伝して偉功を表わすことになった。
元照彦を裏切った伊吹彦は、八十熊らとともに伊吹山に逃げた後、どこからともなく飛んできた矢に当たって山上から転落し、息絶えた。そして伊吹山の邪鬼となった。 |
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03 | 16 | 梟の宵企み | 〔66〕 | 言霊別命は疑惑が晴れて蜂の室屋から出た後も、稚桜姫命の疑念は晴れなかった。小島別・田依彦の一派は、言霊別命に対して心中穏やかならず、ついに神国別命をも仲間に引き入れて、命を排斥するに至った。
言霊別命は、大八洲彦命・真澄姫とはかって、天道別命、天真道知彦命を連れて一時竜宮城を退去し、ローマの都の花園彦の館で時が至るのを待つことになった。
ところが、ローマの都で宣伝活動を始めると声望は天下に振るい、勢力は拡大して多いに名をとどろかすことに成った。
竜宮城は言霊別命がローマに一派を開いて勢い盛んなことに驚き、小島別、田依彦、安川彦を急使に立てて、竜宮城に帰還するようにと責め立てた。
言霊別命は、三神が刀に手をかけて様子ただならないのを見て、稚桜姫命に詫び状を書いたので、自分は後から引き揚げるから、先に詫び状を持って竜宮城に戻っていてくれ、とその場を納めた。
三神は意気揚々と竜宮城に戻り、稚桜姫命の前で言霊別命の「詫び状」を開いてみると、そこには、常世姫一派を処罰して悔い改めなければ徹底抗戦も辞さない、という通告が書かれていた。
稚桜姫命はこれを見て多いに怒り、小島別、田依彦、安川彦は面目を失った。ここに稚桜姫命は小島別、田依彦、安川彦に神軍を引率させ、ローマを攻撃させることになった。 |
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03 | 17 | 佐賀姫の義死 | 〔67〕 | 言霊別命はもとより、稚桜姫命に反抗する心は毛頭無かったのであるが、荒療治の目的で、わざと反抗的な書信を返したのであった。
竜宮城では大八洲彦命に討伐を命じたが、大八洲彦命は病と称して応じなかったため、小島別が討伐軍を指揮することになった。
言霊別命は味方を得るために、ボムベー山の佐賀彦を説得に訪れた。佐賀彦はかつて、命によって身の危難を救われたことがあった。しかし佐賀彦は竜宮城からの言霊別命討伐令に恐れをなし、すでに田依彦と通じて、言霊別命の命を狙っていたのである。
佐賀彦の妻・佐賀姫は、恩神の危難を救おうと言霊別命を逃がした。そして自殺を遂げた。言霊別命らはモスコーを指して落ちのびた。
モスコーでは、言霊別命軍の部将・正照彦、溝川彦が守っていた。しかし竜宮城軍・邪神軍の虚報の計略により、正照彦はボムベー山方面へ、溝川彦はローマ方面へおびき出されてしまった。
両神が敵の計略を悟って軍を返したときは、すでにモスコーは田依彦の手に落ちていた。そこへ、邪神軍がモスコーを占領しようと襲ってきた。モスコーを占領していた田依彦軍は、襲ってきたのは言霊別命軍だと勘違いして応戦した。一方、正照彦軍は、言霊別命・元照彦らと合流し、モスコーを奪い返そうと邪神軍の背後から攻撃を開始した。
邪神軍はモスコーの田依彦軍との挟み撃ちになって、全滅した。田依彦軍は、正照彦の軍を味方の竜宮城軍の援軍だと勘違いして喜んでいたが、今度は側面から溝川彦軍、正面から正照彦軍の攻撃を受けることになった。
両軍の猛攻に耐え切れず、田依彦らは黒雲を起こし、竜・狐と変じて敗走した。 |
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03 | 18 | 反間苦肉の策 | 〔68〕 | モスコーから敗走した田依彦らはペテロに陣営を構えた。言霊別命はすかさず討伐軍を組織して、ペテロを攻撃しようとした。小島別、田依彦らは敵の勢いを見て、魔我彦・魔我姫を通じて常世姫と手を組んだ。
常世姫はタカオ山に城塞を構えて、ペテロの田依彦軍と呼応して、言霊別命を挟撃しようとした。さらに、伊吹山の八十熊らの邪神が、恨みを晴らそうと常世姫軍に参加したため、言霊別命のペテロ討伐軍は三方から攻撃を受け、正照彦、溝川彦は捕虜となってしまった。
また、タカオ山を攻撃中であった言霊別命軍本体は、国照姫の謀計で偽情報をつかまされ、ローマとモスコーに退却を始めた。伊吹山を包囲していた元照彦軍も、退却を余儀なくされたのである。 |
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03 | 19 | 夢の跡 | 〔69〕 | ローマに退却した言霊別命は、諸神将と協議の結果、篭城戦に移り、ペテロを滅ぼす機会をうかがうことになった。ローマ本営の士気は大いに上がっていた。
しかし言霊別命の本心は、ただ神力を示して小島別ら諸神を覚醒せしめようとの誠意であって、美山彦・国照姫らの邪神が力を蓄えている状況を見れば、竜宮城の内戦で味方の戦力を損なうのは得策ではない、というものであった。
今回の戦闘で竜宮城軍を援護した功績で、常世姫は再び稚桜姫命の信任を得て、竜宮城での勢力を取り戻していた。
しかし稚桜姫命も、言霊別命軍の勢いが侮りがたいことから、一度花森彦をローマに遣わして、帰順の勧告をせしめた。言霊別命は内心すでに帰順の意があったため、喜んで応諾した。
言霊別命は全軍を集めて帰順の意を伝え、全軍に竜宮城への帰城を命じた。花園彦、元照彦、武彦、大島彦ら部下の諸将は言霊別命の変心を怒り、依然としてローマに陣を敷いていた。
言霊別命は夜陰ひそかにペテロに向かった。捕虜となっていた正照彦、溝川彦は解放された。そして竜宮城からは、盛装をこらした神使が丁重に命を迎えに上がり、歓呼のうちに帰城した。
花園彦、元照彦らもやがて言霊別命の深い神慮を悟り、竜宮城に帰順することになった。ここにこの紛争は終わりを告げることとなった。 |
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04 | 00 | 常世の国 | - | 本文 | |||
04 | 20 | 疑問の艶書 | 〔70〕 | 言霊別命が竜宮城に帰還した後、ふたたび勢力を取り戻したため、常世姫は魔我彦、魔我姫、小島別、田依彦、安川彦らに策を授けて常世の国に帰って行った。
安川彦は艶書をでっちあげて言霊別命を排斥しようとした。一時は成功し、言霊姫も艶書を信じるまでに至ったが、神国別命に見破られて安川彦が自白したため、事なきを得た。
安川彦は鬼城山に逃げ、国照姫の部下となった。 |
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04 | 21 | 常世の国へ | 〔71〕 | 稚桜姫命はやはり、親子の情に流されて、常世姫の言うことを信じる気があった。また、安川彦の陰謀は破れたとは言え、常世姫が背後で操っていたことは明らかにはならなかった。
あるとき常世姫は、言霊別命を常世の国に遣わして、悪心を改めさせてはどうか、と稚桜姫命に提案した。稚桜姫命は喜んで承諾したが、常世姫は言霊別命を害しようと企んでいたのであった。
言霊別命は元照彦の調査によって、常世姫の計画を察知していたが、稚桜姫命の命によってやむを得ず、常世の国に遣わされることになった。そこで、言霊姫、元照彦とはかって危難を避けるべく、種々の秘策を立てた。
出発にのぞんで言霊別命の母神は、さまざまな領巾を授けてくれた。
常世の国の使節には、言霊別命の他に、小島別や竜世姫が加わっていた。竜世姫は稚桜姫命の娘神である。
ロッキー山脈のふもとの常世の都に至る分かれ道で、突然竜世姫は急病を発して苦しみ始めたが、これは竜世姫の策で、偽病であった。他の神々が竜世姫の看病に気を取られるすきに、言霊別命は左の分かれ道に進んで行った。 |
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04 | 22 | 言霊別命の奇策 | 〔72〕 | 言霊別命はひそかに美濃彦の館に入って、策を練っていた。小島別は竜世姫の急病にあわてて谷底に転落して怪我をしていた。そのうちに、竜世姫の病は病気全快してしまった。
小島別らは美濃彦の館の前を、何も気づかずに通り過ぎた。その後に、言霊別命は後から追いついた。
言霊別命と竜世姫は、わざと偽の喧嘩をして、小島別らの目を欺いた。言霊別命も偽病を演じ、竜世姫は小島別・竹島彦らに、偽病の言霊別命の輿をかつがせた。 |
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04 | 23 | 竜世姫の奇智 | 〔73〕 | 小島別・竹島彦らが言霊別命の輿をかついで不満そうに行く姿を、竜世姫は道中からかって進んだ。言霊別命自身も、輿の中から小島別・竹島彦をからかう歌を歌った。
小島別・竹島彦は怒って言霊別命の輿を谷底に投げ捨てたが、言霊別命は領巾の神力によって怪我ひとつなかった。
道中、言霊別命と竜世姫は激烈な喧嘩を続けたが、これは両神合意のもとによる、偽喧嘩であった。
常世姫の宮殿に着いた言霊別命は水を求めた。常世姫の部下が水を捧げたが、竜世姫は言霊別命のような者に水を捧げる必要はない、とののしって、水を奪って打ちかけた。水がかかった神の衣は火煙を発して発火した。これは、竜世姫が言霊別命の毒殺を、喧嘩にみせかけて防いだのであった。 |
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04 | 24 | 藻脱けの殻 | 〔74〕 | 常世の都の大神殿で、天地の諸神を鎮祭する祭典が奉仕されようとしていたが、竜世姫・言霊別命は祭典の席次についても大喧嘩を演じたので、諸神は不安の念にかられていた。
直会でも、竜世姫が喧嘩に見せかけて言霊別命の膳部をひっくりかえしたが、その膳部からは青い炎が立ち上った。しかし常世姫も常世姫の部下たちも、大喧嘩を目の当たりにしていたので、竜世姫には心を許していた。
竜世姫は夜分ひそかに、言霊別命を常世城から逃がした。そして、自分は「言霊別命に害されようとした」と偽って常世城の諸神を呼び集めた。 |
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04 | 25 | 蒲団の隧道 | 〔75〕 | 竜世姫は常世城の神々から、言霊別命の失踪について詰問されたが、戯れ歌を歌ってその場をごまかした。
常世城の神々は、言霊別命の捜索に出て、城はほとんど空になった。その隙をついて、言霊別命の弟神・元照彦の軍勢が、常世城を包囲した。
元照彦は降伏の軍使を遣わし、常世姫はやむを得ず、金毛九尾の悪狐の正体を表して逃げ去った。
やすやすと常世城を手に入れた元照彦軍は、城内に入って油断していたが、そこへ常世姫の部下、竹熊彦・安熊の軍が急襲し、元照彦軍は城を奪われて敗走してしまった。 |
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04 | 26 | 信天翁 | 〔76〕 | 逃げたと思われた常世姫は、実は魔術で目をくらましたに過ぎず、常世姫は依然として常世城の奥に潜んでいたのであった。
常世城はふたたび常世姫の支配に帰したが、言霊別命の失踪を許した小島別・竹島彦・松代姫ら竜宮城の使臣は、自分たちの失策をどうやって稚桜姫命に復命しようかと悩み、青息吐息の有様であった。竜世姫はその様を戯れ歌に歌ってからかった。
常世姫は、稚桜姫命と竜世姫に、さまざまな珍宝の土産を渡して見送った。竜宮城に着くと、竜世姫はさっそく、小島別らの失策を稚桜姫命に報告した。
稚桜姫命はそれを聞いて怒ったが、竜世姫がおかしな歌を歌ってとりなしたため、小島別らの罪は赦された。 |
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04 | 27 | 湖上の木乃伊 | 〔77〕 | 常世城から敗走した元照彦は、身をもって美濃彦の館に逃れた。門番は着の身着のままで逃れた元照彦を疑ったが、元照彦は戯れ歌に託して自分の正体を訴え、美濃彦に迎えられた。
元照彦は身なりを変えて、スペリオル湖のほとりに船頭となって潜み、味方を集め、敵の情勢を探ることとなった。
常世姫の部下・猿世彦は言霊別命と元照彦の行方を追って、スペリオル湖のほとりに達し、船頭に舟を出すように命じた。
しかし船頭は湖の中まで来ると、自分は言霊別命に味方する港彦である、と名乗った。そして猿世彦に自決を迫った。
命乞いをする猿世彦に、港彦は、湖の中に飛び込むようにと命じた。猿世彦が湖に飛び込もうと衣服を脱ぐと、激烈な寒気のためにたちまち猿世彦は木乃伊になってしまった。
港彦はこの木乃伊を乗せて、船着場に引き返した。 |
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05 | 00 | 神の慈愛 | - | 本文 | |||
05 | 28 | 高白山の戦闘 | 〔78〕 | 言霊別命と元照彦は、猿世彦の木乃伊に神言を奏上して息を吹きかけると、猿世彦はたちまち蘇生した。言霊別命は、常世姫に対する降伏勧告の信書を持たせ、猿世彦を解放した。
一方、スペリオル湖畔を港彦に守らせると、言霊別命と元照彦は、高白山へと軍を進めた。高白山には正しい神司・荒熊彦・荒熊姫が割拠していたが、常世姫の部下・駒山彦のために包囲され、捕虜となっていた。
言霊別命と元照彦は背後から駒山彦軍を攻撃して、荒熊彦・荒熊姫を救い出した。二神人は言霊別命に恩を感謝し、自ら従臣となって高白山の城塞を献上した。
言霊別命は元照彦をローマ、モスコーに遣わして情勢を探らせ、自らは荒熊彦・荒熊姫とともにしばらく高白山に根拠を置くことになった。高白山は常世の国の北極に位置する、世界経綸の神策上、もっとも枢要な地点である。 |
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05 | 29 | 乙女の天使 | 〔79〕 | 言霊別命は高白山を中心として善政を敷き、その治下は地上天国というほどよく治まった。
しかし荒熊彦と荒熊姫は、自分の息子・清照彦が、先の駒山彦との戦闘で元照彦に殺された、という風評を聞きつけ、恩神である言霊別命を裏切り、駒山彦と共謀することになってしまった。
駒山彦が攻めてきた際、言霊別命のもとに天使と名乗る女神が現れ、荒熊彦・荒熊姫の変心を警告し、自分に高白山軍の全権を与えるようにと警告した。
しかし、荒熊彦・荒熊姫を深く信頼していた言霊別命は忠告を信じず、かえって女神を邪神と疑い、剣で斬ってかかった。
するとその剣は、女神の頭上から現れた光輝によって三段に折れ、柄のみが命の手に残った。女神の天使・絹子姫は、天津神のご配慮を詳細に説き諭すと、言霊別命はここにいたってようやく女神を天使と信じるにいたった。
はたして荒熊彦は鉄棒を打ち振りながら、やってきて、言霊別命に自決を迫った。しかし天使・絹子姫が合掌するとたちまち天神の神卒が荒熊彦を縛ってしまった。荒熊彦は肝をつぶし、裏切りを白状し、高白山軍の全権を返上した。
高白山は、荒熊姫の裏切りによって応援の元照彦軍も危機に陥り、いまや落城せんとしていたが、絹子姫が指揮を執ると、天使が味方についたことで勇気百倍し、駒山彦軍を撃退した。
荒熊彦は元のように言霊別命軍の部将となり、戦闘で負傷した。また荒熊姫も絹子姫に降伏し、裏切りを謝して元のとおり言霊別命に仕えることになった。 |
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05 | 30 | 十曜の神旗 | 〔80〕 | 高白山を中心とするアラスカ国は、ふたたび平和に治まった。天使・絹子姫は照妙姫と名を変じ、言霊別命の身辺を警護することになった。
駒山彦から絹子姫のことを聞いた常世姫は、さっそく竜宮城に、「言霊別命は怪しい女性をはべらし、高白山に割拠して反逆を企てている」と中傷した。
稚桜姫命を初めとする竜宮城の諸神はこれを聞いて色をなし、対策の協議を開いた結果、神山彦を遣わして、事の真偽を確かめることになった。神山彦は従神たちを引き連れて高白山に向かった。
神山彦は赤の十曜の神旗を掲げた天の磐楠船で高白山に到着すると、言霊別命に諸神を遠ざけさせ、来意を伝えた。 |
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05 | 31 | 手痛き握手 | 〔81〕 | 神山彦は、言霊別命が第二の妃神を娶ったという噂について、詰問した。言霊別命は疑いを晴らそうと、照妙姫(=天使絹子姫)を呼んだが、すでに照妙姫は天上に帰ってしまい、姿を認めることができなかった。
神山彦らは嵩にかかって言霊別命に迫り、刀の柄に手をかけて詰め寄った。言霊別命は進退窮まり、母神・国世姫から授かった領巾を取り出して打ち振った。
するとたちまち絹子姫が現れた。また領巾を振ると、天女が多数現れ、神山彦らをその場に縛ってしまった。
神山彦らはようやく疑いを晴らし、言霊別命に陳謝した。しかし神山彦は、これからが肝心の談判の正念場である、と言って息巻いている。 |
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05 | 32 | 言霊別命の帰城 | 〔82〕 | 神山彦らは次に、言霊別命がローマ、モスコー、高白山に神軍を配置して竜宮城に戻らないことが、稚桜姫命の疑いを招いているとして、即刻帰城するように、と迫った。
言霊別命は、各地に邪神が割拠する世の中に、各地に神軍を配置するのは竜宮城を守るためなのに、それを理解しない稚桜姫命の思慮の浅さをなじって席を蹴ろうとした。
すると神山彦らはその場で切腹しようとしたため、言霊別命は驚いて制止した。神山彦らは、このままでは稚桜姫命に復命できないとして、決心の色を面に表している。
仕方なく言霊別命は竜宮城に帰還することにした。高白山は元照彦に任せた。そして荒熊彦・荒熊姫の息子・清照彦は実は命を救われてかくまわれていたのだが、これに自分の妹・末世姫をめあわせて、長高山の北方に都を開かせた。
言霊別命が竜宮城に帰還すると、諸神の喜びようはたいへんなものであった。ただ常世姫だけが面白からぬ顔をしていた。そして、各地に神軍を配置する命をなじり、稚桜姫命の命令に服するようにと嫌味を言うのみであった。 |
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05 | 33 | 焼野の雉子 | 〔83〕 | さて、常世姫の部下・駒山彦は、荒熊彦・荒熊姫の息子を討ったのは元照彦である、という噂を利用し、高白山に忍び入って、荒熊彦・荒熊姫に再び謀反を促していた。
荒熊彦・荒熊姫は、わが子への情に負けて、元照彦を討って常世姫側に寝返ることに決めてしまった。
荒熊姫は面会を装って元照彦を害そうとしたが、元照彦は荒熊姫の面上に毒気を感じ、荒熊姫を逆に詰問した。すると荒熊彦、猿世彦、駒山彦がどっと元照彦に斬ってかかった。
元照彦は三人を相手に闘ったが、敵せず、山を下って身をもって逃れ、ローマに落ち延びた。高白山は再び常世姫の手に落ちた。 |
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05 | 34 | 義神の参加 | 〔84〕 | 竜宮城の神々は大半が言霊別命・神国別命に信服していたが、次第に常世姫の魔の手が広がっていた。そこで二神は、天下の義神を募って竜宮城に参集させようと東西に旅立った。
ペテロの都に声望の高い道貴彦という義勇の神があり、言霊別命は自ら訪ねて神界の経綸を説明した。道貴彦は竜宮城に出仕する決心を固めたので、言霊別命は村幸彦を迎えに遣わした。
道貴彦が出発しようとするとき、道貴彦の弟の高国別は大酒を飲んで現れ、出立を妨害しようとした。曰く、祖先の館を捨てて怪しい竜宮に仕えるとは何事だ、という理屈である。
しかし村幸彦に諭された高国別は時勢をようやく悟り、自分が祖先の地を守り、兄を送り出すことに同意した。
道貴彦は花森彦とともに、竜宮城の大門の部将として、入り来る神々の善悪正邪を審判するという重要任務が与えられた。
常世姫は部下の魔我彦・魔我姫に城内の様子を探らせておいて、自分はひとまず常世城へと帰って行った。 |
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05 | 35 | 南高山の神宝 | 〔85〕 | 常世の国のカシハ城に割拠して声望をとどろかしていた若豊彦という神があったが、大自在天のために城を追われたため、竜宮城の神政成就に参画しようと訪ねてきた。
言霊別命は神国別命に命じて、若豊彦を審神したところ、数多の邪霊が憑依していることがわかったが、邪霊は審神によって逃げ散り、若豊彦は正しい神人に戻った。
若豊彦は言霊別命の参加に加わり、天上に使いして天神・高照姫命を竜宮城に迎えた。高照姫命は稚桜姫命に謁見し、天上の混乱を伝え、地上の修祓を宣旨した。
しかし魔神・大魔我彦が高照姫命の後をつけており、この秘密の会合のことが邪神に知られることになってしまった。
そこで言霊別命が召し出され、わずかな従神を従え、高照姫命と共に南高山に密かに出立した。途中大魔我彦一派の妨害を避けると、高照姫命は南高山に秘め置かれた神宝を点検し、言霊別命に授けた。
この南高山は天上から降った神宝が秘められた霊山であり、これらの神宝はみろく神政成就のために使われるものである。そして神宝は言霊別命だけが点検することを許された。 |
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05 | 36 | 高白山上の悲劇 | 〔86〕 | 高白山を荒熊彦・荒熊姫に追われた元照彦は、ローマに逃げ帰った。これを聞いた清照彦は、父母の無道な行為をいさめて正しい道に返そうと、使いを高白山に送った。
信書を受け取った荒熊彦夫妻は、元照彦に殺されたと思っていた息子が生きていたことを喜んだが、息子は今や敵対する竜宮城の部将となっており、親子の情と常世姫への忠誠に悩むこととなった。
荒熊彦はついに病を発して倒れてしまった。そうするうちに、清照彦より第二の使者が来た。その信書は、「第一の使者への返事がなければ、やむをえず神軍を率いて父母の軍を討つことにならざるを得ない」、という最後通告であった。
荒熊姫は悲嘆にくれて自害しようとしたが、常世姫の部将・駒山彦はそれを押しとどめ、忠義に訴えて常世姫への忠誠を促した。荒熊彦はついに決心を決め、常世姫への忠誠を貫いて息子が率いる竜宮城軍と合間見えることとなった。
この様子を確かめた第一、第二の使者は長高山へと帰って行った。 |
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05 | 37 | 長高山の悲劇 | 〔87〕 | 長高山の清照彦は帰還した使者から、常世姫の圧迫のため、荒熊彦夫妻は竜宮城への敵対を決めた、と聞いて落胆した。しかし決心を固めると翻然として神軍を召集し、高白山出陣の命を下した。
清照彦は一室で、父母を討たねばならない不孝を嘆いていたが、妻の末世姫がやってきて、ここは中立を守って忠と孝の両方を全うするように、と諭した。しかし清照彦は、いったん決めたことを翻すわけにはいかないとして、末世姫の忠告を聞かなかった。
末世姫は一室に入ると自害して果てた。これを見た清照彦は自らも自害しようとしたが、元照彦にとどめられて戒められた。
ときしも、竜宮城からの使いがあり、荒熊彦夫妻討伐の命が下った。言霊別命の真意は、清照彦をして荒熊彦夫妻を改心せしめようとのことであったが、清照彦は大義名分を重んじて、父母と一戦交えることになってしまった。
高白山では、常世姫軍の高虎彦の部下に大虎別という忠勇の神があり、荒熊彦夫妻の悪事を諌めて降伏を勧めたが、荒熊彦は聞かなかった。大虎別は自害して果てた。
やがて清照彦率いる長高山の神軍が高白山に押し寄せ、戦闘の末常世姫軍は敗退し、荒熊彦夫妻はローマ方面に遁走した。清照彦は高白山に入城し、アラスカ全土を安堵した。
後に清照彦は言霊別命の命によりこの地をよく守り、シオン山の戦闘にも加わらず、アラスカは平和に治まった。 |
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05 | 38 | 歓天喜地 | 〔88〕 | 清照彦は最愛の妻に死に別れ、両親を討滅することになった。荒熊彦夫妻はかろうじて逃れたが、清照彦は追撃せず、両親が無事に落ち延びて、どこかで隠棲することを願った。
しかし風の便りに、両親はローマで捉えられ、殺されたという噂を耳にした。清照彦は悲嘆のあまり自刃しようとしたが、天空から女神が現れて、しばらく隠忍するようにと諭し、必ず妻と両親に再会させよう、約束した。
清照彦は合点がいかなかったが、自分が死んでしまっては両親と妻の霊を慰める者がいなくなってしまうと、思いとどまった。
清照彦は悲哀のうちにも暮らしていたが、あるとき十曜の神旗が立った鳥船が数十も、高白山めがけて下り来た。鳥船からは言霊別命らが現れ、稚桜姫命の神使として清照彦の忠孝を賞するためにやってきたのだ、と来意を告げた。
清照彦が不審の念を抱きつつも来意を謝すると、鳥船から降ろした輿から現れたのは、父母の荒熊彦・荒熊姫、そして自害したはずの妻・末世姫であった。清照彦は思いもかけぬ親子夫婦の対面にうれし涙にくれた。
高白山は元のとおり荒熊彦夫妻が治めることになり、清照彦は長高山を治めるよう神命が下った。
末世姫は自害したと見えたが、その貞節に感じた天使によって身代わりに助けられ、ずっと言霊別命の側に仕えていたのであった。 |
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06 | 00 | 神霊の祭祀 | - | 本文 | |||
06 | 39 | 太白星の玉 | 〔89〕 | <div class="level1">竜宮城の黄金水より出た十二の玉のうち、赤玉を奪われた竜宮の従臣・鶴若は、無念のあまりその精霊が丹頂の鶴に変じてしまった。</div> <div class="level1">丹頂鶴は天高く昇って鳴き叫んだため、その声は天の太白星に伝わった。太白星の精霊・生代姫命はこの声を聞いて怪しみ、鶴から玉の経緯を聞いた。丹頂鶴を憐れんだ生代姫命は、「十二の白鳥に命じて貴重な国玉を汝に与えよう、それをもって竜宮城への功績とするように」と託宣した。</div> <div class="level1">丹頂鶴は必死で十二の白鳥の後を追った。力の限り天上に追っていくと、白鳥は各地に降下して白い光となり、光は地上から天に向かって輝いた。丹頂鶴が行ってみると、白鳥らそれぞれ各地に十二の色の玉となっていた。</div> <div class="level1">丹頂鶴はそれらの十二の玉を飲み込んで、ようやく芙蓉山の中腹に帰ってきた。芙蓉山には、色彩鮮やかな雲が立ち上がった。</div> <div class="level1">清国別という神がこれを怪しんで訪れてみると、そこには立派な女神が現れ、十二個の玉を産んでいた。この女神を鶴野姫と言った。清国別は鶴野姫から経緯を聞いて夫婦の契りを結び、ともに竜宮城に玉を奉納しようとした。</div> <div class="level1">しかし夫婦の契りを結んだことで、二人は通力を失い、動くこともままならなくなってしまった。泣き叫ぶ二人の声を聞いて、アルタイ山を守護する大森別は、部下を芙蓉山に遣わした。</div> <div class="level1">清国別と鶴野姫は、十二個の玉を竜宮城の大八洲彦命に献上するように、と頼んだ。大森別は請いを容れ、さっそく、玉を大八洲彦命に献上した。大八洲彦命は大いに喜び、これを神国守護の御玉として、シオン山に立派な宮殿を造営して安置した。</div> <div class="level1">シオン山は竜宮城の東北に位置する要害堅固の霊山であり、竜宮城防衛上の重要地点である。ここに、邪神・美山彦、国照姫はこの霊地を奪って宝玉と竜宮城を手に入れようと進軍を開始した。いよいよシオン山の戦闘が開始されることになった。</div> | 本文 | ||
06 | 40 | 山上の神示 | 〔90〕 | 大八洲彦命は、稚桜姫命の神命を奉じてシオン山に登り、自ら地鎮祭を行うと、顕国の御玉が現れた聖跡を中心に、十六社の白木の宮を造営した。鵜の羽で屋根を覆い、金銀珠玉の珍宝をちりばめ、荘厳優美な様であった。
一つの宮にそれぞれ玉をご神体として祭り、四つの宮に、鶴野姫、大森別、生代姫命、姫古曽の神を鎮際した。その他楼門、広間等大小三十二棟を造営し、あまたの重臣がこれに住んで日夜神明に奉仕した。そして宮比彦を斎主に任じた。
常世姫の部下である美山彦、国照姫は鬼城山から部下を率いて出陣し、東西両面からシオン山に迫った。また別働隊として南方からは、武熊別らが攻めかけた。
大八洲彦命は東西南北に神将を配置してこれにあたった。三方から押し寄せた魔軍は難攻不落の霊山に攻めあぐね、山を囲んでにらみ合いになった。
常世姫は間者に偽の情報を持たせ、シオン山軍の戦力を割こうとしたが、大八洲彦命に見破られた。部将の中には、間者の偽情報を信じる者もあったが、宮比彦が神示のままに間者を神前に引き立てると、間者は計略の一切を白状したので、一同は大八洲彦命の洞察に感嘆した。 |
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06 | 41 | 十六社の祭典 | 〔91〕 | シオン山では敵の計略を神明と大八洲彦命の明察によって免れた神恩を感謝するため、盛大な祭典を催すことになった。敵でなければ誰でも、参拝を許すことになった。すると麗しい巡礼の女性たちが山を登ってきた。
巡礼たちは宮比彦の請いを入れて、神饌神酒を奉り、神楽を奏した。しかし直会になって酒を飲んだ将卒たちは、手足痺れ七転八倒し始めた。
すると十六社の宮が鳴動し、中から数多の金鵄が現れて、宴席の上を飛び回った。これによって将卒たちは全員たちまち元気回復した。乙女の巡礼たちと見えたのは魔神の化身であり、老狐や毒蛇となって四方に逃げ散った。
これは国照姫らの姦策であった。以降、戦場には酒と女性は入れないことになった。 |
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06 | 42 | 甲冑の起源 | 〔92〕 | 南方の敵軍の将・武熊別は、部下の魔軍を数千万の黒熊と変化させ、夜陰に乗じていっせいに攻撃を仕掛けた。不意を付かれた南軍と西軍は混乱し、魔軍は勢いで一気に十六社の宮まで登ってきた。
すると社殿の扉が自然に開き、中から数千万羽の金鵄が現れて、黒熊の魔軍に向かって火焔を吐いて翔け回った。黒熊は毛を焼かれて羆となり、北方の雪山めがけて逃走した。毛を焼かれたものは雪に穴を掘ってもぐり、回復を待ったが、全身白毛を生じて白熊となった。
攻撃が失敗したため、今度は武熊別は国照姫の魔軍を数千万の亀に変化させた。亀は口から火を吐きながら、神軍に襲いかかった。神卒たちは刀で首を切り落とそうとしたが、甲羅に阻まれ、また甲の中から吐き出される火焔に悩まされた。
大八洲彦命は宮比彦に神策を授け、神殿に奉納された神酒を数百の甕に移した。すると黒雲が起こって雨が降り注ぎ、数百の甕に満ち溢れると、雨水はすべて芳醇な神酒と化した。
亀たちは首を伸ばして神酒を飲み干したが、酔っ払って踊り狂うと酒の毒が回って、苦悶し始めた。神卒たちはここを狙って亀の首を切り落としていった。そして甲羅をはいで、各自身にまとった。これが甲冑の起源である。 |
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06 | 43 | 濡衣 | 〔93〕 | シオン山は大八洲彦命の戦略によって守られていた。常世姫はシオン山を包囲する魔軍に、決して退却せずに、シオン山に大八洲彦命を釘付けにせよ、と命令した。そして自分たちは芙蓉山、ローマ、モスコー、竜宮城を攻撃しようとした。
竜宮城はこれを察知し、ローマとモスコーへは神国別命と元照彦を、芙蓉山は真鉄彦を派遣し、竜宮城は言霊別命と花森彦を防備に当たらせた。
常世姫の夫・八王大神常世彦はローマ、モスコー、芙蓉山を攻撃し、常世姫は魔我彦・魔我姫とともに竜宮城に入り、内部から崩壊させようと企んでいた。
常世姫は、容色端麗な唐子姫を使って花森彦を誘惑させた。花森彦は唐子姫と逐電してしまったため、花森彦の妻・桜木姫は悲嘆のあまり発狂してしまった。常世姫はこれを利用し、桜木姫と言霊別命の不倫をでっち上げた。
稚桜姫命は常世姫のでっちあげを信じてしまい、言霊別命を追放した。そして、夫の天稚彦に花森彦を迎えにやらせた。
花森彦は竜宮城の使いにたちまち目が覚め、竜宮城に帰還することになった。しかし今度は、使いに来たはずの天稚彦が唐子姫の容色に迷い、逐電してしまったのである。 |
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06 | 44 | 魔風恋風 | 〔94〕 | 言霊別命は万寿山に落ち延びた。言霊別命の声望を慕って神将たちが集まり、万寿山の神軍は次第に集まってきた。
一方竜宮城は常世姫のために落城し、稚桜姫命は神国別命らとともに、万寿山に落ち延びてきた。言霊別命は稚桜姫命を礼を尽くしてお迎えした。稚桜姫命は、言霊別命の潔白をようやく認められた。
万寿山には、常世姫の暴虐に義憤を発した紅葉別という勇将が馳せつけ、言霊別命はこれを万寿山の主将とした。
竜宮城をはじめ地の高天原、橄欖山も一時魔軍の手に落ちた。シオン山の大八洲彦命は、大足彦の国の真澄の鏡で敵軍を射照らさせ、壊走させた。また竜宮城の魔軍に対しても、真澄の鏡を射照らすと、常世姫の身体から異様な光が現れて金毛九尾の悪狐と化した。そして、常世城めがけて遁走してしまった。
ここに稚桜姫命は言霊別命らを率いて竜宮城に帰還した。
一方、天稚彦は唐子姫と山奥で暮らしていたが、唐子姫は悪狐の姿を現して逃げてしまった。天稚彦は仕方なく諸方を流浪し、艱難をなめつつ竜宮城へ帰ることになった。 |
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07 | 00 | 天地の大道 | - | 本文 | |||
07 | 45 | 天地の律法 | 〔95〕 | 地の高天原をしろしめします国治立命、豊国姫命は、神界の混乱は厳格な神律が定められていなかったためであるとして、天道別命とともに、律法を制定された。
内面的な律法:
反省よ。恥ぢよ。悔改めよ。天地を畏れよ。正しく覚れよ。
外面的な律法:
第一に夫婦の道を厳守し、一夫一婦たるべきこと。
第二に神を敬い長上を尊み、博く万物を愛すること。
第三には、互いに嫉妬み、誹り、偽り、盗み、殺しなどの悪行を厳禁すること。
この律法を天下万神人に宣布する前に、竜宮城と地の高天原で実行して模範とすることとなった。この律法により竜宮城と地の高天原はよく治まった。また大足彦が魔軍を追い払ったことで、黄金時代が現出した。
しかし遠い国はいまだ泰平でなく、律法も行き渡っていなかった。
稚桜姫命は天下泰平のお喜びに、諸神の遊楽場にお出ましになった。そこで眉目秀麗な男神が舞うのを見て、にわかに顔色蒼白になって倒れ伏した。
大八洲彦命は驚いて介抱し、奥殿に運び入れた。そして薬を選び手を尽くして看病したが、容態はよくならなかった。あるとき稚桜姫命は舞を見せよと仰せられ、諸神は神楽を奏上した。
舞曲を一心に眺めていた稚桜姫命はまた吐息をもらして倒れ伏した。その夜、大八洲彦命が看病していると、稚桜姫命は玉照彦の名を連呼された。大八洲彦命は稚桜姫命に玉照彦について尋ねたが、命は寝入ってしまって返事がなかった。
大八洲彦命はただちに玉照彦を招き、稚桜姫命の看病を命じた。するとそれより命の病は日に日に回復した。そして玉照彦は稚桜姫命の側近く仕えることになった。 |
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07 | 46 | 天則違反 | 〔96〕 | 天稚彦は諸方を流浪し、万寿山を守っていた吾妻別のもとを訪ねた。吾妻別は天稚彦であると認め、竜宮城に使いを送って、天稚彦の帰還を知らせた。しかしそれを聞いた稚桜姫命は顔色蒼白となり、唇は震えていた。
天稚彦が帰還したとき、稚桜姫命は狼狽のあまり、袴を後ろ前にはき、上衣の裏を着るなど周章ぶりはひとかたならなかった。
天稚彦は到着するやいなや、鉄拳を振り上げて玉照彦を打ち据えた。玉照彦は息も絶え絶えになりながら、天測違反の罪を告白すると、息絶えた。
国治立命はその場にご神姿を現し、天稚彦、稚桜姫命を天則違反の罪によって、幽界に落とし、幽庁を主宰せしめることを言い渡した。ここに二神司は三千年の忍び難き苦しみを受けることとなった。 |
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07 | 47 | 天使の降臨 | 〔97〕 | シオン山と竜宮城の戦闘に破れた常世姫は、ロッキー山、ウラル山、バイカル湖、死海に向けて伝令を下した。すると死海の水はにわかに沸騰し、天に沖して原野を濁水に変じ、悪鬼となった。
ウラル山は鳴動し、八頭八尾の悪竜と化し、あまたの悪竜・悪蛇を吐き出した。バイカル湖の水は赤色を帯びて血なまぐさい雨となって降り注いだ。揚子江の上流である西蔵、天竺国境の青雲山から火焔が吐き出され、金毛九尾の悪狐となり、その口から数多の悪狐を四方に吐き出した。
天足彦、胞場姫の霊から出生した金毛九尾白面の悪狐は、天竺にくだり、ウラル山麓の原野にあらわれた。そして、八頭八尾の悪竜の一派であるコンロン王の妃となった。
しかしコンロン姫はコンロン王を滅ぼしてウラル山一帯を掌握しようと、仏頂山の鬼竜王と通じていた。それを知ったコンロン王の部下・コルシカは鬼竜王を攻撃した。常世の国の援軍は、仏頂山に進んで荒鷲、猛虎、獅子、狼となって散乱した。ここに敵味方入り乱れた同士討ちの混乱が始まった。
このとき地の高天原では国治立命が、大八洲彦命に命じて芭蕉の葉に律法を記し、もって混乱を収めようとしたが、用いる者無く失敗した。天上からは高照姫命が降り、一刻も早く地上の混乱を収めるように、と国治立命に神意を伝えた。
国治立命は混乱の収拾を確約し、国照姫命は天上に帰還した。 |
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07 | 48 | 律法の審議 | 〔98〕 | 天稚彦、稚桜姫命が律法によって罰せられ、幽界に落とされてから、竜宮城と地の高天原では律法はよく守られていた。
言霊別命は、独り者となっていた花森彦に妻を選定しようと提案したが、諸神は、天稚彦と稚桜姫命の堕落のもとを作ったのは花森彦であるとして、賛同しなかった。
肉体上の罪はおろか、霊魂上の罪まで前世にさかのぼって律法で裁かれるべきである、と主張する諸神に対して、言霊別命は、自分は言霊姫を妻とするまでに何度か妻を変えたので、まずは自分が幽界に落ちる、と宣言した。
そして律法違反の罪が一切無い神々がいったい幾柱あるのか、と大声で呼ばわった。神々はただ、うなだれるのみであった。
天上より天津神・国直姫命が下り、国治立命が天上で律法の解釈について天津神と協議した結果、これまでの罪は問わないが、以降は霊魂上までさかのぼって罪が償却されるまで罰せられることとなった、と伝えた。
国直姫命は竜宮城にとどまって、稚桜姫命の職を襲った。また花森彦は国栄姫との婚姻を許された。 |
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07 | 49 | 猫の眼の玉 | 〔99〕 | 常世姫の雄たけびによって世界中が戦乱の巷と化してしまった。これには夫の八王大神もなすすべが無く、困惑してしまった。そのとき、ふと東北の天に平和の女神が幾柱も現れて舞い遊ぶ光景が見えた。そこは地の高天原であった。
八王大神は高尾別と名を偽って地の高天原を訪ね、言霊別命に面会した。命はすぐに、邪神であることを見抜いて審神すると、八王大神であることを白状した。言霊別命は八王大神を許し諭し、八王大神は改悛の情を表した。
神国別命が教導にあたり、八王大神の従者たちも国治立命の神律を奉じることとなった。この旨を国治立命、国直姫命に進言すると、改心すれば元の善神であるから、この神を竜宮城の総轄とし、常世姫を改心させよ、とのことであった。
高尾別(=八王大神)は言霊別命の上位につき、神国別命らを伴って意気揚々と常世城に引き揚げた。常世姫を改心させようというのである。常世の国は常世姫の荒びによって、惨憺たる光景を現していた。
高尾別(=八王大神)はまず、自らが仕える盤古大神の館に赴いて、主君に国治立命の律法のほか、天下を治める神策がないことを奏上した。盤古大神はただただ微笑を浮かべて高尾別の進言を聞くのみであった。
高尾別(=八王大神)は盤古大神の態度を心もとなく思い、この戦乱の世に戴くべき主君は、国治立命であろうと思いをなし、その決心を大自在天の従神らに告げた。しかし大自在天の従神らは高尾別の変心をなじり、国治立命は邪神であろう、と決め付けた。
また常世姫はその場に現れてともに高尾別の不明をともになじった。高尾別は進退窮まり、せっかくの決心を翻してふたたび盤古大神を奉戴し、国治立命に反抗の態度を取るようになった。 |
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07 | 50 | 鋼鉄の鉾 | 〔100〕 | 神国別命らは、八王大神が変心したことは夢にも知らず、常世城の神々に、国治立命の教えを説いていた。
すると城内騒々しく足音が近づき、八王大神が以前にも増して暴悪な顔で現れ、大刀の柄に手をかけて、盤古大神に帰順するよう、神国別命らを脅迫した。神国別命は神理を説き諭したが、聞き入れられなかった。
八王大神は神国別命に斬ってかかった。一切武器を持っていなかった神国別命らは、天に向かって合掌し、神言を奏上しようとすると、八王大神はどっと仰向けに倒れた。
この光景を目にした常世城の神々は、あわてて常世姫に報告した。常世姫はただちに焼けた鉄棒を手に引っさげてその場に来ると、神国別命に打ってかかった。すると東北の空から暴風が吹き、常世姫はあおられてどっと地上に転落した。
神国別命らはかろうじてその場を逃れ、竜宮城に帰還すると、八王大神の心変わりを国直姫命に報告した。国直姫命は、いかなる暴悪無道の敵が竜宮城に押し寄せても、律法に従って対処するように、と厳命した。
やがて八王大神率いる常世軍が竜宮城に押し寄せ、ヨルダン河を押し渡って城内に入ると、国治立命と面会させよ、と大音声に呼ばわった。大八洲彦命は自ら八王大神を迎え、来意を尋問した。
八王大神は国治立命に面会させろ、と仁王立ちで怒号した。するとそこへ国治立命は悠然と姿を現した。八王大神は、汝は偽者の国治立命であろう、本物は大自在天の神策によって顕現するはずである、と詰め寄った。八王大神の従者・鬼雲彦も尻馬に乗って暴言を吐いた。
国治立命以下の諸神は、律法に従ってあくまで柔和の態度でこれを迎えていたが、ついに八王大神が刀を抜いて斬りかかろうとしたとき、花森彦は「われはただ今戒律を破らむ」と言うやいなや、鬼雲彦に斬りつけ、さらに八王大神にも斬ってかかろうとした。
大足彦は花森彦を制止したが、八王大神以下は花森彦の勢いにのまれて、やや躊躇の色が見えた。大足彦は国の真澄の鏡を取り出すと、魔軍を照らし出した。八王大神以下は魔神の正体を表し、身動きができなくなってしまった。
国治立命は再び現れて、八王大神以下に天地の律法を説き諭し、万一聞き入れられないのであれば、常世城を明け渡して根底の国へ隠退するか、さもなければ竜宮城軍が常世城を滅ぼすであろう、と厳格に神示を言い渡した。
八王大神はその意を了解し、神国別命に送られて、部下たちとともに常世城に引き揚げた。しかし常世姫は国治立命にあくまで反抗の意を表し、八王大神のふがいなさを嘆いた。八王大神はまたもや常世姫の魔言に動かされ、竜宮城占領の決議をこらし始めた。
そのとき、天上から鋼鉄の鉾が棟を破って落ち降り、鬼雲彦の頭上に落ちて即死してしまった。これは、大自在天が神国別命を狙ったものが、はずれて鬼雲彦に当たったのである。八王大神は驚いて奥殿に逃げ、息をこらして震えていた。 |
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- | - | - | 附録 第一回高熊山参拝紀行歌 | - | 本文 | ||
- | - | - | 余白歌 | - | 本文 |