巻 | 篇 | 篇題 | 章 | 章題 | 〔通し章〕 | あらすじ | 本文 |
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- | - | - | 海洋万里 亥の巻 | - | 本文 | ||
- | - | - | 序文 | - | 現代の学者は、『宗教は芸術の母、宗教が芸術を生む』といっているそうだが、私はそれと反対に、『芸術は宗教の母なり、芸術は宗教を生む』と主張するものである。
洪大無辺の大宇宙を創造した神は、大芸術者であるはずだからである。天地創造の原動力は、大芸術の萌芽である。
宗教というものは、大芸術者である神の創造力や無限の意思のわずかに一端を、人の手を通し口を通して現したものにすぎないのである。そうでなければ、宗教という人の手になるものが神や仏を描いたのだ、ということになってしまう。
天地の間には、何物か絶対力が存在するかのように、心中深く思われるのは、この宇宙に人間以上の霊力者が厳然として存在することを、おぼろげながらも感知することができるからなのである。
いかなる無神論者でも天災に際して知らず知らず合掌するように、救いを求めるのは自然の情である。大芸術者である神が厳存し万有一切を保護したまうことは争われない事実であり、神を自然や天然と称するのは実に残念なことである。
出口なお教祖の筆先も、卑近な言葉をもって書かれているがゆえに貶める人があるが、出口教祖は手桶のようなものであり、神様の意思は、そこに汲み上げられた大海の潮水である。いかなる手桶によって汲み上げられようとも、神様の意思には変わりはないのである。
筆先そのものは、神の芸術の腹から生まれたところの宗教(演劇)の脚本を作るべき台詞書なのです。そのことはすでに、霊界物語第十二巻の序文に述べたとおりである。
変性女子そのものも、決して瑞の御魂の全体ではなく、やはり手桶によって汲み上げられた、大海の潮水の一部分なのである。
私は世人にとってはもっとも不可解なる筆先の台詞をここにまとめている。そして、かつて神霊界を探検して見聞した神劇に合わせて筆先の出所や、いかなる神の台詞であるかを明らかにするために、この物語を口述したのである。
神幽二界の出来事を一巻の書物につづったのが、霊界物語である。霊界について幾分なりとも消息に通じていない人の眼をもって教祖の筆先を批評するのは実に愚の至りである。 |
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- | - | - | 総説 | - | 筆録者諸氏の丹精により、霊界物語もいよいよ三六の巻を口述し終わりました。
本巻では神素盞嗚尊の八人の娘の一人である、第七女の君子姫が、メソポタミヤの顕恩郷を出たところで邪神に捕えられて小舟に流され、神助のもとにシロの島、現今のセイロン島に漂着します。
君子姫は侍女の清子姫と共に、松浦の里の岩窟に隠れていたサガレン王を尋ね、王を助けて神地の城の邪神・竜雲を言向け和します。
また北光の神である天目一の神の偉大なる応援のもとに三五教の神力を輝かし、敵味方の区別なく仁慈に悦服させてサガレン王を元のとおりに国主に推挙します。ついには上下和合の瑞祥を顕現せしめたる、尊きおもしろき神代の古き物語です。 |
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01 | 00 | 天意か人意か | - | 本文 | |||
01 | 01 | 二教対立 | 〔989〕 | アジア大陸の西南端に突出した熱帯の月の国は、後世にはこれを天竺といい、今は印度をいっている。この国の東南端にある大孤島をシロの島といい、現代では錫蘭島と呼ばれ、仏教の始祖釈迦如来が誕生した由緒深い島である。
釈迦はこの島から仏教をインド、チベット、ベトナム、タイ、中国、朝鮮と東漸して、ついに自転倒島の日本までその勢力を及ぼしたのである。
シロとは、シは磯輪垣の約であり、四方を水に囲まれた天然の要害として垣に囲まれているという意味である。ロは国主があり人民があり、独立的な土地であり、城郭を構えて王者が治めるという意味である。
神代の昔からこの島は非常に人文が発達し、エルサレムについでの文明国であった。それゆえに、これをシロの島というのである。シロの別の意味としては、「知る」の転訛であり、天かをしろしめす王者の居る島ということである。
シロの島は後世、釈迦が現れて仏教を興すまではバラモン教の勢力の中心となっていた。後世のバラモン教は、生まれながらに階級を決めてしまい、大自在天の頭から生まれたという貴族はいたずらに徒食し、これを神の真理と誤信するに至ってしまった。
釈迦はこの国のある一孤島の浄飯王という王者の子として生まれ、悉達太子といった。バラモン教の不公平・不道理を打破して万民を平等に天の恵みに浴せしめんと仏教を創立したのであった。
この釈迦は、神素盞嗚大神の和魂である大八洲彦命、後にいう月照彦神が再生した者であることは、霊界物語の第六巻に示したとおりである。
地球が大傾斜する以前は、この島は今のような熱帯ではなかった。気候は中和を得てきわめて暮らし良い温帯の位置を占めていた。しかし釈迦が生まれた時代にはすでに赤道直下に間近くなっていた。
神素盞嗚大神の八女の第七の娘・君子姫は、侍女の清子姫と共に顕恩郷を出た後バラモン教の釘彦一派に捕えられ、半ば破れた舟に乗せられて大海に放逐された。
君子姫は侍女と共に激浪怒涛を渡り、ようやくにしてシロの島のドンドラ岬に漂着した。そしてかつて友彦が小糸姫とともに隠れた神館を尋ねて進んで行くことになった。
友彦の神館から数里隔てたところに神地の都があった。ここはサガレン王とケールス姫が館を構えて島国のほとんど七分を統括していた。サガレン王はバラモン教を奉じ、妃のケールス姫はウラル教を奉じていた。
都の南方に風景よき小高い丘陵があった。サガレン王に仕えている役人の男たちが休暇でここに蓮の花見に来ていた。男たちの噂話によれば、館の中はバラモン教派とウラル教派に分かれて殺伐としているということである。
またケールス姫はウラル教の神司・竜雲を寵愛し、王よりも尊崇しているという。竜雲は神変不可思議の術を使うと恐れられており、館の中に一大勢力を張って重臣の奥方もたぶらかしているという噂であった。
バラモン教でサガレン王派のユーズとシルレングは竜雲の所業に憤慨し、なんとか排除しようと画策するが、ベールは竜雲のスパイとして二人の魂胆を暴こうとしていた。
ユーズとシルレングは、ベールの言動から彼が竜雲の配下であることを悟り、自分たちのたくらみが露見してはたいへんと組みついた。三人は格闘するうちに蓮池の中に落ち込んでしまった。 |
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01 | 02 | 川辺の館 | 〔990〕 | 神地の城は東北西の三方を美しい青山に囲まれ、南方はやや展開し、城の東西には水清く流れている。ケールス姫の別宅は、絶景の地点を選んで建てられていた。
ケールス姫は竜雲をここに招いて不義の快楽にふけっていた。サガレン王はいつも神地の館で政務を執り、バラモン教の神殿にこもって祈願に余念がなかった。サガレン王は信仰をもって唯一の楽しみとしていた。
ケールス姫と竜雲は、王を厄介払いし、竜雲が王と成り変わる計画を相談しつつあった。そこへ竜雲の部下・ベールが泥まみれになって慌ただしく戻ってきた。ベールは、ユーズとシルレングの二人が、竜雲を除く計画を立てていることを注進した。
ベールは、ユーズとシルレングが王に姫と竜雲の関係を上申して不利な状況になる前に、先手を打って王にユーズとシルレングを誣告し、彼らの仲を裂くべきだと献策した。
ケールス姫と竜雲は不安にかられて、慌ただしく登城の支度を始めた。 |
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01 | 03 | 反間苦肉 | 〔991〕 | サガレン王が神前の間で瞑想にふけっていると、ケールス姫は慌ただしく押し入ってきた。姫は両眼に涙をたたえて泣き伏した。
サガレン王が何事か問いただすと、ケールス姫はシルレングとユーズが王に反逆を企てて徒党を集め、今夜クーデターを行おうとしていると讒訴した。
王は、忠臣の二人がそのようなことをするはずがないと疑った。ケールス姫は自分がバラモン教に改心すると誓って王の歓心を買い、自害する振りをして、ユーズとシルレングの取り調べの権限の許可を王から得てしまった。
ケールス姫が去った後、今度はサガレン王の部下のゼムとエールがやってきて、竜雲に謀反の計画ありと王に伝えた。王は思案に暮れてしまった。
そこへケールス姫が戻ってきた。姫はゼムとエールが王の側にいるのを見ると、二人を反逆者呼ばわりして怒鳴りつけた。ゼムとエールも姫に反論して激しい言い争いになってしまう。
王は、この二人に限って決して不心得はないと毅然と言い放ち、姫に居間に帰るようにと厳然と指示した。ケールス姫はゼムとエールを睨み付けて言葉もなく居間に帰ってゆく。 |
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01 | 04 | 無法人 | 〔992〕 | 左守のタールチン夫婦はサガレン王派であり、竜雲の横暴を快く思っていなかった。なんとかしてケールス姫の側から排除しようと相談している。すでに王派の忠臣・ユーズとシルレングは竜雲のための獄に投ぜられてしまっていた。
タールチンの妻・キングス姫は、実は竜雲から艶書を受け取っていた。タールチンはこれを利用して竜雲をおびき寄せ、亡き者にしようと画策した。
キングス姫は竜雲に色よい返事の内容の手紙を書き、藤の森に竜雲をおびき寄せた。タールチンは森の中に落とし穴を掘って竜雲を待っていた。はたして、竜雲はのこのこと夜中に森にやってきて落とし穴にはまり、タールチンに生き埋めにされてしまった。
このとき偶然エームスは藤の森に月をめでに二三人の部下と共にやってきていた。エームスは落とし穴を埋めたやわらかい土に足を踏み込んでしまい、下に誰かが埋められていることに気付いた。
エームスたちが穴を掘って助け上げてみれば、それは日ごろ敵対している竜雲であった。エームスは自分が命を助けたのは竜雲だと知って後悔した。竜雲はエームスに軽く礼を言うと、城に帰ったら自分の居間に来るようにと伝えてさっさと先に帰ってしまった。
エームスはやや不安にかられて竜雲の居間を訪ねた。竜雲は、右守の役職にあり城中きってのサガレン王派であるエームスを疎んじており、この機に追い落としてしまおうと考えていた。
竜雲はエームスを反逆者呼ばわりして捕り手に捕えさせ、獄につないでしまった。また竜雲を生き埋めにした左守のタールチンとキングス姫夫婦も投獄してしまった。
何とかこの難を逃れたサールは、ゼムとエールの館に駆け込み、竜雲が重鎮たちを次々に投獄してしまったことを報告した。ゼムとエールはすぐさまサガレン王の館に参じて竜雲の暴状を上奏した。
サガレン王は大いに驚いて、ケールス姫と竜雲を召し出した。サガレン王は怒りはなはだしく、ケールス姫と竜雲に、この国からの追放を言い渡した。
姫と竜雲はまったく動じず、竜雲は逆にこのような暴言を吐く王は発狂したのだと言い放ち、近習たちに王を拘束するようにと命じた。王は竜雲の配下たちによって捕えられ、座敷牢につながれてしまった。 |
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01 | 05 | バリーの館 | 〔993〕 | サガレン王派の重臣たちのみならず、王自身をも幽閉してしまった竜雲は、今や誰はばかることなくケールス姫と夫婦気取りになり王の権力を行使し、ますます傍若無人の行動をなした。
そのため国内には人民の恨みの声がとどろいた。竜雲もさすがに公然と王を名乗ることはせず、ケールス姫を表に立てて自分は黒幕となって国政を掌握した。
竜雲は、サール、アナン、セール、ウインチら正義派の残党を捕えようと部下を四方に派遣した。四人はバリーの山中に隠れて王派の部下を集め、竜雲をどうにかして滅ぼして王を復位させ、捕えられている人々を助けようと計画していた。
竜雲は自分の信任厚い弟子・テーリスに獄舎の王派の人々の監視を命じた。しかしテーリスは実は思慮深い王派の人物であり、竜雲とケールス姫の信任を受けて彼らの企みを探っていたのであった。
バリーの山奥にある巨大な岩窟の中で、サガレン王派の人々は竜雲討伐の計画を練っていた。アナンはケールス姫一派に深く入り込んでいるテーリスと連絡をつけて獄中の人たちを救い出そうと計画した。
アナンはわざと捕まってテーリスと連絡をつける計画の出立にあたり、門出の歌を歌った。竜雲の横暴に憤り、サガレン王とその忠臣たちを助け出して戦を仕掛け、竜雲を追い払おうという意気を勇ましく歌い、旅装を整えて出立した。 |
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01 | 06 | 意外な答 | 〔994〕 | アナンはわざと竜雲の部下につかまって牢獄に入れられたが、呼応しようとしていたテーリスは、牢獄の監視の役を変えられていてそこにはいなかった。
アナンは獄中にて自分の不運を嘆きつつ、奸臣を除き王の世を再び元に返す志を歌い、また竜雲の部下たちの不実を非難する歌を歌った。
エームスも、獄舎の中で述懐の歌を歌っている。竜雲の部下ベールはエームスのところにやってきて、エームスが竜雲を助けた功績に免じて赦してやるから、竜雲のために働くようにと告げた。
エームスは悪に加担することはできないとベールの申し出を断った。ベールはエームスの答えを竜雲に報告するために去って行った。 |
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01 | 07 | 蒙塵 | 〔995〕 | サガレン王は発狂者として厳重な監視付きで一室に閉じ込められていた。王は一弦琴を取り出して声も静かに歌いだした。
サガレン王の父・大国別はイホの都でバラモン教を開いたが、三五教に追われて顕恩郷に逃げた。大国別がその地でなくなると、バラモン教の棟梁となった鬼雲別は自分を疎んじ、そのため自分はシロの島までやってきて教えを開き、王となった半生を歌に歌った。
そしてウラル教の竜雲がやってきてケールス姫を籠絡し、今の境遇に至ったことを嘆き、大自在天に自分とシロの国民たちの救いを請い願った。
テーリスはサガレン王の部屋の外にやってきて、あたりに人がないのを幸い、アナン一派が王を救うべく計画を実行していることを歌に託して歌った。サガレン王はこの歌を聞いて自分を助けるべく臣下が活動していることを知り、大いに勇気づけられた。
竜雲はケールス姫を伴い、王を監禁した部屋の前に現れ、声高々とウラル教への改心を迫る歌を歌った。竜雲は自分こそがシロを治めるのにふさわしいと勝手な理屈を歌い、譲位を迫る言霊を臆面もなく発射している。
サガレン王はただうつむいているだけだった。そこへ、城の外に爆竹の音が響いた。竜雲とケールス姫は青くなってこの場を出て行った。竜雲は部下に下知して防戦の指揮を取った。アナンの軍は城門を破り、城内に乱入してきた。
エームスとテーリスはこの混乱に乗じてサガレン王を部屋から救いだし、裏門から人目を忍んで逃げ出した。 |
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01 | 08 | 悪現霊 | 〔996〕 | アナンの軍は牢獄から一度は同志たちを救い出したが、アナン、セール、シルレング、ユーズたちの一隊は城内の落とし穴に落ち込んでしまった。
竜雲の左守ケリヤと右守ハルマは采配を打ち振ってアナンの軍を迎え撃ち、寄せ手の三分の一ほどを打倒した。アナン軍の指揮を執っていたサールとウインチはやむを得ず退却し、バリーの館に引き上げて行った。
竜雲は部下たちの防戦をねぎらい、城の防備を固めた。しかし牢獄は破られ、サガレン王は姿を消していた。エームスとテーリスの姿も見えなくなっていた。竜雲は部下に下知して、三人の行方を探るべく捕り手たちを四方に派遣した。
竜雲は味方の将卒をねぎらうために城内の庭で祝宴を開いた。竜雲はシロの島の司となって人民をウラル教に導こうという野望を歌った。ケールス姫やケリヤも竜雲を称える歌を歌った。 |
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02 | 00 | 松浦の岩窟 | - | 本文 | |||
02 | 09 | 濃霧の途 | 〔997〕 | サガレン王とエームス、テーリスの主従三人連れは、霧の立ち込める谷道を逃げていく。一行はセムの里を抜け、松浦の小糸の館に身を隠そうと進んで行く。
エームスとテーリスは述懐の歌を歌いながら、道中の無事をバラモン教の神に祈りつつ進んで行く。この谷川は常に濃霧が立ち、危険な生き物が棲息し山賊も出没する地帯であったが、一行は竜雲の追っ手を避けるために、心ならずもこの道筋を行かざるを得なかった。 |
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02 | 10 | 岩隠れ | 〔998〕 | サガレン王は述懐の歌を歌いながら険阻な谷道を落ち延びてきた。三人は巨大な岩の陰に休息を取り、昨夜からの出来事をひそひそと語り合っていた。
三人は休息を終わって先に進もうとしたところ、行く手から人声が聞こえてきた。一行は竜雲の手下のヨールの一隊であることを悟り、再び大岩石の後ろに身を隠した。
ヨールたちは、岩の後ろに王たちが潜んでいるとも知らずに、王たちを捕える算段を相談し始めた。そのうちにヨールの一隊の五人は酒を飲んで酔いつぶれてしまった。 |
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02 | 11 | 泥酔 | 〔999〕 | 竜雲の部下・ヨールの一隊は、サガレン王を捜索に来て谷道の大岩の前で酔いつぶれ、大岩の後ろに王たちが潜んでいるとも知らずに、酔いが回って管を巻いている。
大岩の後ろから声も涼しく宣伝歌が聞こえてきた。ヨールたちは酔いで眼もろくに見えなくなり、歌の声が耳にガンガン響いてきた。
サガレン王は大岩の後ろから、バラモン教の正当性と竜雲の悪を立て別け、ヨールたちに向かって改心を促す歌を歌った。
ヨールはこの歌に降伏し、部下たちに命じてサガレン王を守る側に着くことを決めた。 |
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02 | 12 | 無住居士 | 〔1000〕 | 松浦の谷合の小糸の里は、深き谷川が流れ、岩山の斜面に天然の大岩窟が穿たれている要害である。友彦が住んでいた館は岩窟より手前の平野にあった。
サガレン王は平野に館を結び、自らは岩窟に隠れて人を集め、都を取り戻す策を練っていた。テーリスとエームスが館にて武術を練っていると、一人の老人が岩道を登ってきて館の前でバラモン教の神文を唱えている。
エームスは老人を館に招き入れた。老人はなぜかサガレン王が岩窟に隠れていることを知っていた。老人は無住居士と名乗り、エームスたちの作戦を見抜いて深い洞察を表したので、エームスとテーリスは、サガレン王に会って助言をしてほしいと頼み込んだ。
無住居士は、テーリスが三五教徒でありながら、わが身のためにサガレン王の奉じるバラモン教に入信していたことをも見抜いた。そして、いずれの道でも至上至尊の神様のために真心を尽くし、神のお力にすがって王を補佐する心がけさえあれば、竜雲ごときは恐れるに足りないと説いた。
無限絶対の神の力に依り、霊魂の上に真の神力が備われば、一人の霊をもって一国や億兆無数の霊に対しても恐れることはないはずである、とエームスとテーリスに説き諭した。
無住居士は二人に教えを垂れるとすぐさま去ろうとした。テーリスは王に面会してもらうように頼み込んだが、無住居士は竜雲のごとき悪魔を言向け和すには、自分自身の心にひそむ執着心と驕慢心と自負心を脱却し、惟神の正道に立ち返りさえすれば十分だと説いた。
エームスが王を呼びに行った間に無住居士は、皇大神の前に真の心を捧げ、神の大道にまつろい真心を現すようにと宣伝歌を歌った。神の国を心の世界に建設し、元の心に帰ることにより、神の宮、神の身魂となることができるのだ、と歌って別れを告げ、飛鳥のように濃霧の中に去って行った。 |
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02 | 13 | 恵の花 | 〔1001〕 | 無住居士が去った後、テーリスは一人腕を組み、考え込んでしまった。あたりには集めた同志の兵たちが撃剣術を訓練する声が響いている。テーリスは無住居士の言葉を思いだし、神の力に比べて武力のむなしさを感じていた。
そして、幼年のころより三五教の教えを聞きながら、暴力をもって暴力を制すやり方で竜雲を討伐しようとしていたことの愚かさを悟った。
テーリスは、アナンに率いられたサガレン王派軍がかえって人命を失ったのに比して、竜雲は無道ながらもタールチンやキングス姫らを投獄しながらも相応の飲食を与えて身体には危害を加えなかったことに思い至った。
それでいながら自分たちは忠臣義士だと信じて敵の討伐を企てていたことに気づき、それを神様が助けるはずがないと悟った。国治立大神、豊国姫大神、神素盞嗚大神のご神号を唱えて涙ながらに祈願した。
そこにエームスは王を連れて戻ってきた。テーリスは王に、無住居士の教えと自分の悟りを諄々として伝えた。王もまたその意を悟り、落涙した。そしてエームスも王も、ただいま限り武術の訓練は止めにして、一同御魂磨きにかかることに同意した。
王がエームスを連れて岩窟に帰った後、テーリスは武術の修練場に現れ、一同に向かって王の命令として武術を廃し、心身を清めて誠一つの修行をなすように、と呼びかけた。
一同の中でもっとも剣術に優れたチールという男は、テーリスに敬意を表しつつも、反逆の徒・竜雲を赦すわけにはゆかず、何としても討伐すべきだと食って掛かった。
テーリスは諄々として道理を諭し、チールも王の命を容れることになった。またテーリスは、竜雲の間者として入り込んでいたヨール他四人の元捕り手を呼び、彼らを裏切り者として処刑する手はずだったが、大神の御心にならって無罪放免とすることを言い渡した。
ヨールはテーリスの処置に感じ、面に真心を現して改心し、竜雲に仕えることを断念したと告白した。ヨールは涙ながらに懺悔し、改心の述懐歌を歌った。
テーリスは改めて部下たち一同に誠の道を説き諭した。一同はこれより日夜魂磨きに専念し、神の救いを求めることとなった。 |
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02 | 14 | 歎願 | 〔1002〕 | サガレン王は岩窟に帰り、奥の間に端座して天津祝詞を奏上し、悔悟の歌を歌った。セイロン島にやってきて人々をバラモン教に導いたことにより王として祀りあげられ、天地の神に対して清き行いをしてきたつもりが、知らず知らずに慢心し、小さな区別に捉われて仁慈無限の大神の御心から離れてしまったことを心から詫びた。
サガレン王は自ら大神への信仰に身を捧げることを誓い、また部下たちにも訓示を垂れるのであった。
左守のタールチンやその妻・キングス姫は、サガレン王の言霊に喜び、改心と心から大神に仕え王を補佐する決意を歌った。
一方エールは、それでもなお今現在、少なからぬ仲間たちが竜雲に捕えられて苦しんでいる現状を訴え、大神の教えに背くかもしれないが、都に行って命を的に立ち向かい、仲間を助けたいのだ、と訴えた。
王をはじめ高官たちは、エールの歌を聞いてしばし無念の涙にくれていた。そこに女宣伝使の美しい宣伝歌が聞こえてきた。 |
本文 | ||
03 | 00 | 神地の暗雲 | - | 本文 | |||
03 | 15 | 眩代思潮 | 〔1003〕 | 竜雲とケールス姫は、涼しげな白衣を着て窓を引き明け、展開する山野の緑を眺めて酒を酌み交わし、雑談にふけっていた。暑い夏のことで、滲み出す汗で衣には斑紋ができていた。
ふとケールス姫が竜雲の背中を眺めると、頭部に角が生えた鬼が立っている形に汗染みができていた。ケールス姫はあっと驚き、竜雲の前に回って泣き伏しつつ、鬼が竜雲を狙っているから衣を変えるように、と歎願した。
ケールス姫は続けて、すっかり竜雲が恐ろしくなってきたと告白した。竜雲はからからと打ち笑い、一国の主を放逐して望みを遂げようという大望を果たすのだから、弱音を吐くものではない、悪人として度胸を据えろとケールス姫を叱咤した。
ケールス姫は、このような悪事はウラル教の盤古神王様もお許しになるはずがないと言い、竜雲はどうしても言って聞くような性分ではないことは知っているが、せめて自分はもう悪事から手をひかせて暇をくれるようにと嘆願した。
竜雲は、自分がこの地位までこられたのもケールス姫の悪事のおかげであり、姫こそ悪の張本人だと指摘した。そしてこの悪事は二人で責任を分担しなければならないのだ、と理屈を返した。
そして弱肉強食の現代においては、我々こそが現代思潮の真髄を体現した覇者・勇者であり、善悪は時と所と地位によって変わるもの、姫も古い道徳観念を捨てて新しい女にならなければならないと演説した。
そして社会の慣習や古い観念を打破して自由におのれの能力を発揮することこそ、盤古神王の教えにかなうことであると強弁して姫を説きつけた。
ケールス姫は黙然として善悪正邪の判断に苦しみ、その心は暗澹として迷いに捉われてしまった。竜雲も豪傑笑いに自分の悪事を正当化してみせたが、なんとなく良心のささやきに責められ、両人はしばし無言となってしまった。
そこへ竜雲の懐刀の青年テールが慌ただしく駆け込んできた。そしてサガレン王の軍勢が都に攻め来たり、さしもの大軍に味方は打ち破られ、落城の危険に見舞われていると注進した。そして二人に脱出するよう進言した。
そこへ左守のケリヤがゆうゆうと入ってきた。ケリヤの落ち着いた様子を見たテールは、この危急存亡のときに何をしているのか、とケリヤを問い詰めた。一方ケリヤは、今日のような風ひとつない日に何を騒いでいるのか、とテールに問い返した。
竜雲とケールス姫は、側近のテールの言葉を信じていたので、ケリヤの一喝し、ケールス姫は雄々しくも薙刀を取ってケリヤの足を打ち払った。そしてケールス姫は戦支度をして勇ましく門に駆け付けたが、門前に人影もなく、門番たちはのんびり酒を酌み交わしていた。
ケールス姫と竜雲は厳しくテールを叱責した。テールは両人の身を案じるあまり、恐ろしい夢を見たのだと言い訳した。 |
本文 | ||
03 | 16 | 門雀 | 〔1004〕 | 門番のシールとベスは、酒を酌み交わしながら雑談にふけっていた。そして、ケールス姫が勇ましい戦支度のいでたちで血相変えて門前にやってきたが、こそこそとお館に戻って行ったことを話題にしていた。
ケールは、何か奥に危急の事態が起こっていたら大変だから、ベスに見に行ってくるようにと言いつけた。ベスは白鉢巻にたすき十字のいでたちを整えると、奥殿に進んでいった。
すると左守のケリヤが負傷しており、竜雲、ケールス姫、テールらが驚きに気もそぞろになっている様子が見えた。ベスは状況を見て、それほどたいしたことではないだろうと考え、門に戻ろうとした。
ケールス姫はベスの姿を目ざとく見つけ、門番が奥殿まで入ってきたことを怒鳴りつけた。ベスはただならぬ姫の様子に、何事か出来したかと様子を見に来ただけだと答えた。竜雲とケールス姫は、ここで見たことは決して口外するなとしてベスを追い出した。
これより城内には間断なく不可解なことが続出し、竜雲以下城内の者はみな、戦々恐々として心休まらず日々を暮らすことになった。 |
本文 | ||
03 | 17 | 一目翁 | 〔1005〕 | 門番のシールは、ベスの帰りと報告を待っていた。ベスは戻ってきたが、シールの問いかけにはぐらかして答え、さっぱり要領を得ない。シールはベスに酒を勧める。
シールの思惑通りベスは酒に酔って、竜雲やケールス姫に口止めされていたにもかかわらず、テールがサガレン王軍襲来の夢を見てから騒ぎをやらかしたことをしゃべってしまった。
シールとベスは酔ってかみ合わない雑談を続けている。その中でシールは竜雲たち上層部の悪逆無道を憂いベスに問いかけるが、ベスは気楽に仕えていればよいとはぐらかす。
すると門前に宣伝歌が聞こえてきた。宣伝歌は神の正道は永遠に変わらないと歌い、一時の欲に踏み迷い、今は勢いの強い竜雲の勢いもたちまち色あせて滅びは近いと予言し、心の立て直しを説いていた。
シールとベスは酔って朦朧としながらも宣伝歌の声に胸も刺さる心地がして門を開くと、白髪異様の老人が左手に太い杖をつき、右手に扇を握って厳然と仁王立ちになっていた。
シールは老人の片目の異様な姿に驚きながらも、竜雲を諫めようとしても無駄だから、帰ったがよかろうと洒落を交えて声をかけた。老人はシールの問いかけに大笑いし、門番にしてこれほどの粋人ならば、竜雲の城はさぞかし上下一致しているだろうと感心した。そして、飲めよ騒げよ一寸先は闇よ、とウラル教の宣伝歌の一節を歌った。
ベスは面白い老人がやってきたと、奥に通して城内の空気を払ってもらおうと注進に行った。 |
本文 | ||
03 | 18 | 心の天国 | 〔1006〕 | アナン、セール、ユーズ、シルレングたちは先の攻城戦で捕えられ、牢獄に投ぜられていた。四人はひそびそとサガレン王の身の上を案じつつささやきあっていた。
アナンは弱音を吐きかけるが、ユーズは人間の本尊である霊魂を活殺できるのは神様だけであり、たとえ牢獄につながれていようとも、竜雲のような悪魔にこびへつらって仕えているケリヤたちの心情の方が憐みを催すと元気をつけている。
シルレングらもユーズの言に心が晴れた心持になった。そこへ牢番頭のベールがやってきて、静かにするようにと四人を叱責した。ユーズは自分たちにとってはここが天国浄土であり、娑婆の欲に捉われているお前たちこそ牢獄にいるのだと逆にベールを叱責する。
ベールは怒って、ユーズを苦しめて殺してやろうと脅し嘲った。ユーズは意に介さず、ベールこそ天地に反逆する罪人であり、暴言の罪とがで懲らしめられるのだとあざ笑う。
ベールはユーズの態度にあきれる。ベールは、実は四人には赦免の命令が下っていたのだが、減らず口をたたくユーズはこのまま牢獄につないでおくと言い、アナンたち残りの三人に牢を出るようにと申し渡した。
しかしアナンは、竜雲のような罪人の赦しは受けないと言い、そう竜雲に伝えるようにと言いかえした。セールとシルレングも竜雲たちの罪を数え立てて、自分たちは悪人の情けは受けないと言い張る。
アナンたち四人は、竜雲たちの悪行を責める歌を歌い、自分たちの志を明かした。ベールは途方に暮れてしまったが、四人の詞にいつとはなしに釣り込まれて牢獄の中に入ってしまい、戸を閉めた途端に牢の錠が下りてしまった。
四人は竜雲に与する裏切り者として、ベールを四方から囲んで打ちこらした。ベールの悲鳴を聞いて、牢番が慌ただしく駆け付けた。 |
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03 | 19 | 紅蓮の舌 | 〔1007〕 | 門番のベスはふたたび竜雲とケールス姫の居間へやってきて、門前に白髪異様の老人が現れていろいろと不思議なことを言い、どうやらウラル教の宣伝使であるように思うので、調べてほしいと注進した。
ケールス姫は、その老人を連れてくるようにとベスに命じた。老人は竜雲の居間にやってくると、竜雲に雷のごとき声で問いかけた。竜雲は面食らって恐れをなしながら老人に名を問いかけた。
老人は、三五教の宣伝使・天の目一つの神(北光彦)と名乗った。竜雲は三五教と聞いて顔色を変えたが、気を取り直して余裕の振りをして社交辞令を述べ立てた。
天の目一つ神は竜雲に対し、単刀直入になぜバラモン教の教王であるサガレン王を追放したのかと問い詰めた。竜雲は、これは内々のことであるから申し上げるわけにはいかず、ただ三五教の教理を教えてほしいと答えた。
天の目一つの神は容赦せず、竜雲が王から后を奪い、共謀して王を追放して国を奪い、国政をほしいままにしていることを直言した。そして今度はケールス姫にこれをどう考えるか、問いただした。
ケールス姫はただただ恐れ入り、天の目一つの神の判断に任せるより他にはない、と自らの罪を認める発言をするのみであった。
天の目一つの神は、今のうちに両人は心を改めて王に心から謝罪し罪を清めなければ、たちまちに天罰が至るであろうと忠告した。そして早く決心をしないと実際の身辺の危険が刻々に迫っていると宣言した。
二人に忠告を終わると、天の目一つの神は廊下に杖の音を響かせながら帰って行った。竜雲とケールス姫は天の目一つの神の後姿を見送りながら、呆然自失として顔色青ざめ、ただただ太い息を吐いているのみであった。
ケールス姫は天の目一つの神が立ち去った後、目一つの神の神徳を称えた。竜雲は気を悪くし、自分が気に入らないなら自分を放逐し、目一つの神をこの位に据えたらよいと姫に対して怒った。
ケールス姫はサガレン王に背いたことを後悔し、竜雲に対し、自分の言が気に入らないならすぐに館から立ち去るようにと言い返した。姫を説得しようとする竜雲に対し、ケールス姫は自分の罪が恐ろしくなったと懐剣を取り出し、自害しようとした。
竜雲はあわてて姫の手を抑え、押しとどめようとしたが、姫は聞かずに力を入れて自害しようとする。右守のハルマが騒ぎを聞きつけてやってきて、姫の剣を奪って投げ捨てた。
そこへテールがやってきて、城内に火災が起こって城の大部分が焼け落ち、館にまで延焼したと告げに来た。実際に黒煙がもうもうとあたりを包み始めた。 |
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04 | 00 | 言霊神軍 | - | 本文 | |||
04 | 20 | 岩窟の邂逅 | 〔1008〕 | 一方、松浦の里のサガレン王が隠れ住む岩窟の前に聞こえてきた女宣伝使の宣伝歌は、神素盞嗚大神の娘・君子姫であった。思わず宣伝歌に引きつけられて出迎えたエームスに、君子姫と侍女の清子姫は一礼し、ここに隠れているサガレン王とは、顕恩郷で二人が仕えていた国別彦ではないかと問い、面会を申し出た。
サガレン王はバラモン教教主の息子として、顕恩郷で君子姫、清子姫に面識があった。王は君子姫に、父の死後バラモン教の教主となった鬼雲彦に疎んぜられて顕恩郷を出て以来、このシロの島にやってきてバラモン教を広め王となったが、竜雲に后と国を奪われた経緯を歌で明かした。
そしてこの岩窟に現れて自分たちに大神の教えを思い起こさせてくれた老人は、三五教の天の目一つの神ではないかと問い、君子姫に対して、心をあわせてシロの島に大神の教えを広め、竜雲やケールス姫を改心させたい旨を歌で訴えた。
君子姫は、鬼雲彦一派に海に流されてここにたどり着いたのは、サガレン王を救うためであると答え、何々教といった小さな隔てを撤回し、神の心ひとつとなってシロの島にわだかまる曲津を言向け和そうと歌った。
サガレン王は君子姫たちと協力し、神地の都の人々を言向け和すべく、王を先頭に旗鼓堂々として宣伝歌を歌いながら都を指して進んで行った。 |
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04 | 21 | 火の洗礼 | 〔1009〕 | 突然吹き荒れた山おろしに城下は破壊され、城からは出火し火炎に包まれた。竜雲やケールス姫も館の中で黒煙に巻かれてしまった。人々が救いを求めて叫ぶ声の中、宣伝歌の勇ましい言霊が聞こえてきた。
それはサガレン王一行の宣伝歌であった。サガレン王は炎と黒煙の中、宣伝歌を歌いながら数多の部下を指揮し、城内の人々を救うべく努力している。君子姫と清子姫は奥殿深く猛火の中に進み入り、竜雲とケールス姫を救いだし、城の広場に運んできた。
どこからともなく、天の目一つの神(北光神)の宣伝歌が聞こえてきた。そして、この日の洗礼によって城内に立てこもっていた曲津神の眷属たちは逃げ去ったと告げた。そして竜雲やケールス姫も改心した今、竜雲に仕えて体主霊従を行っていた人々は、皇大神にその罪を謝罪するようにと促した。
天の目一つの神は杖をつきながら、人々が非難する広場に微笑を浮かべて現れた。 |
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04 | 22 | 春の雪 | 〔1010〕 | 神地の城は天恵的に火の洗礼を施され、すべての建造物は焼け落ちたが浄化された。また人々はその身にまったく傷を負うこともなかった。人々はサガレン王派も竜雲にしたがっていた者も、一同神徳に感謝した。
そして天の目一つの神の導師のもとに、国治立大神、塩長彦大神、大国彦大神を祀る祭壇を作り、天津祝詞を奏上して感謝と悔い改めの祈願をこらした。敵味方、宗教の異動も忘却してひたすら神恩を感謝し、たちまち地上の天国は築かれた。
サガレン王がもしもの時のための用意に造っていた河森川の向こう岸の八尋殿は、火災に遭わずに残っていた。王は一同を率いて新しい八尋殿に入り、天の目一つの神、君子姫、清子姫を主賓として感謝慰労の宴会を開いた。
竜雲とケールス姫も、この宴の片隅に息を殺してかしこまっていた。悪霊が脱出した竜雲は、依然と打って変わってその身は委縮し、以前のような気品や勢いがなくあわれな姿になってしまった。
人は守護する神の如何によってその身魂を向上したり向下したりするものであり、善悪正邪の行動を行うものである。
また悪魔は、常に悪相をもって顕現するものではなく、善の仮面をかぶって人の眼をくらませ、悪を敢行しようとするものである。逆に悪魔のごとく恐ろしく見える人々の中にも、かえって誠の神の身魂の活動をなし、善事善行をなす者のたくさんある。
ゆえに人間の弱い眼力ではとうてい人の善悪正邪は判別しえるものではない。人を裁く権力を有し給うのは、ただ神様だけなのである。みだりに人を裁くのは神の権限を冒すものであり、大きな罪なのである。
悪霊が脱出して委縮した竜雲も、再び正義公道に立ち返って信仰を重ね、神の恩寵に浴すれば、以前に勝る身魂を授けられるのである。ケールス姫は一足先に改心をなしたため、比較的泰然としてこの場に会った。
竜雲とケールス姫は懺悔の歌を歌い、恥ずかしげに片隅に身をひそめてうずくまっている姿は、人々の同情を誘うほどであった。 |
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04 | 23 | 雪達磨 | 〔1011〕 | サガレン王は立って中央の高座に登り、堂々として述懐の歌を歌った。天の目一つの神の教えによって誠を悟り、君子姫、清子姫らと協力し、都について火災の災害から人々を救ったことに感謝を表した。
自らの心の油断を懺悔し、これからの国造りへの抱負を述べると共に、竜雲たちの改心を促して、王は歌を終えた。
天の目一つの神は立って祝歌を歌い、王の改心と火災の災害への献身を称え、この宴にて上下和楽の様が実現されたことに喜びの意を表した。 |
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04 | 24 | 三六合 | 〔1012〕 | 続いて、サガレン王の左守タールチンの妻・キングス姫はこれまでの経緯を述懐する祝歌を歌った。またエームスも顕恩郷をサガレン王と共に出立してから、竜雲に牢獄に捉われていたこと、牢獄を脱出して王と松浦の里に逃げ、そこで天の目一つの神に出会って改心したこと等、これまでのいきさつを祝歌に歌った。
サガレン王は天の目一つの神の媒酌によって君子姫をめとって妃となし、シロの島に君臨した。エームスは清子姫をめとり、サガレン王の右守となって仕えた。
ケールス姫は天の目一つの神の弟子となり、ついに宣伝使となって天下四方の国々を巡教した。
竜雲はシロの島を放逐されたが、インド本土に帰って心を改め、神の大道の宣伝に従事したという。 |
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- | - | - | 余白歌 | - | 本文 |