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霊界物語あらすじ

説明を読む
ここに掲載している霊界物語のあらすじは、東京の望月氏が作成したものです。
まだ作成されていない巻もあります(55~66巻のあたり)
第59巻 真善美愛 戌の巻 を表示しています。
篇題 章題 〔通し章〕 あらすじ 本文
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その昔、八岐大蛇が憑依した大黒主は、印度の国ハルナの都で暴威を奮って天下を体主霊従的に混乱させていた。
神素盞嗚大神が数多の宣伝使を派遣して言向け和そうとしたとき、大黒主は風を喰らって印度の都を逃れ、九十五種の外道を引率して遠く海を渡り、自転倒島の大山に姿を隠した。
大黒主は暴風雨を起こし妖邪の気を放射して人畜を苦しめた。大神は自ら数多の天使や宣伝使を率いてこの地に来たり、天下の災害を除いた。
神素盞嗚大神は天の叢雲の剣を得てこれを高天原にまします天照大御神に奉り、清浄無垢の大精神を大神ならびに天神地祇八百万の神および天下万民の前に顕し給いし由緒深い神山である。
その大山を朝夕うちながめ、ノアの方舟に見立てた口述台に横たわりつつ、四月一日から三日の正午にかけて、真善美愛戌の巻を編著し終わった。
白砂青松の海岸を四五の信徒とともに逍遥しつつ松露の玉を拾い拾いホテルの二階に帰り、大山の霊峯と差向って互いに黙々とにらみ合いつつしたため終わる。
本文
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昨夜見た不思議な夢に、顔も知らない神人と日本海の空高く、黄金の翼に乗せられて、金剛不壊の山の根に苦も無く降りてゆく。
「弥勒菩薩」と呼ぶ声にはっと気が付いて我が身を見れば、紫磨黄金の肌となり、諸々の天人に囲まれて世界の人の前に立ち、苦集滅道の真理を完全に委曲に説き出だす。
天地はたちまち震動し、道法礼節は遅滞なく治まり、海の内外もたがいに睦び親しんで一天一地一神の治世を見ることこそ尊いことである。
折りから春風が窓を打つ声に目をさませば、月の光はキラキラと二階の方舟を照らしつつニコニコと笑み給う。惟神御霊幸はえましませよ。
本文
01 00 - 本文
01 01 〔1501〕
玉国別一行を湖上に亡き者にしようとしたワックスは、にわかに一変した天候に翻弄され、船頭を失い漂流していた。ワックスは大自在天に願いをかけ、改心して衆生済度のために比丘となり、ハルナの都に出て衆生済度に励むつもりだと無事を祈った。
不思議にも颶風はぴたりと止まった。ワックスはにわかに元気回復し、先ほどの殊勝な気持ちはどこへやら、またしても減らず口を叩きはじめた。仲間たちに自分の祈願の効験を自慢するが、エキスに嵐の中ふるえて神頼みしていた姿をからかわれてしまう。
ワックスたちは船に帆をかけて風の力を借り、三五教の宣伝使たちを追いかけることにした。ワックスは櫓を握ってこぎだし、下らぬ歌を歌って悦に入っている。小さな町にいてデビス姫をものにしようと気張って追いかけていたが、生まれて初めて船に乗って旅行く愉快さと引き比べて思えば馬鹿なことをしていたものだ、などと勝手な感慨にふけっている。
エキスが船漕ぎを変わり、ワックスのこれまでの悪行と失敗をからかう歌を歌った。ワックスは面白くなく、ヘルマンに代わるように命じた。ヘルマンは、三五教の方が女神がやってきて船を与えてくれたりして、よっぽど自分たちより気が利いている、と三五教への傾倒を吐露した。
ワックスはヘルマンの弱きをたしなめて、キヨの港に着きさえすれば、バラモン教の勢力範囲だから三五教徒たちは手もなく捕まえることができるだろうし、そうしてからハルナの都に行けばよい、と諭した。そしてまた自分が櫓を握って船をこぐ。
一行は交代で櫓をこぎ、順風に助けられて、三日目の夕方にキヨの港に安着した。
本文
01 02 〔1502〕
キヨの港の関所の総取締であるキャプテン・チルテルの留守宅では、チルテルの妻チルナ姫が、部下のカンナとヘールを呼んで、ひそびそ話をしている。
この頃、チルテルが美しい女を奥の別室に招き入れたので妻のチルナ姫は悋気を起こし、部下の二人に、女を口説いてチルテルから引き離すようにと命じていたのであった。
カンナとヘールは、チルナ姫にうまく丸め込まれ、女を口説こうと庭園を縫って奥の別室に近づいたが、いざとなると心がドギマギして戸を開けることができない。
ヘールとカンナは歌を歌って美人の気を引くことにした。二人はおかしな手つきで一生懸命、滑稽な歌を歌い始めた。
美人が戸を開けると、二人の軍人が尻をまくって滑稽踊りをやっている。美人は戸を開けて二人を室内に招き入れた。
本文
01 03 〔1503〕
三五教の宣伝使・初稚姫は、玉国別一行の危難を守ろうと、猛犬スマートを引き連れてキヨの湖を渡り、バラモン軍関守のチルテルの館に立ち寄っていた。そこの離れ家に落ち着き、一弦琴を弾じながら使命を果たそうと潜んでいた。
チルテルは初稚姫の美貌にうつつを抜かし、姫を屋敷の中に留め置いて、妻ある身でありながら恋の野望を遂げようと企んでいた。
チルテルの妻チルナ姫は、部下のカンナとヘールに初稚姫を口説かせて、夫の初稚姫に対する興味を失せさせようとした。初稚姫はやってきたカンナとヘールを自室に招き入れ、手ずから茶菓を供じて話を聞いている。
二人は美人の前でいいところを見せようと、それぞれ初稚姫の美しさを褒めたたえる即興の歌を歌って見せた。三人は互いに歌をもって心を探り合いつつ、夏の長い日を知らぬ間に暮らしてしまった。
チルナ姫は二人の成功を案じ煩いつつ、足音を忍ばせて窓の外に立ち寄り、息を潜めて中の様子を聞き入っている。
本文
01 04 〔1504〕
チルテル自身は、酒と女にかけては目も鼻もない厄介者であった。バーチルの館に潜むという三五教宣伝使たちを召し捕りにまかり出たはずが、酒を突き付けられてたちまち自分の使命を忘れ、群衆に交じって酒をがぶ飲みしている。
テクは番頭頭気分でチルテルに話しかけた。チルテルは、自分の屋敷の離れに隠している美人に酌をしてほしいと、テクに呼びにやらせることになった。テクは、リュウチナントへの昇進と引き換えに、女を密かに呼んでくることを引き受けた。
テクが離れに近づくと、中に男の気配がする。カンナとヘールが、チルテルの留守に美人に近づこうと部屋を訪ねていると見てとったテクは、窓の外から黙って退散すればチルテルに報告することは見逃してやる、と脅した。
カンナとヘールは、初稚姫のところに来たことがチルテルに知られることを恐れたが、初稚姫は構わず、テクを招き入れた。テクは、キャプテン・チルテルの命令で初稚姫に用があると言って、カンナとヘールの離席を申し出た。
カンナとヘールはすごすごと部屋を出たが、闇にまぎれて二人の話を聞いている。
本文
01 05 〔1505〕
テクは、チルテルが初稚姫の容色に惚れ込んでおり、出陣中のバーチルの館での酒宴に出席して欲しいと願っている旨を初稚姫に伝えた。初稚姫は、チルテルの申し出を迷惑に思っており、自ら進んで行くことはないとテクに答えた。
二人の問答を外で聞いていたチルナ姫は、夫がやはり初稚姫に恋慕していて別室に隠していることを知り、地団太を踏んだ。カンナとヘールはチルナ姫が来ていることに気が付いて声をかけた。
チルナ姫はカンナとヘールをけしかけて、強硬的に初稚姫を口説かせることにした。カンナとヘールは仕方なく、外から初稚姫に自分たちのどちらかと添うように口説く歌を歌いかけた。
テクは、初稚姫には頑として断られるなり、外からはカンナとヘールが邪魔をするなりで、チルテルの命を遂行することができなさそうな勢いに自棄になり、捨て台詞の歌を歌うと、腹立ちまぎれに四股を踏み鳴らし、帰って行った。
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02 00 - 本文
02 06 〔1506〕
バーチルの館では、番頭のアキスが来客を喜ばせようと力を尽くし、歌を歌って酒の座の興を添えていた。
チルテルはいつの間にか十数人の部下を引き連れて奥の間に闖入し、眠っているデビス姫に猿轡をはめて引っ抱え、館の裏門から抜け出して自分の館に帰り、倉の中に隠しておいた。
三千彦が目を覚ますと、デビス姫がいなくなっている。伊太彦は酒宴に興じながら裏門の方にブラリブラリと廻った。すると十数人の男たちが、女らしきものを担いで逃げて行くのが見えた。
伊太彦は、夜目にデビス姫がさらわれたのではないかと案じ、寝室に戻って三千彦に問いただした。三千彦は確かにデビス姫がいなくなっており、また眠っている間に姫がバラモン軍にさらわれた夢を見たと語った。
伊太彦は自分が見たことを話し、デビス姫がチルテルにさらわれたことを確信した。二人は玉国別に内緒で酒宴を抜け出してデビス姫を救出しにチルテルの館に向かった。
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02 07 〔1507〕
チルナ姫は、夫チルテルが初稚姫を自宅に逗留させていることに腹を立て、また部下を使って初稚姫を誘惑しようとした試みが失敗したので荒れている。そこへチルテルが酔って帰宅した。
カンナはチルテルを迎え出て、チルナ姫が荒れているのであまり近づかないようにと忠告した。チルテルは、チルナ姫を焚き付けて家出するように仕向けてくれたら、バーチルの館からさらってきた女を与えようと約束した。
チルテルは女房のチルナ姫の始末をカンナに任せて、自分はさっさと初稚姫の居間を訪ねて行った。初稚姫はチルナ姫を持ちあげて、チルテルをかわしている。
一方カンナは、チルテルが初稚姫以外にも美人を倉庫に隠しているとチルナ姫に告げ、またチルテルが陰でチルナ姫の悪口を行って女たちと笑っていたと焚き付けた。
チルナ姫は計略通り大いに怒りだした。カンナはもう家を出てせいせいしたらよいとチルナ姫をそそのかそうとするが、チルナ姫は逆に、こうなったらどこまでも家を出ず、女どもを全員叩き出さなければ気が済まないと覚悟を決めてしまった。
チルナ姫は暴れはじめ、障子を破り、火鉢を放り投げ、瀬戸物を割り出した。チルテルはこの物音を聞いて血相変えて走ってくると、チルナ姫を殴りつけた。チルナ姫は逆上してチルテルに武者ぶりつき、睾丸を力かぎりに引っ張った。チルテルは唸ってその場に倒れた。
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02 08 〔1508〕
デビス姫を救出しにチルテル屋敷に忍び込んで来た三千彦・伊太彦は、この夫婦喧嘩に出くわし、見過ごしもならず気を失っているチルテルに鎮魂をかけて蘇生させた。
逆上しているチルナ姫は、夫婦喧嘩に割って入った二人の宣伝使に怒りを向けて、立ち去るようにと矛先を向けた。
チルテルとカンナは救ってくれた二人に感謝の言葉をかけ、奥で休息するようにと勧めた。しかしチルテルとカンナは、三五教の宣伝使たちを捕縛しようと企んでいた。三千彦と伊太彦は二人の企みを察知し、カンナに案内されて行く途中でカンナの腕を締め上げた。
カンナはデビス姫の居場所を白状し、三千彦たちを倉庫に案内して姫を解放した。デビス姫の無残な様子に怒った三千彦はカンナを縛り上げて、倉庫に入れて錠を下ろした。二人はデビス姫を労わりながらチルテルの館を去って行った。
一方チルナ姫は、もうこうなったらチルテルの女癖をハルナの都に逐一報告すると言って出て行こうとする。チルナ姫に家出して欲しかったチルテルも、さすがにハルナの都に報告されては自分の地位が危ないと、チルナ姫を縛って倉庫に監禁してしまった。
チルナ姫は暗い倉庫で縛られているカンナにつまずいた。てっきりチルテルが隠している別の女だろうと勘違いしたチルナ姫は、逆上してカンナの太ももに噛みついた。カンナは悲鳴を上げて自分はカンナだと誤解を解こうとするが、チルナ姫は聞き入れずに噛みつき続ける。
カンナは痛さに悲鳴を上げた勢いで、手をくくった綱が切れた。やむを得ずカンナはチルナ姫を殴って気絶させた。足の綱をほどいたカンナは、チルナ姫に活を入れて起こした。
やっとチルナ姫の誤解が解けた。カンナは、ここの隠されていたデビス姫はチルテルのお使いと思しき男たちが連れ出してしまったと答えた。そしてチルナ姫に太ももをひどく噛まれたことに不平をこぼした。
チルナ姫は、もともと初稚姫を館に連れてきたのはカンナだから、天罰が当たったのだと言い返し、自分は夫を取られてしまったと嘆いた。
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02 09 〔1509〕
玉国別と真純彦は、長途の旅路につかれて振る舞い酒に酔い、その夜は熟睡してしまった。翌朝、神殿で祝詞を奏上した後休んでいると、バーチルが急いでやってきた。そして三千彦、伊太彦、デビス姫がいなくなっており、どうやらバラモン軍に連れ去られたようだと告げた。
バーチルは、三人を取り戻すために村中から人を呼んで玉国別に加勢しようと申し出た。玉国別は村人に怪我人が出てはいけない、と真純彦と二人で乗り込むことに決めた。
二人が出立しようとしていると、テクがやってきた。テクはこれまで悪いことばかりしてきたが、玉国別からいただいた酒を飲んだらすっかり改心してしまったと話した。そして、チルテルの館にはあちこちに落とし穴があるから、自分が案内役として同行しようと申し出た。
バーチルは、アンチーが暇を申し出たから、代わりに本当に番頭になってくれとテクに申し出て、テクも承諾した。アンチーもと一緒にチルテル館に乗り込みたいと申し出たので、玉国別は承諾した。
四人は作戦会議を開いた。アンチーは、チルテルにはいろいろな企みがあるだろうから、できる限り事前に様子を探って、夕暮れ以降に忍び込んだ方がよいだろうと提案した。アンチーの案が採用され、テクが斥候となって館の様子を探ってくることになった。
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02 10 〔1510〕
初稚姫は、チルテルとチルナ姫夫婦の騒ぎを庭園を隔てて聞きながら、心静かに一弦琴を手にして歌っている。初稚姫が逗留しているのは、チルテルの心をただし、三千彦たちの安全を守るためだと述懐を歌う。
そこへヘールがやってきて、夫婦喧嘩の末にチルテルは負傷し、チルナ姫を縛って倉庫に閉じ込める騒ぎとなっているから、初稚姫に介抱を手伝ってほしいと願い出た。
実はヘールはチルテルに命じられて、初稚姫を呼びに来たのであった。初稚姫はそれと察知して、介抱は必要ないと踵を返し、元の居間に帰って行く。
その後ろ姿に見とれたヘールは初稚姫に惚れてしまった。こんな美人はキャプテンのチルテルであってもものにできないかもしれない、それならば自分みたいなヒョットコでもチャンスがあるかも知れないと勝手に思い込んでしまった。ヘールは初稚姫の居間に進んで行く。
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02 11 〔1511〕
ヘールは初稚姫の居間の前にやって来たが、なんだか敷居が高くて心が怖気づく。ヘールは自分の副守を落ち着かせ、また恐怖心を落ち着かせ、歌で歌いかけて初稚姫にアピールしようと歌いだした。
ヘールは初稚姫と自分を夫婦神になぞらえて、勝手な理屈をこねつつ、チルテルよりも自分になびくべきだと歌った。
初稚姫は中から戸を開いて、ヘールの姿を見て微笑しつつ、自分は神の使いとして夫を持つことはできないと歌い返した。ヘールは初稚姫への恋の思いを歌い、互いに歌を交わしていく。
ヘールはついに力づくで迫ろうと表戸を開けて初稚姫の手を握ろうとした。初稚姫は手早くかわして、襟髪をとって窓の外にフワリと投げ出した。
ヘールは、男の恋の意地だと言って起き上がり、再び初稚姫に武者ぶりつく。初稚姫は手もなくヘールを押さえつけてしまった。
ヘールは、初稚姫の姿を見て神がかりとなり、神の命にしたがって初稚姫に迫ったのだ、と屁理屈をこねる。初稚姫は剛力でヘールを押さえつけながら笑い飛ばしている。そこへチルテルが血相を変えてやってきた。
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02 12 〔1512〕
チルテルは、ヘールに命じて初稚姫を呼びにやらせたが、いつまでたっても戻ってこない。耳をすましてみれば、ヘールは初稚姫を横領しようとあからさまに口説いている。怒ってやってきてみれば、ヘールは初稚姫に押さえつけられて苦しんでいる。
その有様を見たチルテルはヘールの有様に吹き出してしまった。チルテルは、妻とはもう別れたから初稚姫を後妻に入れようと言い、横恋慕したヘールを首にすると言い渡した。
初稚姫はヘールを押さえつけながら、この男はあまり憎いとは思わないが、力をためそうとこのようにしているのだと答え、どことなしに益荒男の息が通っているとヘールを誉めた。
いぶかるチルテルに対し、初稚姫は妻を縛って蔵の中へ投げ込むような恐ろしい男にはけっして靡かないと歌で答えた。
初稚姫はぱっとヘールを放した。チルテルとヘールは初稚姫を巡って角突き合わせている。初稚姫は、自分は階級などには頓着しない、ただ男らしい男であればよく、器量が悪くても力の強い夫を持ちたいと二人に答えた。
初稚姫に乗せられた二人は、庭で相撲を取って勝負を決めることになった。二人は落とし穴の側で四股を踏んでいる。そこへテクが走ってやって来た。テクはいぶかったが、二人の行司を買って出た。
初稚姫は、自分が行司をするから、三人で誰が自分の夫になるか力比べをするのがよいと言いだした。さっそくヘールがチルテルに組みついて勝負が始まった。
二人はしばらく闘っていたが、チルテルが勝り、ヘールは押し倒されて深い落とし穴へ投げ込まれてしまった。次いでテクがチルテルに突っかかる。半時ばかりの勝負の後、テクがチルテルを落とし穴に投げ込んだ。
相撲の間に、ワックス、ヘルマン、エキス、エルの四人は関所の門を潜り、裏庭に妙な音が聞こえるので中へ入ってきた。見れば、二人の男が相撲を取っているのでそばに来て勝負を眺めていた。
勝者のテクは起き上がり、自分が初稚姫の夫となってキャプテンの座もいただくのだ、と悦に入っている。ワックス他三人は、初稚姫の美貌に見とれてポカンとしている。
初稚姫は、勝利のお祝いに、やってきた四人のバラモン信者に酒でも振る舞ったらどうか、とテクに勧めた。テクはすっかりキャプテン気取りになって、四人を酒宴に誘う。
初稚姫はテクに手を差し出した。テクは手を伸ばして初稚姫の手を握った。たちまち姫の手から白い毛がモジャモジャと生えだした。驚いてみると、姫は驢馬のような大きな白狐となってしまった。
テクとワックスたちは驚いて逃げ出そうとするとたん、ワックスたち四人は落とし穴に落ち込んでしまった。初稚姫に変化していたのは、三五教を守護する白狐・旭であった。旭は庭園の茂みを潜って、どこともなく姿を隠した。
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03 00 - 本文
03 13 〔1513〕
初稚姫が大きな白狐に変化したことで驚いたワックス一行四人は、逃げようとして落とし穴に落ち込んでしまった。一方テクは門を飛び出し、玉国別たちが待機している森に一目散に逃げて行った。
テクは真純彦にぶつかって倒れてしまった。真純彦はテクを解放して気付かせた。テクは白狐の一件を一生懸命語るが要領を得ず、しばらく休息してようやくいきさつを順々に語った。
三千彦の行方は結局わからなかったので、今度はアンチーが案内役となって玉国別、真純彦をチルテルの館に案内することになった。テクは自分も付いていくと申し出て、四人は進んで行く。
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03 14 〔1514〕
三千彦と伊太彦はデビス姫とともにチルテルの館を抜け出そうと、庭先を木蔭に隠れながら進んで行った。すると足元の落とし穴にかかり、滑り落ちてしまった。三人は怪我もなく地底の一間に安着した。そこには思いもよらぬ広い洞があり、燐光がきらめいていた。
辺りには燐鉱があってその光が洞窟内を照らしている。三人が出口を探していると、伊太彦は広い岩室があるのを見つけた。筵が敷き詰めてあったので、三人はそこで休んだ。
地上が明るくなると、どこからともなく光がさしてきて、燐鉱は弱まった。伊太彦は岩室の入り口に宿屋の番頭を気取って頬杖ついて横たわっている。そこへヘールが落ちてきた。
落とし穴の底で声をかけられたヘールは驚いたが、伊太彦は近頃ここで岩窟ホテルを開業したのだとからかう。ヘールは面白がって部屋に入って行く。
次にチルテルが落ち込んできた。チルテルは、ここは自分の館内の落とし穴だと伊太彦にくってかかるが、伊太彦は番頭ぶった滑稽を並べ立て、煙に巻いてしまう。チルテルもいぶかりながら部屋に入って行く。
部屋に入ってきたヘールが、三千彦とデビス姫をホテルの従業員扱いするので、二人はいぶかっている。チルテルがやってきたのを見たヘールは、テクに相撲で負けたことをからかう。
本文
03 15 〔1515〕
チルテルはホテルの従業員が三千彦とデビス姫であることを見て取っていぶかるが、デビス姫がカンナと入れ替わりで倉を脱出したことを知った。
ヘールはチルテルの企んだ悪行をすっかり明かした。そして岩窟に落ち込んだ者はバラモン軍を免職になるという規定があるため、もはや自分もチルテルも無職者だから、過去の事は水に流して打ち解けようと申し出た。
一同はお互いに述懐の歌を交わす。チルテルとヘールはしばらくいがみあっていたが、三千彦とデビス姫は二人を赦し、チルテルとヘールも三五教に従うことを誓った。三千彦は、バラモン教を捨てることは必要なく、ただ加えて三五教の道を守ればよいと諭した。四人は打ち解けて互いに意見を交換した。
本文
03 16 〔1516〕
伊太彦が入り口に座っていると、今度はワックス、エキス、ヘルマン、エルの四人が転がり落ちていた。またバラモン軍の兵士たちも十七八人落ち込んできた。伊太彦は相変わらず宿屋の受付気取りで応対する。
チルテルは、部下たちが全員落ち込んでしまったので、外から岩窟の出入り口を上げてくれる者がいなくなってしまったと心配する。三千彦は、玉国別たちが助けてくれるだろうと安堵するが、夜になって玉国別一行が落とし穴に落ち込んできた。
一行が岩窟に入ってみると、バラモン軍たちは、もうここから出る手段がないと嘆いている。玉国別は朗々と宣伝歌を歌って、改心して心静かに助けを待つようにと教えを示した。
一同が述懐の歌を歌い合っていると、スマートを先頭に初稚姫が燈火を捧げながらやってきた。初稚姫は関所の岩窟の入り口の錠を外して、石段を降って皆を助けに来てくれたのであった。
この初稚姫は白狐の化身ではなく、本物の初稚姫がイクとサールを従えて、落とし穴に落ちた人々を助けるためにやってきたのであった。
本文
03 17 〔1517〕
倉庫の中では、閉じ込められたカンナとチルナ姫が嘆きの述懐を歌っている。そこへ初稚姫が一同を引きつれて二人を解放しにやってきた。
チルナ姫は憎い初稚姫を見て飛び掛かるが、初稚姫は体をかわし、落ち着くようにと声をかけた。初稚姫の様子が館に逗留していたときと違っているのに気が付いたチルナ姫は謝罪した。チルテルは自分も初稚姫に救われて改心したことをチルナ姫に告げた。
ワックスたちも改心の情を表し、三千彦たちに詫びを述べた。玉国別は初稚姫に礼を述べた。初稚姫は、神の命の真心を力となして進むように玉国別に諭すと、一同に目礼してスマートを従え、足早に館の門を出た。イクとサールは遅れを取っては大変と姫の後を追っていく。
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04 00 - 本文
04 18 〔1518〕
玉国別一行はバーチルの館に帰って行った。テクは一行の先に立って行進歌に述懐を歌う。一行が戻ってみると、バーチル帰還の村を挙げての祝宴はまだ続いており、人々がそこかしこに酔って転がっている。
奥の間ではバーチルとサーベル姫が、玉国別一行の無事を神前に祈っていた。二人は玉国別たちが無事に帰ってきたことを喜んだ。
テクは滑稽な歌交じりに経緯を語り、一同に笑いを振りまくが、バーチルにたしなめられて祝酒の準備をしに駆けて行った。
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04 19 〔1519〕
サーベル姫は、舟を出して猩々ヶ島の眷属たちを引き取り、同時に島に残してきたバラモン軍の三人も助け出すことを玉国別に提案した。玉国別が賛同すると、サーベル姫に憑いた猩々姫も喜びの声を上げた。
船出の役は伊太彦が名乗り出て許された。伊太彦は、アンチー、アキス、カールを同行者として選び出した。
伊太彦はアンチー、アキス、カールを指揮してキヨの港近辺からニ十艘の小舟と船乗りを用意し、おのおの酒樽を満載して、猩々の眷属たちを迎えに行く準備を整えた。
本文
04 20 〔1520〕
伊太彦たちは船団を出航させた。アキス、アンチーは舟歌に述懐を乗せて歌った。一行の舟は自然に猩々ヶ島に向かった。早くも正午ごろには船団は島に着いた。
見れば、島の中心に屹立する岩山に大蛇が取り巻き、猩々の群れを飲み喰らおうとしていた。これはキヨメの湖の底深く潜んでいる海竜でサァガラ竜王という。三年に一度この島に現れて、あらゆる生き物を食い尽くそうとする恐ろしい悪竜である。
今までは猩々女王が控えていたためにサァガラ竜王も島に上陸することができなかったが、女王が死んだ今、眷属たちを飲みこもうと上がってきたのであった。猩々たちは磯端に集まって、ヤッコス、ハール、サボールたちに救いを求めていた。
ヤッコスたちは自分たちもどうせ食われるならできる限り抵抗しようと覚悟を決め、磯端の石を拾って竜神に投げつけた。三百余匹の猩々たちも三人にならって石つぶてを投げ始めた。
さすがの竜王も辟易し、まず人間を倒そうと鎌首を上げて目を怒らし、隙を狙っている。伊太彦はこの様子を見ると船の先に立ちあがり天の数歌を奏上した。すると竜王の身体の各部より煙を吐きだし、鱗の間から火焔が立ち上った。
竜王はついに熱さに堪えかねて岩山から転げ落ち、湖水中深くに沈んでしまった。あたりの水は湯のように熱くなり、たくさんの魚が浮いてきた。伊太彦は魚族を助けるために天津祝詞を奏上し、天の数歌を唱えた。水は冷え、魚は動きだし、幾十万とも知れず磯端の泳ぎ来て伊太彦に感謝の意を表すごとく首を上下に振りながら、一斉に姿を水中に隠した。
ヤッコスたちは伊太彦に感謝の意を表した。伊太彦が酒樽の栓を抜かせると、猩々たちは集まってきて舟に乗り込んだ。ヤッコスたち三人も舟に乗せると、天の数歌と祝詞を唱え、船首を転じて帰路に就いた。
本文
04 21 〔1521〕
伊太彦は宣伝歌を朗々と歌い、自分の猩々ヶ島での活躍を滑稽交じりに織り交ぜる。猩々たちは拍子を取る。舟は数万の魚族に送られて南を指して帰って行く。
本文
04 22 〔1522〕
アンチーは船のへさきに立って凱旋歌を歌いだす。猩々たちは勇み立って手を打って面白く拍子を取る。アンチーは述懐と猩々たちの教訓を込めて歌う。
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04 23 〔1523〕
舟の隅ではヤッコスとサボールが、自分たちは三五教の奴らにやっつけられてしまうのではないかと疑っている。ハールは取りこし苦労はせずに大自在天様を祈願しろと二人を諭す。
サボールはともかく、宣伝使を油断させて酒に酔わせようと、伊太彦を褒めたたえ自分たちの命を助けてくれるよう歌を歌った。
伊太彦は、バラモンの三人が自分を疑っていることを悟り、安堵させる歌を返した。ヤッコスとサボールもそれを聞いてやや安心したことを歌に歌った。
本文
04 24 〔1524〕
次いでアキスは、猩々たちを迎えに出ることになった経緯の述懐を歌った。
本文
04 25 〔1525〕
太陽が沈むと、猩々たちは夜の湖面を見てやや不安になり、騒ぎ出した。伊太彦は彼らを鎮めるために手を左右にふりながら面白おかしく踊り出した。猩々たちはこの姿を見てやや安心し、陽気だって踊りだした。
伊太彦はまた、これまでの経緯を滑稽な述懐を織り交ぜながら歌った。歌い終わると東の空は茜さし、波の中から太陽が昇ってきた。前方を見れば、スマの浜辺に幾百千の老若男女が金や太鼓を鳴らし、舟影を見てどよめいている。
ヤッコス、サボールはにわかに怖気づいて身を躍らし、海中に飛び込んでしまった。磯辺の群衆は二人が飛び込んだのを見てざわめいている。二人を助け出すべく、真純彦と三千彦の操る小舟が進んできた。
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