巻 | 篇 | 篇題 | 章 | 章題 | 〔通し章〕 | あらすじ | 本文 |
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- | - | - | 真善美愛 子の巻 | - | 本文 | ||
- | - | - | 序文 | - | 霊界物語もようやく累計四十九冊に達し、本巻も着手三日間にて完成することを得た。
このとき、東京の某新聞に、天城山麓の八丁池に悪竜が六百年以前から潜伏して〇〇に祟りをなすので、法華宗の僧がこれを退治しようとその筋へ出願したとの記事があった。
そこで自分も国家の一大事と霊眼で見てみたところ、悪竜どころか魚族でさえ一尾もいない。ただ蠑螈がうようよいるだけである。こんなことを大本教がいおうものなら大変なことになったかもしれないが、法華経の狂勢には感じる外はない。
いよいよ本巻は初稚姫の大活動に入った。紆余曲折、波乱重畳の物語、現幽神三界における宇宙の真相は、本輯十二巻の上に展開されることになる。信者・未信者の区別なく、愛読あって広大なる神徳に浴し玉はんことを希望する次第である。 |
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- | - | - | 総説 | - | 本巻は波斯国の境、産土山の聖地・伊祖の館から、印度国ハルナの都の大黒主を言向け和すために瑞の御霊神素盞嗚尊が数多の宣伝使を派遣し給うた中でも、もっとも有名な女宣伝使・初稚姫の旅を描いている。
初稚姫が妖怪変化に出会い、猛犬スマートに救われて河鹿峠を無事に越えます。祠の森の大神の社に参拝すると、初稚姫の父・杢助に変化していた妖魅が委縮して遠く山の彼方に遁走するところまでを口述している。
また、治国別宣伝使の薫陶を受けて三五教に帰順した元ウラナイ教の丑寅婆さんが、伊祖の館へ修業を兼ねて参拝する途中、高姫に出くわして面白い問答を交換するありさまが、目に見えるように現されています。
高姫は、いったん改心の曙光を認められて生田の森の神司と選ばれながら、東助に失恋してから自暴自棄の結果、祠の森でまたもや野望を企てることになる。高姫の改悪物語は、本巻の主要点ともいうべきものである。
また珍彦夫婦が神丹を文殊菩薩から与えられて高姫の毒手を免れるところや、受付の滑稽な場面も一読の価値があることと信じるものである。
豆州湯ケ島温泉湯本館の臨時教主館において、療養湯治の間をもって口述を終わる。 |
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01 | 00 | 神示の社殿 | - | 本文 | |||
01 | 01 | 地上天国 | 〔1275〕 | 天地万有一切を愛の善と信の真に基づいて創造し給ひし皇大神を奉斎した宮殿の御舎を、地上の天国という。大神の仁慈と智慧の教えを宣べ伝える聖場を霊国という。ゆえに、神諭でも綾の聖地を地の高天原と名付けられたのである。
天国は、決して人間が想像するような宙空の世界ではない。日月星辰もみな地球を中心とし根拠として創造されている。われわれが住居する大地は、霊国であり天国なのである。
人間は肉体を地上で発育させ、その精神も馴化・薫陶し、発育させなければならない。天国も霊国もすべて地上に実在する。
ただ、形体を脱出した人の本体である精霊が住居する世界を霊界といい、物質的形体を有する人間が住むところを現界というにすぎない。
人間は一方に高天原を蔵すると共に、一方に地獄を包有しているのである。そして霊界・現界の間に介在して、その精霊は善でもなく悪でもない、いわゆる中有界に居を定めているものである。
すべての人間は、高天原に向上して霊的・天的天人となるために神が造り玉ひしものである。だから人間は、大神より来る善の徳を具有している。
天人とは、人間の至粋至純なる霊身であり、人間は天界・地獄界両方面に介在する一種の機関である。人間は、愛と信の徳にある限り、高天原の小天国なのである。しかし人間は、天人が有しない外分なるものを持っている。外分とは、世間的影像である。
人は、神の善徳に住する限り、外分を内分に隷属させている。そのとき、大神は御自身が高天原にいます如くに、その人間の内分に臨ませ玉ふ。大神は、人間の世間的生涯の中にも、現在し玉ふのである。
神的順序があるところには、必ず大神の御霊がまします。神はすべて、順序にましますからである。この神的順序に逆らう者は、決して生きながら天人となることができない。
教祖の神諭に「十里四方は宮の内」と示されているのは、神界における里数である。想念の世界における最奥第一天国たる神の御舎は、人間界の一百方里くらいに広い、という意味である。人間の目から見て小さな宮の内でも、神の愛と神の信に触れ、智慧証覚のまったき者には、想念の延長によって際限もなく聖く麗しく、広く高く見得るものである。
霊的事物の目から見れば、これは不思議でもなんでもない。自然界の法則に従い肉の目で見ては、決して霊界の消息は受け入れられいし思考もできない。
神界の密意は、霊主体従的の真人でなければ、容易に受け入れることはできない。己の体内に存在する内分によって自己が何者であるかをよく究めた者となり、自然界を離れなければ、霊界の消息を窺うことはできないのである。
太古の黄金時代の人間は何事も内的であり、自然界の諸事物はその結果によって現れたことを悟っていた。それゆえすぐさま大神の内流を受け、宇宙の真相をわきまえて一切を神に帰し、神のまにまに生涯を楽しく送ったのである。
今日は人の内分は外部に向かい、神に背いて地獄に臨んでいる。そこで天地の造主である皇大神は厳の御霊、瑞の御霊と顕現し玉ひ、人間を神の光明に向かわせようとして、予言者を通じて救いの道を宣べ伝え給うたのである。
このように、地獄に向かって内分が開けている人間を高天原に向かわせようとした状態を、天地が覆ると宣らせ玉ふたのである。高天原は、大神や天人の住所である霊界を指す。霊国は神の教えを伝える宣伝使が集まるところである。その教えを聞くところを天国または霊国という。
天国の天人は祭祀のみを事とし、霊国の天人は神の教えを伝えることを神聖な業務となす。最勝最貴の智慧証覚によって神教を伝えるところを第一天国といい、最高最妙の愛善と智慧証覚を得た者の集まる霊場を最高天国というのである。この点において、現幽は一致しているということである。
人間が胸中に高天原を有するときは、その天界は人間の個々の行為にも現れる。人間が人間である根源は、自己に具有する愛そのものにある。そして、各人が主とする愛は、その想念や行為の微細なるところにも流れ入ってこれを按配し、いたるところに自分と相似したものを現すからである。
天界においては、大神に対する愛を第一の愛とする。高天原においては、大神を一切中の一切としてこれを愛し尊敬する。大神は全般の上にも個々の上にも流れ入り玉ひて、按配し導く。大神の行きますところには、ことごとく高天原が築かれる。
天人は極めて小さな一個の天界であり、その団体はより大きな形式の天界である。諸団体の一丸が、高天原の最大形式をなしている。綾の聖地の大本は大なる形式の高天原であり、各分所支部は聖地に次ぐ一個の天界であり、自己の内分に天国を開いた信徒は小なる形式の高天原である。
霊界におけるすべての団体は、愛善の徳と信真の光と、智慧証覚の度合いによって、同気相求める相応の理により、一個の天国団体が形成されている。また中有界、地獄界も同様である。
大神は、天界・中有界・地獄界をそれぞれ一個人とみなし、単元として統一し玉ふ。その神格は、各界すべてを統一する。ゆえに、各界のいかなる団体も、厳の御霊・瑞の御霊の神格の中から脱出することはできないし、これを無視して自由行動をとることは許されない。
綾の聖地をもって天地創造の大神が永久に鎮まります最奥天国の中心であると覚り得る者は、死後必ず天国の住民となり得る身魂である。かかる天的人間は、聖地の安危・盛否を吾が身体とみなしてよく神界のために愛と信を捧げるものである。
高天原の全体が一つの大神人であると悟った上は、すべての信者はその神人の個体または肢体の一部であることを理解する。霊的・天的事物もまた、全体が一個人であるかのような形式と影像にしたがって配列され、和合しているのである。
このことを知らない人は、人間の外分をなしている世間的・自然的な事物が人格であり、これがなければ人は人としての実を失うであろう、と考えてしまう。
本来、大神人の一部分であり神の信者であるべき者が、このような自愛心にとらわれて孤立的生涯を送ってしまうと、外面は神に従っているように見えたとしても、内分はまったく神を愛せず神に背き、自愛のために信仰して、虚偽と悪の捕虜になってしまっている。これでは決して神とも天界とも和合することはできない。
人間の人間たるところは、決して世間的物質的事物から成れる人格ではない。よく善を知り、よく善に志す力量にあるのである。そのことを知るべきである。だから、人格の上下はその人の智性と意志の如何によるのである。
せっかく神の救いの綱に引かれながら、偽善の度が深いために心の眼が開けず、光明赫灼がる大神人のいます方向もみえず、何事もすべて外部的観察をくだして神人の言説や行為を批判する者が多いのには、大神も非常に迷惑とされるところである。
この物語を拝聴する人々によっても、あるいは天来の福音と聞こえ、神の救いの言葉とも聞こえるが、あるいは寄席の落語や拙劣な浪花節とも感じるのである。中有界に迷える人には、不謹慎な物語、瑞月王仁の滑稽洒脱の映写、また放逸不羈な守護神の言葉、怪乱狂妄・醜言暴語として逃げ帰る者もある。
人は、各人が有する団体の位置から神を拝し、物語を聴く。ゆえにこの物語は上魂の人には救世の福音であるが、途中の鼻高や下劣なる人間の耳にはもっとも入り難いものである。また無垢な小児と社会の物質欲に超越した老人の耳にはよく沁みわたり理解されやすいものである。小児と老人は、その心が無垢の境涯にあって、最奥の霊国および天国と和合し相応しているからである。 |
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01 | 02 | 大神人 | 〔1276〕 | 天人や、神をよく理解した人間は、肉体の行為ではなく肉体を動作させる意志がどうであるかを観察するものである。意志は愛の情動から起こり、智性は信の真から発生する。人格は意志にあり、智性も意志と一致して活動するときに人格とみなされる。
愛は、第一に神を愛することであり、次に隣人を愛するのが正しい意志である。ただ神を信じるだけではとうてい神の愛に触れ、霊魂の幸福を得ることは不可能である。神に心かぎりの浄き宝を奉り、物品を奉納するのは愛の発露である。神はその愛によって人間に必要なものを常に与え玉ふ。人間は、その与えられたものによって生命を保ち、かつ人格を向上しつつあるのである。
無形の神に金銭物品を奉って神の歓心を得ようとするのは迷妄の極みだ、などと唱えるのは神を背にし光明を恐れ、地獄に向かって内底が開けている者である。
天国の全般を総称して大神人と神界で称えられている理由は、天界の形式はすべて一個人として統御されるからである。地の高天原も一個の大神人であり、その高天原を代表して愛善の徳と信真の光を照らし、迷える人間に智慧と証覚を与えようとする霊界の担当者は、すなわち大神人である。
そして一般の信とは、一個の大神人の体に有する心臓、肺臓、頭部、腰部、その他四肢の末端に至るまでの各個体である。これは現幽相応の理から見れば当然のことである。
大神は、このように天界を一個人の単元として統御し玉ふゆえに、人間は宇宙の縮図といい、小天地といい、また天地経綸の司宰者というのである。人間の身体組織は部分の中に部分はあれども、一個人として活動するときは、単元として動く。そのように、大神人の個体である各信者は、一個の単元である大神人の心をもって心となし、地上に天国を建設して地獄界を認めることのないよう努力すべきものである。
地上の高天原である綾の聖地には、大神の神格にみたされた聖霊が予言者に来たって、神の神格による愛善の徳を示し、信真の光を照らし、智慧証覚を与え、地上の蒼生を地の天人たらしめ、地上を天国ならしめる。
霊界に入っては、すべての人を天国の歓喜と悦楽に永住せしめるために努力させ玉ふのである。各宣伝使・信者は一致してこの大神業に参加すべき使命を持っているのである。
このように円満な団体の形式を作り得たときは、全般は部分のごとく、部分は全般のごとくになる。今日の聖地における状態はすべて個々分立して活躍し、全体は部分と和合せず、個人は各自の自然的観察を基点として光に背き愛に遠ざかっている。
これらの人間は地の高天原を汚す悪魔の影像であり、偽善者である。口に立派なことをいっても、その手足を動かさず、神に対する真心を実行せないものが大多数である。他人のために善を行うのは、他人・世間から聖人仁者と見られることを願う自愛である。自愛は地獄の愛である。
口述者の意志を無視したと思われたくないために、心ならずも五六七殿にこの物語を聴きに来る偽善者もたまにあるようであるが、そのような偽善的行為をやめて、主とするところの愛により、身魂相応の研究を自由にされることを希望する。
物語を聞くと寄席気分のようだと言っている者があるそうだが、喜びは天国を開くものである。神は歓喜をもって生命となし、愛の中に存在し玉ふものだからである。神の心はすべて一瞬の間も、人間を歓喜にみたしてすべての事業を楽しんで営ましめようとし玉ふものである。
綾の聖地に神の恵みによってひきつけられた人は、すべて大神の神格の中にある。しかし中に入ってしまうと尊さを認めえず、遠くへだててこれを望むときはその崇高さ偉大さがわかることもある。大神はときに一個の神人と現じ玉ふが、内分がふさがった人間は、神人に直接面接しその教えを聞きながら、自分より劣ったものとして遇するものである。
大神の愛の徳に離れた者には生命はない。大神の愛また神格から離れたときは、何事もなすことはできないのである。神諭にも、人間がこれほど善はないと思ってしていることも、神の許しがなければ皆悪になる、九分九厘で掌がかえる、と示されてある。
現代の人間は神にすがる者といえども、天界からの内流を裁断した者多いゆえに、見ることができない神を見ようとする。また物質欲にのみあくせくして人間が本来持っている証を滅却した地獄的人間は、神の存在を認めず、神を大いに嫌うものである。
人間の本来の証とは、天界から人間に流入する神格そのものである。なぜなら、人が生まれたのは現界のためではない。その目的は、天国の団体を円満ならしめるためだからである。何人も神格の概念なくしては天界に入ることはできないのである。
外分のみ開けた人間が天国の関門に近づくと、一種の反抗力と強い嫌悪の情を感じるものである。それは、天界を摂受すべき内分が、まだ高天原の形式に入っていないため、すべての関門が閉鎖されているからである。
もし強いてこの関門を突破して高天原に入ろうとすれば、その内分はますます固く閉ざされてしまう。無理に地の高天原に近づいて神に近く仕え親しく教えを聞いても、ますます内分が閉ざされて心身が混惑し、行いに地獄的活動が現れる者があるのは、この理に基づくのである。
大神を否み、大神の神格に充たされた神人を信じない者は、すべてこのような運命に陥るものである。人間の中にある天界の生涯とは、神の真にしたがい棲息するものであることをよく理解している精神状態をいうのである。 |
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01 | 03 | 地鎮祭 | 〔1277〕 | 今を去ること三十五万年の昔、波斯の国ウブスナ山脈の山頂に、神素盞嗚大神は神臨し玉ひて、地上の天国を建設し、三五教を開いて数多の宣伝使を養成した。地上の人間に愛善の徳と信真の光を与え、地上天国を建設し、ミロクの世を開こうと御身を地上に降して肉体的活動を続け玉ふた。
このとき、印度の国ハルナの都に八岐大蛇の悪霊に心魂を占領されたバラモン教の神司大黒主は、数多の宣伝使を従えて右手に剣を持ち左手にコーランを携えて、武力をもって無理に大自在天の教えに帰順させつつあった。
バラモン教の教義は生を軽んじ死を重んじ、肉体を苦しめて損ない破り出血させて修業の蘊奥となす暗迷非道の邪教である。
神素盞嗚尊はコーカス山、トルコのエルサレム、自転倒島の綾の聖地や天教山など各地の霊山に霊国を開き、宣伝使を下して救済の任に当たらしめた。
玉国別は大神の命を奉じてハルナの都へ大黒主を言向け和しに行く征途、河鹿峠のけわしい坂道で暴風に吹かれて懐谷に難を避けたところ、山猿の群れに襲われて目に傷を負った(第43巻参照)。祠の森で治国別宣伝使一行と出くわして、目が平癒するまで特別の使命によってここに大神の御舎を建設することになった(第44巻参照)。
玉国別の総監督の元、五十子姫、今子姫、道公、純公、伊太公、イル、イク、サール、ヨル、テルハルおよび晴公、珍彦、静子、楓などの人々は木を伐り土をひきならし、神殿建築の準備を着手し始めた。
このとき、浮木の森に駐屯していたランチ将軍が三五教に帰順して陣営を解散し、そのためこの地域に平和が戻ったため、国人たちは三五教の神の神恩に感じて祠の森の神殿建設に献金したり労働を申し出る者が四方から集り、さびしかった谷合は建造の音、人々の歌や喜びの声に充たされた。
道公は土木監督となり、石搗き歌にこれまでの経緯と、三五教の神の恩を歌いこんだ。バラモン軍からやってきた者たちも、骨身を惜しまず石搗きに活動した。三日三夜を経て基礎工事はまったく完成した。一同は石搗きの祝と神恩への感謝として祝宴を開いた。 |
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01 | 04 | 人情 | 〔1278〕 | 地鎮祭も終わって直会の宴に移った。今日は飲酒を許され、バラモン軍から来た者たちも酔いつぶれて不平をしゃべりだした。
イルは普段酒を飲むことが許されないことに対して、大声で文句をいいはじめた。イクやサールがそれをなだめにかかる。イルはさらに、自分は治国別に心服して降参したのだ、猿に目をひっかかれるような玉国別やその弟子の道公に仕えるのは気に食わないと言い始めた。
そこに道公がやってきてイル、イク、サールの輪に入り、酒の席での言葉は気にかけないと一同をなだめ、盃を取って一緒に飲みながら歌を歌い始めた。四人は一段となって打ち解け、酒を酌み交わしている。
ヨル、ハル、テルはまた別の輪になって、イル、イク、サールたちの酒盛りを論評していると、晴公が徳利を下げてやってきて輪に入った。晴公は三人をねぎらい、三人の名を読み込んだ歌を歌って打ち解けた。
直会の宴は閉じ、一同は十二分に歓を尽くして寝に就いた。 |
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01 | 05 | 復命 | 〔1279〕 | 一同は前後百余日を費やして立派な宮を建て上げた。節分の夜に遷宮式を行うことになった。四方八方から信者が集まり来たり、祠の森の広い谷も立錐の余地ないほどになった。
バラモン組も祭官の中に加わり、祭服をまとって神饌所で調理にかかっている。イクは無形の神に多くの神饌を備える意義に疑問を呈する。ヨルは心を尽くして献餞することで神様は霊をあがり、真心を受けるのだと説明した。
祓戸式、神饌伝供も済み、遷宮祝詞も終わった。それより餅まきの行事に移った。神饌長の純公をはじめ、イル、イク、サール、ヨル、テル、ハルたちは餅をまき、一場の争奪戦が繰り広げられた。終わって各信徒は立派に建て上がった新しい宮を伏し拝み、家路に帰って行った。後には宣伝使、祭典係と熱心な信者たち十数人が残っていた。
神殿は三社建てられ、中央には国治立尊、日の大神、月の大神が祀られ、左の脇には大自在天大国彦命と盤古大神塩長彦神、右側には山口の神をはじめ八百万の神々が鎮祭された。
この祭典が終わると、玉国別の眼は全快し、以前にましてますます円満の相となり、にわかに神格が備わってきたように思われた。
玉国別は残った者たちを社務所に集め、直会の宴を開くことになった。玉国別は鎮祭の無事終了を祝して、お神酒をいただきながら歌いだした。玉国別はこれまでの経緯を歌い、五十子姫と今子姫にイソ館に帰るように促した。
珍彦と静子には、ここに残って自分に代わって神殿に仕えるようにと命じた。そして自分は、弟子たちを引き連れて夜明けにハルナの都に向けて出発することを宣言した。
五十子姫と今子姫は、玉国別一行の旅の成功を祈る歌を歌った。道公は二人に感謝の返歌を歌った。たちまち五十子姫は神がかり状態となり、国照姫命の神勅が下った。
国照姫命は、玉国別の眼が怪我を負ったのも神の恵みであると託宣し、道公に道彦、伊太公に伊太彦、純公に真純彦、晴公に道晴別とそれぞれ名前を与えた。
一同は互いに感謝と出立・見送りの歌を詠み交わした。一同は前途の光明を祈りながら大神の前に拝礼した。
翌日玉国別は、珍彦、静子、楓、バラモン組の六人や熱心な信者たちに祠の森の神殿の後事を託し、道晴別、真純彦、伊太彦、道彦と共に宣伝歌を歌いながら、初春の日の光を浴びて河鹿峠を下って行った。 |
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02 | 00 | 立春薫香 | - | 本文 | |||
02 | 06 | 梅の初花 | 〔1280〕 | 初稚姫は神素盞嗚大神の命を奉じ、大黒主の身魂を救い天下の害を除くために、ハルナの都に向かってただ一人、征途の旅に出ようとしていた。
初稚姫は照国別、玉国別、治国別、黄金姫、清照姫たちと同時に出征の徒に上るはずであったが、神素盞嗚大神の命によって百有余日、自宅において修業を命じられていた。
修業が終わって、初稚姫はいよいよ父に別れを告げ、斎苑館の八島主神に挨拶をすべく訪問した。八島主は、初稚姫の精神を試すために、征途の旅に出る前に夫たるべき人を決めておくべきだと告げた。
八島主は、初稚姫の疑問に答えて、天国の理想の夫婦とは神が結び給うた婚姻であり、互いに善と真、意志と知性が和合一致していると説明した。
初稚姫は、自分は決して独身主義ではないが、ハルナの都の御用が済んでから八島主の世話に預かってそれ相当の夫を持つつもりだと答えた。
八島主は初稚姫の答えに満足し、互いに別れの歌を詠み交わした。初稚姫は旅支度に身を整えて斎苑館を出立し、進んで行った。 |
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02 | 07 | 剛胆娘 | 〔1281〕 | 初稚姫は、この征途の成功を祈り自らの決意を露わにした宣伝歌を歌いながら産土山を下り、荒野ケ原を渡り、たそがれ時に深谷川の丸木橋のほとりに着いた。
この谷川には、川底まで百閒もある高い丸木橋があった。騎馬でも渡れるほどの大木を切り倒して渡した丈夫な橋で、宣伝使はみな、この一本橋を渡らなければならない。
初稚姫は丸木橋の中央に立ち、眼下の谷水が飛沫を飛ばしてごうごうと流れていく絶景を眺めていた。初稚姫は橋を渡り、暗さと寒さに路傍にみのを敷いて一夜を明かそうと、天津祝詞を奏上してうとうとし始めた。
すると一本橋の彼方から二匹の鬼が現れた。鬼たちは初稚姫がこのあたりを通ることを知っており、何とかして新鮮な人肉が食いたいとあたりを探し始めた。
初稚姫はこれを聞き、これくらいの鬼が恐ろしくてこの先数千里の旅が続けられようか、一つ腕試しにこちらから先に相手になってやろう、と胆力をすえた。そして鬼たちに、自分は万物を救う宣伝使だから、腹がすいているなら肉体をくれてやるから食うが良い、と話しかけた。
二人の鬼は初稚姫のこの宣言を聞いて逆に肝をつぶし、ふるえだした。初稚姫は、声を聞いて父・杢助の僕の六と八だとわかり、二人を呼びつけた。六と八は、杢助に頼まれて初稚姫を試しに来たことを白状した。
六と八は初稚姫の剛胆に驚かされて、目の前の初稚姫は化け物が変化したものではないかと恐れてふるえていた。初稚姫はうとうとと眠りについた。 |
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02 | 08 | スマート | 〔1282〕 | 六と八が怖気づいてぶるぶる震えながら夜を過ごしていると、一本橋の向こうから提灯を下げて杢助がやってくるのが見えた。六と八は、恐ろしい剛胆なことを言って野宿に熟睡している初稚姫は、本物の姫ではなく、化け物が化けているのではないかと杢助に訴えた。
杢助と六と八のやり取りの中、初稚姫はやにわに旅支度を整えて起き上がり、斎苑館の総務として仕える父・杢助が、神務を忘れてわが子を気にかけて出てくるはずがないと言い残し、夜中にもかかわらずすたすたと進んで行ってしまった。
初稚姫は河鹿峠の坂口の岩に腰かけて休みながら、昨夜の杢助、六、八三人のことを不審に考えていた。そこへ三人がやってきて、杢助は言い残したことがあるから追いかけてきたのだ、と話しかけた。
初稚姫は、旅立ちにあたってわが子を気にかけて追いかけてくるような卑怯な父は持っていないときっぱり答えた。そして杢助に化けているのは、自分を邪道に導こうとする妖怪だろうと言い放った。
六と八はこれを聞いて、杢助を疑い始めた。杢助は初稚姫、六、八に対して怒ったが、初稚姫が天の数歌を歌いあげるとたちまち、唐獅子の正体を現した。
初稚姫は平然として天津祝詞を奏上し始めた。唐獅子が初稚姫にかみつこうとしたとき、後ろの方から山犬が現れ、疾風のように唐獅子に飛びついた。唐獅子は一目散に逃げて行き、山犬はその後を追跡して行った。
初稚姫は神様の試にあって及第したようだと喜び、驚いて倒れていた六と八に、館に帰って自分の無事を杢助に報告せよと告げ、足早に河鹿峠を登って行った。
初稚姫が峠を登って行くと、先ほどの猛犬が尾を振りながら駆けてきて後をついてきた。姫が坂の頂上で休息すると、猛犬も前にうずくまって尾を振っている。
初稚姫は犬の働きに感じ、スマートと名を与えて家来となし、ハルナの都までついてくるようにと告げた。初稚姫は犬を抱いていたわり、スマートはワンワンと鳴きながら尾を振り、感謝の意を表している。
初稚姫はスマートを得て心強くなり、宣伝歌を歌いながら河鹿峠の南坂を下って行った。 |
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03 | 00 | 暁山の妖雲 | - | 本文 | |||
03 | 09 | 善幻非志 | 〔1283〕 | 祠の森の神殿は、珍彦と静子の夫婦が神司となって奉仕していた。二日目の夜中ごろから娘の楓に神がかりが始まり、数多の信者は生き神が現れたと喜んで、神殿はにわかに神勅を乞う参拝者であふれかえった。
しかし楓の神がかりはあまり高等なものではなかった。バラモン教から改心したイル、イク、サール、ヨル、テル、ハルの六人は、楓の神がかりに盲従して神務に奉仕していた。そこへ、中婆の宣伝使が現れ、神徳が立っている神殿に伺いに来たと訪ねてきた。受付にいたヨルは、楓姫に日の出神様がかかって大変な神徳が立っていると答えた。
この婆は高姫であった。高姫は東助を慕って斎苑館にやってきたが叱り飛ばされ、なんとかして自分の腕前を見せて東助の気を引こうと、信仰がぐらつきだした。そして祠の森にあまり徳の高い信者が仕えて居ないことを知って、一旗揚げようとやってきた。
高姫は楓に憑いた神霊を怒鳴りたてて追い出してしまい、その弁舌で珍彦、静子らを掌中に丸め込んでしまった。そして朝から晩まで脱線だらけの神懸りをはじめ、ふたたび筆先を書き始めた。
そもそも、精霊と人間の談話は危険至極のため、神界ではこれを許し給わぬことになっている。人間は精霊の容れものであるが、精霊は人間の肉体の中に入っても、そのことを知ることはできないようになっている。しかし鋭敏な精霊は、肉体と自問自答することで、自分が人間の肉体の中にいることを悟ることができる。
精霊には正守護神と副守護神がある。副守護神は人間を憎悪する。ゆえに、もし副守護神が自分が人間の肉体の中に入っていることを知ると、その霊魂と肉体を亡ぼそうと企むのである。
高姫はこの副守護神に左右され、精霊を神徳無辺の日の出神と固く信じ、なすがままに使われてしまっていた。
副守護神は高姫の肉体をすぐに亡ぼさず、むしろこれを使って自らの思惑を遂行し、大神の神業を妨げ、地獄の団体をますます発達させようと願っている。精霊は、霊界のことは相応に見ることができるが、自然界のことを見ることができないから高姫の肉体を使うのである。
もし神が、人間と精霊が交信することを許してしまうと、精霊は人間の存在を知ってしまい実に危険である。人が深く宗教上のことを考え、もっぱらこれにのみ心を注いでしまうと、自分が思惟したことを現実的に見てしまう。このような人間は、精霊の話を聞きはじめてしまう。
すべて宗教上のことは、心の中で考えるとともに世間における諸々の事物の用によってこれを修正するべきなのである。もし修正できないときは、宗教上の事物がその人の内分に入り込む。そして精霊がそこに居を定め、霊魂をまったく占領してしまうのである。
空想に富み、熱情に盛んなる高姫は、いかなる精霊の声をも聖き霊なりと信じ、精霊の言うがままに盲従してでたらめを並べられ、宇宙唯一の尊い神を表したように得意満面になって礼拝し、これをあまねく世に伝えようとしている。
高姫もまた副守護神に幾度となく虚偽を教えられ嘘を書かされても、神が気を引いたとかご都合だとか自分の改心が足りないとか理屈をつけて少しも疑わず、ますます有難く信じ込む。悪霊に魅せられた人間はこんな具合になるものである。
この日の出神と自称している副守護神は、自分自身は八岐大蛇の悪霊であり、金毛九尾の悪孤であった。しかし他の精霊と変わっている点は、五六七の世が出てくることを知り、いつまでも悪を立て通すわけにはいかないことを知っていた。
そこで、心の底から改心し、昔から世を乱してきた自分の悪を悔い改めて誠の神の片腕となって働くのであると考えていた。そして、悪に強かったものはまた善にも強いはずだ、ゆえに自分の言うことは一切が霊的であり神的であり、かつ善の究極である、と信じているのである。
高姫はその精霊を、義理天上日の出神であり、悪神が改心して誠に立ち返った尊い神だと信じて崇拝し、いいように使われてしまっていた。
精霊は自分が人間の体に入っていることを感知していた。人間もまた精霊が体にいることを感知していながら、かえってこれを自分の便宜となし、愛するのである。精霊に迷わされる者は愚直な者か、貪欲な者か、精神に欠陥のある者であることを記憶しなければならない。
現今の大本にも、高姫類似のてん狂者や強欲人間が集まり随喜の涙をこぼし、地獄の門戸を開こうと努めている者があるのは、仁慈の神の目から見て忍び難いところである。しかし悪霊の肉体と霊魂を占有された者は、容易に神の聖言を受け入れることはできないものである。
神の道を信仰する者は、この消息を十分に理解して、邪神に欺かれないように注意することを望む次第である。悪の精霊は決して悪相をもって現れず、表面もっともらしい善を言い、集まってきた人間に対してあるいは脅し、あるいは賞揚し、霊の因縁とか先祖の因縁とか言ってごまかし、人を知らず知らずのうちに邪道に導こうとするものである。 |
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03 | 10 | 添書 | 〔1284〕 | 治国別は道々、新参のランチ、片彦、ガリヤ、ケース、お寅、お民たちに三五教の教理を説き諭しながら進んで行った。そしてお寅に向かい、一度斎苑館に参拝し、正式な宣伝使となるよう修業をしてはどうかと勧めた。お寅も同意し、治国別は紹介状を書いて持たせた。
お寅は得意の色を満面にうかべ、治国別一行に別れを告げて斎苑館をさして一人進んで行った。途中、小北山に立ち寄った。
お寅は受付の文助に挨拶し、奥へ進んでお菊や魔我彦と面会した。お寅は、斎苑館への修業の旅について話し、魔我彦にも参拝を勧めた。松姫もやってきて、魔我彦がお寅に同道して参拝することに賛成した。
お寅はしばし休息の上、魔我彦を伴って各神社を遙拝し、信者たちに挨拶を終えたのち、河鹿峠の山口さして神文を唱えながら進んで行った。 |
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03 | 11 | 水呑同志 | 〔1285〕 | 治国別はクルスの森の古い祠傍らにある社務所に陣取り、百日の間講演会を行い、三五教の教理をだいたい教え込み、お寅を第一に宣伝使の候補として斎苑館に向かわせたのであった。
お寅と魔我彦は、宣伝歌を歌いながら進んで行く。二人は河鹿峠の上り口に着いた。谷川にくだって禊をし、天津祝詞を奏上ししばし渓流の絶景を眺めながら道歌を歌った。
河鹿峠の急坂を登りながら、魔我彦はへこたれて苦しさをうったえる歌を歌った。そしてお寅に休息しようと歌いかけた。お寅は魔我彦を励ます歌を歌いながら進んで行った。
二人はようやく祠の森の聖場にたどりついた。お寅と魔我彦は、受付係のヨルに案内されて、社の前に導かれた。 |
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03 | 12 | お客さん | 〔1286〕 | 祠の森の玄関口にはヨルが受付をしていた。そこへ、深編笠をかぶった大男が現れ、ウブスナ山の斎苑館から来たと告げた。そして自分は斎苑館の高級な職務に就いている「ト」の付く者だと高姫に取り次ぎを依頼した。
ヨルから報告を聞いた高姫は、てっきり元夫の東助が訪ねてきたと思ってうれしげに身づくろいをなし、ヨルに訪問者を呼んでくるように言いつけた。訪問者の男はヨルに案内されて高姫の奥室に迎えられた。
男が被り物を取ると、それは東助ではなく時置師の神・杢助だった。杢助は、自分は東助と争いごとになり、斎苑館を放り出されたのだ、と高姫に語った。杢助は東助の悪口を高姫に吹き込み、高姫と気脈を通じてしまった。
高姫は東助に一泡ふかせたい気持ちから、杢助にここで一旗揚げようではないかと持ちかけた。杢助も乗り気になり、高姫と杯を交わし祝酒を交わして歌いだした。
ヨルをはじめ、祠の森に仕える者たちも高姫と杢助の関係を隣室で聞いてしまったが、高姫も杢助も夫婦を公言してしまった。 |
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03 | 13 | 胸の轟 | 〔1287〕 | 高姫は杢助のような立派な男を夫に持つことができ、鼻息荒く、翌日からは義理天上日の出神をやたらに振り回しだした。
高姫はヨルに朝食の用意を言いつけた。そこへ杢助が朝の礼拝から帰ってきた。高姫は、杢助の耳がよく動くのに気が付いて指摘した。杢助は、神格に充たされた神人は耳が動くのだとごまかした。
高姫と杢助は、ヨルが朝食を一膳しか用意しなかったことで喧嘩を始め、ヨルがうまく言ってその場を収めた。杢助は祠の森の境内を巡視すると言って一人で出て行った。高姫は装束を着かえて日の出神と成りすまし、参拝者が来るのを待っている。
ヨルが受付に控えていると、お寅と魔我彦がやってきた。二人はヨルから、高姫が日の出神の生き宮としてここに現れたと聞いて、高姫に合わせてもらようヨルに頼んだ。
高姫はヨルの報告を聞いて、蠑螈別と魔我彦がやってきたと勘違いし、まずは魔我彦だけを呼んで話を聞いた。魔我彦は、高姫が三五教に改心してから蠑螈別が小北山にウラナイ教を開いたこと、その後三五教の宣伝使がやってきて皆三五教に改心したことを話した。
高姫は、魔我彦の連れが、お寅という蠑螈別と一緒に小北山を開いた元幹部だと聞いて、義理天上日の出神から言って聞かせることがあるからと、お寅を自室に呼んだ。 |
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03 | 14 | 大妨言 | 〔1288〕 | 高姫の居間に招かれたお寅と魔我彦は、三角形に座を占め、高姫の説教に耳を傾けている。高姫は魔我彦とお寅の師匠筋に当たることを盾にして、二人を祠の森に留めておこうとする。
しかし魔我彦は小北山でウラナイ教の守護神が悪狐であること知ってしまったため、高姫の言うことを聞こうとしない。お寅も、自分は治国別の弟子だからとイソ館参拝を譲らない。
高姫との押し問答の末、お寅は怒って魔我彦を伴い表に走り出して出て行ってしまった。高姫はイソ館へ行かれないようにと、ヨル、ハル、テルを呼ばわって二人を捕まえさせようとする。
しかしヨルも、信者を本山に参らせまいとする高姫のやり方を批判し始めた。そして、高姫が祠の森でやっていることをお寅・魔我彦と一緒にイソ館に注進に行くと言って走って行ってしまった。 |
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03 | 15 | 彗星 | 〔1289〕 | お寅、魔我彦、ヨルの三人は祠の森で高姫とさんざん争った末、祠の森を立ち出でてイソ館に進んで行った。懐谷の近くまでやってきたときには、すっかり日が暮れた。
南の天を見ると、大彗星が現れているのが見えた。三人は彗星についてあれこれ寸評した。ヨルは彗星が何かの凶兆ではないかという歌を詠んだ。お寅は、何事も神の顕現だとして魔我彦に、宣り直しの歌を歌わせた。
三人は近傍の岩に腰をかけて休息し、高姫との争いや彗星や旅路を読み込んだ述懐の歌を歌った。
三人は休息が終わると、ふたたび険しい坂道を夜中に登りはじめた。登りながら、これまでの経緯やイソ館参拝の思いを込めた宣伝歌を歌った。
上の方から、優しい女の宣伝歌が聞こえてきた。これはイソ館からハルナの都へ悪魔の征討に上る初稚姫であった。三人はこの声に力を得て、蘇った心地で苦しさを忘れて坂道を登って行く。 |
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04 | 00 | 鷹魅糞倒 | - | 本文 | |||
04 | 16 | 魔法使 | 〔1290〕 | 高姫は、お寅、魔我彦、ヨルがイソ館に向かって出立してしまったので、これはたいへんだと心も心ならず、守護神のふがいなさを嘆き、イル、イク、サール、ハル、テルらに悪態をついている。
イル、イク、サールは高姫の暴言に反抗して、世界を自在にする義理天上日の出神がなんとかすればいいではないかと揶揄した。高姫は怒ってイクを締め上げる。サールはみかねて高姫の足をさらえて転ばせた。
高姫は怒って金切り声を出してわめきたてる。そこへ杢助がやってきて高姫をなだめた。高姫はイク、イル、サールを放逐すると宣言し、ハルとテルを代わりに取り立てた。
高姫はハルとテルに、早速お寅、魔我彦、ヨルの三人を引き戻してくるようにと命じた。ハルは、自分にはバラモン教で習い覚えた引っ掛け戻しの魔法があると言って高姫を煙にまいてしまった。
ハルは、放逐されたイク、イル、サールに蓑笠をつけさせて旅の装いをさせ、酒を飲ませて道に待機させた。そして太鼓の合図がなったら、お寅・魔我彦・ヨルのふりをして坂を下って戻ってくるようにと言い含めた。
ハルとテルは魔法の準備ができたと高姫を呼んできた。そして、魔法を使うためには沢山の魔神の眷属に酒を飲ませる必要があるといってグイグイ飲み始めた。
ハルとテルは眷属の声色を使って高姫をしばらくからかった後、文言を唱えて太鼓をたたいた。するとお寅に扮したイルが、受付の前を取って坂の下に戻って行ってしまった。そして順番に魔我彦とヨルに扮したイルとサールを合図で呼び戻した。
ハルは魔法の術式だと言って、自分の股ぐらへ突っ込んだ鞭を高姫の鼻に当ててにおいをかがせた。そして鞭で鼻をついたため、高姫は倒れて目まいを起こしてしまった。
ハルとテルはまんまと魔法で三人を引き戻したと高姫に思い込ませた。高姫は二人の魔法に感心し、酒と御馳走をふるまうと、安心して杢助との居間に戻って行った。
杢助は高姫からハルとテルが魔法で三人を引き戻したと聞くと、感心しながらも、ただ引き戻しただけでは、遠回りをして結局イソ館に行ってしまうと指摘した。それを聞いて不安になった高姫に、杢助は今度は自分が魔法を使って三人をここへ呼び寄せてやると言った。
杢助は、高姫を木魚の代わりに長煙管でうち、呪文を唱えた。高姫はまたのぼせてあたりが回りだした。するとお寅の姿が目の前に現れた。杢助は今度は、魔我彦とヨルを引き戻す魔法だと言って高姫に目をつぶらせて、火鉢の灰を口に突っ込んだ。
高姫が杢助の合図で目を開くと、魔我彦とヨルが目の前に座っている。高姫は説教を始めるが、魔我彦は地獄の灰を口にねじ込んであげたと高姫を愚弄した。高姫が怒って怒鳴りつけると、お寅・魔我彦・ヨルの三人は怪獣となって高姫に唸りだした。
高姫はアッと叫んでその場に正気を失ってしまった。怪獣は玄関口めがけて飛び出した。ハルとテルは頭をかかえて縮こまり、怪獣が帰り去るのを待っていた。 |
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04 | 17 | 五身玉 | 〔1291〕 | イル、イク、サールは、ハルとテルが高姫からせしめた酒を、楓姫に酌をさせながら飲んでいた。三人は酔いが回ると脱線してあたりかまわず歌いだし、楓姫にちょっかいを出しては逆にからかわれ、笑いさんざめいている。
ハルとテルはそこへやってきて、奥にいる杢助と高姫に聞こえると一同に注意した。酔った三人は、我々は正当な三五教の信者であり、玉国別から正式に祠の森の御用を仰せつかったのだから、団結して杢助と高姫の方を逆に追い出してやろうと息巻いた。
ハルも賛成し、五人はどやどやと高姫の居間になだれ込んだ。杢助の姿は消えてしまい、高姫は一人でたたずんでいた。五人が乱入して杢助と高姫を追い出すと歌を歌うと、高姫は怒って怒鳴りたてた。
しかしイクは、自分たちは団結して杢助・高姫を追い出すのだと鼻息が荒い。高姫は下手に出て、玉国別が留守の間だから、祠の森にいる者たち仲良く御神業に奉仕しようと呼び掛けた。
ハルは、お神酒のおさがりをもらっても干渉しないようにと高姫に釘をさし、高姫はその代わりに日の出神の生き宮である自分の言うことをよく聞くようにとして、その場は収まった。 |
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04 | 18 | 毒酸 | 〔1292〕 | 高姫と杢助は酒を酌み交わしながらひそびそ話にふけっている。高姫は、結局お寅たちを引き戻すことができなかったこと、イルたち五人が団結して交渉しに来たことなどを気に病んでいる。
杢助は、珍彦夫婦はこの祠の森館の正式な主人なのだから、珍彦の権限をもってイルたち五人を追い出せばよいと言い出した。そのためには、彼らを毒で殺し、魔術で二人の死体を自分たちの体に変じ、自分たちは珍彦と静子に変化して入れ替わればよいと画策した。
ためらう高姫に、杢助は悪をやるなら徹底的にやるのだと説き、高姫は珍彦と静子に毒酸を入れた御馳走をふるまうことに同意してしまった。
杢助と高姫が祠の森乗っ取り計画を相談していたところ、ふすまの前の廊下に小さい足音がして表の方へ消えてしまった。高姫は誰かに聞かれたかと心配したが、杢助は山猫や山狆だろうと取り合わなかった。 |
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04 | 19 | 神丹 | 〔1293〕 | 珍彦と静子の娘・楓は、杢助と高姫の企みを聞いてしまい、父母のところへ現れた。楓は夜前、文殊菩薩が夢に現れ、父母の危機を告げ神丹という薬を授けた。楓が目を覚ますと、立派な薬が三粒手に残っていたという。
この話を聞いた珍彦と静子は、楓と共に一粒ずつ神丹をいただいた。そこへ高姫がやってきて珍彦と静子を晩餐に誘った。珍彦たちは承諾し、大神様に無事を祈願してから高姫の居間に現れた。
珍彦夫婦は杢助と高姫にたくさんの御馳走やお酒を勧められたが、いくら食事が進んでも二人の体には何の変化もなかった。高姫が不機嫌になってきたため、珍彦と静子はにわかに気分が悪くなったと言って食事の場を辞した。後に杢助と高姫はほくそ笑んでいた。 |
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04 | 20 | 山彦 | 〔1294〕 | 初稚姫は河鹿峠を降ってくる途中にお寅、魔我彦、ヨルの一行に出会い、祠の森に父・杢助がいることを知った。斎苑館にいるはずの父が祠の森にいることにいぶかしさを感じながらも、三人に別れを告げて祠の森に向かった。
一方、高姫と杢助は、珍彦夫婦に盛った毒が効きはじめたと思いこみ、彼らの死後に変身の術を使って自分たちが入れ替わり成りすます相談をしていた。
そこへ受付のイルから、初稚姫がやってきて父・杢助に会いたいと言っているとの報せがあった。杢助は、自分が高姫を後妻に取ったばかりで娘に会うのは恥ずかしい、また宣伝使となった娘を甘やかしてはいけないと言い訳をして、森に隠れてしまった。
杢助に化けた唐獅子の化け物は、実はスマートが恐くて逃げ出したのであった。スマートはにわかに唸りだして森林に駆け出して行ってしまった。
初稚姫は不審に思いながらスマートが飛び込んだ森林を見ていると、スマートは前足に傷を受けて帰ってきた。
初稚姫は高姫が止めるのも聞かずに奥に進み入った。スマートも足を引きずりながら初稚姫の後に従う。高姫は初稚姫が来たことを知らせるために声を限りに杢助を呼ばわったが、聞こえてくるのは山彦だけであった。 |
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