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霊界物語あらすじ

説明を読む
ここに掲載している霊界物語のあらすじは、東京の望月氏が作成したものです。
まだ作成されていない巻もあります(55~66巻のあたり)
第56巻 真善美愛 未の巻 を表示しています。
篇題 章題 〔通し章〕 あらすじ 本文
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瑞月王仁が横臥したままこの物語を神示にしたがい口述するのを見て、大本人の中にいろいろの批評をする人がいる。謹厳な霊界のありさまを発表するのに行儀が悪い、真実の事は伝えられまい、一読すべき価値のないものだ、と。
もちろん神様としては、口述者の肉体を端座させてお伝えされたきはもっともである。しかし瑞月は一昨年以来非常に健康を害し、日夜病気に苦しみ、とうてい一時間と座っていることができない状態であった。
しかし思想の悪潮流が天下に氾濫するこの際、口述者が健康に復するのを待っていることはできないと、神様はやむを得ず変則的方法を一時おとりになったということである。
王仁は二六時中、たくさんの信者が病気平癒を覚知で祈る声が耳に聞こえてきて、その苦痛の幾分かを助けているのである。瑞月王仁が病魔と戦いながら、孜々として神業の一端に奉仕する苦衷を察せない人が、右の非難や攻撃をさるるのはむしろ当然であろう。
昨年、キリスト教信者の某氏が、神典を寝ながら口述するのは不都合ではないか、と詰問された。瑞月は、社会の潮流が横道ばかりを行っているので、俗界の人に交じって共に活動するためには、神意に反しなければならないこともある。また横臥して静かに宇宙の真理を考えて誠の解釈をなしているのである。また、横臥して目をつぶるというのは、現界はとても見て居られない有様であるという謎でもある、と答えておいた。
これは一種の詭弁でもありましょうが、実際に事を言えば、今日の世態を傍観することができないため、やむを得ず病躯を駆って世のため道のために犠牲的に立ち働いているのである。
本文
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人生の目的は決して現界の幸福と歓楽を味わうのみではない。すべての人間は幸福と歓楽に執着し、苦悩と災厄を免れようとのみ焦慮し熱中しているようだ。しかし神様が人間を世界に創造し給うた使命は、決して人間が現界における生涯の安逸をはからしむるが如き浅薄なものではない。
人間は神様の目的経綸をよくよく考察して、どこまでも善徳を積み信真の光をあらわし神の生き宮、天地経綸の御使いとなって三界のために大々的に活動せなくてはならないものである。
人間には直接天国より天人の霊子を下して生まれしめ給うたものもあり、あるいは他の動物から霊化して生まれたものもある。
大神は初めて世界に生物を造り給うや、ばい菌に始まり、蘚苔となり、草木となり、進んで動物を造り給うた。虫、魚、貝、鳥、獣、最後に人間を生み出し給い、神は自ら生物を改良して、動物産生の終わりにすべての長所を具備して理想のままに人間を造られたという学者もある。動物発生の前後に関する問題は、霊界物語を読まれた読者の判断に任せることとする。
すべて人間は大神の無限の力を賦与され知能を授けられている以上は、日夜これを研いて啓発し、神の境域に到達し得る資質を具有しているものである。すべての生き物は生まれては死し、死しては生まれる。神は同じ神業を繰り返させ給う。人間の生死問題も宇宙の主宰なる大神の目よりご覧になる時は、万年の昔も万年の未来も少しも変わりはない。
生の本体は、煎じ詰めれば単に一体の変化に過ぎない。人間もこの変化を免れることはできない。すべて生物に死の関門があるのは、神様が進化の手段として施し給うところの神の御自愛である。死は生物のもっとも悲哀とするところなれども、これまた惟神の摂理である。
しかし人間は他の動物と異なり死後はじめて霊界に入り復活して天国の生涯を営むものであれば、人間の現肉体の生命はただその準備に他ならないことを知らねばならぬ。
人間社会において往古より今日に至るまで霊魂の帰着について迷うこと久かった。しかし未だ一つとして徹底的に宇宙の真相、人生の本義を説いたものはない。弥勒出現成就して初めて苦集滅道を説き三界を照破し道法礼節を開示す、とは先聖すでに言う所である。
人は天地経綸の奉仕者にしていわゆる天地の花であり、神の生き宮たる以上は、単に他の動物のごとく卑劣なるものではない。神に代わって天地のために活動すべきものである。
王仁がこの物語を口述する趣旨もまた人生の本義を世人に覚悟せしめ、三五教の真相を天下に照会し、時代の悪弊を祓い清め地上に天国を建て、人間の死後は直ちに天界に復活し人生の大本分を尽くさしめ、神の御目的に叶わしめんとするの微意にほかならない。
附言
金剛不壊の如意宝珠は、大本教の宣伝使・湯浅仁斎氏の紹介によって、鳥取県気高郡海徳村大字徳尾宮東菜種田において種刈り中、鎌に当たり拾得した天降石にして、明治二十三年四月二十四日、森岡直衛氏の所有であった。
本日その息直次郎氏により大本に献納された。霊界物語 霊主体従 第一巻に記載せるシオン山より出でたる金剛不壊の如意宝珠である顕国魂は、すなわち之である。
本文
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01 01 〔1431〕
人霊が現実界にあるときに、皇大神の神格に反抗した度に比して各自に一個の悪魔・邪鬼を造り、そして地獄を造りだすのである。この由を悟って、常に霊魂を清めて神の坐す国へ昇り行くべく努めるべきである。
真の神は、罪悪と虚偽に満ちた人々を排斥して地獄に墜落させたまうことはない。邪悪に対して怒りこれを罰するということもない。主の神の珍の身体は、善と愛であるからである。
神より人に流れ来るすべてのものは、愛の善と信と真の光のみである。真の神は、人間を悪から離れて善道に立ち返らそうとなし給う。これに反して地獄界は、人を悪に誘おうと一心不乱に焦慮するものである。
人間は天界と地獄界の間に介在をなすものなので、善悪二方面、正邪の平衡をすることができる。これは神の賜物なのである。
真の神は悪人を悪から離れせしめ救いやらんとなし給い、善人にはますます円満具足なる善を積ませ給う。しかしこの違いは、人間自身の心からあえて出てくるのである。すべての人は、中有界にあって天界と地獄界の両方に向いているからである。
人間は、天界の流れを受けて善を為す。地獄からの流れを受けて悪を為す。ゆえに大本神諭では、すべての事物は霊界の精霊が為す業であると示されているのである。
悪と虚偽は、その人の心の中の地獄なのである。心の中の地獄こそが、諸悪の原因なのである。それゆえ、地獄に堕ちて苦しむのも、自ら赴いたということになるのである。真の大神はけっして、人を地獄に落とし苦しめ処罰するということはない。
人間が悪を欲しなければ、主の大神は地獄からその人を脱離せしめて天界へ導き給うのである。このことを悟るべきである。
本文
01 02 〔1432〕
波斯と印度の国境にあるテルモン山には、バラモン教を開いた鬼雲彦の仮館があり、小国別・小国姫がその跡を守っていた。この夫婦にはデビス姫、ケリナ姫という娘があったが、妹のケリナ姫は近所の鎌彦という男と駆け落ちし、人跡まれなエルシナ谷のあばら家に人目を忍んで暮らしていたのであった。
しかし夫の鎌彦は一年前に行商に出立したきり、何のたよりもなくなってしまった。ケリナ姫は悲嘆に暮れながら、粗末な衣に身を包み、その日を暮していた。
ある晩、ケリナ姫は世をはかなんで、エルシナ川のほとりにやってくると身を投げた。この時、谷川の端には元バラモン兵士のベル、ヘル、シャルの三人が座って行く先を話し合っていた。三人は治道居士たちから与えられた金をすっかり遊んで使ってしまい、また泥棒に戻っていた。
誰かが谷川に身を投げた音を聞き、ヘルとシャルは助けようとして暗闇の淵に飛び込んだ。シャルはケリナ姫にしがみつかれて、危うく自分も溺れかけたがヘルが救い上げた。ベルは助けようともせず、岸上から悪口を浴びせかけている。
シャルとヘルは、ベルの冷酷さを憤慨しながら、ケリナ姫を助け上げて登ってきた。ベルはケリナ姫の容貌を見ると、態度を変えて、自分の妻にならないかと持ちかけた。
ベルはケリナ姫から拒絶され、ベル、シャルと言い争いになった。ベルは長剣を引き抜くとケリナ姫に切りかかった。ヘルとシャルが剣でそれを受け止め、三人は切り合いを始めた。暗闇のことで、三人は刀を棄てて組み打ちを始めた。
三人は取っ組み合いをするうちに転げて、谷底の淵に落ち込んでしまった。木の上に逃れて様子を見ていたケリナ姫は、自分を助けてくれた恩人を見捨てられないとまたしても淵に飛び込んだ。
本文
01 03 〔1433〕
ケリナ姫はいつのまにか、花が咲く野を夫の鎌彦を尋ねてとぼとぼと歩いていた。向こうからとぼとぼと歩いてくる男をよく見れば、探していた鎌彦であった。
ケリナ姫は嬉しさに抱きついたが、鎌彦は振り放した。そして、自分はケリナ姫をものにするために、恋敵のベルジーを殺害したことを懺悔した。そして行商に出た後、三人組の盗賊に殺されて、今は冥途の八衢にさまよっているのだ、と身の上を話した。
ケリナ姫は自分が幽冥界に来たこと、鎌彦はもう死んでいることを悟った。そしてベルジーは、自分の異母兄だから親しくしていたことを明かし、鎌彦の所業を嘆き非難した。
鎌彦はケリナ姫に詫び、そしてベルジーに対してもお詫びをして赦しを乞おうと幽冥界を尋ねまわっていたが、どうやらベルジーはすでに天国に召されたようだと語った。そして、ケリナ姫がベルジーの妹であれば、代わりに赦しを乞いたいと願い出た。
ケリナ姫は、ベルジーの代わりに赦すなどということはできないし、兄の仇である鎌彦と夫婦になってしまった自分の身魂の因縁を嘆いた。鎌彦もその場に坐して悔悟の涙に暮れている。
そこへベル、ヘル、シャルの泥棒組がやってきた。鎌彦を殺したのはこの三人であった。自分たちが幽冥界に来たことに納得できない三人に対し、鎌彦は伊吹戸主の裁き所へ案内した。八衢の関所に着くと、いつの間にか鎌彦の姿は見えなくなっていた。
八衢の守衛は、裁きの前にエンゼルがそれぞれの身魂に接見し、神の教えを説いて聞かせるのだと説明した。それによって悔い改め改心すれば、生前の罪人も天国へ救われることができるという。しかし自らの心が地獄に向いていれば、エンゼルの言葉は苦しく、お顔も恐ろしくていたたまらず自ら地獄に飛び込んでしまうのだ、と説いた。
ベルは、自分は自由意志を束縛されるのが何より苦しいから、天国へ行くよりも地獄へ行って力いっぱい活動してみたい、と答えた。しかし守衛は、生死簿を見るとまだベルの寿命が尽きていないと言って、金棒でベルを突きたてた。ベルは傍らの草の中に倒れてしまった。
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01 04 〔1434〕
白と赤の八衢の守衛たちは生死簿を調べ、ヘル、シャル、ケリナ姫もまだ現界に数十年の寿命が残っていると告げ、東に向かって進むようにと命じた。三人は言われるままに向かって行くと、一人の男と鉢合わせた。
男はケリナ姫の貧しい身なりを見るとからかいだして三人に絡んだ。その男・六造とシャルは掛け合いをやっている。すると蓑笠をかぶった五十あまりの婆がとぼとぼとやってきた。四人はその姿がどこともなく変わっているのに不審を抱き、道端の草むらに身を隠した。
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01 05 〔1435〕
宣伝歌を歌いながらやってきた婆は高姫であった。高姫はこの原野は自分の管轄区域だと言うと、四人の男女に声をかけて招いた。
高姫はここは現界だと言い張ると、半ば強引に四人を自分の館に招いた。谷川のほとりに、高姫の中有界における住処である小さな萱吹きの家が建っていた。一行は橋を渡って高姫館に着いた。
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02 00 - 本文
02 06 〔1436〕
高姫は地獄に籍を置き、直ちに地獄に降るべき資格が備わっていたが、大神はその精霊を救おうと三年の間修業を命じ給うたのであった。
地獄界に籍を有する精霊はもっとも尊大にして自我の心強く、他に対して軽侮の念を持しこれを外部に知らず知らずの間に現すものである。自分を尊敬せざるものにたちまち威喝を現し、また憎悪や復讐の相好を現すものである。
一言たりともその意に合わざることを言う者は、慢心だとか悪だとか虚偽だとか称して、これを叩きつけようとするのが、地獄界に籍を置く者の情態である。
現界、霊界を問わず地獄にある者はすべて世間愛と自己より来る悪と虚偽に浸っている。その心と相似たる者でなければ、一緒に居ることは実に苦しく、呼吸も自由にできないくらいである。地獄における者は、悪心をもって悪を行い、悪をもってすべての真理を表明したり説明しようとする。
このような者が地獄界に自ら進んで堕ち行くときは、地獄の数多の悪霊が集まり来たり、俊酷獰猛な責罰を加えようとする。これは現界における法律組織とほぼ類似している。悪を罰する者は悪人でなければならないからである。
幽界においては善悪はそのまま表れるので、現界と違って誤解がない。また地獄界は悪そのものが自ら進んで堕ち行くのであるから、あたかも秤にかけたごとく、少しの不平衡もないのである。
地獄界の者は虚偽をもって真と信じ、悪をもって善と感じている。神の稜威も信真の光明も、地獄に籍を置いた人間から見たときは暗黒と見えるのである。
高姫は中有界に放たれて精霊の修養を積むべき期間を与えられたにもかかわらず、地獄の境涯を脱することができず、虚偽と悪を善と信じて拡充しようと活動を続けていた。そして四人の男女を吾が居間に導き、支離滅裂な教えを説きはじめた。
ヘルとケリナは、高姫の説教に納得がいかず、いちいち反論している。高姫は手を合わせてケリナの改心を祈っていると、どら声を張り上げて門の戸を叩く者があった。高姫は表へ出て行った。
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02 07 〔1437〕
門の戸を叩いていた男はベルであった。高姫はベルを引き入れようと教えを説きはじめたが、ベルは変性男子の系統の教えを盗んでいるのは高姫の方だと反論する。高姫はまた屁理屈でベルに反論する。
高姫とベルの問答を聞いていた六造も高姫への反対を唱え出した。一人シャルのみが高姫の説に同意し、弟子にしてもらうことを申し出た。
高姫が喜んでいると、どこからともなく山彦をとどろかすほら貝の声が近づいてきた。
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02 08 〔1438〕
一同は突然のほら貝の音に驚いている。高姫はほら貝の音が止まったのでまた元の座に戻ってきて、五人に対して理屈をこねはじめた。
そして反抗するベルに霊縛をかけ、見せしめとして肝玉をえぐりだして交換してやると凄み、槍をもってきてひと突きに突こうとした。
高姫とベルがにらみ合っていると、またほら貝の音が間近に聞こえてきた。高姫はこれを聞くと身体動揺し、槍をその場に落としてしまった。シャルは高姫の槍を拾って裏口から草の中へ隠してしまった。
入り口の戸が開いて求道居士が声をかけ、四人の男女を迎えに来たという。高姫は下手に出て求道居士に言い訳をした。みな高姫の魔法で縛られていたので、求道居士は呪文を唱えて魔法を解いた。高姫はこれを見て家の隅に突っ立ったまま震えている。
求道居士はヘル、シャル、ベルに小言を言うと、ここは冥途の八衢であり、まだ命数が残っているヘル、シャル、ベル、ケリナの四人を現界へ迎えに来たのだと説明した。
求道が三人と話している間に高姫は落ち着いたと見えて、今度は求道に対して自説を説きはじめ論戦を仕掛けた。求道は、高姫の言う千騎一騎のはたらきとは、他人の賞賛に依存し、自分のみ良きことを希求する地獄的な世間愛から一歩も出ていないと喝破した。
高姫は、自分は今まで相手のレベルに合わせて下根の教えを説いていたのだ、とにわかに求道を賞揚し、舌鋒をベルたちに向けてしまった。そしてまた求道を説き伏せようとする。
求道は笑ってほら貝を吹きたてた。それと同時に高姫の館は次第に影うすくなり、ついに陽炎のごとく消滅してしまった。
ベル、ヘル、ケリナの三人が気が付いてあたりを見ると、エルシナ側の川べりに一人の山伏に救い上げられていた。そしてシャルはなにほど介抱をし魂返しをしても生き返らなかった。他の三人は高姫に籠絡されず、精神を取られなかったから甦ることができたのである。
シャルは、ベルに比べれば善人でありまだ現界に生命が残っていたが、高姫の教えに信従して固着してしまったのである。
求道居士はケリナをテルモン山の小国別の館に送ってゆくことになり、ベルとヘルも従うことになった。ベルは、途中でヘルと争論を起こし、一時山林に姿を隠すことになる。
本文
02 09 〔1439〕
求道居士が吹いたほら貝の音に、求道居士とベル、ヘル、ケリナの三人は煙のごとく姿を消した。高姫はシャルと六造に向かって、彼らは義理天上に逆らったから消されてしまったのだ、と息巻いている。
六造は人が少なくなったのを見て、高姫相手に強盗を働こうと凄んだ。高姫は出刃包丁をシャルに渡して、六造と張り合うように命令した。
シャルはふるえていたが、宣伝歌の声が遠くから聞こえてくると、六造は煙となって窓から逃げ出してしまった。
高姫とシャルが話していると、微妙の音楽が聞こえ、麗しい天人が現れた。天人は中間天国のエンゼル・文治別命と名乗った。文治別命は、自分はかつて小北山で受付をしていた文助であることを明かした。
高姫は文助がエンゼルになれるわけがないと、文治別命を魔神だと疑った。文治別命は高姫に悔い改めを勧めに来たのだが、高姫はまるで聞き入れない。文治別命はシャルにも忠告したが、二人は耳を貸さなかった。
文治別命はなんとかかつての師匠高姫を改心させたいと思案に暮れている。高姫の伏せ家の周りには天人が隊を成して取り巻き、あたりには芳香が薫じ嚠喨とした音楽がしきりに聞こえている。
高姫は突然もだえ苦しみだした。エンゼルたちは高姫を救おうと天津祝詞を奏上し、数歌を歌った。高姫はますます忌み嫌い、裏口を開けて裏山を指して四つ這いに逃げて行った。シャルもこの態を見て高姫の後を追った。
高姫は禿山を二つ三つ越えて広い沼のほとりに着いた。後からシャルも声を呼ばわりやってきた。高姫とシャルには、天人たちが恐い顔をして金棒を持った鬼に見えていた。
高姫は天人たちを振り切ったと思って、シャルの前で強がって見せた。そこへ文治別命が数百人の天人を従えて降ってきた。高姫は負け惜しみを言いながら、青い顔をして次の山を駆け上って逃げ出した。シャルもその後を追っていく。
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03 10 〔1440〕
ベル、ヘル、ケリナの三人は、求道居士に救われ、ケリナの生家に向かっていた。道中、求道居士が唱えている呪文についてヘルから尋ねられ、講釈を始めた。求道居士は、バラモン教の呪文の言葉の意味を解説し、天の数歌が一番尊いとヘルに教えた。
ベルは呪文に力などないと馬鹿にする。ベルは求道につっかかり、果ては金を出せと腕をまくって息巻いた。ヘルは怒ってベルと格闘になった。ベルはヘルに引き回されて悲鳴を上げ、草むらに逃げて姿を隠した。
三人はテルモン山のケリナの生家目指して進んで行く。
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03 11 〔1441〕
日は暮れて、三人は月の光をたよりにテルモン山へ進んで行く。草丈が短い場所に出て、毒蛇の危険から免れたと思ったが、向こうの松林の中に覆面をした黒装束の男が通っている。
求道居士とケリナは、早くもベルが金を奪いにやってきたことを悟った。しかしヘルの言動がだんだんおかしくなり、求道居士が持っているという一万両をなんとか渡してほしいと言いだした。
求道居士は、一万両は心の中に持っているので実際は持っていないのだとヘルに説明した。ケリナは、ヘルはベルと八百長芝居をして金を奪おうとしているだけだと看破した。
ヘルとベルは自棄になって正体を現し、求道居士に金を要求した。求道は着物を脱いで本当に一文も持っていないことを証明した。ヘルとベルは、こうなったらケリナをものにしようと求道居士に襲い掛かり、殴り倒してしまった。
ケリナは二人を争わせておいて、どちらにも身を任せることを拒絶した。ヘルとベルは怒ってケリナの頭に棒を打ち下ろした。
ケリナが打ち倒れると、一大火光が天を焦がして降ってきた。ヘルとベルは驚いて、森林の中を逃げて行ってしまった。これは第一霊国から月照彦命が、二人の危難を救うべく下られたのであった。
求道とケリナが気が付くと、桃色の薄絹を着した麗しきエンゼルが立っていた。うれし涙にかきくれる二人に月照彦命は、神の大道を誤らず身をもって道のために殉じた志を賞した。
月照彦命は、テルモン山に帰るまでにもう一度試みに遭うであろうことを二人に気を付けた。そして、自分の命を惜しむようなことでは世を救うことはできないから、何事も神に任せて救いの道を開くように諭した。
二人は、紫の雲に乗って帰らせ給う月照彦命の後ろ姿を伏し拝んだ。二人は感謝の涙に暮れつつ、天の数歌を称えながらテルモン山を指して進んで行く。
本文
03 12 〔1442〕
求道居士とケリナは、テルモン山のケリナの生家・小国別の館を目指して夜道を歩いていく。二人はそれぞれ述懐の歌を歌いながら進む。
猛獣の唸り声が前後左右から聞こえて来る。求道居士は天の数歌を歌い、経文を念じて力いっぱいほら貝を吹きたてた。ケリナは猛獣の声に戦慄し、求道居士にすがりついて経文を称えている。やがて猛獣の唸り声はぴたりと止まった。
これよりケリナは何となく求道居士を尊信愛慕する念が深くなるに至った。
本文
03 13 〔1443〕
ケリナの姉でデビス姫は、危険な猛獣毒蛇のために人も近寄らないスガ山の谷あいの大滝に夜中やってきて、荒行をしていた。病に苦しむ父・小国別の全快と、三年前に行方不明になった妹ケリナの無事の帰宅、そして館から失われた如意宝珠の神宝の帰還を願っていた。
先にエンゼルの大火光に肝をつぶしたベルとヘルは、スガ山に逃げ込んで大滝のふもとまで逃げてきた。こんな山奥に夜中デビス姫を見た二人は、もしや妖怪ではないかとふるえていた。
デビス姫の祈願の言葉を聞いた二人は事情を知り、また姫が身に着けている金銀宝石に目が留まった。ベルはまた追いはぎをしようとするが、ヘルは先の大火光に懲り、月の大神がすべてを見ているような気がすると怖気をついた。
ベルは祈願しているデビス姫に近寄ると、一文無しで旅をしているから宝石を恵んでくれと声をかけた。デビス姫はこれは魔よけのためにつけているのだから今はあげられないが、物乞いなら改めてテルモン山の神館まで来るようにと答えた。
ベルは自分はバラモン軍の鬼春別将軍だと嘘を言うが、すぐにデビスに見破られてしまう。ベルは力づくでデビスの宝石を奪い取ろうとするが、デビス姫は柔術の名手で、組みつこうとするたびに投げられてしまう。
ベルは十数回も投げられてぐたぐたになってしまった。デビスはベルを締め上げている。ヘルは黙って見ているわけにもいかず、草の中から出てきて棒杭でデビスの頭めがけて力いっぱい打ち下ろした。手元がはずれて横っ面に当たり、デビスはその場に気絶してしまった。
本文
03 14 〔1444〕
ヘルはベルを介抱し、目を覚まさせた。二人はデビスが死んだものと思って、宝石を残らずはぎとってしまった。するとベルとヘルは、分け前を巡ってその場で争い始めた。激しい格闘の末、二人ともその場に倒れてしまった。
そこへ宣伝歌を歌いながら求道居士とケリナがやってきた。求道とケリナは倒れている三人を見つけ、ケリナは一人が姉のデビスであることを認めた。求道はデビス姫を方岩の上に運び、介抱した。
デビスは目をさまし、修験者が自分を助けてくれたこと、妹のケリナも一緒にいることを知った。そして二人に、こんなところに荒行に来て、盗賊二人に襲われたいきさつを話した。
求道は、倒れている盗賊が自分を殺そうとしたベルとヘルだと認めながら、神様はこの両人を使って我々に苦集滅道の真諦をお示しになったのかもしれないと宣し直し、水をくんで介抱した。
ヘルは気が付いて、涙を流して求道に謝罪した。そしてデビスから奪った宝石を懐から出して、返そうと差し出した。ベルはそれを横合いから奪い取り、足をチガチガさせながら長く伸びた草丈のなかに身を隠して消えてしまった。
求道はヘルにデビスを背負わせ、神言を奏上しながら月夜の道をテルモン山の神館指して進んで行った。
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04 15 〔1445〕
玉国別の一行は、ライオン河を渡るやバラモン軍の残党に襲われ、伊太彦は槍に刺されて傷を負い生死のほどもわからなくなり、玉国別と真純彦もどこに行ったかわからなくなってしまった。三千彦は一人先に進み、テルモン山のアン・ブラック川までやってきた。
三千彦は師や仲間たちの無事を神様に祈っている。このときにわかに強い川風が吹いて、堤の上にいた三千彦は泥田の中に転げ込んでしまった。泥にはまって苦しむ三千彦を、霊犬スマートが救い上げた。これは初稚姫が三千彦の難儀を前知して、救援に向かわせたのであった。
三千彦の着物にはヒルが喰いついてはなれない。困っていると、スマートがバラモン教の宣伝使服をくわえてきた。三千彦はこれも神様の思し召しだろうと、服を着てバラモン教の宣伝使の格好になった。スマートはすでにはるか遠くの山を駆け上って行ってしまった。
三千彦はバラモンの経文を唱えながら進んで行く。するとテルモン山の神館を守る小国別の妻・小国姫と名乗る老婆の一行に出会った。小国姫は三千彦を館に招いた。
名を尋ねられた三千彦は、自分は鬼春別の軍に同行していた従軍宣伝使であったが、鬼春別敗北よりここまで逃げてきたと身の上を語り、とっさに名前を川から取ってアン・ブラックと名乗った。
小国姫は、アン・ブラック川の岸辺に行けば自分を助けてくれる真人に会える、という夢のお告げがあったことを語り、川と同じ名前の宣伝使に会えたことを喜んだ。
三千彦の背中にはいつのまにか、ブクブクとしたこぶができて猫背のようになっていた。案内されて館に入ると、いつの間にか猫背は元のとおりに直っていた。これはスマートの霊が三千彦を無事に館内に送り、かつその身辺を守るためであった。スマートは館の床下に隠れて守っている。
本文
04 16 〔1446〕
朝食が済むと小国姫は三千彦のところにやってきて、テルモン山神館の問題について相談を始めた。この館のバラモン教の神宝である如意宝珠の玉が紛失し、百日以内に取り戻せなければ小国別・小国姫夫婦は死をもってお詫びをしなくてはならないという。
それを苦にして小国別は病に倒れてしまった。また次女のケリナが三年前に駆け落ちしたまま行方不明になり、このことも夫婦の気にかかっているという。小国姫は、これらの問題について神様に祈願し、託宣していただくように依頼した。
三千彦は一週間の時間を約束し、神殿に籠って祈願をこめはじめた。するとスマートの精霊が三千彦にお告げを聞かせはじめた。スマートは、玉国別一行には近いうちにこの館で会えるようになると三千彦を安堵した。そして、如意宝珠の玉は、この神館の家令のせがれのワックスという者が、ある目的のために隠していると託宣した。
スマートは、ワックスが玉を隠していることは小国姫には決して言わず、ただ近いうちに現れると答えるように教えた。また、小国別はもう寿命であること、妹娘のケリナは三五教の修験者に助けられて近いうちに帰ってくることを知らせた。
三千彦は天耳通が開けた者と思って、喜んで大神に感謝し、小国姫の居間に引き返して告げられたように、それぞれの問題の見通しを小国姫に答えた。小国姫は、小国別は残念ながら寿命だが、如意宝珠も妹娘も現れたのを見て国替えすることができる、と聞いて安心した。
そこへ小国別の容態が悪くなったということで、小国姫、三千彦、家令のオールスチンは枕頭に集まった。小国別はしきりに、ワックス、ワックス、と家令の息子の名前を呼んでいる。
小国姫は、何事が小国別とワックスの間にあったか調べるようにオールスチンに命じた。オールスチンは思い当ることがあるように首を傾けながら我が家に戻った。オールスチンが帰ってくると、二三人の人声が聞こえて来る。オールスチンは門の戸にもたれて話の様子を聞いている。
本文
04 17 〔1447〕
オールスチンの館では、せがれのワックスが、エキス、ヘルマンの二人をあぐらをかいてひそひそ話にふけっていた。悪友のエキスとヘルマンに、ワックスはおだてられ、お金をゆすられていた。
ワックスは小国別の長女デビス姫に恋慕していたが、デビス姫は馬鹿息子のワックスをげじげじの如く喰らっていた。エキスとヘルマンの二人はワックスに入れ知恵して、如意宝珠を盗んで小国別の弱みを握り、玉を発見した者に娘をめとらせ跡継ぎにさせる計略を立てた。
当座の金をせびるエキスとワックスは喧嘩になり、そこへ外で聞き耳を立てていたオールスチンが入ってきた。エキスとヘルマンは、オールスチンに赦しを乞うが、固いオールスチンは息子と言えども重罪を許すことはできないと突っぱねる。
エキスとヘルマンは、オールスチンを襲って亡き者にしようとした。ワックスはさすがに父親の危難を救おうと奮闘する。
そこへ小国別の僕のエルが突然入ってきたので、エキスとヘルマンは逃げてしまった。エルはこの有様を報告するために館に馳せ帰った。
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04 18 〔1448〕
小国姫と三千彦は、家令オールスチンのせがれが如意宝珠紛失事件に関わっていると気づいていた。三千彦は、この罪は内々にこの件を処理することが肝心であることを小国姫に説いて聞かせている。
そこへエルがあわてて家令家で起こったことを報告しにやってきた。慌て者のエルの説明は要領を得なかったが、三千彦はすべて見通していた。そこへオールスチンが如意宝珠の玉を持ち、息子を引いてやってきて、罪を告白し、謝罪した。
オールスチンが自害しようとしたのを三千彦は素早く引き留め、自分が三五教の宣伝使であることを一同に明かした。三千彦は立って宣伝歌を歌い、これまでの述懐を述べた。そしてこれ以上罪びとを造らせない意志を明かした。
オールスチンとワックスは、三千彦の宣伝歌を聞いて安堵した。
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04 19 〔1449〕
小国姫は如意宝珠の玉を持ってオールスチン、ワックス、三千彦と共に玉発見の報告に小国別の病床を訪れた。三千彦は病人に、娘たちがもうすぐ帰還することを予言した。
オールスチンと看護人に病床を任せ、小国姫、三千彦、ワックスは居間に戻ってきた。三千彦はワックスに改心を促し、小国姫も反省を迫ったが、ワックスはかえって、自分は玉の紛失にはかかわっておらず、発見者である自分こそデビス姫と結婚する権利があると強弁を始めた。
三千彦は怒って、ワックスがそういう心づもりであれば赦すことはできないと言い渡した。ワックスは自棄になって一目散に逃げ出した。小国姫は僕のエルに追跡を命じた。しかしエルは牛の尻にぶつかって人事不省になってしまった。
慌て者のエルは、小国別はすでに亡くなり、跡継ぎは家令の息子ワックスに決まったと根拠のないことを語りだした。城下の人々はこれを伝え聞いて、小国別お訃報に悲しみ、また跡継ぎの婚礼を祝い、辻辻に幟を立ててはやしまわった。
町はずれの方から宣伝歌の声が涼しく聞こえてきた。これは求道居士がデビス姫、ケリナ姫を連れて帰ってきたのであった。
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04 20 〔1450〕
テルモン山の館をエルが飛び出してから半時ばかり経つと、各宮町の町民たちが礼服を整えてやって来た。小国姫が何事かと対応すると、町総代が、エルから聞いたと言って小国別のお悔やみを上げ、またワックスとデビス姫の祝言の祝を述べたてた。
小国姫は驚いて、如意宝珠の玉が戻ったこと以外は事実ではないことを総代に説明した。総代は戻って町民たちに、小国別は健在であること、如意宝珠の玉が戻ったことを報告した。
ワックスは角辻に立って演説をやり始め、小国別夫婦が三五教の宣伝使を館に連れ込んで悪事を企んでいると事実無根の話をでっち上げ、攻撃の演説を始めた。群衆は三五教の宣伝使がテルモン山館に招かれていると聞いて怒り、館に押し寄せた。
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