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霊界物語あらすじ

説明を読む
ここに掲載している霊界物語のあらすじは、東京の望月氏が作成したものです。
まだ作成されていない巻もあります(55~66巻のあたり)
第50巻 真善美愛 丑の巻 を表示しています。
篇題 章題 〔通し章〕 あらすじ 本文
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顧みれば大正十年十月十八日、松雲閣において霊界物語を口述筆記し始めてから十六か月目、ようやく五十巻を編纂した。
この間さまざまな故障のため、着手日数は二百日内外の口述にて五十巻に到達した。本日は大正十二年一月二十三日、この数字を合算すれば三十六となり、みろくに因んでいる。
旧暦では大正十一年十二月七日、この数字を合算すれば三十となり、三ツの御魂に因む吉日である。また一つの奇というべきである。
霊界物語第一巻から第十二巻までを第一輯とし改めて「霊主体従」と題した。第十三巻から第二十四巻までを第二輯「如意宝珠」、第二十五巻から第三十六巻までを第三輯「海洋万里」、第三十七巻から第四十八巻までを第四輯「舎身活躍」とした。
第五輯に当たる「真善美愛」と題する物語をようやく第二巻まで口述編纂をおわった。いずれも一題目ごとに三百六十ページ十二冊、計四千三百二十ページとなる次第である。
精神上および肉体上の大なる束縛を受けた身でありながら、大神の恩寵と筆録者諸弟の熱烈な努力によって五十巻の大峠を越えたことは、瑞月にとって人間事とは思えない。
大本の信者はいうまでもなく、大方具眼の士は、この熱血よりほとばしり出たる作物を愛読していただき、宇宙の大精神を了知し、人として世に処すべき指針となし給わんことを願う次第である。
本文
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祠の森の聖場に妖幻坊なる妖怪が現れ来たり、三五教の杢助時置師神の名をかたった。そして高姫と組んで聖場を占有し、館主珍彦ら真人を排除して大神の大神業を破壊しようと暴虐的活動を開始した。
しかし妖幻坊と高姫は、初稚姫の愛善の徳と信真の光に照らされ、また猛犬スマートに威嚇されて聖場を遁走した。
その遁走の途上、彼らは河鹿峠の谷道にてイクとサールの追っ手に会し、活劇を繰り広げる真っ最中、またしてもスマートが猛虎の勢いで現れてイクとサールの危難を救った。本巻は、敵が自らつまずいて途上に転倒し悲鳴を上げる場面までを口述している。
愛善の徳と信真の光に充たされた天国の天人界に籍を有する初稚姫と、狂妄熱烈な高姫、また肉体的精霊の妖幻坊、三つ巴の活躍は、憑霊現象の如何なるものかを知るにもっとも便利なものを信じる次第である。
読者は意をひそめてじゅうぶんに研究されることを希望する。口述者の瑞月も、またある精霊の神格を充たされたる媒介的活動によって、この大部の書籍を編することを得たのである。今後ますます御神助をもって完結の域に達することを天地の神明に願求する次第である。
本文
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01 01 〔1295〕
本巻物語の主人公である初稚姫および高姫の霊魂上に位置およびその情態を略叙して参考に供することとする。
初稚姫は清浄無垢の妙齢の娘である。現代のごとく学校教育を受けたのではない。幼少より母を失い、父と共に各地の霊山霊場に参拝し、あるいは神霊に感じて、三五教の宣伝使と共に種々の神的苦行を経たため、霊魂の光が光輝を増し、黄金時代の天的天人の域に向上していた。
宣伝使としても地上の天人としても実に優秀な神格者であった。ゆえに初稚姫は大神の許しあるときは、一声天地を震撼し、風水火の災いをも自由に鎮停しうる神力を備えていた。
初稚姫は身に備わった愛善の徳により容易に神力を表すことを好まなかった。姫の精霊は大神の直接神格の内流に充たされ、霊肉共に一見して凡人ならざることがうかがわれるのであった。
それゆえ八岐大蛇の跋扈する月の国へただ一人出征しても、神を親とし主人とし、愛善の徳と信真の徳を杖となし糧となして恐れるものもなかった。
目に触れるもの身に接近するものことごとく親しき友となし、これらの同士となって和合帰順悦服の神力を発揮しつつ進むことを得たのである。かつまた理性的にしてものに偏せず、中庸の真理も超越していた。理性は、神愛と神真が和合した円満な情動によって獲得されるのである。
さて、真理には三つの階級がある。人間はこの三階級の真理に居らなければ、神人合一の境に入ることは不可能である。
低級の真理とは、法律・政治の大本を過たずによく現界に処し最善を尽くすことである。中程の真理は、君臣・夫婦・父子・兄弟・朋友・社会に対して五倫五常の完全な実を挙げることである。
しかしいかにこれらの真理を解し説き、説示するといえども、実践しない者はいわゆる偽善者であり、無知の者にもかえって劣ると霊界では定められている。
最高の真理とは、愛善と信真に居り、大神の直接内流を受け、神と和合し外的観念を去り、万事内的に住し得るものをいうのである。
これに照らせば、現代の人間が理性的とか理知的とか言っている言説や著書も、ひとつとして理性的なものはないのである。
不完全な自然界の知識に立脚し、地獄界より来る自愛や世間愛に基づく偽りの知識によって薫陶されたものであるので、彼らは精霊界に至れば生前の虚偽的知識や学問を全部剥奪され、残るは恐怖と悲哀と暗黒のみである。
霊的および神的生涯の準備がなければ、精霊界に至った時にかえって無知な人間にも数等劣ってしまう。むしろ、現界において無知なる者は、おぼろげながらも霊界を信じかつ恐れるがゆえに、驕慢の心無く心中常に従順の徳に居る。そのような者は、霊界に入りし後は神の光明に浴し、神の愛を受けるものである。
現界においては、到底その人間の真相はわからに。初稚姫のように肉体そのままで天人の列に加わった神人であれば、その人の面貌・言語・動作に触れてその生涯と人格を洞察し得るのである。
しかし現代人は肉体の表衣に包まれてその真相を悟ることはできない。偽善者を見じゃとみなし聖人とみなして賞揚する例は沢山にある。
瑞月はかつて高熊山の修業のおり、神の許しを得て霊界を見聞した時、過去の智者賢者、英諭豪傑と言われる古人の精霊に会い、その情態を見聞して以外の感に打たれたことがしばしばあった。彼らは自愛と世間愛に惑溺し、自尊心強く神の存在を認めざりしため、霊界にあっては実に弱き者、貧しき者、賤しき者として遇せられていたのである。
現代の政治家・智者学者と唱えられる人たちに対しても、これを思えば実に憐憫の情に耐えないのである。かれら憐れな地獄の住人を救い上げようと焦慮しても、彼らの売文が神に向かって閉ざされ、地獄に向かって開かれているため、これを光明に導くのは容易な業ではない。
初稚姫の神霊はふたたび大神の意志を奉戴し、地上に降臨して大予言者となって綾の聖地に現れ、その純朴無垢なる記憶と想念を通じて、天来の福音をあるいは筆に、あるいは口に伝達し、地上を五六七の天国に順化せしめんと計らせ給うこと、三十年に及んだ。
されど頑迷不霊の人間はこれを恐れ忌むことはなはだしく、これを嫉視し憎悪していた。このような有様においては、百の天人は大神の命を奉じていかなる快挙に出で給うやもはかり難いのである。
次に高姫の霊界上の地位について少しく述べる必要がある。宇宙には天界、精霊界、地獄界の三界がある。精霊界は霊界と現界の中間に介在している。
まず、精霊界には自然的・肉体的精霊なるものが団体を作り、現界人を邪道に導こうとしていることを知らなければならない。肉体的精霊にはいろいろな種類があり、天狗、狐狸、大蛇、妖魅など暗黒な現界に跋扈跳梁している。
これらは地獄界でもなく、一種の妖魅界または兇党界と称し、人間にたとえれば浮浪の徒である。かれらは山の入り口、川の堤、池の岸、墓場の付近などに群居している。暗迷にして頑固な妄想家のすきを窺い、その欲望に付け入って入ってくるのである。
肉体的精霊は人間の想念と和合せず、体中に侵入し来たり、その諸感覚を占有し、口舌を用いて語り、手足をもって動作する。その精霊は憑依した人間をすべて吾が物と思っている。
あるときは人間の記憶と想念に入って大神と自称し予言者をまねる。その人間はついに自らを真の予言者と信じるに至ってしまう。されどこうした精霊は少しの先見の明なく、一息先のことも探知しえない。
このような精霊に憑依された人間が、たとえば開祖の神諭を読みふけり、記憶し想念中に蓄え置くとき、侵入してきた悪霊はこれを基礎として種々の予言的言辞を弄し、頑迷無知な世人を籠絡して邪道に引き入れようとするものである。
悪霊の矛盾に気が付いて反抗的態度に出ても、悪霊に説伏されたり肉体上の苦痛を与えられたりしてついに悪霊に感服するに至ると、もはやどうすることもできなくなる。いかなる神の説示も認めることはできなくなり、自ら天下唯一の予言者であるなどと狂的態度に出ることになる。
この物語の主人公たる高姫はこの好適例である。ゆえに高姫は、自己の記憶と想念と憑霊の言葉のほかには一切を否定し、数多の人間を熱狂的に吾が説に悦服せしめようと焦慮するのである。
高姫はいったん改心の境に入ったように見えたが、ふたたびつきまとえる兇霊は肉体の隙を見澄まして侵入し来たり、大狂態を演じるに至ったのである。
兇霊が憑依した偽予言者に魅入られた人間は、いかなる善人であっても相当に思索力を有する人物でも、その術中に巻きこまれてしまう。いったん迷わされた人間は容易に目が醒めるものではない。
されど神はあくまでも至仁至愛にましますゆえに、弥勒胎蔵の神鍵をもって宝庫を開き、天国の光明である智慧証覚を授け、愛善の徳に包んで救い上げ、一人でも多く天国の生涯を送らせようとなし給い、予言者に聖霊を充たして天国の福音を伝えさせることになったのである。
祠の森に杢助を名乗って現れた妖怪は、兇悪な自然的精霊にして高姫の心性に相似していたために互いに相慕い求め、狂態を演出して神業の妨害をなした。ついには神律に照らされて根底の国に投げおろされるまで、その暴動をやめないものである。
本文
01 02 〔1296〕
高天原の最奥における霊国および天国の天人は、すべて愛の善徳を完備し信の真善を成就し、智慧証覚に満ちている。ゆえに中間天国以下の天人のように決して信を説かず、信についても知らない。また神の真についても論究しない。
なぜなら、最高天人は大神の神格に充たされ、愛善信真はこれ天人の本体であるからである。だから他界の天人のように、これは果たして善なりや、悪なりや、などと真理を争うことはない。
また最奥天人は視覚ではなく、その聴覚によって宇宙に瀰漫せるアオウエイの五大父音の音響如何によってその証覚を円満にしていく。
大本神諭にあるごとく、生まれ赤子の心は清浄無垢であるから、たとえ智慧証覚は劣るといえども、その清浄無垢が最奥天国に和合する。またすべての物欲をすてて老後を楽しみ罪悪に遠ざかり、天命を楽しむ老人は、証覚ありかつ無垢な者であることを現している。
大本開祖は夫を見送り世間的生涯を終えて無垢の生涯に入り給うた時、初めて神は予言者として神格に充たされた聖霊を降し給うたのは、開祖の身魂を清浄無垢に復活し、その精霊をして天国の籍におかせ給うたからである。
ゆえに開祖は生前においてすでに霊的復活をせられたのである。これを霊的人格の再生という。大神は、人間の齢が進むにしたがってこれに善と真とを流入し給うものである。まず人間を導いて善と真との知識に入らしめ、不動不滅の智慧に入らしめ、最後に証覚に進ませ給う。
しかし現代の人間は、齢が進むにしたがってますます奸智に長け、表面は世捨て人のごとく装うといえども、その実ますます不良老年の域に進む者が大多数である。
老齢にいたってもますます権謀術数をたくましうして世間的権勢を掌握し無上の功名としている人物のごときは、霊界から見れば憐れむべき盲者である。無智にしてその日の労働にいそしみ不遇の生活を生涯送りし人間が、霊界に至って神の恩寵に浴し、善と真との徳に包まれるのである。
神には一片の偏波もないことを信じ、ひたすら神を愛し神に従い、正しき予言者の教えに信従すれば、生前に物質上の満足は得られなくても、その内分に受ける歓喜と悦楽は、とうてい現界の富者や権力者や智者学者のうかがい知ることはできない。
この物語の主人公たる初稚姫は再び天の命を受け、地上に降誕して大本開祖となり、世間的務めを完成し、八人の子女を生みそれぞれ神界の内的事業に奉仕せしむべく知らず知らずの間にその任を果たし、そして仁愛と信の智を発揮して地獄界を照破する神業に奉仕し、その任務を終えて後事を瑞霊に充たされた予言者に託し、ここにめでたく昇天復活されたのである。
ゆえに開祖は生前よりその容貌はあたかも少女のごとく、正音は優雅微妙にして、開祖に接近する者はその円満な霊容に感化され霊光に照らされ、善人は信従し尊敬し、悪人を嫌忌し恐怖したのである。
開祖の前身たる初稚姫もまた神代における神格者にして大予言者であった。しかしてその霊徳を深く秘して和光同塵の態度をもってあまねく万民を教化すべく、霊的・自然的活動を続け給うたのである。
神は瑞月を呼んで大化け物と宣らせ給うた。現代人はこれを聞いて、大悪人や権謀術数家のごとく認める者も少なくない。しかし神格に充たされた者を、頑迷不霊の地獄界に籍を置いた人間の目からみたときは、眼くらみ頭痛み息苦しくなり、恐怖心に駆られて、予言者を大怪物としか見ることができないものである。このような頑迷の徒を神の光明に浴せしめ、天国の生涯を送らせるのは実に最大難事である。
大正五年、口述者が役員室で神諭を紐解いていると、高島久子があわただしく居間に走ってやってきて、一厘の秘密を知らせるという。瑞月は厳然として神の道に秘密などないことを説き諭すと、高島久子の精霊は大いに怒ってわが耳をつかみ頬をたたいて狂い回った。
瑞月はやむを得ず霊縛をかけて彼女の動きを止め、また神に祈ってお許しを乞うた。起き上がった彼女は悪態をつきながら開祖の居間に侵入した。久子の精霊は開祖の容貌を拝するや、アッと仰向けに倒れ、開祖に悪態をつきながら吾が居間に戻ってきて、仁王立ちとなって瑞月をにらみつけた。
そこに開祖が梅の杖をつきながらちょっと障子を開けてのぞかれた。久子はまたもやキャッと叫んでその場に転倒し、毬のように表に駆け出してしまった。
後で高島久子に聞けば、開祖の居間の障子を開くやいなや、開祖の肉体は金色燦爛たる光明に満ち、その御姿を熟しすることができず、恐ろしくなって自分の守護神が一生懸命駆け出した、と答えた。
またあるときは修行場へ暴れこんで修行者に馬乗りになって小便をかけたりしたが、聖場で小便をしても神罰が当たらなかったのは神格が高いからだ、などと誇っている始末である。神は畜生が糞尿を垂れても看過したまう、これと同じ道理であることがわからないのである。
自愛心強く世間愛を善事としている人間はかえってこのような奇矯な行いを神秘とみなし、人間業でできることではないと感心するのである。
悪霊は、開祖の身内であれば決して悪神が憑依すべきものでない、という人々の思い込みを利用し、高島久子を従えてしまうと、二三の迷える信者を引き連れて八木に逃げ帰り、兇党界の団体をますます大ならしめ、大神の神業を妨害せんと企みつつある。
久子本人は元来開祖を思うこと深く、無知にして比較的その心も清ければ、兇霊も開祖の神諭を非難することはできなかった。そこで表面には厳瑞二霊を尊敬し信従するごとく装い、狂惑した久子を使って世人を魔道に引き入れようと企みつつあるのである。
この悪霊の教えを妙に曲解して随喜渇仰し随伴している者がたくさん現れてきたのは、神界のために実に悲しむべきことである。八木の停車場で狂態を演じて人々を驚かせ、大本の教えを破壊せんと企んだこともあった。
兇霊はこの筆法を用いてあるときは変性男子を極力賞賛し、また対する者の心の中に男子・女子を否んでいることを認めるときは声をひそめて頻りに誹謗し、吾が薬籠中のものになそうと企むものである。初稚姫と高姫の今後の活動は、これに類するものが多ければ巻頭に引証することとした。
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01 03 〔1297〕
初稚姫は祠の森の神殿に参拝し、遠征の守りを祈願すると高姫の居間へ引き帰した。高姫は遠く従って初稚姫の後ろ姿を打ち眺め、どこともなしにその神格の完備せるに驚き舌を巻いた。
高姫は、初稚姫の神格に感じて心の底より尊敬したが、どことなく恐怖心にもかられ、かつやや嫉妬の念も兆したのである。
高姫の身体にて沈黙していた金毛九尾の悪狐は高姫の嫉妬心が兆したのをさいわい、たちまちささやいた。あの初稚姫は稚桜姫命の再来であれば、到底我々は匹敵できない、師と仰いで共に神業に参加すべきだ、とうまく取り入ってきた。高姫は初稚姫に対する態度を一変した。
初稚姫は、高姫には金毛九尾の悪孤の霊が憑依していることに気づきながらも、もし自分が真相を現せば悪孤は高姫の肉体をたちまち亡ぼすかもしれず、また逃げ出して別の肉体に居住し世の中を惑乱するかもしれない、と洞察した。
そして、少しでも長く高姫の肉体に残留させるように仕向け、しばらくは自分は猫をかぶって交際し、高姫とこの地獄的精霊とを天国に救ってやろうと決心した。
高姫の精霊は、自分は悪神の張本の金毛九尾の悪孤であることを初稚姫に自ら明かした。そして、高姫の肉体にある間に感化されて改心し、悪神の企みはすっかり白状されたため、高姫は精霊と共にこの祠の森で人民の因縁をよく調べる役目に従事しているのだ、と語りだした。
そして、自分がここで信者を改める役を正式に認めるよう、三五教に働きかけてほしいと虫のよいことを頼みかけた。
初稚姫は高姫の精霊の企みを見抜き、ここは下手に出て自分にはそのような権限はなく、むしろ神徳高い高姫にご教授を願いたいと言って一切の光明を包み、普通人のようになってしまった。高姫はニタリと打ち笑い、自分についてここで修業するようにと言い聞かせた。
そして自分が杢助の後妻に収まったことを明かし、初稚姫を娘扱いしだした。初稚姫も高姫と夫婦になったのは兇霊であることを知っていたが、そらとぼけて高姫の話にのり、義理の娘のふりを通した。高姫は、初稚姫に請われて、杢助を探しに森林の中へ出て行った。
高姫の精霊は、初稚姫の芝居に築かず、初稚姫が素直に義理の娘として高姫に敬意を表していると思いこみ、気高いところがあって賢いあの娘をなつかせておけば、三五教の中での自分の地位も高まる、と皮算用をしている。
精霊がその企みを声に出して囁いたので、高姫は、そのようなことを声に出して誰かに聞かれたらどうする、と精霊をたしなめた。
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01 04 〔1298〕
後に残った初稚姫は、高姫が金毛九尾の悪孤に魅入られ、また父・杢助に化けた妖魅にだまされて狂惑されていることを憐れんだ。
しかし、高姫に憑依している悪孤は、杢助が兇霊の化け物であることを知らず、杢助に化けている兇霊も悪孤の正体を見ることができないために、互いに結託することができないでいた。
初稚姫は、精霊同士といえども、自然界の物性を通さなければ世界を認識することはできない、という神様のお仕組によって精霊の悪事が防がれていることに感謝した。
そこへ怪我を負ったスマートが戻ってきた。スマートは初稚姫に怪我を負った体を預けていたが、突然起き上がって唸り始めた。初稚姫はスマートにおとなしくするように命じた。そこへ高姫が帰ってきた。
高姫は、杢助が森林で転んで眉間を岩に打ち付け、たいへんな傷を負って谷川で休息していることを話した。高姫は、杢助はじきに戻ってくるだろうと言ったが、杢助が犬を神域に入れないように厳しく言いつけたとスマートを追い出そうとした。
初稚姫は、杢助に化けた妖怪がスマートに眉間を噛まれて怪我を負ったことを推知したが、とぼけて高姫の言にしたがい、スマートを館から連れ出した。
そしてスマートに、いったん隠れていて、日が暮れたら自分の居間の床下にそっと隠れているように、といいつけた。スマートは承諾の意を表し、二人は別れた。
初稚姫は館に帰ってきた。スマートは日が暮れた後にそっと初稚姫の居間の床下に身を忍ばせ、いいつけをよく守って初稚姫の保護の任に当たっていた。
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02 05 〔1299〕
高姫は、初稚姫と会話の最中に腹中の兇霊が不注意な言葉をはさもうとしたことに怒り、悪態をついた。兇霊は高姫の腹を痛めて対抗するが、高姫も大神に届け出るぞと脅し、兇霊もそれは困るとやや下手に出て来た。
二人はけんかしながらも問答しているうちに、三五教を乗っ取ってウラナイ教に立て返すということに相談が決まった。
高姫がさっと障子を開けて外をのぞくと、初稚姫は無邪気に枯れた芒で遊んでいる。高姫はほくそえんで、初稚姫を教育してウラナイ教の宣伝使に仕込み、杢助とウラナイ教を盛り返せば、東助の鼻を明かせると独り言を言っている。
初稚姫は何気なく高姫に話しかけ、スマートは石を投げて頭を割り、追い払ったと報告した。そして誠さえ立てば名などどうでもよいと、ウラナイ教を立てて行けばよいといって高姫の機嫌を取った。
高姫がまた杢助を呼びに行った間、初稚姫は珍彦の居間を訪ね、楓姫と四方山話をしながら時を過ごしていた。
本文
02 06 〔1300〕
高姫は杢助を呼びに祠の森を探し回った。ようやく草むらの中に呻きながら眠っている杢助を見つけて声をかけ、一緒に帰ろうと促した。杢助は、自分の妖怪の正体を見破られることを恐れ、高姫の介抱を拒み、高姫と言い争いになる。
杢助は、祠の森の受付の前にある大杉の上に、玉茸という薬になるキノコが生えているから、それを取って持ってきてくれるように高姫に頼んだ。
杢助が、人知れず取らないと効能が現れないと言いつけたので、高姫は受付の様子をうかがっていると、ハルとイルがそんなこともしらずに雑談にふけっている。二人は互いに、初稚姫は自分に気があると言ってきりのない空相談にふけっていた。
高姫はやむをえず裏口に回って梯子を引っ張りだし、大杉の受付から見えない裏側に立てかけた。そして梯子を上って玉茸らしきものを探し回った。
高姫は玉茸と見誤って梟に手を触れた。梟は敵だと思ってくちばしでこついたから、高姫は杉の大木の根元に落ちてしまった。しかしハルとイルは相変わらず空相談にふけっていたので、高姫が梯子から落ちて大杉の根元で苦しんでいることには気が付かなかった。
本文
02 07 〔1301〕
初稚姫は珍彦の館を訪れた。門口の戸をそっとひらいて名乗りをすると、楓姫が迎え入れた。初稚姫が神丹のことを知っていたので、驚いた楓姫が尋ねると、神丹は言霊別命のお告げによって初稚姫が作り、スマートに持たせて楓姫に渡したものであったと明かした。
そこへ、神殿に神丹のお礼に行っていた珍彦と静子が帰ってきた。楓姫からいきさつを聞いた珍彦と静子は感激して初稚姫に礼を述べた。初稚姫は、自分は神様のご命令にしたがって行動しただけと答えた。
珍彦、静子、楓姫は、祠の森にやってきた杢助の行いが悪いので、そのことを不審に思って初稚姫に尋ねるが、初稚姫は言葉をにごし、三人は何事かを悟ったようであった。そして一同はここの杢助が本物ではないという秘密を歌に詠んでそれとなく確認し合った。
すると門口に、男の声で若い女性に恋の思いを告げる歌を歌う者がある。珍彦と静子は、誰かこの館に楓姫や初稚姫を思う者がいると心配するが、楓姫と初稚姫は、自分たちは気を付けもするし神様のご守護もあるから心配いらないと安堵させる。
そこへイルとハルがあわただしく入ってきて、高姫が大杉の梢から転落して怪我をしたと報告した。初稚姫は高姫のところに急いだ。
高姫は、自分は日の出神の御守護があるから大丈夫と、杢助のところに先に行くように初稚姫に懇願した。初稚姫は高姫の介抱をハルとイルに頼んで杢助のところに向かった。
本文
02 08 〔1302〕
人間は自然愛と地獄愛が生み出す諸々の罪悪の間に生まれ出ているため、その内分は高天原に向かって完全には開けていない。そのため、大神は精霊を経て人間を統制し給う。人間と生まれた者は、惟神の順序の内に復活帰正すべき必要がある。そのためには、間接に聖霊を通さなくては成就が難しいのである。
初稚姫のような神人であれば、大神の直接内流に統制されるので、精霊を経て大神に統制される必要はない。
しかし現代の人間は高天原からその内分を閉ざし高天原から遠く離れてしまったそこで大神は、天人と精霊を各個の人間と共に居らしめ給い、天人すなわち本守護神、精霊すなわち正守護神を経て、統制する方法を取らせ給うことになった。
高姫の体に入った兇霊は、自分こそが本体であり、神界経綸の因縁ある機関と思っている。そして高姫の方が宿を借りに来ている精霊だと思っている。しかし高姫の言動から、もしかすると自分自身が高姫という得体のしれない動物の中に入っているのではないかとも感じだしている。
高姫も兇霊も、自分こそ万民の罪悪を救うために神が遣わした犠牲者であり救世主と信じているから始末が負えない。
動物は、精霊界からの内流によって統制されている。けだし、動物の生涯は宇宙本来の順序中に住するゆえに、理性を持っていない。理性がないゆえに神的順序を破壊することがないのである。
しかしスマートのような鋭敏な霊獣は、初稚姫のような地上天人の内流を受けることができる。スマートは肉体は動物なれども、神より特別に化相の法によって、初稚姫の身辺を守る必要から現れ給うたものだからである。
普通の人間が動物と和合してしまうと、それは畜生道に堕落した場合である。また人間が霊肉離脱の後、地獄界や精霊界にあるとき、現世にある敵に対して危害を加えようとの念が強い時には、動物の精霊に和合してその怨恨を晴らそうとするものである。
霊界のことに暗い智者学者は、動物が人間にうつって人語を用いるなどあり得ないというが、それこそ半可通的言説である。彼らは自分が駆使されている人霊の想念を借り、懸っている人間の記憶や想念に入って肉体と口舌を使用するのである。
動物や植物は惟神的順序にしたがい順応している。おのおのその決まった特性を備え、決まった時期に活動する。人間は理性を有するがゆえに、別の土地に行ったり環境が変わったりすると意志を変じる。
また自由に思想ならびに身体の色まで変じる便宜がある。その代わりまた、悪に移りやすく堕落もしやすい。そのため大神は特に予言者を下し、天的順序に従うことを教え給うのである。
しかしまた、人間には善悪両方面の世界が開かれてあるがゆえに、神の機関たることを得るのである。願わくは人間は神を愛し神を信じ、神に愛せられ、神の生き宮として大神の天地創造の御用に立ちたいものである。
さて、高姫は大杉の梢から落ちてイル、イク、サールなどに介抱され、ようやく居間に運ばれた。梟に目をこつかれて腫れ上がり、しばらく見えなくなっていた。イル、イク、サール、テルは高姫が弱っているときに、普段の高姫への不満を皮肉交じりに述べ立てた。
高姫は、初稚姫が帰ってきたら彼らのことを告げてやると言い返した。一同は観念してどやどやと帰って行った。
イルは高姫の身が心配だったので、ただ一人次の間に身を隠して控えて様子をうかがっていた。すると高姫の居間から唸り声が聞こえてくる。のぞいてみると、いつの間にか座敷にスマートが座っていた。
下駄の音が森の方から聞こえてきた。初稚姫は杢助を探しに行くと高姫に言ったが、この杢助は妖怪であることを知っていたから実際に探してきたわけではない。ただ高姫の気休めのために、しばらく森林を逍遥して帰ってきたのであった。
本文
02 09 〔1303〕
高姫は病床から、戻ってきた初稚姫を呼んだ。高姫の顔は怪物のように恐ろしく腫れ上がっていた。初稚姫は同情の声をかけた。
高姫は杢助の様子を尋ねた。初稚姫は、杢助と会えなかったと言えば高姫が心配を募らせると考えて、杢助は顔はひどく腫れ上がって苦しんでいたが、自分が尋ねて行くと嬉しそうに返事を返してくれたと答えた。
高姫は、誰か杢助を担いでくる人手を珍彦に手配してほしいと初稚姫に頼んだ。すると次の間に控えていたイルがふすまを開いて返事をし、初稚姫に声をかけた。高姫はイルに下心があるのだろうと予防線を張る。初稚姫はイルに珍彦への使いを頼んだ。
高姫は、自分の心配をしてくれる初稚姫に対して、杢助を世話する時とどっちが愛情が深いか、と意地悪な質問をした。初稚姫は思った通りに実父の杢助に対する方が愛情が深いように思うと答えた。すると高姫はそれを根に持って、初稚姫にきつく当たりだした。
初稚姫は真心から高姫の境遇を憐み、なんとかして霊肉共に助けてあげたいと思うほかの心はなかった。しかし根性のひがみきった高姫は、初稚姫の親切を汲み取ることはできなかった。
初稚姫も、そのとき相応の方便を使うことはあるが、宣伝使たるもの心にもない飾り言葉を使うべきでないと考えたので、正直に、実父と義理の母に対しては愛の程度に違いがあることを高姫に言って聞かせたのであった。
初稚姫は、教義を説くときには厳然として一歩も仮借しないのである。すべて真理というものは盤石のごとく鉄棒のごとく、屈曲自在することができないものだからである。もし宣伝使にして真理までも曲げて方便を乱用するなら、たちまち霊界および現界の秩序は乱れ、神の神格を破壊してしまうことを、初稚姫は恐れていたからである。
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03 10 〔1304〕
誰言うともなく、祠の森に獅子・虎両性の怪物が現れて人間に化けて主管している、という噂が立ち、ここ二三日は祠の森に誰も立ちよらなくなってしまった。受付も事務室もきわめて閑散としていた。
珍彦は相変わらず至誠神に仕え、参拝者の有無にかかわらず朝と晩のお給仕を忠実に勤めている。イル、イク、サール、ハル、テルの五人は仕事をほったらかして、酒と肴を携えて祠の森のもっとも風景の良い場所で飲み始めた。
次第に一同は酔ってきて、イルが初稚姫と間違えてスマートの手を握って耳を噛まれた馬鹿話を披露した。また一同が話にふけっていると、森の彼方から楓が呼ぶ声がする。五人はバタバタと事務所をさして帰って行った。
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03 11 〔1305〕
祠の森に現れた偽杢助の正体は、八岐大蛇の片腕として名も高い、獅子と虎の忠誠を備えた怪しの動物であり、名を妖幻坊といった。
一方、高姫は祠の森の御社を蹂躙せんと出て来た悪霊に魂を奪われてしまった。妖幻坊は高姫をたぶらかして夫婦に成りすまし、生地を隠していた。しかし初稚姫の霊光と、お供の猛犬スマートに恐れて逃げ出し、スマートに眉間をかぶりつかれてひとまず逃げて行った。
妖幻坊と高姫が、珍彦夫婦を亡き者にしようとした毒殺の企みも、楓姫の枕元に現れた文殊菩薩が授けた霊薬によって何事もなく終わった。
スマートに傷つけられた妖幻坊を癒そうと、薬の茸を採ろうと大杉に梯子をかけた高姫も、梟にこつかれて墜落し、寝込んでしまった。高姫は、初稚姫の献身的な看病によって回復した。しかし高姫は初稚姫をねたみ、その神力をおそれて再び奸策を企みはじめた。
高姫は回復すると、一度も見舞いに来なかったと珍彦の館に文句を言いに上り込んできた。しかし対応した楓は逆に高姫の災難を嘲笑い、父母に毒を盛った罰だと非難してかかった。また珍彦と静子が、毒殺未遂の件を斎苑館に報告し行くと高姫を脅して帰そうとした。
高姫と楓は言い争いになり、怒った高姫はこぶしを固めて楓を打ち付けた。楓は大きな声で叫び、人を呼ぶ声が酒盛りをしていたイル、イク、サール、ハル、テルにまで届いて五人はその場にかけつけた。
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03 12 〔1306〕
楓の叫び声を聞いて、酔った五人はその場へやってきた。楓の頼みでイルが高姫を引き離そうとしたが、高姫に突かれて倒されてしまった。残りの者は高姫めがけて武者ぶりつこうとしたが、酔っていたので皆高姫に放り出されてしまった。
高姫は一人、座敷の真中で大声で見栄を切っていい気になっている。そのすきに楓が後ろから高姫の両足をすくったので、高姫は転回して五人の上にひっくり返ってしまった。高姫は膝頭とむこうずねをしたたか縁板に打ち付けて呻いている。楓はそのすきに両親にこのことを知らせようと裏口から神殿に駆けて行った。
五人は高姫が上に倒れかかってきたので、それぞれ悪態をついた。高姫は怒って五人に打ってかかろうとしたが、そこにスマートが現れて、高姫が怪我をしないように、しかし怪力にまかせて後ろ向きに森の方へ引きずっていってしまった。
高姫は五人に助けを求めたが、一同はただ高姫を見送るだけであった。そこへ楓が戻ってきて、高姫の行方を尋ねた。イルは、スマートが森に高姫を引きずって行ったので、大方喰われてしまったのだろうと答えた。
楓は呑気なことを言っていないで高姫を助けるように五人に指示した。そこへ初稚姫が、珍彦と静子を連れて現れた。珍彦と静子は、楓が高姫に食って掛かったことを注意するが、楓は、高姫が両親を毒殺しようとした、と抗弁する。
イルたち五人はそれを聞いて憤慨するが、初稚姫がとんちを利かせて、楓が夢を見たことにして五人をなだめた。初稚姫は、五人に高姫の救出に行かせた。
楓は、自分の言うことは夢でも嘘でもないと駄々をこねるが、初稚姫は何事も神様にお任せするようにと楓をなだめた。
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03 13 〔1307〕
初稚姫と楓は、火鉢を囲んでお道の話をしていた。いつしか話は高姫の話になり、さまざまな悪霊に魅入られている高姫を、二人で協力してなんとか救いたいものだと語り合っていた。
そこへ高姫がふすまをけ破って闖入してきた。二人をにらみつけて怒りに声を震わせながら、初稚姫と楓が、自分を害する相談をしていたと非難した。そして自分の足を後ろからさらえた楓を怒鳴りつけた。
楓は高姫に詫びを入れ、初稚姫もなだめようとしたが、高姫は逆にスマートに加えられたことに怒りだし、初稚姫を棍棒で打ち据えようとした。するとまたしてもスマートが駆けこんできて、高姫を引き倒した。初稚姫はスマートをおとなしくさせたが、高姫はスマートを一つ殴りつけ、怒鳴り散らして狂乱の態であった。
初稚姫、楓はスマートと共に珍彦の館をさして出て行った。高姫が火鉢を投げつけ、戸棚の膳や椀を投げつけて荒れ狂っていると、腹の中から声がして、自分たちは初稚姫と楓の生霊で、高姫の肉体を亡ぼすために取り憑いたのだ、と言い出した。
これは高姫自身の悪霊が、高姫が初稚姫・楓をますます憎むように仕向けるための策略であった。すべて悪霊が人を傷つけ苦しめようとするときは、このような手段を取って人間同士を憎しみ合わせるものである。大本の役員たり信者たるものは、十分に霊界の消息に通じて、彼らの詐言に迷わされてはならない。
高姫が怒りだすと、腹の中の声は、高姫の霊格の高さに往生したように芝居を打って、ますます高姫を増長させた。高姫は棍棒を抱えて珍彦の館を指して荒れる勢いすさまじく進んで行った。
高姫は、初稚姫と楓が話しているところに現れて、二人に向かって棍棒を振りかざした。またもやスマートが駆けてきて、高姫をその場に押し倒した。高姫は怖気づいて自分の居間に逃げ帰り、夜具をかぶって震えていた。
スマートは高姫の後を追ってきて、扉を引っ掻きながら唸りたてている。高姫も、高姫の体内の悪霊も、スマートの声に縮み上がって固まり、ふるえていた。
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03 14 〔1308〕
高姫はそれから、初稚姫、楓姫、珍彦、静子を憎むことはなはだしく、どうにかして彼らを亡ぼそうと考えるようになった。しかしこうなってはもはや初稚姫に言うことを聞かせることはできないだろうし、そうなると、彼らを害そうとすればスマートが飛び掛かってくるに違いなかった。
そこで高姫は、腹中の悪孤たちと相談し、一種の妖術をかけることにした。虬の血を絞って百虫を壺に封じ込み、血染めの絹を護摩の火で灰にして壺に封じる。この灰を四人に盃に塗って飲ませれば、飲んだ者は神徳を失い、人の怨みを受けて身を亡ぼすのだという。
高姫はそれから、悪孤の言うとおりに妖術の材料を集めて準備した。そして四人に怪しまれないようにおとなしく過ごし、すべてが整うと、珍彦館を訪れて自分の非を涙ながらに詫び、仲直りの酒宴を開くと言って招くのだった。
初稚姫は高姫の企みをすっかり見抜いていた。そしてその妖術も、兇霊の妄言であり何の効果もないことも看破していた。初稚姫はなんとかしてこの機会に高姫に改心してもらいたいと心に誓った。
高姫の誘いに楓は嫌悪の情を現したが、初稚姫が酒宴への参加を促したので、一同は危険がないことを暗に悟り、高姫の館に向かった。
初稚姫が毒見をし、一同は妖術を施してある御馳走をすっかり平らげてしまった。珍彦は厚く礼を述べて妻子を引き連れて帰って行った。また高姫は、楓と遊んでくるように初稚姫に言ったので、初稚姫も珍彦館に行くことになった。
後に残った高姫は、計略が当たったと一人喜んでいる。高姫の腹の中から、悪孤たちが計略の成功を自慢する笑い声が聞こえてきたので、高姫は滅多なことを言うなと憑霊たちをたしなめたが、まるで聞かない。
戸の外には、彼らが恐れるスマートの吠える声が聞こえてきた。高姫は頭をかかえて震えあがり、腹中の悪孤たちも一斉に黙ってしまった。
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04 00 - 本文
04 15 〔1309〕
春雨の降りしきる頃、高姫は腹中の憑霊たちと斎苑館を占領する空想を描いてひとり笑壺に入っている。初稚姫はこのごろ、高姫の命令によって珍彦館に籠り、神殿や大広間にしばらく姿を現すことを禁じられていた。
スマートも姿を見せないために、悪孤たちは元気がよかった。高姫は一弦琴を取り出して歌い始めた。高姫は琴を引く芸は持っていなかったが、憑依している蟇先生が肉体を使って琴を弾じていた。
妖幻坊は厠から戻ってきた。そして高姫の琴芸に感心し、ひとしきりからかった。高姫は、日の出神のお筆先を書くからといって、酒をあてがって杢助を自室に帰した。高姫は筆と墨を用意し、一時ばかりかかって筆先を書きあげた。
そしてイルにこれを大声で拝読させて、珍彦館にいる初稚姫にも聞かせて改心させてやろうと思い立ち、書き上げたばかりの筆先三冊を三宝に乗せて受付にやってきた。高姫はイルたちにこの筆先を書写して、それを初稚姫に聞こえるように拝読せよと命じると、自分の居間に帰って行った。
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04 16 〔1310〕
イルは大速力で筆先を写し終おわると、三宝に乗せて高姫のところに持ってきた。そしてわざと荘重な言葉使いで神がかりの真似をして高姫をからかうが、高姫はイルが気違いになったと悪口して三宝をひったくろうとした。
イルはわざと三宝を握りしめたので、脚が音を立てて二つに割れた。その勢いで筆先は宙をかすめて炭火の中へぱっと落ち、たちまち三冊の筆先は煙となってしまった。高姫は怒ったが、イルは神徳が高いから筆先から煙の竜が出て天上に立ち上ったのだととっさにゴマをすった。高姫は勢いをそがれてしまった。
高姫は気を取り直して筆先の写しを持ってくるようにイルに命じたが、イルは、筆先のご神徳が高すぎて後光がさし、写せなかったと高姫をからかった。イルの上げては落とすからかいに、最後には高姫は顔を真っ赤にして去るようにと怒鳴った。
イルが受付に戻ると、ハル、テル、イク、サールの四人が筆先の写しをげらげら笑いながら読んでいる。イルは、高姫の態度が気に食わなかったから、筆先の元の本が燃えてしまっても、筆先を写してあることを言わなかったのだと伝えた。
それを聞いたハルたちは面白がって、ひとつここで筆先を大声で読んでやろうと言い出した。イルも賛成し、大声で読み始めた。筆先には、これは火にも焼けない水にも溺れないと書いてあったことを引いて、一同は面白がっている。
そこへ高姫が筆先の朗読の声を聞きつけてやってきて、今義理天上の悪口を言っていたのではないか、と声をかけた。筆先を読んでいたのではないかと問う高姫に対し、イルは日の出神様が体内に入り、しばらくするとあんなことを自分の口から仰ったのだととぼけた。
イルは、高姫の注意をそらしたすきに、尻の下に隠していた筆先の写しを懐に入れた。しかし高姫はそれに気が付いて懐から筆先の写しを掴みだすと、イルをやたらに打ち据えて、憎々しげに高笑いし、杢助と相談して処分すると捨て台詞をして去って行った。
五人をそれを見送って、頭をかき冷や汗を拭きながら笑っている。
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04 17 〔1311〕
高姫の機嫌が悪くなってきたので、イル以下四人は戻ってきてやけくそになり、またグイグイと酒を飲み始めた。イルは酔って神がかりの真似を始めた。義理天上日の出神が筆先を出すと怒鳴ると、サールは墨をすって綴じた紙と共にイルに差し出した。
イルは横柄な面をしながら筆をひったくって、首を振りながら何事か一生懸命に書きつけた。そして高姫の作り声で結構な筆先を腹に入れるように、と言って皆に差し出した。サールは笑いながら受け取り、他の者に拝読して聞かせた。
一同が高姫を滑稽に真似たイルの筆先に笑い興じていると、斎苑の館から出張した役員の安彦と国彦がやってきた。二人は珍彦に用があるとイルたちに伝えた。イルは二人を珍彦館に案内した。
残されたサールたちは、酒盛りの最中に本部の役員が訪ねてきたので、対応しながらバツの悪い思いをして来意を勘繰っている。そこにイルが帰ってきて、冗談を交えつつ、本部の使いの役員たちは、珍彦と初稚姫と奥の間で密かに会っていると報告したので、一同はてっきり高姫の沙汰についての訪問だと直感した。
そこへ高姫がやってきて、イルに自分の間にちょっと来てほしいと依頼した。しかしイルは諧謔で高姫を煙に巻くばかりだったので、ハルを代わりに連れて行った。
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04 18 〔1312〕
珍彦館では、安彦と国彦が、珍彦、静子、楓、初稚姫らと懇談していた。安彦と国彦は、高姫が本部で副教主東野別に対して無礼を加え、あらゆる狂態を演じた上に、夜陰にまぎれて聖地を逃げ出したことを明かした。
そして、高姫が悪霊に左右されて祠の森にやってきて神業の妨害をすること甚だしいので、一時早く祠の森を放逐し、自転倒島に追い返すように、と教主八島主から命を受けてきたことを伝えた。
初稚姫は、高姫にきつく当たってはかえって心が荒んでしまうだろうから、ここは自分にまかせて今しばらく待ってほしい、そのように八島主に伝えてほしい、と安彦・国彦に懇願した。二人はひとまず、初稚姫の依頼を承諾した。
二人はまた、高姫がここに引っ張り込んでいる杢助と名乗る男についても尋ねた。それというのも、本物の初稚姫の父・杢助は、日々斎苑の館に出勤しているからだった。珍彦たち一同は、祠の森の杢助は、犬を嫌い、娘のはずの初稚姫にも会おうとせずに酒ばかり飲んでいると報告した。
楓は珍彦夫婦毒殺未遂について二人に報告した。初稚姫は正体を察しており、大雲山の妖幻坊という妖怪が自分の父に化けているのに間違いはないと明かした。しかしいきなり正体を暴いては高姫が恥をかくし、また追い散らしても他所で悪事を働くだろうから、時機を待っているのだと説明した。
安彦と国彦も、機会があれば妖怪を改心させようとしている初稚姫の意図を汲んで、その由を聖地に報告するために帰ることになった。そして沙汰があり次第、斎苑の館の決定を高姫に言い渡すよう、珍彦に念を押した。
安彦と国彦が、帰る前に祠の森を見て回りたいと言うので、珍彦は人を呼んだ。イルとサールがやってきて、二人を案内した。二人は宣伝歌を歌い神前に拝礼した。イルとサールの案内で森林を巡回し、妖幻坊が遭難した場所を実見し、こぼれ落ちた血糊が人間のものでないことを確認した。
その後、八尋殿で休憩し、杢助と高姫の居間を臨検しようと相談していた。一方杢助と高姫は、連れてきたハルを相手に、聖地からの使者について尋問を始めていた。
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04 19 〔1313〕
ハルは、通りすがりの者が受付に立ち寄ったのだととぼけたが、杢助と高姫は、斎苑の館から使いがやってきたことを感知していた。
杢助と高姫は、イルやハルたちが斎苑の館に手紙をやって、自分たちを放逐しようと役員を呼んだのだろうと気を回し、首謀者を白状させようとハルを手荒に責め立てた。
妖幻坊の杢助が拳骨を固めてハルを打ち据えようとしたとき、スマートの吠え声が聞こえてきた。妖幻坊は体がすくみ、青ざめて自分の居間に逃げ帰り、布団をかぶって震えている。高姫は自分もふるえながら、ハルの尋問を続けた。
ハルは、大方高姫たちに立ち退き命令を告げに来たのだろう、とやけになって答える。高姫は怒り、珍彦に直接談判すると言って珍彦館に向かおうとした。そこにイルとサールに案内された安彦と国彦が入ってきた。
イルは入ってくるなり、早く高姫に立ち退き命令を告げてくれと安彦と国彦に頼みこみ、高姫を嘲笑した。安彦と国彦は高姫に挨拶をし、来訪の目的は珍彦に伝えてあるから、やがて高姫たちに沙汰があるだろうと伝えた。
高姫は安彦と国彦を昔の名前で呼んで馬鹿にし、挑発する始末であった。安彦は、高姫は放っておいて隣の間で唸っている妖幻坊の様子を見ようとした。高姫の制止を聞かずに、イルと安彦は杢助の居間のふすまを開けた。
妖幻坊は樫の棒を振り上げ、安彦の頭を叩き割ろうとしたが、床下から聞こえてきたスマートの吠え声にたちまち手がしびれ、一目散に裏の森林指して逃げてしまった。高姫が居間に入ってみれば、そこはもぬけの殻だった。
妖幻坊がどこかに行ってしまったので、高姫は大声で自説を怒鳴りたて、安彦と国彦を煙に巻いてしまった。
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04 20 〔1314〕
初稚姫、珍彦、楓が高姫の居間が騒々しいので何事かと走ってきてみれば、右のような有様であった。初稚姫は、高姫が斎苑の館の直使に対して暴言を吐いているので、たしなめた。高姫は初稚姫を罵倒し、ふたたびひとしきり義理天上日の出神の神徳を吠えたてた後、便所に言ってくるとその場をはずした。
高姫が向こうの林を見渡せば、妖幻坊の杢助がしきりに手招きをし、トントンと走り出した。高姫もそこにあった草履を引っかけると、杢助の後を追って駆け出した。そしてそれっきり、祠の森に姿を見せることはなかった。
スマートも後を追うことなく、初稚姫たち一同も高姫の逃走を見送りながら、追いかけようとしなかった。いずれも悪魔払いをしたような心持になったからである。到底通常の手段ではビクともしない高姫が逃げ出したのも、妖幻坊の杢助に心魂を奪われ、その引力によって動かされたのであった。
妖幻坊も、こんなときには三五教のためによい御用をしてくれたようなものであった。妖幻坊と高姫は坂を下って行き、山口の森でようやく高姫が追いついた。
安彦と国彦は別れを告げて、復命のために斎苑の館に帰って行った。慌て者のイクとサールは、高姫を追いかけて館を飛び出してしまった。初稚姫は残った者たちに教え諭し、別れを告げて、ふたたびハルナの都への征途につくことになった。
イル、テル、ハルは悪神が逃げ去ったことを感謝するため神殿に参拝し、天津祝詞を奏上して述懐の歌を歌い、謝意を表した。
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04 21 〔1315〕
イクとサールの二人は高姫が逃げるのを追って、河鹿峠の急坂を下って行く。二人は妖怪の正体が割れた妖幻坊と高姫を捕えて懲らしめようと追いかけていたのであった。
サールは先に入っていたイクが怪我をして倒れているところに追いついた。イクは石につまずいて血を流して倒れていた。二人はこれ以上追うことができず、神に祈り始めた。
すると間近の茂みから妖幻坊の杢助と高姫が現れた。妖幻坊はイクとサールを殺すと脅しをかけ、高姫はそれがいやなら自分の手下になれと呼び掛けた。
イクとサールは高姫の提案を拒絶した。高姫は樫の棒を振りかざし、杢助は巨岩を持ち上げ、投げつけて二人を害そうとした。イクとサールは進退窮まり、眼をつぶって一生懸命に大神を念じていた。
たちまち、足許からスマートの唸り声が聞こえてきた。妖幻坊と高姫は強直してしまい、そのまま駆け出した。妖幻坊はパタリと転び、後に高姫がつまずいて樫の棒で妖幻坊の後頭部を打った。
妖幻坊は怪しい声で鳴き声を上げた。あたりに暗の幕が下りてきた。後にはただ、谷川の水の音のみが聞こえるのみであった。イクの傷は、スマートの声と共に一時に全快した。
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